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正体不明勢力調査中編 OK
 それは異様な光景だった。
梅雨払いを担当する戦闘機部隊の襲撃により、大混乱に陥っていた部隊からの救援要請を受けた、企業上層部はコンコード社にレイヴン達の緊急集結を要請し、アームズフォート部隊を企業連合の管轄下に置いた状態で、出撃させた。
 いざ出撃しても、肝心のアームズフォート乗組員は驚かざる得なかった。
何故なら、報告上の被害は極めて甚大で、アームズフォート級の被害と伝えられていたからだ。
故に、無意識の内に、『謎のアームズフォートと戦うんだ』と思い込んでいた彼らは、『敵の正体』に度肝を抜かれていた。
「敵反応接近!
数、約50!――うん、ご、50?」
「如何した、レーダー班?」
「そ、それがレーダーに沢山の反応が…。
アームズフォート級の反応は皆無です」
「何?
居ないのか、アームズフォートが?」
「つ、梅雨払い部隊か、と…」
 「まあ良い。
全アームズフォート、対アームズフォート戦闘用意!
第一攻撃手段、レベルマックスによる緩和砲撃を実施する。
各ノーマルチームは敵陸上部隊を迎撃せよ!!」
艦長が通信機を使って、そう指示を出す。
直後、轟くアームズフォートの艦隊緩和連続砲撃。

 ――――――グォオアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!
目の前の空中を、爆発が遮る。
「敵航空部隊、大量のミサイルで砲弾到達を阻止!!
更に敵ミサイル反応急速接近!
数え切れません!!」
「迎撃兵装の全てを展開しろ!
ノーマルにも迎撃させるんだ!」
上方へ、正面へ、弾丸や砲弾、各種ミサイルが飛来する。
 「敵ミサイル、迎撃網突破率30%!
来ます!」
「全艦、衝撃に備えろ!
ブリッジシャフトを降下させて、砲塔を緊急格納しろ!!」
「ブリッジシャフト降下しま―――」
ズガアアアン!!
「っくうう、被弾したか!?」
衝撃と共に照明が全てダウンする。
「被害報告…出来ません。
ダメージインポーター、接続回路沈黙!」

―各ノーマル部隊からの視点―
 パージしたブースターが砲弾としてノーマル、AC、アームズフォート問わず被害を齎す。
 『飛行機じゃなかったのか!?』
戦車が地上のミサイルでの制圧攻撃を行う。
真っ黒焦げになった荒野を荒々しく踏み潰しながら、着地した戦車が自慢の大砲をぶっ放して軽量級タンクACの脚部を一撃で破壊する。
続けて隣の戦車が、アームズフォート艦隊のミサイル目掛けてミサイルポッドからミサイルを連続射出し、次々と撃ち落とす。
これに救われた戦闘機が高出力レーザー砲で、格納シャフトが砲塔を格納し切る前に、横っ腹からレーザーを叩き付ける事で、砲塔を一つ破壊する事に成功する。
砲塔の爆発によって引火した砲弾が、内部からアームズフォートを破壊し、被害が一瞬にして全体に広がり、動力部が大爆発、そのアームズフォートが派手に吹き飛んだ。
隣のアームズフォートや周囲のノーマル等が大量に巻き込まれ、大きなクレーターが出来る。
 一足遅れて戦闘空域に到着した爆撃機が、他の航空部隊の活躍によって開かれた道を悠々と進み、自慢げに特殊爆剤を使用したクラスター爆雷を投下し、
アームズフォート艦隊へ大打撃を与える。
 艦隊は、これに対し全艦のミサイル一斉発射による対空制圧攻撃を実行。
これにより爆撃部隊の大半の機体が、空を爆発の光で照らす事となった。
 アームズフォート艦隊の対応により、航空部隊は一気に戦力を激減させてしまったが、地上戦力は相変わらず戦車側が優勢だった。
砲撃の特性上、遠距離戦の方が得意なのは企業側も周知なのだが、だからと言っても一部残った爆撃機の爆弾投下による『爆破の壁』により接近は困難を極め、それを撃墜しようとすれば機動力のある戦闘機のミサイルの餌食となってしまう。
そもそも『上を狙う』事自体が隙を晒す事に直結する為、次から次へとノーマルが破壊されてしまっている。
 ACと言えば、攻撃こそ出来てはいないが、被弾に関しては大破して居たりレイヴンが絶望としていたり、余裕を持って回避して居たりと精神状態と被弾率に関しては個人差が激しい様だ。
最も数の多い相手に取っては、直に当たるだろう、と位には思っているらしいのだが、それでも時々、長距離の高性能光学複合カメラを使った加速ロケットが近くの地面を抉るので、戦車側も油断出来ない。
戦車護衛の戦闘機部隊は、既に補給を必要として、撤退する機も現れ始め、遅れて来た爆撃機が無理に詰め込んだ対空機銃、対地機銃でミサイルを撃墜しており、撤退機の援護をしている。
時折戦車がアームズフォートの砲塔に向けて砲撃する事で、爆撃機破壊を阻止しているが、その度に砲弾に被弾する確率が高めなので、結構な嫌がらせになっている。
 まさかの突撃方法で、順調にノーマル、ACの防衛ラインを最終防衛線迄押し込んでいる戦車組だが、此処に来て、アームズフォートの近接機銃防衛機構が猛威を振るい始めた。
アームズフォートとアームズフォートの間は弾丸が周囲から叩き込まれ、遂に撃破された戦車が続出し始めたのだ。
それでも何とか、半ばドリフト走行でアームズフォートの懐へ入る事の出来た戦車も存在した。
 しめた、と砲撃してノーマルを撃墜する戦車。
後部無限軌道軍統合稼働ユニットに踏み潰されて、其処の部分の装甲ユニットが破損する。
 ノーマルを撃破した戦車が前方の無限軌道群目掛けて貫通弾を装填し、連続砲撃すると共に機銃掃射を開始する。
吹き飛んで来た物を回避すると、追いかけて来たノーマルに直撃した様だ。
運悪く自分より大きな物に激突したノーマルが、装甲ユニットの一部と共に後部ユニットに踏まれて先程と同じ事が発生した。
 大破寸前の戦車が駈け込んで来た。
直後の被弾で爆発し炎上し始める。
半ばの様子で最左後部装甲ユニットに踏み潰される。
このユニットは中破で済んだが、履帯が外れて結局機能不能に陥った。
 味方を破壊した重タンクACへ砲塔を向けるも、オーバードブーストで反対側に回り込まれ、ガトリング砲で潰されてしまった。

 戦況はアームズフォート艦隊の近接機銃兵装の活躍により、企業側が有利な方へと転がった。
が、懐に入られたアームズフォートも多く、下部からの攻撃により内部炎上が発生し、火災による動力部損傷が原因による装甲停止に陥った所を、戦車や爆撃に、戦闘機の火力で押し潰される例も多い様だ。
中には装甲ユニットとの結合装置が爆雷で潰されて、構造が遮断されて航行不能となったアームズフォートの報告である。
運悪く、それが司令官の搭乗艦であったが為に、作戦行動力が剥奪された企業部隊は、その防衛力を著しく低下させてしまった。
レイヴン部隊に撤退を命じ、ノーマルと一緒にソーンガーデン量最初の防衛ラインを構築、防衛戦力が到着する前に建設された簡易的な砦に補給物資を準備し、特殊大型兵器を多数投入させた。
 面倒な事に、これを追撃した敵戦車の高速一点突破を許した箇所があるのだが、撃破出来たものの、これに潰されたアームズフォートが最後の指揮系統だった事もあり、生き残った数隻のアームズフォートを拠点とした通常部隊とレイヴン部隊は、殆どが修理や補給を受けずに撤退行動したり護衛したりだったので、脱落率が高く、酷く貧弱な防衛戦力と化してしまった。
 企業連合は、ある程度敵の正体に目星をつけ、行き成り最終地点迄進行された報復として、特殊アームズフォート『スティグロ・カスタム』と、グレートウォールの簡易攻撃改造型を投入。
 何の前触れもなく起こった、この事態を企業連合政府は戦時宣言し、全力で敵を潰す準備を漸く始めるのであった。
 無論、この事は重大会議物である。
「先の騒動、もしや事を見越したエグ・エルードが地下の腕利きを勧誘する為に態々来たとでも言うのか?」
「そんな馬鹿な。
ではフライトナーズの件は偶然、と?」
GA社代表の言葉をエムロードの社長が吹き笑いながら否定する。
「事実、彼はフライトナーズの捜査から逃れており、その間に地下世界で人間関係を作っていました。
此方のスカウトに対し、力で拒否出来る程、組織力を構築出来るのであれば相当の実力者、或いはカリスマである筈です。
現に追撃しても痛手を負わされただけで、結局撃破は出来ても彼らのパイロットは一人達と捕虜に出来ていません」
コンコード社代表の言葉にエムロード社社長も「むう」と暫しの一考を始めた様子だ。
 「レイヴンズ・コンコードからのスカウト…か」
「まあ、ほぼ企業連合の大半の組織が、と認識されても外部コロニーからならば、あり得るでしょう。
最も、企業社会の全てを知らないとは思えませんし、当時の要素が絡んだ結果ではありましょうが…」
幾らかの意見が飛び交う中、GA社社長が「すう」と深呼吸した。
(アームズフォートの艦隊なんぞ、編成してからだが使う等思いもしなかったな…)
 量産型アームズフォート『ランドクラブ』。
幾ら量産を前提としているからと言っても、アームズフォートは物量とパワーで捻じ伏せる兵器だ。
故に一つずつが馬鹿にならない規模であり、金の大食らいである。
故に関隊編成を前提としたタイプに改造していたのだが、その性能は兎も角として、結果は酷い物で、『負け』の一言でしかない。
 量産型と言えど、通常戦力相手にアームズフォート艦隊が惨敗している様では、地下世界の反発者の勢いが加速しかねない。
仮に、これを見越したエグ・エルードが、それを承知の上で、事を理由として動いていた場合、事運びは企業連合側の圧倒的な不利な状態へと変貌する。
 「フライトナーズを追撃任務から引き揚げさせて、本件の敵勢力への対応をさせては如何でしょうか?」
「だが、それでは…。
流石に、あれ程の大物となると、情報を市民に対して隠し切れんぞ…?」
「最悪、あの時の様に鎮圧する気で掛からないと。
この事態、既に市民の周知です。
レイヴンに鎮圧以来をする為の下準備も必要でしょう」
「鎮圧程度なら低ランクのレイヴンにでも共同させれば事足りるが…。
数が数だからなぁ…。
それに敵軍の規模次第では穴を空ける事にもなりかねん。
ともなれば、安易に依頼出来る訳でもなかろう」
「だからと言ってもMTやノーマルでは荷が重いのも事実ですし、地上から戦力を裂きたくないのも事実ですからね」
「問答無用、となれれば楽ですがね。
有沢の火力であれば、心理的威力も計り知れないでしょうし、この際市民への被害を考慮しない規模の戦力を配置すべきです。
どうせ、有沢重工のレイヴンは登録すべき傭兵ではないテストパイロットなのですから」
「あそこは社長が、それを務めていると噂があるぞ?」
「所詮噂です」
「…」
 暫し沈黙が続く。
そんな空気の中、話を切り出したのはフェレイだった。
「何もカラードの戦力はフライトナーズだけではありません。
特務戦術機動連隊から第6特務AC科7番中隊と機動連術歩兵団4番中隊から8番中隊、同師団6番MT部隊全小隊を用意しましょう。
地上の敵に使うか、地下市民鎮圧に使うかは担当区域の自営団に任せて、企業を介してカラードへ随一報告する形とします」
「随分な奮発ですね」
「ええ、但し各企業も奮発して貰いますが」
それを聞いたアブゼブラの社長が内心だけで表情を歪める。
(飽く迄稼ぎの余裕を削る気か。
だが、戦力が大きすぎる。
相手は通常戦力だぞ?
それとも、連中の通常戦力とは我々の通常戦力と違うのか?
…それは…ない、か。
 何にせよ、独自に敵に対して偵察隊を派遣した方が良いだろうな。
それなら戦闘に強いノーマルより、支援性能の高いMTの方が好都合だ。
すぐに連絡しよう。
 だが、他も恐らく…)
 
 ヴーン、ヴーン、ヴーン!!!

サイレン。
続く騒ぎ。
『敵軍接近確認!
戦車一個師団級勢力、爆撃機航空一部隊!
非戦闘員は各ブロック担当の誘導職員に従って避難を開始して下さい』
 ――まさか、敵が。
そんな確定じみた疑念が胸を過る。
だが、到達が早すぎる。
なら、何かしらの違いが発生している筈だ。
 フェレイがスタッフに耳打ちで指示する。
「カラード内部、企業連合内部、地下世界全域の全てを極秘裏に調査しろ。
全てが無理でも、前者二つを優先して調査すれば、事の次第は掴める筈だ。
予兆がない筈がない、其処から次の事初めの予兆を暴き出せ」
「承知しました」
 此処からが本番だろう。
そう感じるフェレイであった。
13/03/21 14:08更新 /
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まろやか投稿小説 Ver1.50