連載小説
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バスタード・セラフ OK
 真っ赤な戦闘兵器が今日も元気に空を飛んでいる。
自立思考戦闘型特務ノーマル『ナインボール』を始めとするカラードが開発を繰り返している『ナインボール・シリーズ』の最新鋭機『バスタード・セラフ』だ。
シリーズから発展したセラフ系統と呼ばれる機体郡は基本的に『ナインボール・セラフ』と呼ばれる。
ラインアークとは別に、そのラインボール・セラフ4番機をベースにネクスト化開発を進めるカラードはAI開発の為、無造作にバスタード・セラフを飛ばしているのだ。
見つかる心配はECMとレーダー感知装置を用いた、感知したレーダー波と逆のレーダー波を出す事で、反応を打ち消すアクティブ・ステルス機能を併用して電子的視界から、更に通常視界からも光学迷彩機能を使用しているので、まず問題ないだろう。
 AIが自我を持ち始めると、彼、バスタード・セラフは、この行為を散歩と称して楽しんでいた。
 ある日、そんな彼が地上に車両群を発見する。
【何だろう?】
極めて柔軟な思考を持つバスタード・セラフは車両群に興味を持ち、少しだけ高度を落とした。
 ―遠距離確認カメラ起動―
脳内(実際に脳がある訳ではないが)に別の音声が響く。
無論、『響く』とは、彼自身の感覚を最も近い言葉で表した場合の表現であって、実際に音声出力されている訳ではない。
 【あれは…カラードとかコーテックスのレイヴンのトレーラーかなぁ?】
取り敢えず認識している画像をデータベースに送信して似ている車両を検索する。
が、該当画像のどれもが、あの車両と掛け離れている。
【データベース、調子悪いのかなぁ…?
それとも単に、全く違う奴…じゃないかも。
それなら初めから該当なしって出るもんなぁ?】
うーん、と考えるバスタード・セラフ。
実際、此処迄機械が唸って考えるのも可笑しな話だろう。
だが高度過ぎるが故に、一部の処理能力が低下し、結果として思考時間が人間的感覚に於いて発生する為、「人間の様だ」と評価を得ているのは確かだ。
一方で「兵器としては決定的な問題」とも不評である。
 何はともあれ、と取り敢えずステルス系機能を維持したまま飛行形態から人型形態へ変形する。
高度低下の明確な加速と速度低下を感じつつ、両手を広げてバランスを取る。
幾ら物理的、電子的に見えないとは言えど、音を鳴らしては無意味だからだ。
故に非常に低出力に抑える必要があるブースター噴射も、メインブースター以外は最低限しか使わない。
 静かに降り立った後は、着地せずに脚部のホバークラフト機能を使って、ゆっくりと接近する。
【あれは何だろ?】
大きなチェインブレードを装備した人型のユニット。
【オーバード・ウェポンって奴かなぁ?】
が、画像検索すると如何やらMTである事が分かった。
【MTがオーバード・ウェポン使ったら起動した瞬間即死じゃない!?
だ、大丈夫なの!?】
流石に本当にオーバード・ウェポンを起動する事はないだろう。
が、オーバード・ウェポンは規格外故に無理に起動する必要があり、それが為に起動時にはダメージが発生し続ける。
 勿論、普通に考えれば装甲の強度は基本的にはACの方がMTより上だ。
が、オーバード・ウェポンのダメージは装甲の有無に関係なく、故に決めつけるべきだは無いのかも知れない。
或いはオーバード・ウェポンの名の由来たる規格外(この場合は単純にハードポイントの規格を示す)、それを対応させた可能性も高い。
早い話が、オーバード・ウェポンは普通に出回る物では無く、過去に企業ノーマルが使用した例もあるが、それこそ実用化前の段階で使わざるを得なかったり、武装の弾薬切れの事もあるので、進んで装備する類ではない。
しかし、それでも使う限り、破壊力は求められる。
故にオーバード・ウェポンの『オーバー』とは、絶大な威力を意味している場合がある。
この二つの要素が故に『オーバード・ウェポン』とは、文字通り規格外兵器とされる。
 如何やら大型ブレードでドラゴンの死体を解体している様だ。
【あれがドラゴン…。
企業同士の戦争で、影響を受けてしまった動物か…】
―思考領域システムに負担を感知―
―情報解析開始―
AIが情報を解析して、負担の対策システムを構築し始める。
【これが『悲しい』…って事なのかな…】
 暫く解体作業を眺めていると、解体された死体が車両に詰め込まれ始めた。作業が終わり次第、車両が動き出し、他の車両も、それを追い始める。
止まった頃には夕暮れ時だった。
近くの集落に到着した彼らは解体した死体――ドラゴン素材を売った様で、それと物資を交換して貰っていた。
 一晩其処で過ごした彼らが再び止まったのはトンネルの入り口だった。
その後、数か月程他の所を探したが、どの出口を探しても彼らが出て来る姿は見れなかった。

 バスタード・セラフに眺められていたと知らずにエグ達は地下トンネルへ入った。
このトンネルは企業コロニーの地下世界と繋がってこそいるが、地上から一本道のトンネルに入った方が安全且近道で、地下トンネルルートを移動しようとすると、途中で企業の制圧区域を通過する必要があり現実的ではないからだ。
 幾つかのレジスタンスコロニーに接触成功し、エグの所属コロニーへ連絡したと同盟のレジスタンスコロニー代表から話を聞いた時は、安心した物だ。
 休憩室で暇な人達が集まって、エグのコロニーの話を聞く。 
「エグさんのコロニーは、どんな所なんですか?」
「元々日本の財務省が旧時代最後の戦争と言われる…国家解体戦争か。
あれを察知してな」
「ええ!?」
皆の驚きは当然の物だろう。
 一人が微かな知識を手繰り寄せる。
「日本って情報機関がなかったんじゃ…」
「それは昔の事…って言うか国として認められてる事も、だけどな。
まあ、それは良い。
 で、だ。
今は…地球歴だろう?」
「暦…の事ですか?」
「そうだ」
そう言うと、エグは鞄からディスクを出した。
「こいつには地球歴以前…つまり、西暦時代の情報が入ってる」
装置に読み込ませて映像を再生する。
「えっと、確か2000年から2790年の間の企業の動きを取ってるんだったか…?」
「丁度世界各地で企業同調が始まった時代ですね」
「その時代から国家解体戦争直後の空白期とされる時代…」
 「空白期、か」
復唱しながら椅子に座るエグ。
「確か西暦を使うか、企業が支配するに相応しい年号にするかで揉めていた時代の事だったな。
俺達もだが、大半のレジスタンスは空白期当時も、今も西暦で空白期を数えてる。
……今もだ」
そいつは多分、企業支配を全力で嫌がるレジスタンスの本性だ。
そう吹き笑うエグだが、吹いて笑うには余りにも寂しい表情だった。
 言葉の最後を言い終えると、映像の再生が開始される。
ナレーションがある訳ではないが、映像最大再生時間は五百時間にも及ぶ。
それぞれの映像の途切れは一月や一週間であれば、それ以上にも及ぶ。
強いて言えば、映像に含まれる撮影者の悲痛な言葉が時代のナレーションと言えるのだろうか、とエグは思う。
 やはり何度見ても胸が辛い。
(…企業間戦争、か)
 心の中で悪態づいた時、自身の中で企業体制への激しい憎しみの片鱗があった事を悟る。
(…)
自分が嫌いにもなれず、生きる他ない世界。
それでも生きる希望があるだけマシだろう、と溜息を付いて良いかさえも困る事柄である。
「生きるだけの時代…か」
本来生物とは、そう言う者だろうに。
 「何か言いました?」
「…っ、いいや」
言葉に出たのか、と内心で苦笑するエグ。
或いはそれは、其処で留めていたのだろうか。
 存外戦争は、便利な時代程内容が腐るんだな、と思っただけだ。
そうは言わず、天井を仰ぐエグ。
(皮肉だな。
俺も…この世界も…)

 エグ達を追う企業部隊は、既にレジスタンスコロニー圏に排卵としており、それを察知したコロニー同盟は戦力を集結させる為、地下トンネルの行き来を激しくし始めた。
経済が引っ張られる様に動きだし、一般人は、これに不安を覚えた。
 一方の兵士達は、これと同様の物を感じ、そして着々と準備を整え始めていた。

 ドドォン!!
戦車の砲撃音が轟く。
右前方から飛来した対地竜特殊鉄鋼爆破弾頭が地竜の肉体に食い込み、ビルを抉りながら倒れつつある、その時に鉄鋼弾頭と後部ユニットが前後し、中央にある爆弾が大爆発する。
ビルと共に倒れ込んだ地竜。
辺り一帯は土煙と僅かな連鎖爆発で何も見えなくなった。
 「砲弾命中…爆発確認」
砲塔のロングレンジモニターを見続ける兵士が、そう報告しながらレバーを操作する。
「再装填、装填機構解放」
ガチャン。
「機構解放確認」
後ろで装填手が言う。
 直後、叫ぶ索敵員。
「左!!」
声に応じて砲塔を旋回させる。
「同弾頭装填!」
「発射する!!」
ズドォン!!
現れたのは岩竜だった。
正面の自慢の殻に砲弾が直撃し、爆発する。
バランスを崩し、アスファルトを砕き、看板を破壊する。
「同弾装填要請!」
「同弾装填要請確認」
「要請認証」
「認証了解」
ガッコン。
モニターにカーソルが表示される。
「てめぇなんぞ…!!」
狙うは脚。
コンパターに入力する。
「撃つ!!」
ダゴォン!!
 片足を吹き飛ばせれば、どんな竜とて脅威になり得ない物だ。
そう思いながら索敵員に状況を訊く。
 (やたら竜が多いな。
何でだ?)
疲労を感じつつ疑問に思い、砲塔を旋回させて周囲を確認する。
すると左後方に何か肉片の様な物を確認した。
車両が動き出すのを感じて、それを制止する。
「ちょっと待て。
左後方、何か入るぞ…!!」
疲労以上の緊張感に息を絶え絶えにしつつ、其処を睨む。
「なーんかいやがる…!!」
「居るって?」
「肉片…にはでか過ぎるな…。
何だ、ありゃあ?」
 動く。
「うお、やべぇ!?
何か動き出し―――き、来たああ!?」
「生体反応、左舷後方より急速接近!」
「何何々ぃいいっ!?
旋回させろ、車両をだ!
速く!!」
「りょ、了解です!!」
ビルに爪の様な物を突き立てて、起き上がる。
「四脚…嫌、その先から爪みてぇのが、それぞれ沢山生えてやがる!!」
 それを聞いた車両長が見せろと言って運転手の視界を確保する為の窓を覗き込む。
すると、脚は確かに、そして背中にも大量に生えた爪と、其処迄は得た腕の様な物を確認出来た。
 見つけた瞬間、こみ上げる気持ち悪さ。
「撃てえええええええええええええええええええ!!!!!」
運転手も見た瞬間、嫌悪感に表情を染めたが、車両長の大声に驚いて耳を塞いでしまった。
「発射!!」
ドォン!!
再び、砲弾が放たれる。
が、消える。
崩れるのみのビル。
 「上だ!!」
「バックバックバァアック!!」
どぶ川に入って砲身が持ち上がる。
 「装填しました、撃って下さい!」
装填ランプを確認し、放つ。
左側の腕、複数本を根元から吹き飛ばす事に成功し、着地点を逸らす。
が、大きなクレーターが発生する。
あんな攻撃をしようとしていたのか。
砲撃種は恐怖した。
 「装填弾頭、爆破弾!」
「撃てえええ!」
車両長の言葉と共に放たれる砲弾。
見事命中し、上半身が吹き飛ぶ。
同時に砲身の耐久値限界警告音。
 周囲を確認しつつ、車両内で情報交換する。
 レバーを動かし、砲身交換する。
三つ束ねられている砲身の内、一本の固定が解除され、二本目がガトリングガンの様に回転する事によって、固定部分に移動する。
砲身が固定され、車両が動く。
 直後、背後の水面が立ち上がり、水柱と化す。
(直前に穴掘ったのは見えたんだ!!)
ガリガリと道に躍り出た戦車が、再度砲撃する。
しかし、直前で高速道路に爪を立てられ、そのまま壁にされて防がれる。
 「飛ばせ飛ばせ飛ばせ!!」
スピードの出し過ぎで、ビルのオフィスに入ってしまっても、構わず旋回して角にぶつかりながら、強引に道路へ復帰する戦車。
 「この野郎!!」
砲塔を旋回させて、正体不明生物へ狙いを定める。
しかし、何度撃っても高速道路やビルを無駄に破壊するだけで、中々命中しない。
「こんのっ…!!」
砲塔席の横に備え付けられた対竜撃戦闘用ライフルをカーゴから出して砲塔の上部ハッチから出る。
「危ないぞ!!」
 しかし、警告を無視。
 ダン、ダン、ダン!!
数発撃って、漸く車両から離れる謎の生物。
急いで中に戻って砲撃操作だけして外に上半身だけを出して再びライフルを構える。
 砲弾が足に当たった様で、転倒する。
「装填、装填!!
早くしろ、爆破弾だ!
そっちで発射ボタン押せ!!」
言いながら、戻る。
戻る最中に放たれる砲弾。
 機銃制御モードに切り替え、ライフルを戻し、掃射開始。
何とか謎の生物との距離を取る事に成功し、一安心する。
 「車両長」
砲塔の梯子の上から呼び掛ける。
「敵との距離が取れました。
今の内に、本部と他の部隊へ連絡しましょう」
「ああ、そうしよう」
 以後、その戦車の戦闘ログは、コロニー外部戦闘班の最重要記録として保管される事となった。
13/03/07 12:47更新 /
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■作者メッセージ
グレイクラウドを出したいです。
あの巨大な人型の様で人型じゃない、大空を高速飛行して、上からグレネード弾を叩き込む、理不尽さ。

因みに、ニコニコ動画で、とあるロケッターがリミットカット状態でオーバードブーストを使用し、クレイドルを追い掛けながらロケットを撃ち続けて見事撃墜に成功してました。
 まあ、旧作動画にはドミナントとタグ検索すれば、「お前、ネクストじゃねぇだろうが…」と言いたくなるドミナントプレイヤー(変態じゃない方の)は数多いです。
 あ、変態の方のドミナントは嫌いです。

後半、セラフと全然関係ないです。
別の奴の影響を受けました。
でも、辻褄が合わないので、取り敢えずエグ所属レジスタンスコロニーの部隊か、そのコロニーの同盟の所の部隊か、とか、そんな感じです。
 出て来たのは、如月社の所為にしましょう。
 久しぶりに『一つの話』が完結しました。
飽く迄『一つの』です。
物語自体は、どんどん進んでいきますので、お楽しみ下さい。
 後、1エピソード完結の時に、送信前にプレビューで誤字脱字がないか確認してます。
最初の時は『レジスタンス』が『レズスタンス』になってました。
何だよ、『レズスタンス』って…。
女しかいないのか?…って感じでした。

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まろやか投稿小説 Ver1.50