Gore Woolf show
大地は燃えていた。紅く赤く煌々とコンクリートで造られたビル群を照らしている。 逃げまどう人、人、人。 まるで凶暴な狼に追い立てられる羊のように、劫火から逃れようと走る。 ビルの間から一人、いや一体の巨人が、その黒い体色が炎に照らされる。 両の手には巨大な銃が、背中からはもう一対の細い腕が突き出ていた。 背中の腕から、真っ赤な火球が放たれれば、逃げまどう羊達は燃えさかり、踊るようにのたうち回る。 時にはその手に持った銃で人々を粉々に砕いて撃ち抜く。 崩れ落ちた瓦礫の中には、最早肉塊と化した人だったモノからどす黒い液体が流れ出し、何処からか転げ落ちた目玉が神経の糸を引いて、怯えて泣きじゃくる少女を見据えていた。 我が子を爆風から庇い、背中から臓腑が流れだす母親。死んだ母の亡骸に被さるように泣きつく子と共に、劫火は無慈悲に焼き尽くす。 男は片腕を失っても、なおも迫る死に恐怖し逃げ続ける。しかし唐突に道が爆ぜ、男はまるでゴム球のように宙に浮かされ、呆気なく地面に叩きつけられ絶命する。 ある神父は神に対し救いの言葉を紡ぐも、意識を向ける間もなく、巨人に踏み潰され轢き潰され、血と肉のラインを引く。 死が、絶望が、恐怖が、逃げる人々に襲いかかる。何の躊躇いも容赦もなく、まるで子供が蝶の羽を無慈悲に、無邪気に引きちぎり、自らを飾るかのように喜んで死を振りまく。 煌々と揺らめく炎に照らされる黒い巨人は、まるで楽しむように時間をかけ追いつめていく。 それはまるで狼が獲物を捕らえるかのように。 その様子を見ていた人間達の一人、指揮官である男が通信機を取り出す。 「こちらアルファチーム。カメレオン、非戦闘区域への攻撃は作戦内容には無いぞ。今すぐ攻撃中止だ」 しかし通信機から聞こえてくるのは、地獄のような光景には、不釣り合いなまで陽気な鼻歌だった。 「カメレオン、攻撃中止だ。貴様の役目は、防衛部隊を引きつけるだけだろう。応答しろ」 『あーん、その部隊がこっちに逃げ込んだんだぜ、大目に見てくれよ』 返ってきた答えは、あまりにも残虐で白々しいものだった。 「しかしこれは、民間人の虐殺ではない、あくまで施設破壊のための陽動だぞ」 『るっせーな。ここは戦場だろ、だったら百人も千人も問題ないだろうが』 またも返ってくる無慈悲で狂った答えに、指揮官は頭を抱える。 すると突如、通信に割り込みが入る。 『カスパル・マウレス、攻撃中止。直ちに撤収してください。レベルBの命令です』 通信機越しから、わざとらしく舌打ちが聞こえてくる。 『わーったよ。しょうがねぇなぁ』 そして一方的に、虐殺者たる人物は通信を切った。 割り込んできた声は震えていたが、確かに女性の声だった。 『すみません、私達はこれで撤退いたします』 「いえ、あとは我々だけで実行可能です。支援、感謝します」 通信を切る間際、微かにくぐもった声で、謝罪の言葉を述べていたが、指揮官は聞かなかったことにした。 赤き劫火に包まれた都市から、巨人の黒いシルエットが飛び出すと、夜闇へと消えていった。 | ||||||||||
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