ロシア軍迎撃 ＯＫ
突然の事だった。
新生ロシアを名乗る大規模な武装集団による大規模襲撃により企業連合は多大な被害を受けた。
中でも試作機や多くのレイヴンを失った事は、その大半が専属や腕利きだった事もあり、社会的打撃は非常に大きな物となった。
これに乗じた他の勢力が新生国家を名乗り次々と企業コロニーや地下世界へ侵攻を開始して行った。
企業の経済に欠かせない存在であるミグラントは企業派と国家派に二分し、危機感故に互いが潰し合うか、企業の重圧によって国家派を攻撃するか、その様々なケースによってミグラント同士の戦いの激化が一気に進み、重要都市をすら戦場としてしまう事なった。
抗争地区のレイヴン達は更なる危機感にミグラント勢力に取り込まれるか、独自の集団を形成し、結果として企業に仇成す存在が増え、治安が一気に低下してしまい、犯罪率が激増。
地下世界は一気に荒れ、富裕層へ大ダメージを与えてしまった。
ダメージを受けた富裕層は、その経済活動の殆どを結果的に制限され、ダメージがより強大なダメージを呼び始めた。
カラードの戦力が惜しみなく投入され、不慣れな操縦しか出来ない雇われた傭兵がエース部隊と肩を並べる機会が増え始めた。
新生ロシアは制圧した地上コロニーの物資で活動し、プラント規模の生産能力を持ち始めた。
この生産能力が為に企業連合お得意のアームズフォートの制圧力が相対的に激減し、企業が統べる大陸は時代の姿を大きく傾け始めた。
ノックの音が聞こえる。
「第一ＭＴ部隊全員、揃いました」
「どうぞ」
最後の一枚の書類にサインして判子を押しながらアンタレスが答えた。
「失礼します」
エグとエレン、第一ＭＴ部隊の面々が入室する。
「箝口令の件だね」
言いながらアンタレスが席を立ってソファーに移動する。
エグとエレンが反対側に座ったのは勿論の事だが、十数人も居る残りの全てが座れる訳ではないので、顔を見合わせて階級やコールサインが１に近い隊員達が座った。
アンタレスが口を再び開ける。
「兎に角ご苦労だった。
で、箝口令の解除については今後無期限と決まった。
要はロシア勢力のＡＣに関しては『箝口令出てるから』の一言で良いと結論が出た」
「次に大和内部」とパソコンを操作する。
「市民の中にスパイがいる。
最悪外部による市内での対テロ戦も在り得るだろう。
その場合、君達だけでなく他のＭＴ部隊への出動も躊躇出来ない状況になる。
又、規模次第ではレイヴン出動態勢も考えるべきだ、と会議でも発案された。
どんなルートかは知らないが、最早大和内部も安全ではなくなった様だ」
「今月の犯罪件数、中央市場だけ滅茶苦茶高いですね」
「あの辺はスパイが多く見つかってるからな。
とは言え、犯罪件数と比例、反比例しない例もある」
そう言ってアンタレスが再びキーボードを操作する。
出された画面には犯罪件数よりスパイ発見数が多かったり、圧倒的に少なかったりする地区が沢山あると示されている。
「この様に中央監視局も疲れが溜まって来てる。
中央監視局に過度な負担を掛けない為にも、大和政府中枢直属の調査隊がスパイ発見地区に多数送り込まれているが……現状、負荷を軽減している様には見えないから、今後長い付き合いになるだろう。
この報告に関しては後日包み隠さず正式発表する予定だ」
「新しく入るのは大分厳しいかった筈では？」
「輸送隊に妙な空気を感じると検問所の連中が呟いてたから、多分それなんだろうな。
ともあれ、やっぱりカードの確認だけじゃ雑すぎたな、と判断された。
新開発された動脈検査装置で全員が合格したら、と云う具合の検知方法に切り替わった事も、併せて発表する事が既に決定されてある。
それから、ロシア勢力の機体と思しきＭＴだが、残骸から旧中国製核クラスター弾頭、４個分裂型らしい奴の部品に該当するパーツのミサイルが発見された様だ」
（引火しなくて助かった）
「まあ、正確には『ミサイルかも知れない爆発した何かしらの残骸』だが」
（爆発しちゃってたんだ）
戦車が爆発する。
隣を走っていた戦車が主砲を撃つ。
ブーストダッシュで右前方から急速接近して来たノーマルのマシンガンを持つ右腕を肩から吹き飛ばす。
損傷が頭部やコア全体に広がり、電圧負荷が掛かった所が爆発、バランスを崩して機体が高速状態から地面に叩き付けられる事で搭乗者が負傷する。
地面に叩き付けられた衝撃で大破、炎上する僚機に構わずノーマル達が尚も接近する。
副隊長機の左腕の対砲撃ショックシールドに戦車部隊の砲撃が集中、機体ルート間近に凄まじい数の砲弾が着弾する。
無論縦にも直撃弾が多発し、腕が浮き上がった所でコアに命中弾が集中、コアが爆発し、残された部分が残骸として無残に戦場の大地に叩き付けられてしまう。
戦車にもノーマルにマシンガンによる被害が出始める。
最後尾周辺の右に位置する戦車、砲塔に直撃弾多数、これにより砲弾に引火し車両全体が大爆発する。
続いて最後尾より左前方の戦車の真後ろにノーマルが移動、至近距離からマシンガンを発砲、大破による停止で相対的に迫る大破車両を回避して奥の戦車を狙うも、動作直前に砲塔を旋回させ始めた最後尾の戦車による近距離からの砲撃に、右肩が爆散、右腕部を損失し、衝撃で減速した所を正面二台、左の近距離に一台、計三台からの連続砲撃でノーマルが爆発する。
三台の内、右側の戦車に滑空弾が直撃、四つの内後ろの右側が大破、減速した所を撃たれて大破する。
戦車部隊の前衛の車両が滑空弾を撃ち込んだノーマルへ連続砲撃する。
ノーマルが構わず近付くも砲撃ユニットに掠めてしまい、ダメージで引火を感知したセンサーが警告、それに従い多目的弾頭砲を破棄、盾を背中に移動させて両手にマシンガンを持ち、掃射を開始する。
中衛隊の戦車が爆発、これを後衛隊の戦車が乗り上げてしまい減速した所をハチの巣にされ、爆発に幾つかが巻き込まれて損傷する。
一番損傷の酷い戦車がノーマルへ旋回、主砲と幾つかの機銃でフルバースト攻撃を実施、他の損傷した戦車も続いてフルバースト攻撃を開始し、激しい弾幕でノーマルを撃破する。
撃破後、即座に部隊に復帰しようとした所を巨大な爆発が纏めて戦車達を吹き飛ばす。
戦車部隊、丘に隠れて地形の起伏の激しい所で進行を停止。
対地、及び対空迎撃準備を開始する。
全戦車、車体上部の対空攻撃用小型ミサイル発射管ハッチをフルオープン、丘の上に集まった敵ノーマル達へ無数のミサイルを放つ。
ノーマル側は慌てて後退するが、崖に当たって地盤沈下が発生、部隊の数割が巻き込まれる。
上手く移動して地盤地下に巻き込まれるのを防いだ戦車部隊が土煙の中、フルバースト攻撃を行う。
大量の戦車によるフルバーストは最早【弾の壁】であり、ノーマル側からすれば壁が物凄い勢いで迫って来るのだ。
一瞬で中央に戦力の大穴が空いてしまい、戦車達が左右へ砲撃し続けながら突っ走る。
対するノーマル側も左右から怒涛の弾幕を叩き付けるも対応開始直前から始まった砲撃により、真面な方へ発砲出来ない機体が続出した。
それでも、かなりの数の戦車が残骸と化してしまい、多数の爆発が観測され、ノーマル側に余裕を持たせる結果となった。
余裕が出来たノーマルは混乱中の指揮系統の中、幾つかの有力な指揮官の指示により包囲網を形成、正面を突破されない為の戦力の壁と、左右に挟撃用戦力を配置、戦車部隊を一気に駆逐せんと攻撃開始を指示する。
此処で猛威を振るったのが超低空飛行するガンランサーと呼ばれる新生ロシア軍が誇る最新鋭高機動ガンシップと、同じく最新鋭の爆撃機、グラーバル。
ガンランサーが複数門の対地砲から徹甲弾を連続発射、正面のノーマルを削り取り、同時に対地ミサイル発射コンテナを解放、操縦士からの入力により左右のノーマル部隊へパイル弾頭と呼ばれる物を搭載した高速ミサイルが空を切り裂く様に飛翔する。
複数のガンランサーとグラーバルにより包囲網の形成が打開、対空戦闘に対応せざる得なくなった所を数少ない生き残りの戦車達が近場のノーマルへ自由砲撃を開始する。
痛手を負ったノーマル部隊だが、航空部隊の迎撃を最低限にしつつ戦車への攻撃へ集中する。
「敵も中々やりますなぁ…」
企業軍のランドクラブ、その艦長席で踏ん反り返った男が自慢げに言葉を続けた。
「しかしながら、ですなぁ。
所詮人型兵器に戦車や爆撃機如き…旧式の、それも旧時代の兵器ではｗ。
ねぇｗ？」
「…」
話を振られたのは屈強な男。
だが、ブリッジの副艦長席に座っている割には何故かＡＣスーツの姿だ。
ヘルメットを被っておらず、脚を組んで指と指を組みこそしているが、ヘルメットは首を通す所からバイザーの開いた所に掛けて、肘掛けに通されており、ランドクラブに大きな衝撃が生じない限り、出来る限り迅速な行動が取れるための準備をしている様だ。
「申しておきます」
「うむ？」
「ノーマルも所詮ノーマル。
戦車も所詮戦車です」
「後は分かるが、前は何の意味があっての言葉だい？」
「戦車には戦車の、ノーマルにはノーマルの、航空機には航空機の。
それぞれ利点と欠点が生じているんです。
そのバランスと内容の真実は、出撃して初めて理解出来る。
…それとは関係ないが、貴方は高貴な生まれの方でしたね？」
「まあ、戦闘中にする話でもないが、元は侯爵家だしね。
その資本の関係で企業社会の帰属に成れたのが、我が一族さ。
平民を操るは貴族の務め。
当然、戦術も心得ている」
（どの口が言うか。
人の形をしただけの姿に踊らされよって）
気を良くしたのか、艦長が高らかに指示する。
「正面敵部隊、射角確保！
ノーマルを散会させ、左右を固めよ！！
後ろに逃がすなよ！！
制圧攻撃だ、射角の取れた方とミサイルから順に叩き込んでやれ！！」
（まあ、早期に潰せば此方も士気は上がるだろう。
それに一応逃げ道を塞ぐ程度の脳はある様だ。
只、具体的な配置が分からんな。
天才なのか馬鹿なのかは、現時点で結論を急ぐべきではない、か）
指示通りにノーマル部隊が左右と戦車部隊の後ろを固める。
「ぬう、火力で潰す気か！！」
「部隊長、指示を！？」
肝を冷やす戦車側。
情けない声が戦車部隊の指揮官に浴びせられる。
「頭を冷やせ、アルダナブ伍長！！
全車両、右舷に突撃！！
射角合わせによりセミ・フルバーストを実施する！！」
「ええ！？」
驚く伍長。
しかし直後の急旋回に、伍長がエンジン室と制御室を隔てる壁に叩き付けられてしまう。
『隊長、敵が突撃して来――がうおあ！！』
『詰めろ、砲撃とミサイル攻撃を前面に叩き付けろ！！
前衛機は、その援護だ！
俺も続く！！』
倒れた残骸の横をノーマル達がブーストダッシュで通過する。
…一機除いて、だっだが。
『アリア、戦場で止まるな！！』
気付いた副隊長機が急旋回して、そのままアリアと呼ばれた女性パイロットのノーマルへ急行する。
『でも裕也が死んじゃう！』
『ほっとけ、戦場――ぬぐっ！？』
言いながら攻撃を再開しようと入力した瞬間、警告音。
一秒にも満たぬ後、装甲の薄い背中に砲弾の直撃を食らう。
仲間の機体が倒れ込んだ事により、アリアは自分のしでかした事を理解したが、かと言って後悔する暇もなかった。
何故ならミサイルコンテナを開いて全弾発射攻撃を開始したノーマルに機銃と多数の砲弾が叩き込まれたからだ。
倒れたノーマルだが、未だミサイル射出が続いたままで、着弾地点があっと言う間に足元に及んだ。
相対的速度の関係もあり、その瞬間に着弾したのは倒れ込むノーマルの真下だった。
距離のない状態で放たれたミサイルが、地面に激突し爆発する。
開いた発射管から爆風が中に詰まったミサイルを焼き、コンテナに沢山詰まったミサイルが一斉に誘爆、味方機をも巻き込む大爆発を起こした。
残骸すら爆発を続け、その爆炎が視界を奪う。
外側からの大火力の攻撃に、その小隊のノーマルは殆どが失われた。
後ろから撃たれたアリアを気にしたノーマルは辛うじて機能していた。
が、その程度だ。
戦闘は勿論、移動も出来ない。
脱出するにも機構は当然ながら、ハッチが開かない。
当然だ。
安全面を考えれば、普通装甲が多い方が良いに決まっている。
しかし、それは【薄い壁でも離れていれば貫通してしまっても、搭乗者には届かない】を理屈にした訳であって、それはつまり前面装甲、要は胸や腹よりも遠ざける訳だ。
これでは前からの攻撃に対しての安全策が、背後からの攻撃に対しての欠点になってしまう。
現に彼は管制フレーム事潰されているのだから。
戦車部隊への制圧攻撃。
アームズフォート一隻が砲火を少し浴びせただけで、彼らの生き残りは驚く程あっさりと壊滅してしまった。
新生ロシアを名乗る大規模な武装集団による大規模襲撃により企業連合は多大な被害を受けた。
中でも試作機や多くのレイヴンを失った事は、その大半が専属や腕利きだった事もあり、社会的打撃は非常に大きな物となった。
これに乗じた他の勢力が新生国家を名乗り次々と企業コロニーや地下世界へ侵攻を開始して行った。
企業の経済に欠かせない存在であるミグラントは企業派と国家派に二分し、危機感故に互いが潰し合うか、企業の重圧によって国家派を攻撃するか、その様々なケースによってミグラント同士の戦いの激化が一気に進み、重要都市をすら戦場としてしまう事なった。
抗争地区のレイヴン達は更なる危機感にミグラント勢力に取り込まれるか、独自の集団を形成し、結果として企業に仇成す存在が増え、治安が一気に低下してしまい、犯罪率が激増。
地下世界は一気に荒れ、富裕層へ大ダメージを与えてしまった。
ダメージを受けた富裕層は、その経済活動の殆どを結果的に制限され、ダメージがより強大なダメージを呼び始めた。
カラードの戦力が惜しみなく投入され、不慣れな操縦しか出来ない雇われた傭兵がエース部隊と肩を並べる機会が増え始めた。
新生ロシアは制圧した地上コロニーの物資で活動し、プラント規模の生産能力を持ち始めた。
この生産能力が為に企業連合お得意のアームズフォートの制圧力が相対的に激減し、企業が統べる大陸は時代の姿を大きく傾け始めた。
ノックの音が聞こえる。
「第一ＭＴ部隊全員、揃いました」
「どうぞ」
最後の一枚の書類にサインして判子を押しながらアンタレスが答えた。
「失礼します」
エグとエレン、第一ＭＴ部隊の面々が入室する。
「箝口令の件だね」
言いながらアンタレスが席を立ってソファーに移動する。
エグとエレンが反対側に座ったのは勿論の事だが、十数人も居る残りの全てが座れる訳ではないので、顔を見合わせて階級やコールサインが１に近い隊員達が座った。
アンタレスが口を再び開ける。
「兎に角ご苦労だった。
で、箝口令の解除については今後無期限と決まった。
要はロシア勢力のＡＣに関しては『箝口令出てるから』の一言で良いと結論が出た」
「次に大和内部」とパソコンを操作する。
「市民の中にスパイがいる。
最悪外部による市内での対テロ戦も在り得るだろう。
その場合、君達だけでなく他のＭＴ部隊への出動も躊躇出来ない状況になる。
又、規模次第ではレイヴン出動態勢も考えるべきだ、と会議でも発案された。
どんなルートかは知らないが、最早大和内部も安全ではなくなった様だ」
「今月の犯罪件数、中央市場だけ滅茶苦茶高いですね」
「あの辺はスパイが多く見つかってるからな。
とは言え、犯罪件数と比例、反比例しない例もある」
そう言ってアンタレスが再びキーボードを操作する。
出された画面には犯罪件数よりスパイ発見数が多かったり、圧倒的に少なかったりする地区が沢山あると示されている。
「この様に中央監視局も疲れが溜まって来てる。
中央監視局に過度な負担を掛けない為にも、大和政府中枢直属の調査隊がスパイ発見地区に多数送り込まれているが……現状、負荷を軽減している様には見えないから、今後長い付き合いになるだろう。
この報告に関しては後日包み隠さず正式発表する予定だ」
「新しく入るのは大分厳しいかった筈では？」
「輸送隊に妙な空気を感じると検問所の連中が呟いてたから、多分それなんだろうな。
ともあれ、やっぱりカードの確認だけじゃ雑すぎたな、と判断された。
新開発された動脈検査装置で全員が合格したら、と云う具合の検知方法に切り替わった事も、併せて発表する事が既に決定されてある。
それから、ロシア勢力の機体と思しきＭＴだが、残骸から旧中国製核クラスター弾頭、４個分裂型らしい奴の部品に該当するパーツのミサイルが発見された様だ」
（引火しなくて助かった）
「まあ、正確には『ミサイルかも知れない爆発した何かしらの残骸』だが」
（爆発しちゃってたんだ）
戦車が爆発する。
隣を走っていた戦車が主砲を撃つ。
ブーストダッシュで右前方から急速接近して来たノーマルのマシンガンを持つ右腕を肩から吹き飛ばす。
損傷が頭部やコア全体に広がり、電圧負荷が掛かった所が爆発、バランスを崩して機体が高速状態から地面に叩き付けられる事で搭乗者が負傷する。
地面に叩き付けられた衝撃で大破、炎上する僚機に構わずノーマル達が尚も接近する。
副隊長機の左腕の対砲撃ショックシールドに戦車部隊の砲撃が集中、機体ルート間近に凄まじい数の砲弾が着弾する。
無論縦にも直撃弾が多発し、腕が浮き上がった所でコアに命中弾が集中、コアが爆発し、残された部分が残骸として無残に戦場の大地に叩き付けられてしまう。
戦車にもノーマルにマシンガンによる被害が出始める。
最後尾周辺の右に位置する戦車、砲塔に直撃弾多数、これにより砲弾に引火し車両全体が大爆発する。
続いて最後尾より左前方の戦車の真後ろにノーマルが移動、至近距離からマシンガンを発砲、大破による停止で相対的に迫る大破車両を回避して奥の戦車を狙うも、動作直前に砲塔を旋回させ始めた最後尾の戦車による近距離からの砲撃に、右肩が爆散、右腕部を損失し、衝撃で減速した所を正面二台、左の近距離に一台、計三台からの連続砲撃でノーマルが爆発する。
三台の内、右側の戦車に滑空弾が直撃、四つの内後ろの右側が大破、減速した所を撃たれて大破する。
戦車部隊の前衛の車両が滑空弾を撃ち込んだノーマルへ連続砲撃する。
ノーマルが構わず近付くも砲撃ユニットに掠めてしまい、ダメージで引火を感知したセンサーが警告、それに従い多目的弾頭砲を破棄、盾を背中に移動させて両手にマシンガンを持ち、掃射を開始する。
中衛隊の戦車が爆発、これを後衛隊の戦車が乗り上げてしまい減速した所をハチの巣にされ、爆発に幾つかが巻き込まれて損傷する。
一番損傷の酷い戦車がノーマルへ旋回、主砲と幾つかの機銃でフルバースト攻撃を実施、他の損傷した戦車も続いてフルバースト攻撃を開始し、激しい弾幕でノーマルを撃破する。
撃破後、即座に部隊に復帰しようとした所を巨大な爆発が纏めて戦車達を吹き飛ばす。
戦車部隊、丘に隠れて地形の起伏の激しい所で進行を停止。
対地、及び対空迎撃準備を開始する。
全戦車、車体上部の対空攻撃用小型ミサイル発射管ハッチをフルオープン、丘の上に集まった敵ノーマル達へ無数のミサイルを放つ。
ノーマル側は慌てて後退するが、崖に当たって地盤沈下が発生、部隊の数割が巻き込まれる。
上手く移動して地盤地下に巻き込まれるのを防いだ戦車部隊が土煙の中、フルバースト攻撃を行う。
大量の戦車によるフルバーストは最早【弾の壁】であり、ノーマル側からすれば壁が物凄い勢いで迫って来るのだ。
一瞬で中央に戦力の大穴が空いてしまい、戦車達が左右へ砲撃し続けながら突っ走る。
対するノーマル側も左右から怒涛の弾幕を叩き付けるも対応開始直前から始まった砲撃により、真面な方へ発砲出来ない機体が続出した。
それでも、かなりの数の戦車が残骸と化してしまい、多数の爆発が観測され、ノーマル側に余裕を持たせる結果となった。
余裕が出来たノーマルは混乱中の指揮系統の中、幾つかの有力な指揮官の指示により包囲網を形成、正面を突破されない為の戦力の壁と、左右に挟撃用戦力を配置、戦車部隊を一気に駆逐せんと攻撃開始を指示する。
此処で猛威を振るったのが超低空飛行するガンランサーと呼ばれる新生ロシア軍が誇る最新鋭高機動ガンシップと、同じく最新鋭の爆撃機、グラーバル。
ガンランサーが複数門の対地砲から徹甲弾を連続発射、正面のノーマルを削り取り、同時に対地ミサイル発射コンテナを解放、操縦士からの入力により左右のノーマル部隊へパイル弾頭と呼ばれる物を搭載した高速ミサイルが空を切り裂く様に飛翔する。
複数のガンランサーとグラーバルにより包囲網の形成が打開、対空戦闘に対応せざる得なくなった所を数少ない生き残りの戦車達が近場のノーマルへ自由砲撃を開始する。
痛手を負ったノーマル部隊だが、航空部隊の迎撃を最低限にしつつ戦車への攻撃へ集中する。
「敵も中々やりますなぁ…」
企業軍のランドクラブ、その艦長席で踏ん反り返った男が自慢げに言葉を続けた。
「しかしながら、ですなぁ。
所詮人型兵器に戦車や爆撃機如き…旧式の、それも旧時代の兵器ではｗ。
ねぇｗ？」
「…」
話を振られたのは屈強な男。
だが、ブリッジの副艦長席に座っている割には何故かＡＣスーツの姿だ。
ヘルメットを被っておらず、脚を組んで指と指を組みこそしているが、ヘルメットは首を通す所からバイザーの開いた所に掛けて、肘掛けに通されており、ランドクラブに大きな衝撃が生じない限り、出来る限り迅速な行動が取れるための準備をしている様だ。
「申しておきます」
「うむ？」
「ノーマルも所詮ノーマル。
戦車も所詮戦車です」
「後は分かるが、前は何の意味があっての言葉だい？」
「戦車には戦車の、ノーマルにはノーマルの、航空機には航空機の。
それぞれ利点と欠点が生じているんです。
そのバランスと内容の真実は、出撃して初めて理解出来る。
…それとは関係ないが、貴方は高貴な生まれの方でしたね？」
「まあ、戦闘中にする話でもないが、元は侯爵家だしね。
その資本の関係で企業社会の帰属に成れたのが、我が一族さ。
平民を操るは貴族の務め。
当然、戦術も心得ている」
（どの口が言うか。
人の形をしただけの姿に踊らされよって）
気を良くしたのか、艦長が高らかに指示する。
「正面敵部隊、射角確保！
ノーマルを散会させ、左右を固めよ！！
後ろに逃がすなよ！！
制圧攻撃だ、射角の取れた方とミサイルから順に叩き込んでやれ！！」
（まあ、早期に潰せば此方も士気は上がるだろう。
それに一応逃げ道を塞ぐ程度の脳はある様だ。
只、具体的な配置が分からんな。
天才なのか馬鹿なのかは、現時点で結論を急ぐべきではない、か）
指示通りにノーマル部隊が左右と戦車部隊の後ろを固める。
「ぬう、火力で潰す気か！！」
「部隊長、指示を！？」
肝を冷やす戦車側。
情けない声が戦車部隊の指揮官に浴びせられる。
「頭を冷やせ、アルダナブ伍長！！
全車両、右舷に突撃！！
射角合わせによりセミ・フルバーストを実施する！！」
「ええ！？」
驚く伍長。
しかし直後の急旋回に、伍長がエンジン室と制御室を隔てる壁に叩き付けられてしまう。
『隊長、敵が突撃して来――がうおあ！！』
『詰めろ、砲撃とミサイル攻撃を前面に叩き付けろ！！
前衛機は、その援護だ！
俺も続く！！』
倒れた残骸の横をノーマル達がブーストダッシュで通過する。
…一機除いて、だっだが。
『アリア、戦場で止まるな！！』
気付いた副隊長機が急旋回して、そのままアリアと呼ばれた女性パイロットのノーマルへ急行する。
『でも裕也が死んじゃう！』
『ほっとけ、戦場――ぬぐっ！？』
言いながら攻撃を再開しようと入力した瞬間、警告音。
一秒にも満たぬ後、装甲の薄い背中に砲弾の直撃を食らう。
仲間の機体が倒れ込んだ事により、アリアは自分のしでかした事を理解したが、かと言って後悔する暇もなかった。
何故ならミサイルコンテナを開いて全弾発射攻撃を開始したノーマルに機銃と多数の砲弾が叩き込まれたからだ。
倒れたノーマルだが、未だミサイル射出が続いたままで、着弾地点があっと言う間に足元に及んだ。
相対的速度の関係もあり、その瞬間に着弾したのは倒れ込むノーマルの真下だった。
距離のない状態で放たれたミサイルが、地面に激突し爆発する。
開いた発射管から爆風が中に詰まったミサイルを焼き、コンテナに沢山詰まったミサイルが一斉に誘爆、味方機をも巻き込む大爆発を起こした。
残骸すら爆発を続け、その爆炎が視界を奪う。
外側からの大火力の攻撃に、その小隊のノーマルは殆どが失われた。
後ろから撃たれたアリアを気にしたノーマルは辛うじて機能していた。
が、その程度だ。
戦闘は勿論、移動も出来ない。
脱出するにも機構は当然ながら、ハッチが開かない。
当然だ。
安全面を考えれば、普通装甲が多い方が良いに決まっている。
しかし、それは【薄い壁でも離れていれば貫通してしまっても、搭乗者には届かない】を理屈にした訳であって、それはつまり前面装甲、要は胸や腹よりも遠ざける訳だ。
これでは前からの攻撃に対しての安全策が、背後からの攻撃に対しての欠点になってしまう。
現に彼は管制フレーム事潰されているのだから。
戦車部隊への制圧攻撃。
アームズフォート一隻が砲火を少し浴びせただけで、彼らの生き残りは驚く程あっさりと壊滅してしまった。
13/04/23 17:24更新 / 天