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Gore Woolf show  第2話
闇色に染まる雲海を飛ぶ輸送シャトルは、赤黒い機体を収容する。



「カメレオン着艦確認。主電源ダウン、関節部ロック完了。粒子除去フィルター起動します」

機内に鈍い駆動音が響く。艶やかな銀髪の少女は慣れた手付きでコンソールを操作する。
ふと、隣に座る彼女の上司を見やる。
俯いていて表情は読みとれないが、上司はコンソールの上で握り拳を作り、その手は震えていた。

「ドミニク先輩、最終確認お願いします」


それでもなお彼女は気づかないのか、ただ俯いていた。少女は少し目を細めて、上司を睨んだ。

「ドミニク先ぱーい」

「えっ! あ、あぁロックボルトの固定確認よね……今から―――」
「それもう終わりましたよ。粒子除去もついでに」


それを聞いて苦笑する上司、ドミニク・デュポンはしかし、今の心境はとても笑える事はなかった。

「……そう、じゃあ少し行って来るわ」
「また折檻ですか。やめておいたほうがいいと思いますよ」


少女はドミニクの顔も見ず、これから起こることもその結末もわかってるような言葉をかける。
ドミニクは苛立ちを隠そうと必死に無視した。

最初のころは、純粋に正義感からだった。しかしアレによって繰り返される虐殺とまるで相手の心の闇を見透かすような目、そして今では、アレには憎悪と恐怖しか感じない。自分はそれに怯え、苛立ち、その苛立ちを正当化し、自分の卑しい正義感の名の元に元凶たる存在にぶつける。

「そんなことしたって、ああいう人種はむしろ喜びますよ。同族がいるって」


この自分より幼い少女は言っているのだ。
そうやって自分も暴力を振るえば、少なくともアレと同じ事だと言うことを

「馬の耳に寝言。犯罪者に聖書ですよ。でも今じゃ、ただの虐待ですけどね」

「黙りなさいよ、作り物(オブジェクトチャイルド)……」


そう、だからと言って、ドミニクの事を心の奥では心配しているはずの少女に、こんな暴言を吐いてしまった事を、後悔した。

「ご、ごめんなさい。私ったら―――」


少女は自分に対する最悪の暴言を聞いても、平静を保っていた。
その内面までドミニクは想像することは出来ない。激しい軽蔑か、憎しみか。
しかし少女は大きくあくびをした後、目をこすった。

「……別に気にしてませんよ」


そんな言葉に興味がない、そんな表情にドミニクは少しの安堵と大きな自己嫌悪を抱いた。



カスパルは乗機から降り、ロッカールームと言う名の独房に入る。
小さな部屋に一つだけ置かれたロッカーの中には、出撃前に自分が着ていた服と少量の私物、童話の本が置いてあるだけ。

小さくもロッカー一つしかない部屋には、不釣り合いなほど長いベンチに腰掛けるカスパル。

おもむろにロッカーから取り出した童話の本を開く。薄っぺらい本というより冊子の中身は、悪い狼がいたいけな少女を捕まえるが、最後に少女が狼を虜にして、狼を喰い殺してしまう内容だ。

なんとも末恐ろしい内容だ。とカスパルは薄ら笑いを浮かべながら冊子の内容を繰り返し読む。
今回の任務はあまり面白くはなかった。そんなことを思いながら、カスパルは昨日の事を思い返していた……
10/02/26 23:07更新 / 厚着
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まろやか投稿小説 Ver1.50