連載小説
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ディソーダー襲撃 OK
 トレーラーの中をトテトテと小さな男の子が走る。
耳は普通の人間と違って、横ではなく頭にあり、カステラの様な髪の色と一緒の、きつねうどんの『きつね』の様な大きな耳が並んでおり、お尻から同様の色のふわふわした大きな尻尾が躍っている。
最近、エグが疑問に思っている耳と尻尾を持つ子供である。
「これがえーしー?」
「ああ、来たか」
ひょいと抱き上げて膝に乗せる。
「おっきーねー」
「大きいだろう。
これが動くんだ、凄いだろう」
「すっごーい」
頷くのに合わせて、耳が僅かに揺れる。
「ねえねえ、お兄さん達、これに乗って戦うんでしょ!?
僕もやってみたい」
「そう云う事は軽々しく言うなよ?
死んだら名誉も誇りも残らない。
名誉や誇りを残す為には生きなくちゃならない。
俺達は、その為に戦ってる。
けど、それ自体、死ぬ可能性が高い。
それが戦場だ。
だから、ACに乗って戦いたい、なんて軽々しく言っちゃ駄目だぞ?」
「なんでー?」
大きな瞳がエグの顔を覗き込む。
「闘いってのはなぁ、何も戦闘だけじゃないんだよ。
病気を治す為に頑張る事だって、立派な闘いだ。
生き残る事自体も闘いだ。
人生その物が闘いだ。
だから、何も『ACに乗って戦う』事に拘らなくても良い。
俺達が、それをやってるのは、それが俺達の仕事――役割だからだ」
人間、誰しも役割を持っているもんだ。
それがお仕事でなくてもな。
そう言いながら、エグはシャドーミラーを見上げた。
 「お兄さんのえーしー、これぇ?」
「俺のは向こうにある。
これは別の人。
ベンチに座ったら、偶々こいつが目の前に居ただけだ」
「足が四つもあるよ〜?
変なの〜〜」
「確かに、ああ云う動物は居ないからな。
ありゃあ、四脚ってタイプの脚部――脚部って解る?」
「わかんなーい」
何〜?
そう彼が訊ねる。
「ACってのは頭や腕のパーツがバラバラなんだ。
で、それを組み合わせる。
当然、パーツは沢山あるから組み合わせ次第で色々性能が変わる。
同じパーツを使ってないAC同士じゃ全く性能が違うからな。
脚部ってのは、ちょっと難しい言葉だけど、ACを使う時の言葉…所謂『専門用語』って奴だな」
「せーもーようご?」
「せんもんようご、だ」
苦笑しながら頭を撫でる。
 「僕、おっきくなったらえーしーのりになって、たたかう」
「AC乗りぃ?
レイヴンなんかになって、何処で戦うんだ?
俺達は、今でこそ企業部隊と戦ってるがお前がレイヴンになる頃には、俺達か企業の、どっちかが勝ってる頃だろう…。
まあ、危険だとは言っておくが…」
「れーぶん?」
「お前の言う、AC乗りの事だ。
寧ろ『AC乗り』なんて言葉の方が古いんだぞ?」
「古くないもん。
だって、じいちゃんが使ってたもん!!」
「爺さん何歳だよ…」
若干呆れるエグ。
「ことしで…90さい!」
(それ、ひいお祖父ちゃんじゃなかろうか…?)
密かにしょうもない事を疑問に感じるエグ。
 そもそも、最初にあった時から、この子の耳と尻尾は謎だ。
他の組織や地区の仲間から、特にメディア大好きな人や、若い女性方には、かなり人気を集めている様で、本人から訊く限り、企業関連の施設から逃げ出したらしい。
 謎の尽きない子供だが、それ以上に謎なのが、此処一週間追跡部隊が激減している事だ。
好都合な分、嫌な予感がするのか大人――特にMTパイロットやレイヴン組は気を立たせている。
エグは『嫌な予感』を感じないので、取り敢えず思考の限りでは保留としている。
 「ナストロファージ見るか?」
「何、それ?」
膝に座った子を抱き上げながら答える。
「俺の愛機だ。
格好良いぞ」
 その時だった。
「た、大変だ。
エグさん、屋内レーダーがやられた!
ジャマーだ!!」
「じゃまあ」
子供が連呼する。
エグは少し青ざめた顔で「ジャマー?」と驚いた。
 「悪い、ちょっと部屋に戻ってくれ。
やる事が出来た」
「わかった」
じゃあね、と元気に手を振る。
それを見て、少し表情が綻ぶ。
「全く、非常事態なのに。
 で、視確認する限りで敵機は?」
「駄目だ、それがカメラが全部ぶっ飛んじまってな」
「それは…物理的な意味でか?」
「アラート上だとそうだが、この状況じゃ故障って事もあり得る。
どの道『分からない』って訳さ。
 取り敢えず、ブリッジに行こう」
「そうだな」
 そう言って、小走りにブリッジ内に入る。
「な、何なんだ、これは!?」
 「おいエグ。
此処は一本道じゃなかったのか……!?」
運転手が青ざめた声で訊ねる。
本人は、ある程度怒鳴ったつもりだろうが、恐怖を隠せない状態故に声の音量自体は非常に頼りない印象をエグに感じさせた。
 「一本道だ。
その筈だ。
だが、兵器でぶち抜いた穴迄は俺も想定し切れてない!!」
「これ、どんなのを、どっから撃ったら、こうなるんだああ!?」
窓ガラスの向こうは、進む道こそ無事だが、壁や天井がごっそりと焼き飛ばされた状態である。
施設主砲級の大出力なエネルギー兵器でない限り、これは非常に無駄の多い行為である。
「一体何――」
何が。
そう発音しようとした時、大量の熱源反応と叫ばれたので言葉が遮られる。
 右から現れた赤と緑の謎の四つん這いになって移動するユニット。
如何やら歩行装甲兵器らしい。
緑に対して赤の装甲兵器が少ないが、緑には大きいのと中位、小さいタイプが居る様だ。
赤の方は逆関節の大型と中位。
更に緑の方は後から飛行型もやって来た。
「おいおいおい、何じゃありぁああ!!」「戦闘配備!!」
エグとクルーの声が重なる。
「了解、エグ!」
通信員が受話器を取って緊急通信ボタンを押す。
「目の前の奴に対して戦闘配備!
総員、戦闘配備!!」
 大急ぎでナストロファージのタラップを駆け上がり、途中で取った自分のヘルメットを被る。
「整備が終わったら、すぐパトロールだったから着替えないのが助かった」
呟きながらバイザーセットし、外部電源の入力を確認する。
コンソールを操作して、内部電源に移行。
電力蓄積量が通常値である事を確認し、電源独立させる。
「各システムチェック、6番から8番をカット。
戦闘モード、緊急起動!」
天井のスイッチ群、通称『ボード』を手早く操作、目的の設定を完了させる。
メインディスプレイに各パーツのシステム接続が表示される。
ウェポンディスプレイに各武装のシステム接続、及びFCSのシステム接続が表示される。
「オールグリーン」
操縦桿を軽く動かし、姿勢制御ペダルを少し踏む。
前のめりになった機体に姿勢制御の補正が掛かり、その修正にペダル入力が加わる事で『歩行』が成立する。
ハッチが開き、横から武器が迫り出す。
 左腕にレーザーブレード、右手にマシンガン。
 メインモニターに敵が入る。
が―――。
「ロックできない?
そもそも、こいつらセンサーが反応しない!?」
厄介だ、とノーロックモードに切り替え、狙撃点を表示させる。
「くそったれ!!」
四つん這い型の脚部を破壊して、ビーム砲の斜線を狂わせる。
横で味方がロケットを逆関節型に叩き込んで、片腕を吹き飛ばす。
『潰す!!』
ビーム砲に充填を開始していた大型タイプが重量級のタンクACによるブースター型のインサイドを使った急降下踏み付け攻撃を食らい、床へビームを撃ってしまう。
タンクACは空中に離れてショットガンを叩き込んだ。
 『こいつ等、下の通路からも!?』
人型の軽量級MTのパイロットが叫びながらマシンガンを撃つ。
幸い、ロックオン不能と云う理由で混乱する者はおらず、冷静にノーロックを活用している様だ。
 ガシャンと装甲兵器を踏み、その硬直した所を別の機体が高火力な武器で潰す。
『MTの方も結構倒せるな』
躍り出た逆関節のACが実刀ブレード――大剣を振るい、敵無人兵器の横っ腹を叩き斬る。
『そうだな』
答えたのは重量二脚のAC。
所謂『ロケッター』である。
通常、化学エネルギー弾で両背部を占領する物と言えばマルチミサイルだ。
だが、彼女が担ぎ上げたのはロケット発射装置である。
 外付けの赤外線カメラが目標を認識し、FCSへ情報を提供する。
情報の位置と角度、距離を味方機からのリンクデータを基に現在の味方機の位置を正確に割り出したデータを構築、そのデータの味方機の位置と赤外線カメラから送られる情報を照合、ロケット兵装が認識しているユニットから敵と味方を区別し、敵機のみをロックオンする。
ロックオンした攻撃対象の情報を頼りに、発射装置が角度を調節する。
「消えろ」
マルチロケット。
そう呼ばれる兵装から大量に叩き込まれるロケットの雨に、一面が火の海と化す。
『うへぇ、熱暴走確実ぅ〜』
「第二人、右」
『わーった、了解だあっっ!!』
重量逆関節のACが大剣を右ハンガーに格納し、右背部の巨大ガトリングキャノンの取っ手部分を掴む。
左背部に取り付けられた装填装置が右背部のガトリングキャノン後部に接続され、初めはキュインキュイン、後からギュリャリャリャと激しい運転音を鳴らす。
その刹那、壁を破壊して大量に現れた微塵兵器軍団へ弾丸の壁が叩き付けられる。
後から出ようとする装甲兵器が残骸と化す味方機に引っかかり、目に見えて外に出る数が激減する。
其処を複数の逆関節MTがバルカン砲とロケットを一緒に発射して、漏れ出した敵機や、出られず仕舞いの敵機を纏めて破壊する。
『ははは、MTだと甞めて掛かるから死ぬんだよ!!
集団戦じゃ大事な脇役だぜぇ!?』
『誰も主役がACだけじゃないとは言っとらん』
 MT部隊がACの撃ち漏らしを手早く片付け、トレーラー達からの援護砲撃が敵装甲兵器を打ち砕く。
 吹き飛ばされた壁の残骸に身を隠しながら攻撃を繰り返していたナストロファージの真横をビームが駆け抜け、軽装な逆関節MTが後ろで爆散する。
「ジェネレーターがやられたのか?」
 マシンガンの弾丸が上方より降り注ぎ、装甲兵器を潰す。
 『敵が増え続けてる。
中衛レイヴン、出所を叩くぞ』
AC達が正面の敵を蹴散らし、前方の敵機数が減り次第、出口を探して集中的に攻撃し始める。
正面に残った敵は、腕が其処迄良くないレイヴン達がMT部隊やトレーラーの砲台と一緒に応戦する事で、数を減らしている。
又、それら後衛が機能しているのは人型の機動力が高いMTや重火力武装タンクのACを初めとする重量機を操るレイヴン達によって成り立っている。
『傭兵だったのに、こうやって連携するってのは…。
結構良い気分だなァあ!!!』
中量級の両腕にグレネードカノンを装備したACが手短に潰せるであろう出所へブーストダッシュしながら、正面方向の敵へミサイルを発射する。
ビーム砲が、各々で連射され、その殆どが迎撃されたが装甲兵器を破壊したミサイルも存在した。
 一方のエグは、出所を叩きに一番奥の華胥へ向かった。
が、直後に正面に高エネルギー反応。
即座に右に回避すると、正面の壁が大量の無人装甲兵器毎何かに破壊される。
考える必要もない。
あれはエネルギー砲による攻撃だ。
幸い、トンネルが下に下がっていた為、トレーラーは勿論、MT部隊が応戦する程奥に到達しはしなかったが、それでも凄まじい規模のエネルギーが集約された訳だ。
 「こいつは…、まさか、こいつ等は!?」
現れたのは、多脚式の巨大兵器。
前回の物とは比較にならない大きさである。
上手く入っているのは脚部に装備された無限軌道を壁や床、天井に張り巡らせる事で、奴なりに相対的に自分の大きさを小さくしているからだろう。
 脚部に内蔵された大量のビーム砲が稼働し始める。
感に従い、バックブースターをグラインドモードで使用する。
マシンディスプレイに表示されている速度表示の数字とゲージが跳ね上がった刹那、大量のビームがナストロファージを追う。
「―――――ディソーダーか!?」
 ――――敵巨大兵器が唸りを上げて、本格的に攻撃を開始したのであった。
13/03/07 12:50更新 /
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■作者メッセージ
AC2、AAに於ける謎の装甲兵器ディソーダー。
明らかにロボットなのに、ロックオンしたりレーダーで確認するには生体センサーが必要な、矛盾して居る様にしか思えない兵器。
設定によると、過去の火星開拓に、専用のナノマシンの様な物を投入したらしく、その会社が投入した、と確認出来ている訳ではないのですが、昔ムラクモって企業が火星開拓をやっていたそうです。
AC2系ではミッションやアリーナのステージとして同社の名前のドームが登場しています。
多分、彼らが投入したのは依頼説明にある『ディソーダーとは、その環境に適応する機能を持ち、その機能によって進化した結果が現在の彼らである』と云う感じの、開拓メカなんでしょう。
重力値が違う、大気が違う、気温も違うの違うのオンパレードな火星の環境は如何に機械といえど、性能低下は勿論、開拓は常に地形探索が不十分な上、寧ろそれを行うのも本業なので、谷に落ちたり等の事故で数が減るのを出来るだけ減らす為の機能でしょう。
それに同シリーズの地球の状況は世紀末なんて表現すら生暖かい所です。
後の時代の火星開拓迄時間があった様ですし、地球人が知らない内に、或いは戦争が酷くて火星を監視できない状態が長らく続いている間に、進化したんでしょう。
機械であれば動物と違って、凄まじい勢いで適応するでしょうし。
そう考えると何だか作業用パルヴァライザーみたいですね。
攻撃して来ますけど、撃つのはラインビームなんて言う低威力な武器のみ。
やっぱり方向性は似ても、根本的な目的が違うパルヴァライザーと違って戦闘力は度外視な様です。
ゲーム中、ボスバージョンが登場しますが、あれだってメールやミッションの依頼説明で「ああ、ジオ社がディソーダーを制御してるんだ」となる程度には納得できる文章が多く、その線だとあれは小さい(と言っても大型や小型が居ますが)ディソーダーと違ってジオ社が自分で開発した、『ディソーダーへのコンタクト能力を持つ、システム上はディソーダー』である、実際は別のユニット、つまり兵器なんでしょう。
今回登場したデカディソーダーは、これをモデルにしており、そしてゲームと違って、トンネルがギアトンネル程度の空間しかないので、窮屈な空間に無理やり対応させてしまいました(寧ろ、それこそディソーダー?)。
武装は、あれだけでなく、内蔵ビーム砲の威力もデチューンしたカラサワ位強いです。
 冒頭に登場した子供は、如月の『人工ドミナント・レイヴン開発計画』で開発された人工ドミナントのプロトタイプです。
戦闘力にのみ特化し、戦闘力だけを追求した戦闘特化型スーパーコーディネーターみたいなイメージです。
人間性こそありますが、見た目は勿論、精神は実年齢より遥かに幼いです。
 では、解説を終了します。

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