ガチのホラーと厄介な追手 OK
MT――マッスル・トランサー。
モンスターのが何時来るか分からない中で作業する為の重機やパワードスーツを合体させたのが始まりだった。
以降、戦闘用MT開発は特に防衛力の乏しいレジスタンスコロニーに於ける開発の最重要改題となった。
それに対抗し企業が開発したMTは純戦闘用。
コロニー側が更に対抗し―――。
そんな繰り返しの中で開発されたのがアーマード・コア。
通称AC。
コアを中心とする頭部、腕部、脚部を基本に、肩の後ろにある接続機構、及び其処に搭載する物を背部、背部装備とし、バックパック等を背面装備、腕に直接装備するシールドや兵器、或いは手に直接持つ物を腕部装備とする。
コア正面左右に装備するバックブースター、肩部稼働機構保護装甲内部に装備する両肩にあるサイドブースター、背中のメインブースターとオーバードブースト機構。
最新鋭のプラズマ装置による熱膨張を利用したエネルギー・ブースターはACの機動力の源となった。
装甲は何層にも渡って弾種別の対応を見せる新型防御スクリーン装甲。
10メートルもある装甲戦闘兵器に持たせられる防御力は非常に限定的だからである。
一番守るべき場所は、コクピット周辺である。
大抵のコアはジェネレーターや冷却器を前に押し出して、コクピット正面の胸部を出来るだけ分厚い装甲で覆う様にする。
当然ながら、被弾率が一番高いからだ。
逆に背中はコアだけでなくMT等も同じく、そもそも装甲がない場合が多い。
被弾しない所を守っても意味がないからである。
いざ、戦闘となると大半は正面からの攻撃となる。
無論横や後ろに回り込む事こそ戦闘の基本と言えるのだが、だからと言って回り込めるかと言えば、相手も自分の横や後ろに回り込もうとするので、必然的に戦闘開始直後は正面からの撃ち合いになる。
その場合、スナイパーライフル等の遠距離用武器は射程こそ長いが、反面大きさが災いして扱い辛く、故に一撃の貫通性を重視している。
マシンガンは射程が短いが目にも止まらぬ勢いで次弾発射が行える上非常にコンパクトなので振り回し易い。
火器の一長一短は、それぞれ特色が強い傾向がある。
又火器は敵機の、特に胸部装甲に確実に傷を与えられる必要があり、武器の特性上、遠くから発射する事が多いからだ。
幾らエネルギー弾より威力減衰が小さいからと言って減衰はする物だ。
貫通力を上げる傾向にあるのは当然だ。
他にも後ろから喰らおう物なら本当に一撃、所謂『瞬殺』される等、被弾箇所によって大きく発揮される威力が変動するので、武器の性質を見極める必要がある。
多いが、そもそも背後を取られる事が少ないので、割合としては少ない。
しかし、それは真正面から戦えばの話で、結局の所弾の節約には背後から撃つのが一番なのだ。
では、どうすれば背後をとれるか、だが簡単だ。
隠れれば良い。
背後からの奇襲、強襲とは、そう云う事だ。
無論、それを警戒したコアも多いが、軽量級ではまず有り得ない装甲配置だろう。
装甲が薄い時に、奇襲を警戒する方法もある。
リコンを使ったり、ビルを蹴って無意味に時々動き回ったりして標準を引っ掻き回せばいい。
そうして、その最中敵を見つけられれば最上だ。
今、エグのACが仕上がった所だ。
今回は護衛任務なのでMT部隊には索敵系を充実して貰い、数機だけ狙撃型にして貰った。
自分が乗るのはACなので、それに合わせたパーツを組み合わせる。
所謂アセンブルである。
通るのは旧ジオ・マトリクス社運営住居ドーム。
此処は嘗て栄えた企業都市であり、一部分だが地上の再生化が進むに連れ廃棄された地下ドームで、ジオ社の旧式パーツが多く残っており、設備も充実しているので、無法者には最適な住居である。
それ故に、ジオ社は廃棄した、このドームに不定期にレイヴンを向かわせて抜き打ちチェックする訳である。
「うーん、くっらいなぁ…」
『そりゃあ、廃棄されたドームに電気送る奴居ないでしょう』
人型の重量級MTが頭部を此方に向ける。
パイロットの声音は苦笑だった。
「そりゃ、そうなんだろうが…。
如何して、こうも見ずらいんだろうか。
暗視って奴は」
『普段使ってない光の光景ですしね。
普通見れない所を機械を通して無理に見てるんですから』
「それは、まあ、そうなんだろうが…」
すると正面に反応がある。
「んん?
生体反応?」
『例の無法者かしら』
『取り敢えず声かけますか?』
エレンの疑問にMTパイロットが首を入れて訪ねてくる。
「全隊停止を連絡」
『了解』
エレンを介して全車両を停止させる。
スピーカーに接続して話しかける。
「あー、あっ、あー。
…聞こえるか、お前は人か?
モンスターなのか?」
集音マイクの感度を最大にして、機体をしゃがませる。
右手に持つ主力武器であるマシンガンを向けながら問う。
が、相手が行き成り此方へ向かって飛んで来た。
「生体兵器!?」
機体を立たせてバックブースターのペダルを踏みながら左操縦桿でトリガー入力。
左腕のレーザーブレードの光が迸る。
「っ!?」
刹那、レーザーに照らされた視界が真っ白になる中、モニターにでかでかと人の顔の影の様な物が映る。
唐突に隣のMTが何もいないのに天井へ発砲する。
「幽霊!?」
咄嗟に通信する。
「エレン、エレン!!」
『――――――――――――――――――――――――――――――――』
雑音のみ。
「誰か!!」
『――――――――――――――――――――――――――――――――』
MT隊も雑音。
(通信が使えない?
幽霊の仕業なのか?)
サイドディスプレイに目線を飛ばすもECM濃度は0のまま。
「っ、うおっ!?」
今度は一瞬メインモニターもサイドモニターも映像が途絶えた。
その瞬間、再び顔だけが映し出される。
(新手のいじめか!?
OSにウィルスが入ったか!?
くそ、くそ、くそくそ!)
流石に、これは怖すぎる。
『―――――――――――――――――――――――――――――――――』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
今度は弄ってもいないのに勝手に通信が接続された。
雑音のみなのが余計に怖い。
モニターを見やれば、MT全機が、ぴたりとも動かない。
怖くなってペダルを踏むと、ジャンプする映像が流れた。
同時に一瞬の浮遊感の後、着地の衝撃がエグに伝わる。
(操縦系は正常。
映像も大丈夫。
なら、MTが停止しているのか?
何故停止するんだ?)
『タス――――――――ケテ』
「ひっ!?」
これはマジでやばい!!
機体を車両に寄せて、兎に角物資の安全を最優先する。
もうエグの頭の中は最大の脅威である筈のジオ社側のレイヴンの存在がない。
代わりに物資の安全と幽霊の声だけがエグの思考を支配しようとする。
(何が助けてだ!
助けて欲しいのは俺の方だ!
何が悲しくて幽霊の所に来なくちゃ行けないんだよ!
仲間が其処にいるのに返事がないとか怖いにも程があるだろ!?
エレン、エレン!!
何で通信が繋がらないんだ!
幽霊とお喋りなんざ勘弁してくれぇえええええ!!!!!)
いっそちびってしまった方が気を落ち着けるんじゃないか、なんて考えがよぎり出す。
悲しかな、その類を抑える薬は出撃前に飲むのが決まりである。
服用してしまったのである。
出したくても出せない。
それが恐怖になる。
出撃前に防御力が〜〜なんて考えていた自分を殴り飛ばしたい。
それ位怖い。
全てが怖くなって、敵ACの出現の恐怖が消し飛んだ頃だった。
『タス――ケテ』
『タ――ケ――ア――』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
再び通信。
『た――けて――た――』
「怖い怖い怖い怖い」
『た――助け――助けてくれ――』
「怖いこわ――うん?」
『た――けて――助けてくれ、エグ!!』
車両からだ。
カメラを上げると、黒い物体が浮遊しており、沢山のそれが車両の周りを行ったり来たりしていた。
完全な固体ではなく、煙の様に常に輪郭が揺れている。
浮遊・黒い・輪郭が分からない。
見事にホラーを語る三拍子だ。
「う、うわあああああああ!!」
モニターにそれが沢山映り、ロックマーカーがあっちこっちに飛び回る。
「来るな来るな来るな来るな来るな、こっちに来るんぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
堪らずトリガーボタンを押しっぱなしにする。
ズガギャギャギャギャ!!!!
酷い金属音の様な発射音と共に弾丸が撃ち出される。
黒い何かを順調に減らすエグ。
数が減っている事に気づき始めたエグは、冷静さを取り戻し恐怖に支配されていた思考を取り戻し始めた。
頭の中が『怖い物を排除する』事から『敵戦力の掃討』と云う最もらしい、それに変化していた。
死神の姿をした敵が鎌を振り下ろす。
冷静に右に回避し、ブースターを吹かして旋回しながら―つまり敵を正面に捉えながら、旋回し、レーザーブレードで一閃する。
敵は相変わらず浮遊しているが、よろめいた。
効いている様だ。
ならば問題ない。
敵の攻撃力が、どれだけあろうが相手は接近戦しか出来ない。
であれば、当たらなければ如何と言う事はない。
「っふ!!」
歩行ペダルを踏みながら操縦桿を倒してブーストペダルを踏みつける。
横に振られた鎌を飛び越え、敵の肩に脚部を叩き付け、そのままメインブースターだけで後ろに下がる際の自動運動で、脚部が前に突き出されるのを利用して、敵を壁に叩きつける。
「もう一発!!」
鎌を苦し紛れに降ろうとする敵。
だが、鎌の方向と逆に振ろうとしていた。
其処をエグ機のレーザーブレードが焼き飛ばす。
中途半端に振られた鎌が壁に刺さって消える。
逃げようとする敵へマシンガンを乱射。
至近距離で乱射のほぼ全弾を叩き付けられた敵が爆散する。
『…お?』
『機体システムが復旧した!?
一体何があったんだ?』
通信状況を一通り確認したエグが訪ねる。
「モニターは映っていたのか?」
『映るも何も、システムダウンしてたからなあ。
一応、発砲音っぽいのとレーザーブレードの起動音は聞こえたけど。
誰かが戦ってるって事は、流れ弾来ないかな、って。
怖かったぜ、ふう』
『―――』
(エレンは相変わらず、か。
何だったんだ、今のは?)
生物をロックオンするには頭部に生体センサーが必要だ。
なら幽霊も元は生物だったのだからセンサーが必要な筈だ。
或いはロックオン出来たのは『生きていなかった』からかも知れない。
ともあれ、あれは一体何なのだろうか。
一応、このドームには無法者が居る筈だ。
無法者の幽霊だろうか、と考える。
が、車両に群がるのは兎も角、死神の様な姿は一体何なのだろうか。
ジオ社に雇われたレイヴンのACに殺され、その際ACが死神に見えたのなら、ぎりぎり分からなくもないが。
兎に角、此処から去った方が良いのは、分かり切っている事だ。
「物資は無事だろうな?」
『荷台にあるからな。
連中が悪さしてなきゃ、大丈夫な筈だ』
「…最悪安全を考えて全部捨てる必要もあるかもな…」
小さく呟いていると、又新たに通信が入った。
『エグ、エグ!
返事して、お願い!!』
エレンだ。
悲痛な声でエグに呼び掛けている。
「聞こえる。
俺もさっき迄エレンやMT部隊と連絡出来なかった」
『至近距離なのに?』
「ああ。
敵襲…撃退出来たが」
『なら早く逃げて!
後ろからジオ社のレイヴンが!
二機来るわ!!』
『何だって!?』
MTのパイロットが驚きの声を上げた。
シュウウ…
「集音マイクに反応。
確かにACのブーストダッシュ音だ。
全車両、全速離脱!
MTは、これを援護!
俺が最後尾につく、援護を頼む!!」
『了解!』
『エグ、見つかったらアウトだから』
「なら姿を見せた瞬間、一斉放火だ!」
シュウウウ…!!
『近い!』
シュウウウウ!!
「オールウェポン・フリー体勢!」
シャウウウウウン!!!
姿が見えた。
「撃ち方初め!!」
広めの通路一杯にレーザーや弾丸が滝の様に流れる。
敵ACは深緑の逆関節軽量型で、マシンガンとパイルバンカー、ミサイルで武装していた。
ミサイルに引火したのか、予想外な程に盛大な爆発で、転倒して機能停止する。
『二機目…横よ!!』
瞬間、黒い四脚のACが拡散型ハンドガンを炸裂させる。
着弾した周囲が小さく爆ぜる。
『化学エネルギー弾…榴弾かよっっ!!』
『くそったれが!
脚部が!!』
『援護する、先に行け!』
『ああ、悪ぃ』
逃げるMTと、それを追う為の進路を塞ぐMT。
横からエグがレーザーブレードを振るうも、寸前で逃げられる。
「流石四脚。
気持ち悪い位旋回が速いな!!」
上から腕のカノン砲を撃ち続ける敵AC。
「いい加減、落ちろ」
MTの加勢もあって弾幕は激しいのだが、中々動きを捉えられない。
着地したと思ったら後ろ足でジャンプして、壁にぶつかると思えば壁を蹴る。
そんな動きの中、時折オーバードブーストを混ぜて来るのだから腕の運動が間に合わない。
「じれったい!!」
と、漸く着地したと思いきや、空中にいた時の慣性で左へ移動していたのに、着地した瞬間、右へ移動し出したのだ。
更に今度は前足で跳躍し、後ろ足で更に跳躍し、ロングジャンプをして見せたのである。
そして、そのままエグ機へ後ろ足を叩き付け様とする。
咄嗟にサイドブースターを吹かして左に動きながらブレードを振るい、回避する事が出来たエグは、ブースターを吹かしながら旋回し、オーバードブーストペダルを踏んだ。
莫大な推力で機体が吹っ飛び始めた瞬間、右旋回と同時にオーバードブーストを停止し、その間にマシンガンを叩き込む。
背後を取られて焦ったのか相手は後ろへジャンプしようとするも、エグがマシンガンを撃ちながら、レーザーブレードを直撃させ、ついに敵ACが大破した。
『敵AC撃破』
「良し、急いで離脱するぞ!!」
『了解!!』
こうして彼らはギリギリ、ドームを脱出したのであった。
以降、彼らのコロニーでは、そのドームへ近付かない様に検討されるも、企業の監視の厳しい地上で運搬するより、ある程度監視率の低い地下ドームを通過した方が安全だと判断され、迂回路交通案は却下された。
理由は他企業運営住居用地下ドームに比べ、工場地区もあり、構造上物理的視界が悪く、電子索敵に自信のある上層部が「装備を充実させれば大丈夫。
今回は護衛部隊の油断が原因」とし、エグ達の言う「幽霊の様な何か」はジオ社の新型兵器のプロトタイプか、それを隠す為の装いをした多種兵器と一考した。
エグも、プロトタイプ云々は納得出来たが、何故合体出来たのか、何故合体能力を持っているのか、が気になり、この件について納得できずにエレンやMTパイロット達と一緒に頭を捻るのであった。
モンスターのが何時来るか分からない中で作業する為の重機やパワードスーツを合体させたのが始まりだった。
以降、戦闘用MT開発は特に防衛力の乏しいレジスタンスコロニーに於ける開発の最重要改題となった。
それに対抗し企業が開発したMTは純戦闘用。
コロニー側が更に対抗し―――。
そんな繰り返しの中で開発されたのがアーマード・コア。
通称AC。
コアを中心とする頭部、腕部、脚部を基本に、肩の後ろにある接続機構、及び其処に搭載する物を背部、背部装備とし、バックパック等を背面装備、腕に直接装備するシールドや兵器、或いは手に直接持つ物を腕部装備とする。
コア正面左右に装備するバックブースター、肩部稼働機構保護装甲内部に装備する両肩にあるサイドブースター、背中のメインブースターとオーバードブースト機構。
最新鋭のプラズマ装置による熱膨張を利用したエネルギー・ブースターはACの機動力の源となった。
装甲は何層にも渡って弾種別の対応を見せる新型防御スクリーン装甲。
10メートルもある装甲戦闘兵器に持たせられる防御力は非常に限定的だからである。
一番守るべき場所は、コクピット周辺である。
大抵のコアはジェネレーターや冷却器を前に押し出して、コクピット正面の胸部を出来るだけ分厚い装甲で覆う様にする。
当然ながら、被弾率が一番高いからだ。
逆に背中はコアだけでなくMT等も同じく、そもそも装甲がない場合が多い。
被弾しない所を守っても意味がないからである。
いざ、戦闘となると大半は正面からの攻撃となる。
無論横や後ろに回り込む事こそ戦闘の基本と言えるのだが、だからと言って回り込めるかと言えば、相手も自分の横や後ろに回り込もうとするので、必然的に戦闘開始直後は正面からの撃ち合いになる。
その場合、スナイパーライフル等の遠距離用武器は射程こそ長いが、反面大きさが災いして扱い辛く、故に一撃の貫通性を重視している。
マシンガンは射程が短いが目にも止まらぬ勢いで次弾発射が行える上非常にコンパクトなので振り回し易い。
火器の一長一短は、それぞれ特色が強い傾向がある。
又火器は敵機の、特に胸部装甲に確実に傷を与えられる必要があり、武器の特性上、遠くから発射する事が多いからだ。
幾らエネルギー弾より威力減衰が小さいからと言って減衰はする物だ。
貫通力を上げる傾向にあるのは当然だ。
他にも後ろから喰らおう物なら本当に一撃、所謂『瞬殺』される等、被弾箇所によって大きく発揮される威力が変動するので、武器の性質を見極める必要がある。
多いが、そもそも背後を取られる事が少ないので、割合としては少ない。
しかし、それは真正面から戦えばの話で、結局の所弾の節約には背後から撃つのが一番なのだ。
では、どうすれば背後をとれるか、だが簡単だ。
隠れれば良い。
背後からの奇襲、強襲とは、そう云う事だ。
無論、それを警戒したコアも多いが、軽量級ではまず有り得ない装甲配置だろう。
装甲が薄い時に、奇襲を警戒する方法もある。
リコンを使ったり、ビルを蹴って無意味に時々動き回ったりして標準を引っ掻き回せばいい。
そうして、その最中敵を見つけられれば最上だ。
今、エグのACが仕上がった所だ。
今回は護衛任務なのでMT部隊には索敵系を充実して貰い、数機だけ狙撃型にして貰った。
自分が乗るのはACなので、それに合わせたパーツを組み合わせる。
所謂アセンブルである。
通るのは旧ジオ・マトリクス社運営住居ドーム。
此処は嘗て栄えた企業都市であり、一部分だが地上の再生化が進むに連れ廃棄された地下ドームで、ジオ社の旧式パーツが多く残っており、設備も充実しているので、無法者には最適な住居である。
それ故に、ジオ社は廃棄した、このドームに不定期にレイヴンを向かわせて抜き打ちチェックする訳である。
「うーん、くっらいなぁ…」
『そりゃあ、廃棄されたドームに電気送る奴居ないでしょう』
人型の重量級MTが頭部を此方に向ける。
パイロットの声音は苦笑だった。
「そりゃ、そうなんだろうが…。
如何して、こうも見ずらいんだろうか。
暗視って奴は」
『普段使ってない光の光景ですしね。
普通見れない所を機械を通して無理に見てるんですから』
「それは、まあ、そうなんだろうが…」
すると正面に反応がある。
「んん?
生体反応?」
『例の無法者かしら』
『取り敢えず声かけますか?』
エレンの疑問にMTパイロットが首を入れて訪ねてくる。
「全隊停止を連絡」
『了解』
エレンを介して全車両を停止させる。
スピーカーに接続して話しかける。
「あー、あっ、あー。
…聞こえるか、お前は人か?
モンスターなのか?」
集音マイクの感度を最大にして、機体をしゃがませる。
右手に持つ主力武器であるマシンガンを向けながら問う。
が、相手が行き成り此方へ向かって飛んで来た。
「生体兵器!?」
機体を立たせてバックブースターのペダルを踏みながら左操縦桿でトリガー入力。
左腕のレーザーブレードの光が迸る。
「っ!?」
刹那、レーザーに照らされた視界が真っ白になる中、モニターにでかでかと人の顔の影の様な物が映る。
唐突に隣のMTが何もいないのに天井へ発砲する。
「幽霊!?」
咄嗟に通信する。
「エレン、エレン!!」
『――――――――――――――――――――――――――――――――』
雑音のみ。
「誰か!!」
『――――――――――――――――――――――――――――――――』
MT隊も雑音。
(通信が使えない?
幽霊の仕業なのか?)
サイドディスプレイに目線を飛ばすもECM濃度は0のまま。
「っ、うおっ!?」
今度は一瞬メインモニターもサイドモニターも映像が途絶えた。
その瞬間、再び顔だけが映し出される。
(新手のいじめか!?
OSにウィルスが入ったか!?
くそ、くそ、くそくそ!)
流石に、これは怖すぎる。
『―――――――――――――――――――――――――――――――――』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
今度は弄ってもいないのに勝手に通信が接続された。
雑音のみなのが余計に怖い。
モニターを見やれば、MT全機が、ぴたりとも動かない。
怖くなってペダルを踏むと、ジャンプする映像が流れた。
同時に一瞬の浮遊感の後、着地の衝撃がエグに伝わる。
(操縦系は正常。
映像も大丈夫。
なら、MTが停止しているのか?
何故停止するんだ?)
『タス――――――――ケテ』
「ひっ!?」
これはマジでやばい!!
機体を車両に寄せて、兎に角物資の安全を最優先する。
もうエグの頭の中は最大の脅威である筈のジオ社側のレイヴンの存在がない。
代わりに物資の安全と幽霊の声だけがエグの思考を支配しようとする。
(何が助けてだ!
助けて欲しいのは俺の方だ!
何が悲しくて幽霊の所に来なくちゃ行けないんだよ!
仲間が其処にいるのに返事がないとか怖いにも程があるだろ!?
エレン、エレン!!
何で通信が繋がらないんだ!
幽霊とお喋りなんざ勘弁してくれぇえええええ!!!!!)
いっそちびってしまった方が気を落ち着けるんじゃないか、なんて考えがよぎり出す。
悲しかな、その類を抑える薬は出撃前に飲むのが決まりである。
服用してしまったのである。
出したくても出せない。
それが恐怖になる。
出撃前に防御力が〜〜なんて考えていた自分を殴り飛ばしたい。
それ位怖い。
全てが怖くなって、敵ACの出現の恐怖が消し飛んだ頃だった。
『タス――ケテ』
『タ――ケ――ア――』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」
再び通信。
『た――けて――た――』
「怖い怖い怖い怖い」
『た――助け――助けてくれ――』
「怖いこわ――うん?」
『た――けて――助けてくれ、エグ!!』
車両からだ。
カメラを上げると、黒い物体が浮遊しており、沢山のそれが車両の周りを行ったり来たりしていた。
完全な固体ではなく、煙の様に常に輪郭が揺れている。
浮遊・黒い・輪郭が分からない。
見事にホラーを語る三拍子だ。
「う、うわあああああああ!!」
モニターにそれが沢山映り、ロックマーカーがあっちこっちに飛び回る。
「来るな来るな来るな来るな来るな、こっちに来るんぁあああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
堪らずトリガーボタンを押しっぱなしにする。
ズガギャギャギャギャ!!!!
酷い金属音の様な発射音と共に弾丸が撃ち出される。
黒い何かを順調に減らすエグ。
数が減っている事に気づき始めたエグは、冷静さを取り戻し恐怖に支配されていた思考を取り戻し始めた。
頭の中が『怖い物を排除する』事から『敵戦力の掃討』と云う最もらしい、それに変化していた。
死神の姿をした敵が鎌を振り下ろす。
冷静に右に回避し、ブースターを吹かして旋回しながら―つまり敵を正面に捉えながら、旋回し、レーザーブレードで一閃する。
敵は相変わらず浮遊しているが、よろめいた。
効いている様だ。
ならば問題ない。
敵の攻撃力が、どれだけあろうが相手は接近戦しか出来ない。
であれば、当たらなければ如何と言う事はない。
「っふ!!」
歩行ペダルを踏みながら操縦桿を倒してブーストペダルを踏みつける。
横に振られた鎌を飛び越え、敵の肩に脚部を叩き付け、そのままメインブースターだけで後ろに下がる際の自動運動で、脚部が前に突き出されるのを利用して、敵を壁に叩きつける。
「もう一発!!」
鎌を苦し紛れに降ろうとする敵。
だが、鎌の方向と逆に振ろうとしていた。
其処をエグ機のレーザーブレードが焼き飛ばす。
中途半端に振られた鎌が壁に刺さって消える。
逃げようとする敵へマシンガンを乱射。
至近距離で乱射のほぼ全弾を叩き付けられた敵が爆散する。
『…お?』
『機体システムが復旧した!?
一体何があったんだ?』
通信状況を一通り確認したエグが訪ねる。
「モニターは映っていたのか?」
『映るも何も、システムダウンしてたからなあ。
一応、発砲音っぽいのとレーザーブレードの起動音は聞こえたけど。
誰かが戦ってるって事は、流れ弾来ないかな、って。
怖かったぜ、ふう』
『―――』
(エレンは相変わらず、か。
何だったんだ、今のは?)
生物をロックオンするには頭部に生体センサーが必要だ。
なら幽霊も元は生物だったのだからセンサーが必要な筈だ。
或いはロックオン出来たのは『生きていなかった』からかも知れない。
ともあれ、あれは一体何なのだろうか。
一応、このドームには無法者が居る筈だ。
無法者の幽霊だろうか、と考える。
が、車両に群がるのは兎も角、死神の様な姿は一体何なのだろうか。
ジオ社に雇われたレイヴンのACに殺され、その際ACが死神に見えたのなら、ぎりぎり分からなくもないが。
兎に角、此処から去った方が良いのは、分かり切っている事だ。
「物資は無事だろうな?」
『荷台にあるからな。
連中が悪さしてなきゃ、大丈夫な筈だ』
「…最悪安全を考えて全部捨てる必要もあるかもな…」
小さく呟いていると、又新たに通信が入った。
『エグ、エグ!
返事して、お願い!!』
エレンだ。
悲痛な声でエグに呼び掛けている。
「聞こえる。
俺もさっき迄エレンやMT部隊と連絡出来なかった」
『至近距離なのに?』
「ああ。
敵襲…撃退出来たが」
『なら早く逃げて!
後ろからジオ社のレイヴンが!
二機来るわ!!』
『何だって!?』
MTのパイロットが驚きの声を上げた。
シュウウ…
「集音マイクに反応。
確かにACのブーストダッシュ音だ。
全車両、全速離脱!
MTは、これを援護!
俺が最後尾につく、援護を頼む!!」
『了解!』
『エグ、見つかったらアウトだから』
「なら姿を見せた瞬間、一斉放火だ!」
シュウウウ…!!
『近い!』
シュウウウウ!!
「オールウェポン・フリー体勢!」
シャウウウウウン!!!
姿が見えた。
「撃ち方初め!!」
広めの通路一杯にレーザーや弾丸が滝の様に流れる。
敵ACは深緑の逆関節軽量型で、マシンガンとパイルバンカー、ミサイルで武装していた。
ミサイルに引火したのか、予想外な程に盛大な爆発で、転倒して機能停止する。
『二機目…横よ!!』
瞬間、黒い四脚のACが拡散型ハンドガンを炸裂させる。
着弾した周囲が小さく爆ぜる。
『化学エネルギー弾…榴弾かよっっ!!』
『くそったれが!
脚部が!!』
『援護する、先に行け!』
『ああ、悪ぃ』
逃げるMTと、それを追う為の進路を塞ぐMT。
横からエグがレーザーブレードを振るうも、寸前で逃げられる。
「流石四脚。
気持ち悪い位旋回が速いな!!」
上から腕のカノン砲を撃ち続ける敵AC。
「いい加減、落ちろ」
MTの加勢もあって弾幕は激しいのだが、中々動きを捉えられない。
着地したと思ったら後ろ足でジャンプして、壁にぶつかると思えば壁を蹴る。
そんな動きの中、時折オーバードブーストを混ぜて来るのだから腕の運動が間に合わない。
「じれったい!!」
と、漸く着地したと思いきや、空中にいた時の慣性で左へ移動していたのに、着地した瞬間、右へ移動し出したのだ。
更に今度は前足で跳躍し、後ろ足で更に跳躍し、ロングジャンプをして見せたのである。
そして、そのままエグ機へ後ろ足を叩き付け様とする。
咄嗟にサイドブースターを吹かして左に動きながらブレードを振るい、回避する事が出来たエグは、ブースターを吹かしながら旋回し、オーバードブーストペダルを踏んだ。
莫大な推力で機体が吹っ飛び始めた瞬間、右旋回と同時にオーバードブーストを停止し、その間にマシンガンを叩き込む。
背後を取られて焦ったのか相手は後ろへジャンプしようとするも、エグがマシンガンを撃ちながら、レーザーブレードを直撃させ、ついに敵ACが大破した。
『敵AC撃破』
「良し、急いで離脱するぞ!!」
『了解!!』
こうして彼らはギリギリ、ドームを脱出したのであった。
以降、彼らのコロニーでは、そのドームへ近付かない様に検討されるも、企業の監視の厳しい地上で運搬するより、ある程度監視率の低い地下ドームを通過した方が安全だと判断され、迂回路交通案は却下された。
理由は他企業運営住居用地下ドームに比べ、工場地区もあり、構造上物理的視界が悪く、電子索敵に自信のある上層部が「装備を充実させれば大丈夫。
今回は護衛部隊の油断が原因」とし、エグ達の言う「幽霊の様な何か」はジオ社の新型兵器のプロトタイプか、それを隠す為の装いをした多種兵器と一考した。
エグも、プロトタイプ云々は納得出来たが、何故合体出来たのか、何故合体能力を持っているのか、が気になり、この件について納得できずにエレンやMTパイロット達と一緒に頭を捻るのであった。
13/05/09 16:37更新 / 天