連載小説
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突然の背後の強襲 OK
 ――エグが所属するコロニー『大和』。
わんさわんさと連続して襲撃して来る企業に、次第に防衛力が低下し始め、それに合わせて、企業部隊の攻撃の苛烈さは目に見えて増して来た。
 「…エグッッ!!」
半年。
エグが行方不明になってから半年が経過する。
 元凄腕レイヴンが何人か居るので、一応踏ん張ってこそいるのだが、同盟間でレイヴンの依頼のやり取りを維持する事で、展開可能であった防衛線は徐々に薄くなり、もう何度も何度も何度も撤退を強いられて来た。
 『っち、フライトナーズ…!!』
『好い加減しつこいんだよ!!!』
国家再建派レジスタンスコロニー『イギリス』、同派『ドイツ』。
旧時代の国家名を名乗り、何とか国民の生活を維持して来た。
同盟間で活動するレイヴンは、国家間の増援要請、及び連合部隊として、その活動は同盟間の各国家再建派レジスタンスコロニーが管轄し、それを同盟間会議で発表し、調節し合う事で活動を維持して来た。
旧時代で一番近い言葉なら『国連軍』なのだろう。
 『駄目です…。
それ以上は駄目です、下がって!!』
『そうは言っても…!!』
「レイヴン、待って!
待ちなさい!」
エレンや現地チームとの間で苛立ちや不安が大きくなる。
 横で別のオペレーターが怒鳴る。
「12時の方向!!
距離5466、敵増援!
アームズフォート級反応1、AC級2、MT級反応が46!!
更に同方向、距離4000!
敵航空部隊を確認!!」
「5時方向、アームズフォート級6!」
『第53師団4番連隊より本部へ!
さっき要請した補給はまだ後方防衛ラインに到着しないのか!?
これ以上待たせるな、撤退出来なくなるぞ!!』
『7時方向に展開中の部隊が敵航空部隊の爆撃でロストした!!
畜生、奴ら次々に来るぞ、後がない!!』
『味方の増援はまだなのか!?』
 作戦支援室。
読んで字の如く、沢山のオペレーターが機材と一緒に詰め込まれた様な其処は部屋の広さと違い、実際は非常に狭い。
そして、照明と言えば、目が疲れない程度に要所に設置されている物と、暗くなり過ぎない様に天井に設置されている大照明ユニット位で、実際の殆どの光量は壁や天井、隙間さえあれば天井にさえ配置されたモニターからである。
 又、リンク先の機体名が消えた。
(何時迄待たせるのよ、エグ…!!
心が…潰れちゃうよ…!!)

 ノーマルがブーストダッシュしてMTの前に躍り出る。
MTを敵の攻撃から守る為、ライフルを乱発するが、敵ACに上を取られ、そのままMT諸共狙いを付けたミサイルが発射される。
「しまった!!」
急いで後退し、ミサイルに標準カーソルを合わせようとするが、メインモニター下部にアラートと一緒に警告が表示される。
刹那、眼前のミサイルの姿にACが覆い被さる。
(こいつ、ミサイルを囮に追い付きやがった…!!)
そう理解した刹那、自分の意識は強い衝撃と共にか訊かされてしまった。

 バズーカを直撃させたノーマルに後からミサイルが直撃する。
 MTは言わずもがなの被害の様で、既に倒れており火災の真っ最中である。
「MTが原形を留めておくだけでも、感服に値する」
 全体的に丸みを帯びた重量二脚のACが大地を砕きながら着地する。
そのコアは排熱性を重視してか軽量そうな流線型の排熱口の目立つ物で、恐らくコアはエムロード製と思われる。
但し、その脚部はGA、ジオ社の共同開発による新型アクティブモーターエンジンと搭載したフルスクリーンドライヴ装甲技術を採用した最新鋭のタイプであり、コアも機体フレーム内では一番影響が少ないが、エムロードも同プロジェクトに参加していた為、同系統技術を組み込まれており、軽さの割に堅実な装甲を持つ奇体となっている模様だ。
 腕は、角ばっており、一目でGA製だと分かる。
戦闘継続能力の延長を目的としているのか、左肩にミサイルコンテナが内蔵されており、ハンガーには大きなロングライフルが格納されている。
しかし、右腕は打って変わって大型のエネルギーシールドを装備しているが、同時に直接装着するタイプの『大型長距離精密砲撃ライフル』を装備し、シールドと半一体化して居る為、特注品だと思われる。
 長距離砲撃ライフルは、その性格が狙撃中系統と大きく掛け離れ、偏に『長距離から正確に攻撃する高精度のバズーカ』と表現するのが適切だろう。
事実、バレルユニットは全体に渡り、衝撃吸収材や緩和剤、同目的とした特殊機構が見られる。
経口は1センチ程で、右肩には大きな断層が後ろで装填装置と連結しているのが見て取れる。
何せ、砲撃ライフル後部――肘の後ろ迄装填機構が追い遣られているのだ。
右腕部に関しては、これの装備が為に注文された物と容易に推測出来る。
 ACの特性上、全体で捉えれば、特注フレーム等は数が少ないが、年々増加する傾向が強まって居るのは確かだ。
若いレイヴンであれば、その色が強くなり、主にアセンブル知識の濃度の低下が目立つ。
故に多少ランクを上げた途端、先輩方に叩きのめされる。
その強さは各地で上下するが、企業社会では更に激しい叩きっぷりとも言われる。
実際としては彼、ヴォルニルが色を強める社会的原因となっている。
彼の戦闘スタイルは、その基本が『大型長距離精密砲撃ライフル』であり、他の武装は、それこそ止むを得ず中距離以内での戦闘を行う為の物だ。
遠くから狙撃する事で、接近を阻止するのが基本であるが故に、少し近づかれるだけで、その強みが潰されるのは、かなり痛い。
それでも、このスタイルを貫くのは、ほぼ意地である。
その実、機体自体はほぼ重量オーバーで、脚部をチューンするだけでは間に合わず、その上に更に改造を施し、出力で重量を誤魔化し、動く為にエネルギーコンデサを改造し尽くし、一応出力だけなら他のACとは比べ物にならない持久力だけは確保してある。
但し、残念ながらエネルギー回復は、その限りではないが。
 使えない武器やパーツを若いレイヴン達は『産廃』と呼ぶ。
ヴォルニルの愛機、ヴァンジュラ・フォックスは産廃的性能――詰まる所『素的性能』に満ち溢れているのだ。
それでも実用レベルで運用出来るのは両背部ハードポイントを消費して装備している電子ユニットの恩恵と、ヴォルニルの類稀な才能、頭部の充実したセンサー類が故だろう。
 大きな砲撃ライフルをブンと振り上げて展開する。
地面に深々と安定脚が突き刺さり、左手で支え、即座に狙いを付ける。
「遅い」
 ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!!!!!
後ろに向かって圧縮空気が放たれ、排気口から暴風が飛び出す。
物凄い砲撃音と共に放たれた弾丸が、回避しざまのMTの脚部をもぎ取って遥か後方の岩に激突した弾丸も岩を砕いて漸く止まったらしい。
 吹き荒れる土煙の中、何かが開く音がした。
直後のチャージ音の刹那、ヴァンジュラ・フォックスが砕いた岩の上へと躍り出る。
真下の小さな谷からミサイル車両が一斉に誘導弾を発射するも、大きな薬莢を排出しながら再装填した弾丸を、何の支えもない状態の腕で発射した。
護衛MT諸共地形と一緒に砕き飛ばし、バックブースターをグラインド推力で噴射、誘導弾を置き去りにする。
 ブーストジャンプで上昇しながらライフルで攻撃する敵ノーマルを確認。
サイドブースターで上手く躱しながら、脚部前面の装甲に組み込まれたスクリーンドライヴ装置が起動し、一気に電力を食い始める。
「ブレードだけがACの格闘ではない」
 ガギャン!!
「格闘前提の装甲。
それを支える為に開発されたのがスクリーンドライヴ機構だ」
脚部とメインブースターの推力で落下速度を軽減し、地に叩き付けられたノーマルを踏み付ける。
減速してとは言え、AC程の重量が落下して来ては只事ではない。
 呆気なく機能停止したノーマルを冷たくモノアイが見下げる。
「高々ノーマル如くではブーストチャージには耐えれんか」
岩陰へ歩いて移動し、再装填する。
弾倉から出て来た装填装置が、既定の角度で固定された砲撃ライフル後部の装填部分に、弾薬を入れ、仕事を終えるとレール上を装填装置が移動しながら再び装填機構が弾倉内部に格納される。
 ブーストチャージ――人で言う『膝入れ』と呼ばれる技を使用する為、敵の装甲に叩き付けた脚部の脛の部分の装甲と、その装甲に組み込まれた装置の状態を確認する。
マシンディスプレイに表示される該当箇所は、どちらも緑色。
如何やら何もない様だ。
 そんな時だった。
如月の突出ブレード型突撃特化アームズフォートがレーダーの外側に映ったかと思った瞬間、反応が消えた。
何事だ、と其方を確認すると、地面を抉りながら転がっているアームズフォートの姿があった。
「増援だと!?
だが、この同盟間戦力は、これが限界だろう!?」
ヴォルニルの表情に驚愕が覆い被さる。
「一体何が…」

 高速で突っ走るアームズフォートのバークラフトユニットが爆発する。
エンジンにミサイルが直撃し、一気に減速してしまった所を、追撃されて推進能力を失い、バランスを失って巨体が大地を破壊しながら転がる。
『後方より敵ACが複数接近!!』
『駄目だ、取りついて攻撃できな――うがあ!?』
フロート型ノーマルが行き成り爆散する。
ノーマル部隊に速度を合わせていたアームズフォートは、必然的にノーマル部隊と距離を離してしまうが巨大が故に減速も間に合わず、混乱するクルーが騒ぐばかりだった。
 『よおう、くそったれ…!!』
態々オープンチャンネルで呼び掛けながら、ブリッジの前に躍り出るAC。
至近距離でマシンガンを撃たれれば、強固なアームズフォートであろうと容易く破壊出来る。
 後ろへ移動し、横の迎撃機銃をマシンガンで乱射する。
「まあ、スモール級なら、この程度か…」
大被害を被った小型アームズフォートが地面を抉りながらノーマルを巻き込みつつ引っくり返る。
『このアームズフォート部隊は、アームズフォートの運用能力を失った。
この敵部隊の制圧を完了として、一旦戻るぞ。
以前、似た状況で深追いし過ぎて、酷い目にあったんだ。
お前たちを、その二の舞にはせんさ』
『了解です』

 「4時方向より進行していたアームズフォート級反応、消失。
敵アームズフォート部隊、壊滅したと思われます」
モニター一杯に広がる、敵アームズフォートのひっくり返った姿は、例え小型級のアームズフォートであろうと、オペレーター達を唖然とさせるに相応しい光景だった。
「何あれ」
「アームズフォートが引っくり返ったぞ!?」
「あり得るのか、あんな事が…!?」
「そんな…、一体何処の誰なんだ?
AC部隊と言えど、重火力部隊には思えない動きだが……」
 一同が、事の展開に驚く中、エレンだけが、この異変の一点に気づいた。
(エグの大型兵器殺しの戦術だ…。
昔、一緒にジオ社のアームズフォート部隊を地下世界の通路で破壊する任務の時に考えた奴…)
 「4時方向の正体不明部隊、撤退。
更に5時、6時、7時方向、MT接近!
前方の敵部隊を攻撃…7時後方、MTをノーマル部隊が掩護――嫌入れ替わった、交代です!!」
「6時方向より敵機確認――じゃない、こいつも企業部隊を攻撃して…敵部隊消滅。
早い、何て奴らだ」
「正体不明部隊とコンタクトしろ。
何者だ!?」
「同方向、地上巡航キャリア…同キャリア、ACをカタパルトより射出!
現在、距離1万5千!!」
アームズフォートの反応が消失し、反応のあった真横を点が通過する。
 直後、オペレーターの一人が防衛部隊に映像のリンクを指示する。
映し出された映像は、簡易飛行ユニットに吊り下げられたナストロファージの姿だった。
13/06/02 11:32更新 /
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■作者メッセージ
漸く完結です。
次話をお待ち下さい。
シリーズは続きます。

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まろやか投稿小説 Ver1.50