正体不明勢力調査前篇 ＯＫ
プラント周辺を重点的に調べるエグ。
が、謎のＡＣ集団に関して収穫は乏しさが続くばかり。
そんな中数日後にして、漸く反応があった。
『前方距離４５０』
「結構近いな。
向こうにオペレーターが居るなら、もう気づかれてる筈だが…」
隠密モードに切り替えて、静かに入口へ向かう。
「此処だ」
『水精製施設…ね。
稼働中の様だけど、この地区は全部水道が封鎖中の筈ね』
エレンが調べているのか、サイドディスプレイにマップが表示される。
「水責め…にしては貴重な水だからな。
ＡＣ集団…レイヴンの雇い主の施設なのか？
まさかレイヴン自身が運営しているとは思えんが…」
『個人で水精製施設を運営するなんて、企業に潰されるわ』
この時代、水道代が恐ろしく高い。
コロニー大和であれば、足りないが水精製施設が一応同盟間プラントに一機、それよりも小さいのが大和所有の小規模プラントに一機あるので、他の所の相場よりは大分安いだろう。
それでも厳しいので、天然水が確保出来る地域の抗争の激しさは群を抜く。
天然水には及ばぬが、人工水も莫大なコストが掛かる上、希少価値が激しく高いので、結果的に凄まじい価値がある施設である。
それを個人で運営すると言う事は、莫大な富が個人に集中すると云う事だ。
ダァン！！
銃声が轟く。
刹那、凄まじい揺れと直後に爆発音。
反対側の通路から巨大兵器が大破状態で飛び出し、そのまま壁に激突して大炎上した。
巨大兵器が出て来た通路から大量のＭＴが出現、ミサイルによる緩和攻撃を実行する。
巨大兵器を破壊したであろうＡＣは、自らに殺到するミサイルに向かってオーバードブーストで突撃し、右手の長距離戦闘想定型のスナイパーライフルを発砲、手際良くミサイルを撃墜し、撃たなくて良いと判断した物を完璧に回避する。
余計なミサイルを回避しないので、爆風のギリギリ外側を通過するので、見ている方の心臓に悪い。
が、そんな事知るか、とばかりにスナイパーライフルを高速移動するフロート型ＭＴの頭部へ放ち、フロントブースターと一緒に破壊する。
推力を失うと同時に、統括機構を失ったＭＴは更に同時に発生したバランス崩壊に対応出来ず、水精製施設の駐車場の真ん中迄滑り、漸く摩擦で停止したと同時に爆散した。
真っ白な軽量二脚のＡＣが放つ弾丸は、次に人型ＭＴを空中で射抜き、更に発砲された弾丸が、逆関節型のグレネードカノン砲を装備したＭＴの右カノンを破壊、ＭＴが爆発に巻き込まれる。
オーバードブーストの余剰推力を活かしながら距離４００程を保って左旋回し、軽量なチェインガンを一発だけ撃って、ＭＴの戦闘力を奪う。
ＭＴが倒れたのは１２０度程旋回した頃で、更に現れたノーマルへノーロック状態で特殊ミサイルを発射した。
発射されたミサイルは不思議な形をしており、本体が爆発したかと思えば、連結されてあった複数のコンテナが爆風を活かして跳躍する様に、前に押し出され、気付けば各コンテナから放たれたミサイルが地面や壁と一緒にノーマルを飲み込む爆発を生んでいた。
素早く接近して左腕のレーザーブレードでマシンガン装備のノーマルを破壊し、スナイパーライフルを旋回しながら撃って、背後のノーマルを破壊、続けて同方向の数百メートル先に居るＭＴも撃破する。
余りの正確な戦闘に唖然と知るエグ。
ナストロファージを介して、それを見るエレンも同様だった。
「…通信開始する」
『了解、通信録音開始』
ボタンを押して、一息。
『此方、コロニー大和所属調査隊。
其処のＡＣ、目的は何だ？』
『……俺は…レイヴン…』
（女！？）
『俺は…雇われた』
「傭兵か。
依頼内容は？」
『言えない。
後、目撃者は消せって…』
戦意を感じたエグが舌打ちしてペダルを踏む。
「戦闘モード」
『戦闘システム 起動』
先に予測はした。
が、被弾した。
「中々威力が高いんだな…！！」
マシンガンで応戦するも、凄まじい勢いで接近されて、どんどん損傷してしまうナストロファージ。
『何て加速なの！？
レイヴン殺しじゃない！！』
（ぐうっ、この瞬発力は何なんだ！？
オーバードブースト！？
それに、この白いのは何なんだ！！！）
『敵ＡＣに機体温度の異常低下を確認』
（異常な温度低下？
じゃあ、冷却による白煙？
馬鹿だろ、あれだけオーバードブーストを多用して、しかも気持ち悪い瞬発力だぞ！？）
背後に回った白いＡＣを睨みつけ、操縦桿を横に倒す。
瞬間、遠心力が身を襲う。
ショックライフルをロックオンもせずに乱射する。
一応、ヒットメッセージは出ている様だ。
「っぐ、エネルギーが…ッッ！！」
連続での激しい動きもエネルギー枯渇してしまう原因である。
加えてジェネレーターを休ませようにも、ブースターが無ければ瞬殺されてしまうであろう相手である。
『エグ！！』
エレンの声が飛ぶ。
（ＭＴを呼ぶのは無理だ。
居ないんだ。
かと言って都合良く進展がある筈もない…ッ！！）
必死に操縦し続けるエグ。
手の内が汗で気持ち悪くなる。
息が上がる。
心拍数が跳ね上がる。
怖くなる。
逃げたくなる。
だが逃げられないからこそ恐怖がある。
それでも此処で死ぬ訳にはいかない。
意地を張る。
（どんな化け物でも、ＡＣなら人の創造物！！
人を越えられるか！！）
―思考を最適化―
―必要な情報量を確認―
―感情制御開始―
―並列情報処理開始―
―感情処理開始―
―戦闘情報処理開始―
―各処理情報統合開始―
―機体操縦行動へ反映―
―反射神経の情報をフィードバック―
―戦闘状況確認と並列、状況対応に於ける行動の最適化を開始―
―必要会話数確認―
―必要可能性情報を会話による取得を行う為、言語能力の方向性を提示―
―全システム、オールグリーン―
――メインシステム、戦闘モードを起動します――
「――――――――――――――――」
刹那、脳の中で、全ての感覚が加速する。
「この感覚だ…、この感覚だッッッ！！」
凄まじい速度でコンパターを操作、キーボードを呼び出し、瞬時に操作を終了する。
限界迄運動アクチュリエーターの回転数を上げて、ジェネレーターの発電負荷を軽減する。
各ブースターを余剰推力で常時起動させ、入力に応じて自動で適切な出力で動作させる事で、若干の機動力を向上させ、脚部の衝撃吸収用駆動モーターを使って逆作用を起こさせ、一気に加速させる。
結果、普通に走るだけの操縦でも、『走る』駆動速度自体が跳ね上がり、通常行動時の速度を遥かに向上させる事で、漸く敵ＡＣの動きに追い付く事が出来た。
特定の箇所に負荷が増大するが、先程のままよりはマシな結果になる筈だ。
至近距離でマシンガンの弾丸を叩き込み、常時発動状態のオーバードブーストの出力をペダル入力で上昇させ、通常時と違ってチャージする必要をなくす事で、瞬時にハイスピードに到達するナストロファージ。
マシンガンのロックサイトとショックライフルのロックサイトがロックマーカーと一緒に激しく動き続ける。
『エグ、エグ！？』
「問題ない、このまま食い潰す！！」
『待って、機体の各出力値が可笑しいわ！？』
「俺がやった！
それよりＡＣの情報は！？」
『っ。
高性能な冷却装置と高出力タービンエンジンを背部に装備しているのを確認したわ。
追加ブースターの様な物…ううん、違う、発電もしてるわ』
「だが、あれだけの動き…。
あれは本当にＡＣなのか？
企業が動く筈だ。
まさか、この間の大襲撃、原因はこいつらなのか！？」
『けど、倒すしか！！』
「間に合わなくても良い、ＭＴの調査隊の出動を要請したい！」
『無理よ、数週間は掛かるわ！』
「ＡＣの大至急増援は！？」
『到着迄６時間は掛かる！！』
（自分で倒すしかないってか、くそったれ！）
激しく動き回る敵ＡＣ。
「敵主力兵装は！？」
『スナイパーライフルよ』
「嘘つけ、スナイパーライフルにしちゃコンバットライフルみたいな連射だ」
『本当よ、形状しか解析出来ないんだから、中身は知らないわよ』
厄介な奴だ。
エレンの言葉を聞いての感じた感想である。
警告音。
会話中も敵に集中していたが、上を取られてしまった。
「っ」
半ば反射的にメインブースターをグラインド出力で噴射、急上昇させ慣性が残っている内にオーバードブーストを使用する。
目標を見失ったミサイルが地面を抉り消す。
敵ＡＣが旋回する前に、タンクの影へサイド―ブースターの噴射で隠れ、軽くジャンプしてから、空中でオーバードブーストをカットする。
それを追い掛けたＡＣのスナイパーライフルから発射された弾丸がタンクを撃ち抜き、中の水の圧力が掛かって吹き飛び、大量の水が飛び散る。
旋回時のブレーキングに水の濡れたアスファルトが抗い、慣性を大きくする。
それは僅か数ミリの物だが、今のエグ相手に、僅かであろうとズレは敗因と化す。
―敵姿勢制御不安定感知―
感じて、操縦桿を横に叩き倒す。
オーバードブーストペダルを蹴って、一旦解除し、ブーストペダルを踏み付けて、跳躍し、慣性が消えぬ内にブースター噴射を行う事で、速度を殺さずエネルギーロスを少なくする。
取るのは上。
急激な接近に、敵ＡＣがバックブースター全開で離脱を図るも、ナストロファージの勢いは止まらない。
「長物ならっ、距離を詰めるっ！」
マシンガンとショックライフルの怒涛の攻撃が始まる。
ガァンッ ガギャア ドドズァンッ！！
ギャリリリャリャリリッッッ！！！
最軽量級であろう事から推測した内容は装甲の薄さである。
案の定、敵は一度被弾すると、一気に装甲が弾け飛んだ。
「捉えた」
更に距離を止め、向かって右上から上を取り、撃ち続ける。
突如、敵ＡＣの背中が爆発する。
『敵コア破壊 敵ＡＣ破壊』
『如何やらオーバードブースト機構に弾を食らったみたいね』
「道理で潰れる筈だ」
四肢の爆ぜた、コアだった残骸が黒煙を吹き出しながら転がり、数バウンドした所で再び爆発、今度は完全に爆散した。
―戦闘システム シャットダウン―
―並列思考から通常思考へ移行―
―脳への負荷を確認 第五能力遮断実行―
マシンディスプレイを確認すると、脚部とブースターのダメージランプが赤く点滅しながら、警告音を出していた。
ジェネレーターも負荷限界数値が破損ゲージが溜まり切る寸前である。
「…システム、通常モード」
『メインシステム 通常モードに移行します』
一息ついて、呼び掛ける。
「エレン、ジェネレーターの負荷を考慮して、可能な限りブースト行動を控えたい。
ブースターを使わない最短経路を算出してくれ」
『分かった』
言葉を交わして、ボードを操作する。
『冷却装置、補助電力使用開始。
最大出力稼働開始』
ボードを操作しながらコンソールを入力、冷却用コードを入力してジェネレーターを重点的に冷やす。
それからコンデサ内の電力を浪費させ、ジェネレーターから注ぎ込まれて来るエネルギーを、そのまま放出する。
ＡＣの機動力の要であるブースターを、戦闘レベルの高出力噴射させるには莫大な電力が必要である。
加えて、負荷を小さくする為に解除箇所を選びはしたが色々なリミッターを解除してしまったので、モーターに電力過供給が発生しアクチュール系統の異常を知らせる警告が幾つも出ている。
つまりジェネレーターのエネルギー供給量が多過ぎるのだが、だからと言って瞬時に発電量を抑えられる訳ではない。
厳密には出来なくもないが、減速可能速度にも限度がある上、それ自体が負荷になるので、厳禁行為である。
人の心臓と同じで、急に体――機体を止めれば、エネルギーが行き場を失って負荷になるのだ。
「ルート転送確認、行動開始」
早急に戻る為、エグは愛機をルートに従って移動させ始めたのであった。
企業政府コロニー『ソーンガーデン』から遥か北――旧中華人民共和国領土から進んで、旧ロシア連邦領土へ差し掛かろうと言う所――。
其処にはロシア軍と中国軍の激しい武力衝突と、それに介入した米軍の戦闘の爪痕として残る、『光の爪痕』と呼ばれる深い谷が存在する。
超高出力光学照射砲撃施設型移動要塞――アームズフォートの先駆けとなった全長数キロに及ぶ超高速振動プラットによる高速移動と、内部の物資プランと供給による、莫大な内部生産力からなる安定した火力、それを防衛力として護られた大規模量子エネルギー加速器による光学砲。
残骸の殆どは企業連合に回収されたが、実際は、その残骸に眠る超技術が、企業間戦争を勃発させ、人類の極一部を残して、地下世界へと追いやった切欠である。
『光の爪痕』とは、早い話がレーザーをぶっ放した跡の事だ。
この地で行われている事――それは即ち、ロシアの国家派による企業体制への軍事反発――レジスタンス行動の準備である。
『１番から６番、シャトル部隊、発射準備完了』
『１番から６番迄の発射準備完了を了解。
タンクベノール、２番から３番へ。
ブーストユニットのシステムコンタクト率は？』
『コンタクト率１００％』
不思議な戦車が次々と床から競り上がって来る。
一見すると四脚のノーマルの様にも見えるが、実際は無限軌道ユニットを四か所に分けた事で走行性を向上した準可変アーム搭載型特殊戦車で、戦車らしく立派な砲塔が車両に乗っかっている。
ミサイルポッドをしこたま積み、後ろに主翼を広げたブースターが装備されている。
彼らは『戦車をＡＣのＶＯＢの要領で空中から高速で敵陣に突撃』させようとしているのだ。
戦車の運用法から、余りに掛け離れた作戦だが、それ故に奇襲性が高いと判断された為に、結構する為の準備が行われている訳だ。
『此方、ゲルメル１』
格納庫から最新鋭技術を詰め込み過ぎたが為に、不思議な形をしている戦闘機が出て来る。
『まっさか、戦車と同じ滑走路を使う日が来るなんて思わなかったよ』
その声には面白がっている様な楽しげな色があった。
『ゲルメル２よりゲルメル１へ。
俺はそもそも、戦車が空を飛ぶだ何て事自体、思いつかなかったぜ？』
『此方ゲルメル３。
空を飛ぶのは想像した事あるけど、それだって砲塔だけ浮いて、そのまま飛んでっちゃうイメージだったからなぁ。
まさか本当に戦車その物が飛行する所なんて考えた事もなかったよ』
此方の声音は呆れが強い。
『コントロールより飛行戦車部隊全機へ。
離陸進路上にアンノウン要素無し。
逆ナンバー順に離陸せよ。
護衛戦闘機部隊は、飛行戦車部隊全車両離陸後、同様の順番で離陸。
尚、使用する滑走路は飛行戦車部隊と同様の物とする』
飛行戦車部隊、タンクベノールが１から１０迄了解と答える。
護衛の戦闘機部隊ゲルメルも１から８の全機が了解を答えた。
戦車が滑走路に入る。
ブースター始動と共にフルアクセル。
推力発生出力に達した瞬間、車体が揺れるも訓練済みなので、そのまま加速、離陸する。
続く２台目、それ以降も同様に離陸に成功する。
同じ様に戦闘機が８機空へ舞い上がる。
『コントロールよりゲルメル隊へ。
隊長機の離陸を確認。
全機、ツインブースターを点火せよ。
各機報告より最後の機体の点火報告次第、飛行戦車部隊全車両のフルブースト点火を許可する。
ゲルメル隊は、予定通り、これを作戦行動地点迄護衛せよ。
尚、以後のコントロールは先行中の特殊管制飛行機ラズベリーの物とする』
飛行する影が、各々のタイミングで加速する。
『ゲルメル１、ツインブースター点火。
各機、続いて点火せよ！！』
後部の左右の追加エンジンが甲高い音を轟かせて、あっと言う間に豪音速世界へ機体を叩き込む。
同時に揺れが激しくなる。
「っク…」
ツインブースト機体制御演算補助機能と呟きながら、コンソールを振るえる指で操作する。
漸く揺れが幾分マシになるが、それでも凄まじく疲れるであろう任務だ。
どの道序盤でしかない。
そう考えると、何だか心に錘が吊り下げられた様な気分である。
何はともあれ、彼らは過酷な長時間飛行を続けるのであった。
が、謎のＡＣ集団に関して収穫は乏しさが続くばかり。
そんな中数日後にして、漸く反応があった。
『前方距離４５０』
「結構近いな。
向こうにオペレーターが居るなら、もう気づかれてる筈だが…」
隠密モードに切り替えて、静かに入口へ向かう。
「此処だ」
『水精製施設…ね。
稼働中の様だけど、この地区は全部水道が封鎖中の筈ね』
エレンが調べているのか、サイドディスプレイにマップが表示される。
「水責め…にしては貴重な水だからな。
ＡＣ集団…レイヴンの雇い主の施設なのか？
まさかレイヴン自身が運営しているとは思えんが…」
『個人で水精製施設を運営するなんて、企業に潰されるわ』
この時代、水道代が恐ろしく高い。
コロニー大和であれば、足りないが水精製施設が一応同盟間プラントに一機、それよりも小さいのが大和所有の小規模プラントに一機あるので、他の所の相場よりは大分安いだろう。
それでも厳しいので、天然水が確保出来る地域の抗争の激しさは群を抜く。
天然水には及ばぬが、人工水も莫大なコストが掛かる上、希少価値が激しく高いので、結果的に凄まじい価値がある施設である。
それを個人で運営すると言う事は、莫大な富が個人に集中すると云う事だ。
ダァン！！
銃声が轟く。
刹那、凄まじい揺れと直後に爆発音。
反対側の通路から巨大兵器が大破状態で飛び出し、そのまま壁に激突して大炎上した。
巨大兵器が出て来た通路から大量のＭＴが出現、ミサイルによる緩和攻撃を実行する。
巨大兵器を破壊したであろうＡＣは、自らに殺到するミサイルに向かってオーバードブーストで突撃し、右手の長距離戦闘想定型のスナイパーライフルを発砲、手際良くミサイルを撃墜し、撃たなくて良いと判断した物を完璧に回避する。
余計なミサイルを回避しないので、爆風のギリギリ外側を通過するので、見ている方の心臓に悪い。
が、そんな事知るか、とばかりにスナイパーライフルを高速移動するフロート型ＭＴの頭部へ放ち、フロントブースターと一緒に破壊する。
推力を失うと同時に、統括機構を失ったＭＴは更に同時に発生したバランス崩壊に対応出来ず、水精製施設の駐車場の真ん中迄滑り、漸く摩擦で停止したと同時に爆散した。
真っ白な軽量二脚のＡＣが放つ弾丸は、次に人型ＭＴを空中で射抜き、更に発砲された弾丸が、逆関節型のグレネードカノン砲を装備したＭＴの右カノンを破壊、ＭＴが爆発に巻き込まれる。
オーバードブーストの余剰推力を活かしながら距離４００程を保って左旋回し、軽量なチェインガンを一発だけ撃って、ＭＴの戦闘力を奪う。
ＭＴが倒れたのは１２０度程旋回した頃で、更に現れたノーマルへノーロック状態で特殊ミサイルを発射した。
発射されたミサイルは不思議な形をしており、本体が爆発したかと思えば、連結されてあった複数のコンテナが爆風を活かして跳躍する様に、前に押し出され、気付けば各コンテナから放たれたミサイルが地面や壁と一緒にノーマルを飲み込む爆発を生んでいた。
素早く接近して左腕のレーザーブレードでマシンガン装備のノーマルを破壊し、スナイパーライフルを旋回しながら撃って、背後のノーマルを破壊、続けて同方向の数百メートル先に居るＭＴも撃破する。
余りの正確な戦闘に唖然と知るエグ。
ナストロファージを介して、それを見るエレンも同様だった。
「…通信開始する」
『了解、通信録音開始』
ボタンを押して、一息。
『此方、コロニー大和所属調査隊。
其処のＡＣ、目的は何だ？』
『……俺は…レイヴン…』
（女！？）
『俺は…雇われた』
「傭兵か。
依頼内容は？」
『言えない。
後、目撃者は消せって…』
戦意を感じたエグが舌打ちしてペダルを踏む。
「戦闘モード」
『戦闘システム 起動』
先に予測はした。
が、被弾した。
「中々威力が高いんだな…！！」
マシンガンで応戦するも、凄まじい勢いで接近されて、どんどん損傷してしまうナストロファージ。
『何て加速なの！？
レイヴン殺しじゃない！！』
（ぐうっ、この瞬発力は何なんだ！？
オーバードブースト！？
それに、この白いのは何なんだ！！！）
『敵ＡＣに機体温度の異常低下を確認』
（異常な温度低下？
じゃあ、冷却による白煙？
馬鹿だろ、あれだけオーバードブーストを多用して、しかも気持ち悪い瞬発力だぞ！？）
背後に回った白いＡＣを睨みつけ、操縦桿を横に倒す。
瞬間、遠心力が身を襲う。
ショックライフルをロックオンもせずに乱射する。
一応、ヒットメッセージは出ている様だ。
「っぐ、エネルギーが…ッッ！！」
連続での激しい動きもエネルギー枯渇してしまう原因である。
加えてジェネレーターを休ませようにも、ブースターが無ければ瞬殺されてしまうであろう相手である。
『エグ！！』
エレンの声が飛ぶ。
（ＭＴを呼ぶのは無理だ。
居ないんだ。
かと言って都合良く進展がある筈もない…ッ！！）
必死に操縦し続けるエグ。
手の内が汗で気持ち悪くなる。
息が上がる。
心拍数が跳ね上がる。
怖くなる。
逃げたくなる。
だが逃げられないからこそ恐怖がある。
それでも此処で死ぬ訳にはいかない。
意地を張る。
（どんな化け物でも、ＡＣなら人の創造物！！
人を越えられるか！！）
―思考を最適化―
―必要な情報量を確認―
―感情制御開始―
―並列情報処理開始―
―感情処理開始―
―戦闘情報処理開始―
―各処理情報統合開始―
―機体操縦行動へ反映―
―反射神経の情報をフィードバック―
―戦闘状況確認と並列、状況対応に於ける行動の最適化を開始―
―必要会話数確認―
―必要可能性情報を会話による取得を行う為、言語能力の方向性を提示―
―全システム、オールグリーン―
――メインシステム、戦闘モードを起動します――
「――――――――――――――――」
刹那、脳の中で、全ての感覚が加速する。
「この感覚だ…、この感覚だッッッ！！」
凄まじい速度でコンパターを操作、キーボードを呼び出し、瞬時に操作を終了する。
限界迄運動アクチュリエーターの回転数を上げて、ジェネレーターの発電負荷を軽減する。
各ブースターを余剰推力で常時起動させ、入力に応じて自動で適切な出力で動作させる事で、若干の機動力を向上させ、脚部の衝撃吸収用駆動モーターを使って逆作用を起こさせ、一気に加速させる。
結果、普通に走るだけの操縦でも、『走る』駆動速度自体が跳ね上がり、通常行動時の速度を遥かに向上させる事で、漸く敵ＡＣの動きに追い付く事が出来た。
特定の箇所に負荷が増大するが、先程のままよりはマシな結果になる筈だ。
至近距離でマシンガンの弾丸を叩き込み、常時発動状態のオーバードブーストの出力をペダル入力で上昇させ、通常時と違ってチャージする必要をなくす事で、瞬時にハイスピードに到達するナストロファージ。
マシンガンのロックサイトとショックライフルのロックサイトがロックマーカーと一緒に激しく動き続ける。
『エグ、エグ！？』
「問題ない、このまま食い潰す！！」
『待って、機体の各出力値が可笑しいわ！？』
「俺がやった！
それよりＡＣの情報は！？」
『っ。
高性能な冷却装置と高出力タービンエンジンを背部に装備しているのを確認したわ。
追加ブースターの様な物…ううん、違う、発電もしてるわ』
「だが、あれだけの動き…。
あれは本当にＡＣなのか？
企業が動く筈だ。
まさか、この間の大襲撃、原因はこいつらなのか！？」
『けど、倒すしか！！』
「間に合わなくても良い、ＭＴの調査隊の出動を要請したい！」
『無理よ、数週間は掛かるわ！』
「ＡＣの大至急増援は！？」
『到着迄６時間は掛かる！！』
（自分で倒すしかないってか、くそったれ！）
激しく動き回る敵ＡＣ。
「敵主力兵装は！？」
『スナイパーライフルよ』
「嘘つけ、スナイパーライフルにしちゃコンバットライフルみたいな連射だ」
『本当よ、形状しか解析出来ないんだから、中身は知らないわよ』
厄介な奴だ。
エレンの言葉を聞いての感じた感想である。
警告音。
会話中も敵に集中していたが、上を取られてしまった。
「っ」
半ば反射的にメインブースターをグラインド出力で噴射、急上昇させ慣性が残っている内にオーバードブーストを使用する。
目標を見失ったミサイルが地面を抉り消す。
敵ＡＣが旋回する前に、タンクの影へサイド―ブースターの噴射で隠れ、軽くジャンプしてから、空中でオーバードブーストをカットする。
それを追い掛けたＡＣのスナイパーライフルから発射された弾丸がタンクを撃ち抜き、中の水の圧力が掛かって吹き飛び、大量の水が飛び散る。
旋回時のブレーキングに水の濡れたアスファルトが抗い、慣性を大きくする。
それは僅か数ミリの物だが、今のエグ相手に、僅かであろうとズレは敗因と化す。
―敵姿勢制御不安定感知―
感じて、操縦桿を横に叩き倒す。
オーバードブーストペダルを蹴って、一旦解除し、ブーストペダルを踏み付けて、跳躍し、慣性が消えぬ内にブースター噴射を行う事で、速度を殺さずエネルギーロスを少なくする。
取るのは上。
急激な接近に、敵ＡＣがバックブースター全開で離脱を図るも、ナストロファージの勢いは止まらない。
「長物ならっ、距離を詰めるっ！」
マシンガンとショックライフルの怒涛の攻撃が始まる。
ガァンッ ガギャア ドドズァンッ！！
ギャリリリャリャリリッッッ！！！
最軽量級であろう事から推測した内容は装甲の薄さである。
案の定、敵は一度被弾すると、一気に装甲が弾け飛んだ。
「捉えた」
更に距離を止め、向かって右上から上を取り、撃ち続ける。
突如、敵ＡＣの背中が爆発する。
『敵コア破壊 敵ＡＣ破壊』
『如何やらオーバードブースト機構に弾を食らったみたいね』
「道理で潰れる筈だ」
四肢の爆ぜた、コアだった残骸が黒煙を吹き出しながら転がり、数バウンドした所で再び爆発、今度は完全に爆散した。
―戦闘システム シャットダウン―
―並列思考から通常思考へ移行―
―脳への負荷を確認 第五能力遮断実行―
マシンディスプレイを確認すると、脚部とブースターのダメージランプが赤く点滅しながら、警告音を出していた。
ジェネレーターも負荷限界数値が破損ゲージが溜まり切る寸前である。
「…システム、通常モード」
『メインシステム 通常モードに移行します』
一息ついて、呼び掛ける。
「エレン、ジェネレーターの負荷を考慮して、可能な限りブースト行動を控えたい。
ブースターを使わない最短経路を算出してくれ」
『分かった』
言葉を交わして、ボードを操作する。
『冷却装置、補助電力使用開始。
最大出力稼働開始』
ボードを操作しながらコンソールを入力、冷却用コードを入力してジェネレーターを重点的に冷やす。
それからコンデサ内の電力を浪費させ、ジェネレーターから注ぎ込まれて来るエネルギーを、そのまま放出する。
ＡＣの機動力の要であるブースターを、戦闘レベルの高出力噴射させるには莫大な電力が必要である。
加えて、負荷を小さくする為に解除箇所を選びはしたが色々なリミッターを解除してしまったので、モーターに電力過供給が発生しアクチュール系統の異常を知らせる警告が幾つも出ている。
つまりジェネレーターのエネルギー供給量が多過ぎるのだが、だからと言って瞬時に発電量を抑えられる訳ではない。
厳密には出来なくもないが、減速可能速度にも限度がある上、それ自体が負荷になるので、厳禁行為である。
人の心臓と同じで、急に体――機体を止めれば、エネルギーが行き場を失って負荷になるのだ。
「ルート転送確認、行動開始」
早急に戻る為、エグは愛機をルートに従って移動させ始めたのであった。
企業政府コロニー『ソーンガーデン』から遥か北――旧中華人民共和国領土から進んで、旧ロシア連邦領土へ差し掛かろうと言う所――。
其処にはロシア軍と中国軍の激しい武力衝突と、それに介入した米軍の戦闘の爪痕として残る、『光の爪痕』と呼ばれる深い谷が存在する。
超高出力光学照射砲撃施設型移動要塞――アームズフォートの先駆けとなった全長数キロに及ぶ超高速振動プラットによる高速移動と、内部の物資プランと供給による、莫大な内部生産力からなる安定した火力、それを防衛力として護られた大規模量子エネルギー加速器による光学砲。
残骸の殆どは企業連合に回収されたが、実際は、その残骸に眠る超技術が、企業間戦争を勃発させ、人類の極一部を残して、地下世界へと追いやった切欠である。
『光の爪痕』とは、早い話がレーザーをぶっ放した跡の事だ。
この地で行われている事――それは即ち、ロシアの国家派による企業体制への軍事反発――レジスタンス行動の準備である。
『１番から６番、シャトル部隊、発射準備完了』
『１番から６番迄の発射準備完了を了解。
タンクベノール、２番から３番へ。
ブーストユニットのシステムコンタクト率は？』
『コンタクト率１００％』
不思議な戦車が次々と床から競り上がって来る。
一見すると四脚のノーマルの様にも見えるが、実際は無限軌道ユニットを四か所に分けた事で走行性を向上した準可変アーム搭載型特殊戦車で、戦車らしく立派な砲塔が車両に乗っかっている。
ミサイルポッドをしこたま積み、後ろに主翼を広げたブースターが装備されている。
彼らは『戦車をＡＣのＶＯＢの要領で空中から高速で敵陣に突撃』させようとしているのだ。
戦車の運用法から、余りに掛け離れた作戦だが、それ故に奇襲性が高いと判断された為に、結構する為の準備が行われている訳だ。
『此方、ゲルメル１』
格納庫から最新鋭技術を詰め込み過ぎたが為に、不思議な形をしている戦闘機が出て来る。
『まっさか、戦車と同じ滑走路を使う日が来るなんて思わなかったよ』
その声には面白がっている様な楽しげな色があった。
『ゲルメル２よりゲルメル１へ。
俺はそもそも、戦車が空を飛ぶだ何て事自体、思いつかなかったぜ？』
『此方ゲルメル３。
空を飛ぶのは想像した事あるけど、それだって砲塔だけ浮いて、そのまま飛んでっちゃうイメージだったからなぁ。
まさか本当に戦車その物が飛行する所なんて考えた事もなかったよ』
此方の声音は呆れが強い。
『コントロールより飛行戦車部隊全機へ。
離陸進路上にアンノウン要素無し。
逆ナンバー順に離陸せよ。
護衛戦闘機部隊は、飛行戦車部隊全車両離陸後、同様の順番で離陸。
尚、使用する滑走路は飛行戦車部隊と同様の物とする』
飛行戦車部隊、タンクベノールが１から１０迄了解と答える。
護衛の戦闘機部隊ゲルメルも１から８の全機が了解を答えた。
戦車が滑走路に入る。
ブースター始動と共にフルアクセル。
推力発生出力に達した瞬間、車体が揺れるも訓練済みなので、そのまま加速、離陸する。
続く２台目、それ以降も同様に離陸に成功する。
同じ様に戦闘機が８機空へ舞い上がる。
『コントロールよりゲルメル隊へ。
隊長機の離陸を確認。
全機、ツインブースターを点火せよ。
各機報告より最後の機体の点火報告次第、飛行戦車部隊全車両のフルブースト点火を許可する。
ゲルメル隊は、予定通り、これを作戦行動地点迄護衛せよ。
尚、以後のコントロールは先行中の特殊管制飛行機ラズベリーの物とする』
飛行する影が、各々のタイミングで加速する。
『ゲルメル１、ツインブースター点火。
各機、続いて点火せよ！！』
後部の左右の追加エンジンが甲高い音を轟かせて、あっと言う間に豪音速世界へ機体を叩き込む。
同時に揺れが激しくなる。
「っク…」
ツインブースト機体制御演算補助機能と呟きながら、コンソールを振るえる指で操作する。
漸く揺れが幾分マシになるが、それでも凄まじく疲れるであろう任務だ。
どの道序盤でしかない。
そう考えると、何だか心に錘が吊り下げられた様な気分である。
何はともあれ、彼らは過酷な長時間飛行を続けるのであった。
13/03/19 14:27更新 / 天