連載小説
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地上への脱出 OK
 (余り、こういう事は好かないんだが)
言っても仕方ないな、と諦めトレーラーに戻る。
分かっていた通り、格納庫にはガラードか、あの部隊のマークかは不明だが何かしらのエンブレムはあった。
それが自分達が奪った物資だと知らしめ、事実としてエンブレムはエグの気持ちの落ち方も象徴していた。
(幾ら物資が欠乏しかけていたとは言え、この有様か)
機体にハンガーロックを掛けながら考える。
(それ以上に、企業連合の上層部の物資を使った以上、これ以上は問題が起きる可能性もあるな)
 撃破したのはカラードの直属部隊。
だとすれば、最悪フライトナーズに連なる重要な部隊なのかも知れない。
考え難い事だが、それら全機を、剰え物資や車両さえ破壊したのは問題が大きいだろう。
 無駄だ。
これ以上考えても意味がない。
今はルート修正が必要だ。
幸い、巨大兵器は単独運用用装置を使って起動出来た。
あの装置がある限り、使用はMTに任せるべきだろう。
 ボタンを押して、順次電源を落とし、暫く休憩する。
無論、ACのコクピット程狭い所はないが、かと言って今外に出る気分には到底なれなかった。
 「…エレン」
何となく恋しくなったので名を呟いてみた。
途端に胸が苦しくなった。
 シートベルトを外してシートに身を預ける。
自分の体温が移ったのか、何処となく暖かい。
 この苦しさは病気や怪我の類ではない。
(これだから恋ってのは厄介なんだ。
…今は愛…なのかな…?
どっちにしろ、これ以上考えてると寂し過ぎて孤独死しそうだ)
 そんな事を考えていると何故か勝手にシート部分が持ち上がった。
直後、奥の上の方が開いて外にシートが出される。
外部からコクピットを解放された様だ。
 「なーに、やってんすか?」
冷めた白い目で整備員が見ている。
「え?
あ、ああ…」
答えにならない答えでエグは格納庫を出た。
それを見た整備員は溜息を吐き捨てた。
「なっかなか出て来ないから心配したのに。
気持ち悪い……」


 3時間の作業により解体された巨大兵器から使える部品を回収して再び移動を開始するエグ達。
 「トンネル脱出迄後5時間です」
「漸く外に出られるのか」
 「磁場検知能力維持領域に突入。
高度計、機能開始。
現在、3メートル」
「うん?
マイナスじゃないの?」
「いえ、プラスです」
「ううん?」
高度計を担当する観測士の言葉にエグは首を傾げた。
何故なら、このトンネルは地下世界から入って来たからだ。
出口が地上である以上、高度があがるのは当然だが、しかし少々上がり過ぎている様だ。
だが、数百メートルの誤差なら地形の関係かも知れない。
 そんな時だった。
行き成り凄まじい揺れが発生する。
「今度は何なんだ!?」
「直上、直上からの衝撃です!!」
「レーダーは復旧済みだな!
最大出力だ。
この際探知されようが構ってられるか!!!」
「了解、レーダー出力を最大値に上昇させます」
 通信員が通信機を作動させる。
「各車両は至急、屋内レーダーを最大出力に!
各出力検地後、出力同調を開始する。
どうせ二方向しか探知出来ないし、それ以外を探る意味はない!」
 直後、背後に天井から何かが――ドリルの付いた謎の装置が飛び出した。
複数の出現に伴い、一帯が崩れ始める。
 「構うな、アクセルだ!
火力を叩き込め!!」
装置から這い出るディソーダー達に容赦なくミサイルの雨が叩き込まれる。
が、現れたのは人型のディソーダーだった。
良く分からないエネルギー防壁を展開し、ミサイルを防ぐと、両肩の搭載した防御壁展開装置を停止させ、胸部装甲を解放しエネルギー砲に充填を始める。
担当の砲術士が連射砲撃装置を作動させ、胸部へ集中攻撃する事で、発射寸前に敵が回避行動を取り、それによってエネルギー弾は正面ではなく、向かって左側へ逸れた。
 逸れたエネルギー砲は広範囲を消し飛ばす。
「あれが原因だったのか…!!」
砲術士の脳裏に思い浮かぶ、ディソーダー軍団の襲撃。
あの攻撃で、あの時の大穴が空けられたのだろうか、と考えると恐ろしい限りだ。
 他のトレーラーからも攻撃が始まっており、追撃速度は回避しながらなので、かなり遅い。
しかし、敵も反撃しない訳ではなく、弾幕を掻い潜ってレーザーを撃ってくる。
レーザーを食らうと、小さな砲台は一撃で破壊されるのが当然なので、戦力的に大ダメージになってしまう。
 格納庫から人型MTが数機外に出る。
ブースターを持ったノーマルに、かなり近い形態のMTで、主力推進機関は背中にしか持たないが、各部補助系統が充実しているのでAC程でこそないが、かなりの機動力を有している。
 ハンドガンで牽制しつつ、ブースター噴射を短く断続的に行いつつ、距離100メートル程で、飛び上がり、後ろからスピアバンカーを叩き込む。
 スピアバンカーはパイルバンカーと違い、使用回数の制限がない。
強いて言えば、スピアが連続使用によって破損すれば攻撃力が下がり、結果的には結局制限自体が発生するが、敵装甲内でパイルを爆発させて攻撃するのではなく、飽く迄突き刺すだけなので、構造的にも再装填する必要がないので、リーチ強化が非常にし易い兵装である。
爆発しない代わりにドリルの様に高速回転しながら電子妨害系ガスをスピア側面から噴射する事で、機体内部から電子攻撃する形となるので、電子攻撃力の強みは物理的破壊力以上に価値のある攻撃力となる。
又、攻撃力自体も特性上、パイルバンカーには若干劣るが、それでも『迫る』と言える程度には高威力なので、かなり使い勝手が良い武器である。
リーチが長いので多少離れていても効果を発揮するが、確り接近すれば破壊力と電子攻撃能力の双方を同時に叩き込む事が出来るので、当たれば相手からすれば非常に厄介で、そしてレーザーブレードにも匹敵する当て易さも売りである。
 が、何と、このディソーダー。
腕部内蔵型ブレードでスピアを叩き折ってしまった。
余りにも衝撃的な事実にMTパイロットが唖然とする。
『お、折ったぁあ!?
何だ、こいつ!!』
そのまま振り向き様にブレードで両断する。
『マッツ!!』
 MTを易々と両断するブレードに恐怖するパイロット達。
『嘘だろ…?
そ、装甲で言やぁ、そりゃあACよりゃあ防御スクリーンは劣っちゃいるが、これはねぇよ…!!』
ブレードを振り翳して近付くディソーダーにミサイルを起動させながら飛び上がる。
発射したのはジャンプ直前で、上から必死にハンドガンを乱射しながら後ろへ着地しようとするだけである。
 これも振り向き様に瞬発的に加速したディソーダーが跳躍してブレードを使って腕を突き出す事でMTを貫通する。
『くんじゃなぇえええええええええ!!!!!!!!』
『馬鹿、撃つだけじゃ駄目だ!
逃げろ!!』
その言葉通り、後ろへブーストダッシュするも、同じ事を隣でしていた味方機ににラインビームが殺到、コアを焼き尽くされたMTが、倒れ込みながら爆発する様を見てしまう。
 恐怖で動きが止まり、ディソーダーがブーストダッシュで急接近、ブレードの一閃をコアに叩き込まれて転倒してしまう。
「…あ、ああ…」
拙いとは思う。
動かなければとは感じる。
だが、操縦桿を動かす事は出来ない。ペダルを踏む事等到底出来ない。
息をする事さえ、自分には神業に思えてならない。
 ブレードを何度も突き刺され、エラー表示と警告音、表示系のダウンが相次ぐ。 
 辛うじて生き残っていた頭部カメラアイから送られる映像。
大きく映る敵の影。
機体を掴まれ、そのまま敵の胸部エネルギー砲を目の前で充填開始する。
普通に考えれば隙しかない行動だ。
だが、恐怖で全てが出来ない彼には、それが慈悲にも思えた。
「――――――−ッッッッッ!!!!!」
強化人間でもないのに、感情と混乱でオーバーロードしそうな脳に、強制的に処理能力を遮断させて、雄叫びをあげて指の神経に全身全霊で信号を送る。
 指は動かない。
尚も曲がれを命令する。
恐怖で硬直した筋肉が縮小を忘れて命令を実行しない。
(俺は人間俺は人間俺は人間!!!!!!!!!!!!!!
俺は…―――――――――――――!!)
そんな慈悲は要らない。
「俺は…人間だああああああああああああ!!!!!!!!!」
発射される弾丸。
刹那、モニターが真っ白になり全てにも思えるアラートが鳴り響く。
直後、強い衝撃に襲われた。
 モニターは復帰していない。
何かを叩き付けられたのだろうか、と考えるが答えを探る事も出来ない。
機体ダメージが酷いのもあるが、それ以上に怪我でもしたのか、何も出来ないのだ。
 モニター以外の照明の類が全て機能しない中、画面の割れたディスプレイが唯一小さく表示していた一文を見つけた。
―管制機構健在―
つまり、機体が稼働できれば、何かしら行動可能なのだ。
 必死になって試しにボタンを押す。
暗くて何を押したのか見当が付かないが、長年乗っている機体のコクピットなので、ある程度は何が何処にあるのか、或いは何時どれを押せば、どんなことが発生するのか、及び、それの活用方法は最初期に覚え込んだ事柄だ。
 ハッチ系だろうか、と思い何かしらの発生を待つ。
暫くすると、エラー音だけが鳴り響き始める。
その後、モーターの類が無理をしている様な音も聞こえ出した。
(おいおい、大丈夫だろうな、相棒!?
俺は死にたくないんだからな!?)
 ゴロンと機体の転がりを感じる。
同時にシートユニットが外に出される。
如何やら無理矢理ハッチユニットを作動らしいのだが、下が地面だったのでなかなか開かなかったのだろう。
現に今、彼はシートベルトがなければ地面に落ちるであろう角度になっている。
 中々実感がないが、先程迄感じていた死の恐怖から解放された所為か物凄く疲れたのを感じる。
が、取り敢えず帰還しなければ休む気になれない。
シートベルトを解除し、落ちずに這い上がる。
 「…」
驚愕だった。
ディソーダーが胸から黒煙を上げて、絶賛大火災中だった。
成程、撃たれる直前に撃った弾が、上手い事にエネルギー砲を破壊したのだろう。
あの類のエネルギー兵器は、充填中等に攻撃されると、それが例え石ころが事故で軽く当たっても、暴走してしまう危険性が極めて高いらしい。
なので機動兵器には専ら戦術級や、高威力とされるエネルギー砲は安全上装備しないのが一番だ。
今回は何かしら対策があったのだろうが、それでも充填中は全く動かず隙しかなかったので、歩行さえ危険だったのだろう。
 最も、あれだけの威力があればハイリスク・ハイリターンは成立するだろう、とは思うが。
 しかし意外だとも思う。
現状、機体は奇跡的に自分が生きていられたとしか言えない程に、装甲が消し飛んでいたからだ。
転倒したのも、脚部が損傷により自重を支えられなくなった為だろう。
なのに高がハンドガンの弾が、あの威力に耐えられたのは不思議だ。
もしかすると、あれは長時間照射し続けるタイプではなく、一撃に重きを置く類だったのだろう。
であれば、発砲が被弾後であれば説明可能だ。
が、感覚的には自分の発砲が先だった様にも思えるので、真相は不明だが。
 ともあれ幸運であった事に違いはないのだろう、とは思う。
 トレーラーからは既に救援部隊と思われる逆関節MTと護衛機が接近しているので、問題はないだろう。
しかしながら、仲間達は生き返らないのだろう、と思うと胸が辛い。
(何度味わっても…無理だな、これは)
 少し涙を流しておこう。
そうして救援を待つのであった。

 数時間後、通信回線や各車両内で歓声が上がった。
『いいいいいいいいいいいいいいやったあああああああ!!
ちっじょうっだあああああああああああああああ!!!!!!』
『ううううううううううううふいいいいいいいいいい!!』
笑い声、号泣する声、様々ある歓声。
エグは声こそ上げていなかったが、涙はあった。
 「これからだ!!」
通信機に声を当てるエグ。
「これからが本番だ。
総員、気合を入れ直せ!!」
再びブリッジも通信回線も盛り上がる。
 (本当の戦いは、これからだ。
フライトナーズの奴とも決着を付けたいからな…!!)
13/03/28 11:01更新 /
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■作者メッセージ
修正版投稿です。
よりも武勲の感じる恐怖を鮮明にしてみました。
脳内BGMはMS08小隊のノリスのグフがガンタンクの居る建物の屋上に登場した時の奴です。

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まろやか投稿小説 Ver1.50