連載小説
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カラード直属第2部隊 OK
 凄まじい勢いでビームが叩き込まれる。
トンネルの形状とダメージによる変形、そして謎の装甲兵器が作った極小のトンネルの出口。
今は、それらによる窪みに隠れて攻撃をやり過ごしているだけだ。
「くっそ!!
何処からか回り込めないのか!?」
『無理だぜ、こりゃあ』
 『何があった、何が起こってやがる!?』
「でかいのが道を塞いだ。
滅茶苦茶に撃って、近づけたもんじゃない!!」
トレーラーからの通信に、エグが口悪く叫ぶ。
「現在、把握出来る状況は敵装甲兵器の大量襲撃。
俺達は、それに対応している――嫌、『していた』だ。
その数は今どうなってるんだ?」
『終わりが見えてきてる。
もう追加は見えて来ないな』
ブリッジに自分が入った時より幾分緊張の解れた、それでも恐怖の色が混じった声で通信員が答えた。
 「これにより把握出来うる可能性として……。
敵装甲兵器の激減だな。
だが、今は敵巨大兵器が問題だ。
前の奴と違って飛び越えられた物じゃない…!!」
仮に倒せても、巨大なゴミとなるだけだ。
それだけではなく、『倒す方法が見つからない』のが痛手だ。
『倒す方法が見つからない』と云うより攻撃が激しすぎて探せないと言った方が適切だろう。
(如何すれば良い!?
如何すれば…!!――――――!!)
 刹那、脳裏に映像が焼かれる。
読み込んだ情報――結果。
それを実現する為の行動。
その他、様々な可能性の考慮。

 グゥウン。

気付けば操縦桿を動かしている。
『エグさん!?
今行ったらハチの巣に―――避けてる…』
気付いたMTパイロットが唖然とする。
 (敵弾認識。
弾速計測――計測完了。
敵弾発射確認――再発射確認。
発射感覚の計測完了。
敵弾と感覚の情報を照合。
敵弾幕突破ルート検索)
半ば記号と数値だけになりかけた思考で敵の攻撃を見極める。
そして同時に、こんな事も考えていた。
(こいつの攻撃はラインビームか?
なら、こいつもディソーダーの一種?
嫌々、ディソーダーってこんなのだったっけ…?)
思考の高速化と人間性の両立。
それは絶大な向上心となる。
 「このっ……………!!!
好い加減黙れぇえっっっ!!」
オーバードブーストによる急速接近。
脚部の一つ、その根元へレーザーブレードを直撃させる。
照射装置を極々至近距離で撫でる様に動かす事で、通常以上の破壊力を発揮したレーザーブレード。
素早くコンパターを操作して、凝縮率を低下させて照射時間を延ばす。
二秒でコンソールの操作を終了させる。
次に左操縦桿のトリガーを入力すると、右から左へ薙ぎ払うレーザーブレードの動きが、その動きで左へ薙ぎ払ったままの状態の左腕が右上へ移動する様に変更させる。
「どおおおおおおおおおおおっせえええええええええい!!!!!!」
大型レーザー砲の半分を焼き尽くし、壁蹴りの要領で装甲を蹴って離れる。
更に右側に移動して、レーザーブレードを天井に張り付いている脚部へ直撃させ、複数のビーム砲を破壊する。
根元へマシンガンを集中させて、脚部を一つ破壊する。
 同時に通信回線に怒鳴りつける。
「こいつの弱点は脚部だ!!」
『任せろ』
答えたのはスカルフォックスだった。
「全てを片付ける」
暗いコクピットの中でモニターに映る敵を睨みながらシャドーミラが言う。
瞬時に敵の挙動を察知する。

 ――――――――ズシャアアア!!

刹那、多脚部が一斉に真ん中へ集まる。
二機が回避した後、回避前の空間をエネルギーブレードで焼いたのを熱センサーが感知する。
『今だ』
ナストロファージとスカルフォックスの集中攻撃が集中した脚部へ放たれる。
何度も何度もナストロファージにレーザーブレードで斬られた為か、次々と根元が爆発して、その先が落ちる脚部が続出する。
そうでない物も多いが、それでも重量に負けて折れるか、その後落ちるかの違いしかない。
敵にとって幸いなのは脚部の根元が違う所にあって一か所に集中していなかった所だろう。
もし、そうであれば纏めて破壊されていたであろうから。
 流石に、やられっぱなしではない様で、前進し始める。
しかし、それでも二機のACが邪魔で思う様に進めない様だ。
 『MT部隊、敵巨大兵器の中央部を攻撃しろ!
あそこだけ妙に膨らんでる!!』
一瞬気後れはしたがMT部隊が攻撃を開始する。
 敵兵器の機動力は、如何やら多脚部にのみ与えられている様だ。
その大半が破壊され、左側にばかり偏っている以上、バランスは取り難いだろう。
それ自体は偶然である。
 意地にでもなったのか、中央部の装甲が回転しながら開くと同時に内部から大型の固定エネルギー砲が、逆回転しながら伸び出して来る。
既に充填が開始されており、保護用特殊装甲の隙間から光が漏れ出す。
『拙い、今撃ったら爆発に巻き込まれる!!』
『じゃあMTは下がってろ!!』
スカルフォックスが保護用装甲へバズーカ弾を直撃させる。
が、狙いは隙間であったが、弾が大き過ぎるのか、無理らしい。
「っち」
シャドーミラが舌打ちする。
 直後、保護装甲にレーザーブレードが直撃。
一つが崩れ落ちる。
『エグ・エルード!!
貴様、此処で死ぬ気か!?』
「考えなしに危険を冒すつもりはない。
だが、これで如何だ?」
再びレーザーブレードを振るい、マシンガンをフルオート射撃すると同時にオーバードブースト機構を作動させる。
『スカルフォックス、叩き込め!!』
ズドン!!
今度こそユニットに直撃する。
膨大な電力が流失し、外装を破壊する。
根元が焼け切れ、照射ジェネレーターが過負荷に耐え切れず発火し始める。
電流を纏った砲撃ユニットが砕け落ち、衝撃でユニット本体と砲身が真っ二つに折れて、安定装置が一斉破損する。
 しかし本体は未だに稼働し続けている。
『くっそ、ビームがよけきれねぇ』
『でも威力が滅茶苦茶低い。
エネルギーが内部喪失してるんだ』
『よっしゃあ、脚部に全弾叩き込めぜぇえ!!』
後衛部隊が接近する。
部隊前衛は遠距離戦向けのAC、後ろが同型戦闘系MTである。
根元に叩き込まれる攻撃は、外部に電流が発生する程に破壊し尽くす。
脚部の大半を失い、遂に地面に身を叩き付けられた巨大兵器。
 突如、強力なエネルギーをセンサーが感知する。
ガラガラと装甲がはだけ落ち始め、其処から電流が舞い上がり、天井や床を焼き始める。
『っ、全軍下がれ!
トレーラーも大至急後退…駄目だ、バックじゃ間に合わない!
Uターンしてアクセル全開でぶっ飛ばせ!!!』
『エグ、何があった!?』
その問いにシャドーミラが答える。
『自爆する、奴が自爆するぞ!!
この閉鎖空間じゃ、どんな威力になるか分かったもんじゃない!!!』
その声音は焦りに満ちていた。
 AC部隊が車両の横を通って、それをMT達が追う。
直後、ブリッジに眩い光が届く。
慌てて運転手がギア入力し、ハンドルを切りながらアクセルを踏む。
通信員が車内放送しようとした段で、その悲鳴が放送されてしまう程、運転手は焦っていた。
無論、他の車両の運転手も同じだった。
 暫くの後、走行中にACと人型MTを回収すると云う荒業を見せつけた作業班だが、それよりも優先したのが機動力の低い非人型MTだった。
これはパイロットも苦戦したが、何とかジャンプで間に合わせた様だ。
 「追撃組だ!
追い付いたんだ!!!」
「おいおい、喜んでる場合じゃないぞ!!」
通信員が慌てて通信装置を作動させる。
すると向こうから声が届いた。
『何故こっちに来るんだ?
このエネルギー反応は何だ?』
「ばっかでけぇ兵器が撃破したと思ったら自爆シークエンスに突入しやがったんだ!!
てめえ等も一緒に引き返せ!!
こっちゃあ、もう、これ以上付き合ってられる程力がないんだ!!!」
運転手が恥も誇りも棄てながら泣いて叫ぶ。
流石に、それを聞いた以上、彼らも黙る他ないらしく、取り敢えず動きを見せ始めた。
 もう数時間走り続けているが、エネルギー反応の増大速度は尚も加速するばかりだ。
合流より3時間後、漸く爆風が届き始める。
車体が大きく揺れる。
揺れが収まり、一同のトレーラーが停止すると、外部温度は60度を突破していた。
「ぜえ、ぜえ…。
ど、どーだ、ディソーダー共ぉおお…!!」
『ディソーダー?』
入れっぱなしにしていた回線から疑問の声が届く。
「ああ、たーっくさんな。
デカブツもディソーダーかなんかは俺達が訊きたいんだけどな…。
 ったく、んで行き成り連中の大軍に…あーちきしょ〜〜、っかれったああ」
 「兎に角、各車両団の修理と点検を――」
『――敵だ!!』
正面に沢山のMTやACが確認される。
「っち、追い付かれたってのか!?」
「各員戦闘配置!
エグさんに連絡しろ!
アラート出せ!!」
 再び慌しくなる。
「又戦闘!?」
その悲鳴は、パイロット以上に整備班の物が強かった。
重度の消耗の上、更に戦闘配置の用意となる。
半ば整備中の機体を送り出す他なくなってしまった。
 『エグさん』
コクピット内で消耗表示に顔を顰めていたエグに通信が入る。
「何だ?
今忙しいんだ」
『分かってる。
あんたの機体は被弾部分の修復は一応完了してるが、関節系はそのままだ。
脚部に変な衝撃掛けるなよ?
ばっきんと折れちまうからな』
「ああ、アラートが酷い。
ランプが赤いままだ」
 モニターの奥で敵ACが巨大な兵装を起動させているのが見える。
大掛かりな変形の末に姿を見せたのは巨大なチェインブレード、その一本であった。
(大掛かりな。
余裕を見せる気なのか。
嫌、あれならAC程度…オーバーキルだな。
…まさか、ディソーダーの襲撃は連中の仕業なのか?
…じゃあ、あのでかいのは暴走したディソーダー…処理?
あの巨大兵器を解体?
何故ACにやらせる?
まさか、あれが対AC戦兵装とでも…?)
 だが攻撃が来ない。
代わりに通信が来た。
『レジスタンスに通達する。
我々は企業連合統括組織『カラード』直属第2部隊だ。
直ちに此方に投降せよ。
さもなくば本部からは破壊許可が下っている』
『ご丁寧に…!!』
別回路でMTパイロットが苛立ちを隠さずに静かに怒鳴り叫ぶ。
「俺が応答する」
別の回路を開いて口を開こうとする―――が名乗る組織名がなくて一瞬困る。
「此方は…あ〜〜……特に、まあ組織名はないんだが…。
投降…ねえ。
カラードなんて聞いた事ないな」
『何?』
『エグさん、企業連合上層部って言ってたじゃないですか!!
それに企業連合位外部レジスタンス出身のあんたなら知ってるだろう!!』
「そりゃあまあ…」
『何だ?』
「あ、別に」
『投降するかしないか、さっさと答えろ!!』
 すでに答えを決めていたエグは、相手の答えろと言う言葉と被せてオープンチャンネルで叫んだ。
『MT全機、撃ち方初め!!
ACは俺に続け!
ブレード装備を集中して叩くぞ!!』
言いながらオーバードブースト。
一瞬の隙をついてマシンガンを連続直撃させて衝撃で動きを殺す。
「戦場でペラペラと前置きが長すぎるッッ!!」
ヴァァアアイイインッッッ!!!
敵ACの咄嗟に構えたエネルギーシールドへレーザーブレードが炸裂する。
 隙を入れずに操縦桿を二回右に倒し、アスファルトに脚部を接地させながらオーバードブーストの推力を用いて高速で一回転し、マシンガンを極至近距離から叩き込む。
(恐らく、あれだけ大きなブレードを使うには相当な速度と瞬発力が必要だ)
だが、空中に後退する速度は、驚く程速いが想定以下の速度である。
(見た目は重量の二脚。
その速度は軽量のオーバードブーストに匹敵…いいや、寧ろブレードを使うには遅すぎる。
後退だからか?
だがバックブースターの推力じゃない、メインしか使ってないな)
 敵AC右腕部兵装を大型チェーンブレードより三連装大型マグナムショットガンへ変更し、これをナストロファージへ向ける。
これを察知したエグが姿勢制御ペダルを踏み込みながら操縦桿を手前に引き倒し、天井を蹴って発砲された重マグナム徹甲弾を回避する。
天井には見るも無残なクレーターが出来てしまう。
一見するとミサイルによる物と同様に見えるが、少し観察すれば素人でも違和感を感じられるであろう、深すぎるクレーターは、誰にも振り向かれさえせずに、そのまま残るのみであった。
 後ろで別の敵がナストロファージを狙うも、直後に発動するオーバードブーストにより姿を見失う。
 オーバードブーストの推力を用いてナストロファージの脚部を持ち上げて敵ACの頭部を蹴り上げる。
丁度顎の部分に爪先が直撃した為、首の関節が歪んで電流が流れる。
 不安定な状態での着地を成功させる為、ホバリング推力でメインブースターを噴射し、難なく着地を終えたエグが怒涛のレーザーブレードによる追撃を開始する。
メインブースターと姿勢制御を行っている内に左手でコンパターを操作し、ブレードモーションを『突き』に変更、数秒間だけ脚部のモーターリミッターとメインブースターを解除、コンデサのエネルギーの大半を使用して突きを叩き込む。
相手は頭部の接続が狂った為か、上手く着地出来ずに隙を作ってしまった。
 コアにナストロファージの左腕が深々と突き刺さる――否、ブレードのレーザー出力により、大穴が開いてしまい、腕は飽く迄、その中を通過しているのみだ。
恐らくシールド越しとは言え、至近距離でのマシンガン攻撃は堪えたと見るべきだろう。
威力検地系統が危険弾と判断し、要求エネルギー量を追加して、ジェネレーターに発電負荷が掛かったに違いない。
その後の頭部接続の異常により、機体全体に衝撃が掛かり、被弾と勘違いしたセンサーが防御スクリーンの出力を増加させ、更にジェネレーターに無理をさせ、結果としてジェネレーターのリミッターが強制発電拒否権を発動したのだろう。
であれば、傷負いと言えど、此処迄容易くレーザーブレード攻撃が効果を発揮する事はないだろう。
通常であれば、装甲に飽く迄も大ダメージを与える程度だっただろうし、エグ自身も、そのつもりだったので拍子抜けしたのは事実だ。
 ともあれ、他は順調に片付いている様なので、エグも其方へ参戦する事にした。
 これに続く被害を以てカラード直属部隊は撤退を決意し、しかし後に続く攻撃を受け、全滅するのであった。
 
13/03/07 12:50更新 /
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■作者メッセージ
今回エグが操るナストロファージが行った『蹴り』は『蹴り上げ』であって膝入れにしか見えない『ブーストチャージ』ではありません。
やり方は直前にコンパターでモーション入力操作を変更(ゲーム風に云うとキーアセンの変更、つまり、このボタンに、この操作を対応させて、と言う物ではなく、ブーストボタンの入力でトランザムと言った具合に…と言えば極端ですが、要は全く別の操作を組み込む感じです)し、その変更先を姿勢制御ペダルに指定し、後は、そのモーションを使いたい時にペダルを踏み込む訳です。
やった事はないですが、旧シリーズで言うパージ操作を捨ててキーアセンを変更する感じです。
戻せば元通りです。
腕は兎も角、本当の戦闘員なら予備モーション位、登録して置く物です。
本作ではモーション登録数が操作可能数より多いので、如何してもすべての登録したモーションを使用するには、ゲーム風で言う所のキーアセン変更しかない訳で、下手糞レイヴンなら「無意味」と考え、並のレイヴンなら相手に応じてプレイヤーが機体のパーツを変更する感覚で、モーション組み換えを行い、一流のレイヴンであれば戦闘中にコンパターを操作して、モーション変更を完了させてしまいます。
 因みに『コンパター』は最初の方で説明したと思いますが、実は皆さんが通常思い浮かべるであろう操作系、所謂『コンソール』と違って、ボタン数がゲームのコントローラー程しかありません。
そしてキーボードはシステムの根本を変更したり機体の挙動調整に使用する物で、どこぞのアニメ主人公の様に戦闘中に此処を弄ってられるのは自立型位です。
 尚、今回話が思いの他後半がディソーダー不足だったので一個前の話もサブタイトルを変更します。
余り意味はないでしょうが、気になるのなら確認してみて下さい。
                                 以上

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まろやか投稿小説 Ver1.50