ネクストとディソーダー ＯＫ
デュランダル。
フライトナーズが直属する組織『カラード』最高峰の戦力である。
その姿はＡＣやノーマルではなく新世代型アーマード・コアとしてカラード最上部の一握りの人物しか知りえない存在である。
そして、その機体郡は、ある海上施設にて試験的に配備された物でもある。
機動力に於いては、新型推進圧縮期間を小型化し、通常型とのハイブリット方式を開発した。
その一つに、高出力プラズマ爆発を極限迄圧縮する事で可能とした瞬間的超高出力噴射による一時的な加速。
これは通常のＡＣと同様に搭載されているオーバードを除く、メイン、バック、サイドの三種類のブースターによる直線的ながら複雑な動きを実現した。
それに伴い、莫大な情報処理量が発生。
これを解決する為に開発されたのが、リンクス技術である。
だがリンクス技術は、その異常性と違法性に伴い最高極秘情報とする必要があった。
ある日、ラインアークで緊急事態が発生した。
デュランダルは、ラインアークの攻撃部隊と共に、これの対処をカラードに命じられたのであった。
大陸より遥か西に位置する、もう一方の大陸とを繋ぐ特殊秘蔵海上施設がある。
名をラインアーク。
その全体は打ち捨てられたアームズフォードの武装を企業連合が回収し、秘密裏に防衛用として配備した兵器で埋め尽くされている。
空中に浮かぶ自立警戒兵器『アサルト・セル』。
特殊な光学迷彩用ガスと自身が持つ同様の機能を持った装甲を使用し、大気を吸って、出してを繰り返す過程で生み出される微量な電力を使って、完全な自給自足エネルギー機関を構築している。
その特性故、光学カメラによるユニット認識は勿論、熱源探知による発見も難しく、極めて厄介な存在である。
又、浮遊も同過程に於ける大気排出を利用した物としている。
攻撃はボウガンのみ。
原始的構造故に消費が小さく済むからだ。
そして、『見つけられない』以上回避する必要もなければ『攻撃を防ぐ為の装甲』を搭載する必要さえない。
アサルト・セルと旧型アームズフォートの武装によって護られるラインアーク。
過剰戦力とさえ言える、その規模は大陸側の企業社会の政府と言えるコロニーを建造し、これを大きくする事で一見しただけではラインアークの存在が掴みにくい物としていた。
では、ラインアークで何が行われているか、と言えば次世代型ＡＣの開発である。
特に瞬間的高出力噴射、コードネーム【クイックブースト】は爆発的な可能性を秘めていた。
無論、それ故に高度な姿勢制御演算能力が必要となる。
その為、今はまだ量子コンピュータに光ファイバー有線を接続しての制御しか出来ておらず、圧倒的高付加によりパイロットは既存のレイヴン、もっと言えば『人間では』制御不能の域に達していた。
高度な演算能力の要求と、超高速機動に於ける機体性能を引き出す事の出来るリンクスシステムは、凄まじい負荷を脳に与えてしまう。
だが、リンクスになれば、その問題を解決できる。
それがラインアークの答えだった。
企業連合は、これを断固否定した。
「狂気の技術は禁断の兵器となる」と。
そして、企業連合以下、各社も同様の反応であった。
エムロードは、リンクスシステムの開発と、蓄積されたデータの即刻破棄を求めた。
ジオ社はリンクスシステムの総合的破棄を武力威圧で止めようとした。
答えはあらず。
次第に企業連合はラインアークとの溝を深めていく事となった。
突然、それは起こった。
「状況知らせ！」
「防衛機構中枢部『ビックボックス』、システムダウン３４％突破！
防衛機構損失率６４％！！」
「リンクスシステム、１番より１００番の全てがエラー！！」
―――次世代ＡＣ
―――その通称を『ネクスト』。
圧倒的機動力を持つネクストの強奪――否、リンクス脱走。
事態は、混沌を極め、コロニー市民の安定した新住居『スペースコロニー』の開発計画は、これにより明確に後れを出し始める事となった。
そして、その機体―――それの強奪犯は―――。
ネクスト強奪事件、或いはリンクス脱走事件と呼ばれる様になった本件。
これの担当となったのは、フライトナーズだった。
ハイエンドノーマルとネクストの戦いは、事の重大さと、その異常性故に市民でさえ周知となった。
これを把握した企業連合は正式に、これを発表し不安定因子の暴走発生を食い止めた。
しかし、問題は百人ものリンクスの一斉脱走であった。
その内、現在逃亡しているのは２４名。
それ以外は追撃部隊による殺害処理となった。
各社は対ネクスト戦を想定したパーツ開発を余儀なくされ、大規模なレイヴン部隊を編成し、これの処理へと向かわせる事に決定した。
それにより、必然的にエグ達への追撃部隊の戦力が大幅低下し、企業部隊も大部分が回収となった。
――――――トンネルを多数のＡＣが駆け抜ける。
『目標は雑魚ばかりだ。
何、怖がる要素はない』
『…気遣いご苦労』
『もう少し可愛げがあったらなぁ、はあ』
まあ任務に集中するか、と諦める。
モニターは暗がりだけ。
進めど進めど、そればかり。
だがレーダーディスプレイに表示される構造マップ上では、目標との想定遭遇地点へかなり近づいている。
レイヴン二人が請け負った依頼は、最新鋭ＡＣがテストパイロットに強奪されたので、破壊してくれと云う類だ。
腕の良い、或いはそう言う評判のレイヴンなら結構な頻度で来る依頼だ。
彼らも、その類――ランクこそないが、高ランク・レイヴンとして名乗れる程度には。
不意にエネルギー反応。
咄嗟にペダルとトリガー入力で緊急ブーストする。
強いＧだがレイヴンには問題ない。
先程の進路上をプラズマ弾が駆け抜け、空間を焼き潰さんと壁に激突する。
凄まじい熱に、膨張が始まり、冷えた部分と熱された部分でエネルギーが発生する。
凝縮されたプラズマが反応し、強力なＥＣＭを周囲に発する。
即座に戦闘モードを起動し、再攻撃が回避出来る準備を整える。
『……………………………』
『…………………………………………………』
『……………………』
『来ないな……………………』
代わりに熱源が大量に接近して来る。
『…ロケットです。
破壊して下さい』
オペレーターの指示に従い、二機のＡＣが後退しながら、各々の火器で弾幕を形成する。
あっと言う間に熱源反応が広がり、機体温度が多少上昇する。
刹那、一機をプラズマが焼く。
『しまった、チャージング感知を隠す為の…！！』
『レイヴ―――――――――――』
プラズマ弾のＥＣＭ効果時間は極僅かだが、至近距離で発生した分、通信は勿論、探知系が一時的にダウンしてしまう。
ロックマーカーが表示される。
「くっそったれええええええええぇええええええ！！」
コアの迎撃機能とミサイル迎撃装置へアクセスし、手数を増やす。
後ろの分かれ道迄下がり、反対側へ身を隠す。
「は、はあ、はあ、はあ。
ち、畜生。
何だったんだよ、今の数は！？」
恐らく防衛部隊の規模と思われる。
しかし、もしそうなら敵は追撃阻止の為に配備したのだろう。
（ふっざけんじゃなぇ！
高が地下の非合法連中共が、寄って集ったつっても、こんなに命張るか！？
普通じゃねェ！？
何者だ、あいつら！！）
そして斬新なアイデア。
（馬鹿じゃねぇのか、連中は！！
ロケットをぶち込んで迎撃させるだぁ！？
何発無駄にする気だ。
撃ち落とした時の熱源でチャージを誤魔化す必要があるって事は…相当火力が高いんだろうがぁ…。
隠す必要がある位、チャージが長いのか？
だとしたら、あの二発目の速さはなんだってんだ！？）
不意に雑音が入る。
通信が復旧した様だ。
『レイヴン、聞こえますか！？』
「ああ、無事だ。
俺なら、な」
『彼女…ベルベイトの反応がないですが？』
「プラズマで焼かれた。
かなり高出力だったみたいだ。
着弾点が近過ぎて通信がぶっ飛んだんだろうな」
復旧したレーダーに二つの反応が表示される。
「な、何て速度だ！？」
言ってる傍から敵機二機が姿を現す。
慌ててオーバードブーストで頭上を駆け抜けるが、直後一機が驚くべき速度で旋回、高速で追いかけて来る。
「オーバードブーストの点火速度が短すぎる」
『いえ、この反応は通常のブーストダッシュです』
「何処迄ふざけりゃ気が済むんだ！？」
敵は人型とタンク型。
性能は従来の把握しているハイエンドノーマル等比にもならない。
背部のユニットを作動させる。
レールで上に持ち上がった状態で、レール毎横に倒され、上下と真ん中の発射口が解放される。
「あれが大量に発射されたロケットの正体か！！」
廃棄された巨大水道が見える大穴へ飛び込んで回避する。
『水深は４メートルの様です』
「なら落ちても大丈夫だな。
―――嫌、どの道死ぬな…」
モードを通常モードにし、オーバードブーストを巡航モードにしながら言う。
「回避に専念する。
ナビゲーション頼む」
『了解です』
敵はロケッターのみ。
タンク型は追って来れない様だ。
「あいつ、さっきからオーバードブーストを断続的に使ってるのか？
って事は戦闘モードで、あの燃費！？
エネルギー関係もふざけてる訳だな」
『コンテナが大きい分、先程から一向に弾切れの気配がありません。
…敵ロケット、予想弾道を計算します。
リンクシステムで表示するので回避の参考にして下さい』
「助かる」
数秒して、モニターにラインが表示される。
更にディスプレイの三次元立体マップが更新される。
「この先は行き止まり――嫌、これは…？」
『この奥に正体不明の座標データとの座標結合点が存在します。
何故マップデータを別々に管理してあるかは不明ですが、此処一体の地下トンネルは地下都市間での大規模抗争時代に構築されたエリアが多く、周囲は既に企業が管理しているマップデータと、民間のマップデータが混合しています。
片方には存在するルートが、もう片方にはなく、その逆もある所が結構多い様です。
各マップデータの信憑性は上下しています。
此方で混乱しない程度に表示を絞ります』
表示されているマップが更新される。
突如、警告音。
「ね、熱源！？」
まさか、と思いレーダーを後方に集中させる。
もう一つの反応が接近して来る。
「さっきのタンク！？
だが、４メートルもあったらタンクじゃ機能停止するんじゃ…！？」
『不明です。
高エネルギー反応！！』
「プラズマかよ！！」
『ち、違います。
数、増加！！』
何か可笑しい事態になって来た様だ。
『これは…こ、高速巡航型の……いえ、航空戦闘型のディソーダーです』
「ディソーダーぁ！！？」
ディソーダー。
ジオ社のグループは元々、叢雲社を中心としたアジア地域のグループである。
地下都市構築時代、その規模故に労力の無人化が最優産され、その結果『無人作業軌機動御端末装置群』――ハードディスク系の言語に関して言語統一した結果、略称が『ディソーダー』となった様だ。
以降、ディソーダーは同グループの最大の経済的武器要素となり、今日に至る迄のリーダー的存在であるジオ・マトリクス社が大企業である由縁として、知られる事となった。
これにより同グループは各社の得意分野に特化させたディソーダーを開発。
特に戦闘系ディソーダーはジオ社の堅実な開発により高額なノーマルにさえ匹敵する集団戦闘能力を確保するに至った。
其処から更に、各戦闘分野へと枝分かれしていったディソーダーは、専属レイヴン試験にも貸し出される事にもなった。
「ディソーダーって時点で可笑しいだろ！？
何で戦闘用、しかも高速巡航が…」
『多分、警戒用でしょう。
此処は広いですし…。
恐らく、あの機体が信号を出したんでしょう』
「おいおい冗談言うな。
あいつ、ディソーダーに撃たれながら俺を撃ってるんだぞ！！」
『ディソーダーは時折敵と味方の区別をしない無差別攻撃型が存在する様で、特に高速巡航型が、それだと該当するタイプは…これですね』
ディスプレイに機体が表示される。
だが、回避に必死で全く気付いていないレイヴンである。
「無差別攻撃って何でだよ！！」
『不明です。
相当危険な物を保存する施設にはジオ社が該当タイプを大量に配備したとか。
ジオ社部隊ですら攻撃を受けてしまう様です。
当のジオ社も、これを容認していると公式情報が公開されています』
「あいつ等馬鹿じゃねぇの！？」
モニターは左右も正面も、ロケットとラインビームで彩られている。
しかし低威力な筈のラインビームが当たった所を爆発させている。
水に当たった際の蒸気の吹き上げ量は通常のラインビームだとすると異常に多い。
「ロケットの爆発っぷりもだが、何でラインビームが、あんな高火力なんだ！
あれじゃ、アームズフォートでも一撃貰いたくないだろうって勢いで、滅茶苦茶吹っ飛んでるぞ、色々と！！」
オーバードブーストを停止、メインブースターを噴射して高い位置にある簡易高架橋の上を通過する。
流石にロケッターもディソーダーが鬱陶しく感じたのか此方から離れる。
目標が散会した事で、ディソーダー達が二手に分かれる―――事はなくロケッターのみを攻撃している。
「え！？」『へ！？』
レイヴンとオペレーターの声が重なる。
『…あの…。
私の情報表示が狂っているんでしょうか……？』
「い、嫌…。
多分、こっちの送信情報が可笑しいんじゃないかと…。
てか何だありゃ。
マジで何十連装してあるか分からんロケット野郎しか追ってないぞ？」
何事か、と水路の集合部分近くに着地して陰に身を隠す。
システムを通常モードからステルスモードへ移行。
本当にステルス性能が発揮される訳ではないが、動きに制限が発生する分、必要な出力が低下し、熱源探知され難くなるのが利点だ。
『と、兎に角レイヴン。
後ろの水路を通って下さい。
今が好機です、逃げましょう』
「りょ、了解。
あんな意味の分からん攻撃力の馬鹿はディソーダーに任せちまおう」
結局、あの後彼らがディソーダーと自分達の請け負った依頼との関係を知る事は、かなり後の事となる。
フライトナーズが直属する組織『カラード』最高峰の戦力である。
その姿はＡＣやノーマルではなく新世代型アーマード・コアとしてカラード最上部の一握りの人物しか知りえない存在である。
そして、その機体郡は、ある海上施設にて試験的に配備された物でもある。
機動力に於いては、新型推進圧縮期間を小型化し、通常型とのハイブリット方式を開発した。
その一つに、高出力プラズマ爆発を極限迄圧縮する事で可能とした瞬間的超高出力噴射による一時的な加速。
これは通常のＡＣと同様に搭載されているオーバードを除く、メイン、バック、サイドの三種類のブースターによる直線的ながら複雑な動きを実現した。
それに伴い、莫大な情報処理量が発生。
これを解決する為に開発されたのが、リンクス技術である。
だがリンクス技術は、その異常性と違法性に伴い最高極秘情報とする必要があった。
ある日、ラインアークで緊急事態が発生した。
デュランダルは、ラインアークの攻撃部隊と共に、これの対処をカラードに命じられたのであった。
大陸より遥か西に位置する、もう一方の大陸とを繋ぐ特殊秘蔵海上施設がある。
名をラインアーク。
その全体は打ち捨てられたアームズフォードの武装を企業連合が回収し、秘密裏に防衛用として配備した兵器で埋め尽くされている。
空中に浮かぶ自立警戒兵器『アサルト・セル』。
特殊な光学迷彩用ガスと自身が持つ同様の機能を持った装甲を使用し、大気を吸って、出してを繰り返す過程で生み出される微量な電力を使って、完全な自給自足エネルギー機関を構築している。
その特性故、光学カメラによるユニット認識は勿論、熱源探知による発見も難しく、極めて厄介な存在である。
又、浮遊も同過程に於ける大気排出を利用した物としている。
攻撃はボウガンのみ。
原始的構造故に消費が小さく済むからだ。
そして、『見つけられない』以上回避する必要もなければ『攻撃を防ぐ為の装甲』を搭載する必要さえない。
アサルト・セルと旧型アームズフォートの武装によって護られるラインアーク。
過剰戦力とさえ言える、その規模は大陸側の企業社会の政府と言えるコロニーを建造し、これを大きくする事で一見しただけではラインアークの存在が掴みにくい物としていた。
では、ラインアークで何が行われているか、と言えば次世代型ＡＣの開発である。
特に瞬間的高出力噴射、コードネーム【クイックブースト】は爆発的な可能性を秘めていた。
無論、それ故に高度な姿勢制御演算能力が必要となる。
その為、今はまだ量子コンピュータに光ファイバー有線を接続しての制御しか出来ておらず、圧倒的高付加によりパイロットは既存のレイヴン、もっと言えば『人間では』制御不能の域に達していた。
高度な演算能力の要求と、超高速機動に於ける機体性能を引き出す事の出来るリンクスシステムは、凄まじい負荷を脳に与えてしまう。
だが、リンクスになれば、その問題を解決できる。
それがラインアークの答えだった。
企業連合は、これを断固否定した。
「狂気の技術は禁断の兵器となる」と。
そして、企業連合以下、各社も同様の反応であった。
エムロードは、リンクスシステムの開発と、蓄積されたデータの即刻破棄を求めた。
ジオ社はリンクスシステムの総合的破棄を武力威圧で止めようとした。
答えはあらず。
次第に企業連合はラインアークとの溝を深めていく事となった。
突然、それは起こった。
「状況知らせ！」
「防衛機構中枢部『ビックボックス』、システムダウン３４％突破！
防衛機構損失率６４％！！」
「リンクスシステム、１番より１００番の全てがエラー！！」
―――次世代ＡＣ
―――その通称を『ネクスト』。
圧倒的機動力を持つネクストの強奪――否、リンクス脱走。
事態は、混沌を極め、コロニー市民の安定した新住居『スペースコロニー』の開発計画は、これにより明確に後れを出し始める事となった。
そして、その機体―――それの強奪犯は―――。
ネクスト強奪事件、或いはリンクス脱走事件と呼ばれる様になった本件。
これの担当となったのは、フライトナーズだった。
ハイエンドノーマルとネクストの戦いは、事の重大さと、その異常性故に市民でさえ周知となった。
これを把握した企業連合は正式に、これを発表し不安定因子の暴走発生を食い止めた。
しかし、問題は百人ものリンクスの一斉脱走であった。
その内、現在逃亡しているのは２４名。
それ以外は追撃部隊による殺害処理となった。
各社は対ネクスト戦を想定したパーツ開発を余儀なくされ、大規模なレイヴン部隊を編成し、これの処理へと向かわせる事に決定した。
それにより、必然的にエグ達への追撃部隊の戦力が大幅低下し、企業部隊も大部分が回収となった。
――――――トンネルを多数のＡＣが駆け抜ける。
『目標は雑魚ばかりだ。
何、怖がる要素はない』
『…気遣いご苦労』
『もう少し可愛げがあったらなぁ、はあ』
まあ任務に集中するか、と諦める。
モニターは暗がりだけ。
進めど進めど、そればかり。
だがレーダーディスプレイに表示される構造マップ上では、目標との想定遭遇地点へかなり近づいている。
レイヴン二人が請け負った依頼は、最新鋭ＡＣがテストパイロットに強奪されたので、破壊してくれと云う類だ。
腕の良い、或いはそう言う評判のレイヴンなら結構な頻度で来る依頼だ。
彼らも、その類――ランクこそないが、高ランク・レイヴンとして名乗れる程度には。
不意にエネルギー反応。
咄嗟にペダルとトリガー入力で緊急ブーストする。
強いＧだがレイヴンには問題ない。
先程の進路上をプラズマ弾が駆け抜け、空間を焼き潰さんと壁に激突する。
凄まじい熱に、膨張が始まり、冷えた部分と熱された部分でエネルギーが発生する。
凝縮されたプラズマが反応し、強力なＥＣＭを周囲に発する。
即座に戦闘モードを起動し、再攻撃が回避出来る準備を整える。
『……………………………』
『…………………………………………………』
『……………………』
『来ないな……………………』
代わりに熱源が大量に接近して来る。
『…ロケットです。
破壊して下さい』
オペレーターの指示に従い、二機のＡＣが後退しながら、各々の火器で弾幕を形成する。
あっと言う間に熱源反応が広がり、機体温度が多少上昇する。
刹那、一機をプラズマが焼く。
『しまった、チャージング感知を隠す為の…！！』
『レイヴ―――――――――――』
プラズマ弾のＥＣＭ効果時間は極僅かだが、至近距離で発生した分、通信は勿論、探知系が一時的にダウンしてしまう。
ロックマーカーが表示される。
「くっそったれええええええええぇええええええ！！」
コアの迎撃機能とミサイル迎撃装置へアクセスし、手数を増やす。
後ろの分かれ道迄下がり、反対側へ身を隠す。
「は、はあ、はあ、はあ。
ち、畜生。
何だったんだよ、今の数は！？」
恐らく防衛部隊の規模と思われる。
しかし、もしそうなら敵は追撃阻止の為に配備したのだろう。
（ふっざけんじゃなぇ！
高が地下の非合法連中共が、寄って集ったつっても、こんなに命張るか！？
普通じゃねェ！？
何者だ、あいつら！！）
そして斬新なアイデア。
（馬鹿じゃねぇのか、連中は！！
ロケットをぶち込んで迎撃させるだぁ！？
何発無駄にする気だ。
撃ち落とした時の熱源でチャージを誤魔化す必要があるって事は…相当火力が高いんだろうがぁ…。
隠す必要がある位、チャージが長いのか？
だとしたら、あの二発目の速さはなんだってんだ！？）
不意に雑音が入る。
通信が復旧した様だ。
『レイヴン、聞こえますか！？』
「ああ、無事だ。
俺なら、な」
『彼女…ベルベイトの反応がないですが？』
「プラズマで焼かれた。
かなり高出力だったみたいだ。
着弾点が近過ぎて通信がぶっ飛んだんだろうな」
復旧したレーダーに二つの反応が表示される。
「な、何て速度だ！？」
言ってる傍から敵機二機が姿を現す。
慌ててオーバードブーストで頭上を駆け抜けるが、直後一機が驚くべき速度で旋回、高速で追いかけて来る。
「オーバードブーストの点火速度が短すぎる」
『いえ、この反応は通常のブーストダッシュです』
「何処迄ふざけりゃ気が済むんだ！？」
敵は人型とタンク型。
性能は従来の把握しているハイエンドノーマル等比にもならない。
背部のユニットを作動させる。
レールで上に持ち上がった状態で、レール毎横に倒され、上下と真ん中の発射口が解放される。
「あれが大量に発射されたロケットの正体か！！」
廃棄された巨大水道が見える大穴へ飛び込んで回避する。
『水深は４メートルの様です』
「なら落ちても大丈夫だな。
―――嫌、どの道死ぬな…」
モードを通常モードにし、オーバードブーストを巡航モードにしながら言う。
「回避に専念する。
ナビゲーション頼む」
『了解です』
敵はロケッターのみ。
タンク型は追って来れない様だ。
「あいつ、さっきからオーバードブーストを断続的に使ってるのか？
って事は戦闘モードで、あの燃費！？
エネルギー関係もふざけてる訳だな」
『コンテナが大きい分、先程から一向に弾切れの気配がありません。
…敵ロケット、予想弾道を計算します。
リンクシステムで表示するので回避の参考にして下さい』
「助かる」
数秒して、モニターにラインが表示される。
更にディスプレイの三次元立体マップが更新される。
「この先は行き止まり――嫌、これは…？」
『この奥に正体不明の座標データとの座標結合点が存在します。
何故マップデータを別々に管理してあるかは不明ですが、此処一体の地下トンネルは地下都市間での大規模抗争時代に構築されたエリアが多く、周囲は既に企業が管理しているマップデータと、民間のマップデータが混合しています。
片方には存在するルートが、もう片方にはなく、その逆もある所が結構多い様です。
各マップデータの信憑性は上下しています。
此方で混乱しない程度に表示を絞ります』
表示されているマップが更新される。
突如、警告音。
「ね、熱源！？」
まさか、と思いレーダーを後方に集中させる。
もう一つの反応が接近して来る。
「さっきのタンク！？
だが、４メートルもあったらタンクじゃ機能停止するんじゃ…！？」
『不明です。
高エネルギー反応！！』
「プラズマかよ！！」
『ち、違います。
数、増加！！』
何か可笑しい事態になって来た様だ。
『これは…こ、高速巡航型の……いえ、航空戦闘型のディソーダーです』
「ディソーダーぁ！！？」
ディソーダー。
ジオ社のグループは元々、叢雲社を中心としたアジア地域のグループである。
地下都市構築時代、その規模故に労力の無人化が最優産され、その結果『無人作業軌機動御端末装置群』――ハードディスク系の言語に関して言語統一した結果、略称が『ディソーダー』となった様だ。
以降、ディソーダーは同グループの最大の経済的武器要素となり、今日に至る迄のリーダー的存在であるジオ・マトリクス社が大企業である由縁として、知られる事となった。
これにより同グループは各社の得意分野に特化させたディソーダーを開発。
特に戦闘系ディソーダーはジオ社の堅実な開発により高額なノーマルにさえ匹敵する集団戦闘能力を確保するに至った。
其処から更に、各戦闘分野へと枝分かれしていったディソーダーは、専属レイヴン試験にも貸し出される事にもなった。
「ディソーダーって時点で可笑しいだろ！？
何で戦闘用、しかも高速巡航が…」
『多分、警戒用でしょう。
此処は広いですし…。
恐らく、あの機体が信号を出したんでしょう』
「おいおい冗談言うな。
あいつ、ディソーダーに撃たれながら俺を撃ってるんだぞ！！」
『ディソーダーは時折敵と味方の区別をしない無差別攻撃型が存在する様で、特に高速巡航型が、それだと該当するタイプは…これですね』
ディスプレイに機体が表示される。
だが、回避に必死で全く気付いていないレイヴンである。
「無差別攻撃って何でだよ！！」
『不明です。
相当危険な物を保存する施設にはジオ社が該当タイプを大量に配備したとか。
ジオ社部隊ですら攻撃を受けてしまう様です。
当のジオ社も、これを容認していると公式情報が公開されています』
「あいつ等馬鹿じゃねぇの！？」
モニターは左右も正面も、ロケットとラインビームで彩られている。
しかし低威力な筈のラインビームが当たった所を爆発させている。
水に当たった際の蒸気の吹き上げ量は通常のラインビームだとすると異常に多い。
「ロケットの爆発っぷりもだが、何でラインビームが、あんな高火力なんだ！
あれじゃ、アームズフォートでも一撃貰いたくないだろうって勢いで、滅茶苦茶吹っ飛んでるぞ、色々と！！」
オーバードブーストを停止、メインブースターを噴射して高い位置にある簡易高架橋の上を通過する。
流石にロケッターもディソーダーが鬱陶しく感じたのか此方から離れる。
目標が散会した事で、ディソーダー達が二手に分かれる―――事はなくロケッターのみを攻撃している。
「え！？」『へ！？』
レイヴンとオペレーターの声が重なる。
『…あの…。
私の情報表示が狂っているんでしょうか……？』
「い、嫌…。
多分、こっちの送信情報が可笑しいんじゃないかと…。
てか何だありゃ。
マジで何十連装してあるか分からんロケット野郎しか追ってないぞ？」
何事か、と水路の集合部分近くに着地して陰に身を隠す。
システムを通常モードからステルスモードへ移行。
本当にステルス性能が発揮される訳ではないが、動きに制限が発生する分、必要な出力が低下し、熱源探知され難くなるのが利点だ。
『と、兎に角レイヴン。
後ろの水路を通って下さい。
今が好機です、逃げましょう』
「りょ、了解。
あんな意味の分からん攻撃力の馬鹿はディソーダーに任せちまおう」
結局、あの後彼らがディソーダーと自分達の請け負った依頼との関係を知る事は、かなり後の事となる。
13/03/07 12:50更新 / 天