旧企業地下大規模プラント争奪戦争 OK
大陸の遥か東西に存在する超規模な交通システム。
旧技術では地上進出が出来なかった為、人類は地下へ移住する事を余儀なくされた。
そんな時代、数多くの大型地下都市の市民の食料の大半は旧時代に確立された地下農業生産技術に頼った物で、それ故に現時代迄発展が継続された物だ。
無論全ての都市、市民の平等に、必要数供給するのは無理があり、故に暴動が発生した。
だからこそ、レイヴンには有難い時代でもあり、AC開発により利益を得ている企業にも有意義なシステムであった。
企業間のプラント数と規模は、一社のみならず地下社会全体の在り方すら左右する重要にして重大な要素であった。
そんなある日、遂に不十分なシステムに反抗した市民が同時多発暴動を計画、実行した。
それぞれの規模は、それなりに大きく、それ以上に厄介なのが発生数の多さと、その大量の暴動の殆どが同時発生した点である。
システムは、その最重要点たるプラントユニットに委ねられていた。
各プラント制圧こそ順調に終わったが、それでも約一月の間は供給停止を余儀なくされ、大規模な畑荒らしにより一般市民の殆どが飢え、貧民層は大量の食糧を市場へ運び込む事が出来た。
一時の変化は、後のバランスへの要素となり、時代の在り方を一変させる程の大規模な戦争を引き起こす。
プラント強奪被害により疲弊した企業が所有、或いは開発する新兵器の強奪依頼が企業間で多発し、情勢は更なる混沌へ陥る。
混沌の深まりに引き寄せられた軍事強化の必要性により兵器開発は高価なACから安価なMTのコスト維持した高性能化と大量生産のし易さ、同時に大量生産用コロニー開発すら行う大企業が続出した。
この波に飲まれた他の企業が消えた事により、経済に大きな穴が開き、地下世界は極めて不安定な戦争状態に陥った。
地下世界の全人口が2割から1割へ低下した頃、その状態に気付いた各社が連携して、ある計画が発案された。
その第一弾階に於けるのが大規模プラントである。
今でこそ、殆どの企業の地上進出に伴い、世界が再び地上へ戻りつつあるが、一部の大企業以外の殆どの企業が関わる企業間戦争は地下のままだ。
特に近年では生産停止し、上部企業が組織した『企業連合』が戦力を派遣しており、警備部隊ながら高レベルの武装が施されている。
その警備部隊は、多数の暴動組織間の武力衝突から連勝し、激戦区を抜け出した勢力の排除が主な仕事で、警備部隊と別に常に待機している迎撃部隊の猛威故に現在に於いて迄、突破を許す事はなかった。
それでも厄介な存在はある。
武装勢力の中には他の勢力を飲み込んで拡大し続ける類も多く、その大半は格の低い企業となら充分渡り合える程の戦力を保持している。
そんな勢力同士の戦闘的衝突は主に互いが雇ったレイヴン同士の激闘によるものである。
ACを追尾していたミサイル二発がビルへ激突する。
『動きが速い、流石の出力だな!!』
武力組織相手に商売する開発企業も多く、現に敵ACを追っているのはその類の所が販売する最新鋭戦闘浮遊メカだ。
地上世界で運用されている戦闘機にヘリコプター要素を注ぎ込み地下世界での空中戦闘行動に特化した機動兵器で、その火力は小さなガンシップと言える。
平たい形をした戦闘機の主翼に可動式大型プロペラをカバー付きで装備し、角度調整する事で、飛行と滞空浮遊を即座に変更し敵を追う。
計四門のバルカンでACを追うも、突然、その姿が消える。
高度を落として減速したのだ。
背後を取られた事に気づき、浮遊モードに移行しながら、その場で旋回するも間に合わず両動作の途中で4発のレーザーを食らい、機能停止、落下し始め鉄道の高架橋に衝突、真下に落下して道路へビルを抉る様に激突、大炎上する。
『敵飛行兵器破壊。
各リコン、反応データ、リンク…。
敵反応なし、殲滅完了と判断。
帰還する』
所々赤黒く塗装された黒い軽量二脚のACが荒々しく着地し、道路を抉りながら、ブーストダッシュへ移行、そのまま反転しオーバードブーストを点火して離脱する。
撃墜された方は、一人だけ辛うじて生き残れたが、他の操縦士は状態不明だ。
「…生き残ったのは俺一機。
……独り…、か」
落下が始まったと思った瞬間、脱出した彼は、自分の機体が鉄道の高架橋に激突するのを目撃していた。
「…」
着地したのは大穴の空いたビルだった。
何階かは分からないが、このフロアの一番下の道路から数百メートルの高さがあろう筈なのに、何故か黒焦げた戦車の残骸が主砲を壁に突き刺していた。
何だろうと思って、外を見ると大分上の方を通っている高速道路らしき所の一部の壁が崩れており、恐らく其処から落ちたのだろうと分かる。
良く分からないのは、下に落ちた筈なのに刺さっている砲身は勿論、車体その物が水平状態な所だ。
一応、修理すれば動ける範囲は狭いが、移動不能な場所と姿勢でない事は確かだ。
最も修理した所で、この状態では砲台にしかならないし、この高さなら早々役に立つ事もないだろう。
そもそも此処迄修理資材を運べるとは思えないし、した所で如何やって移動させれば良いのか見当が付かない。
一番手っ取り早いのは飛行可能なMTに掴んで貰って降ろすか高速道路に戻すかだろうが、やっても利益が無さ過ぎる。
砲身の刺さり方も不自然だが、仮に技と刺したとして、その真意が何処にあるか分からない。
ふざけてやっているのなら、折角の戦車を無駄にするのは馬鹿や愚か者に値する連中だろう。
「如何して、こうなった…?」
本当に、それ以外の言葉が思いつかない。
経緯も分からなければ意味も分からない。
何故、この様な状態になったのか不明だ。
取り敢えず、戦車を修理するには資材関係で無理だが、戦車自体が資材になる事もある。
そう考えて、砲塔に上ってドアを引っ張る。
一分程引っ張り続けて漸くドアが外れたので、中に入ると、見事に真っ暗だった。
パチン。
ヘルメットのライトを使う。
しかし見えた所で目ぼしい物がある様に見えない。
溜息を零し、後ろを振り返り――その途中で目に入った何かへ顔を向ける。
「…漢字だ。
…何て読むんだろう?
き、さ…らぎ…。
如月、かぁ。
ああ、道理でこんな変な所に戦車が突っ込んである訳だ。
けど、何で突っ込んでるんだろう?」
苦笑する他ないが、やはり意味不明だ。
如月社のマークの入った小さな箱を持ち上げ、観察する。
鍵穴の様な物を見つけ周囲を見回すと、砲塔の梯子の向こうに鍵らしき物を見つけた。
其処迄歩み寄り、手に取った鍵を観察し、それから鍵穴に指して半回転させる。
パカっと小さな音と共に蓋が開いて、可愛らしい音楽が流れ始める。
「な、何だこれ?
オルゴール…!?
何で戦車の中に、こんな物が!?」
改めてライトの光に当ててみると、暗くて分かり難かったが箱自体、かなり可愛いデザインだった。
「ええ〜〜…」
何やってんだ、如月。
そう心の中で突っ込んだ時、変な音が聞こえた。
周囲を見回してみるが、暗いだけだ。
車両の外へ顔を出すも、殺伐としているだけで、取り敢えず向かい側のビルの屋上から企業の看板を突き破って四脚の緑色のACが落っこちる所だけは目撃して、中に戻る。
「あ、…えっ?」
まさか。
そう思い、オルゴールへ耳を近付ける。
――ギュ、ギュ〜〜〜、ギュギ、ギギキィィ…、キイイイ〜〜
まるで周波数の合わない通信音の様な――。
『―――れか―――』
「っ!?」
『――れか、お願い、へん――て!
だ――誰か――』
「嘘…通信!?」
『…誰か!!』
漸く聞こえる程度に雑音が消える。
「でも、これ…ビデオレター?
うーん、映像がないけれども…」
『誰か聞こえる!?』
「聞こえますよ〜〜」
『…駄目ね』
「駄目なんだ」
如何やら、想定した答えは正解らしい。
『…ああ…。
何て事。
さつまいもが…』
如何やら食べ物が駄目になった様だ。
地下世界では割と洒落にならない類だ。
しかし言葉から推測するに、プラントの襲撃者だろうか、と考えつつ続きを聴く。
『…もう。
何でプラントの中に戦略級兵器が待ち構えているのよ。
意味が分からないわ。
何も育ててなかったみたいだけど、畑を容赦なく機銃で駄目にするんなんてどうかしてるわ…』
(兵器?
企業も随分過激な…)
『駄目ね。
そろそろ追手が来る…。
音声だけでも…』
其処で別の声が入る。
『え?
何?
スイッチ入ってるの?』
(道理で独り言が録音されている訳だ)
その段階から録音されている様だ。
『何録音してたの?
オルゴールの音楽?
そんな物、オルゴールだけで良いじゃない?
…売る?
売っても売れないわよ、オルゴールの音だけだなんて…。
良い?
オルゴールってのはオルゴールがあって――戦車を走らせて!
追手が来た、早く!!』
音声に爆音が聞こえる。
続いて車のエンジン音。
『お願い誰か!』
急に声が近くなる。
焦って握り締めているのだろう。
『誰でも良い。
ファレッツェの連中でも良い!!
誰でも良いから皆に伝えて!
あのプラントに居るのは生体兵器と―――』
音声は此処迄。
爆音や悲鳴が切れる寸前に聞こえて来たがブツッと不快な断絶音の後、音楽も声も爆音も、何も聞こえなくなった。
生体兵器と何か――恐らく最初に言っていた戦術級兵器とやらが待ち構えているとでも言いたかったのだろうが、最後の爆音で納得出来た点がある。
如何やら高速道路走行中に敵の撃った弾が爆発か直撃かして此処に落ちたのだろう。
爆風で吹き飛ばされたのなら、壁に突っ込んで、そのまま――と言う訳ではなさそうだ。
(生体兵器…。
そう言えば如月社が最近変な研究してるって噂は聞きはするけど…)
オルゴールを持って戦車から出てビルを探索する。
この階は特に目ぼしい物はない様だ。
その上の階は屋上の様だが、激戦が続いており、外に出ない方が良いだろう。
そう思ってドアから離れた瞬間、周囲が爆発で薙ぎ飛ばされる。
急いで中に戻り、そのまま階を降りる。
途中、激しい揺れが起き、何事かと振り返るも、廊下の壁や床、天井に変化はない。
胸を撫で下ろして螺旋階段へ近付く。
だが、このロビーはガラスの向こうに沢山の兵器の残骸が散乱しており、外から丸見えだ。
「うわ!?」
ミサイルを食らった特殊戦闘ヘリがガラスを突き破って頭上の壁に激突し、次いで幾つものミサイルが着弾して様々な物を吹き飛ばす。
床が崩れ、爆心地へ傾き始めたので、急いで狭い通路の所へ戻る。
間一髪、崩壊に巻き込まれる事は免れたが、崩壊した床が下の階を巻き込み、更に下の階が…と次々と下の階が巻き込まれ、螺旋階段も崩壊し大きな窓ガラスを引っ掻きながら一階迄崩壊し切ってしまった。
だが、収穫になるだろうと思っていた箱が瓦礫の中へ落ちてしまった。
飛び込んだは良いものの、廊下の床迄大きく傾いたので壁を掴んだ為だ。
もう片方の手も其処に掛け、体を持ち上げる。
「うん…しょっっ…っと!」
壁と床の間に体を置いて一息つく。
「はあ、はあ。
駄目だ、内側から降りないと危ないよ…、はあ」
――激しい銃撃戦。
だが、それは『只の銃撃戦』ではない。
両者共に激しく動き回る。
AC対ACのレイヴン同士の戦闘である。
一機は赤黒い丸みのある重量二脚の重装甲型。
もう一機は重逆関節の左腕がガトリングガン、右腕が大型レーザーブレードの所謂『武器腕』のAC。
右背部は上に突き出したユニットに乗っている皿状の回転し続ける装置。
これ全体は即ちレーダーである。
反対側にはミサイルがある。
それを重量級へ3発発射する。
重量級は両肩の装甲のハッチを開き、小型ミサイルを大量に放って、敵ミサイル3発を撃破する。
残ったミサイルは逆関節型へ向かうが、逆関節側もブーストダッシュで後退しながらガトリングガンで、ある程度のミサイルを叩き落とす。
それでも残った一発はレーザーブレードのモード変更による光波射出で薙ぎ払う。
小型ミサイルを破壊された重量級はオーバードブーストでビルの向こう側へ逃げ込む逆関節を追う為、やはりオーバードブーストを使用する。
左へ80度程急旋回する必要があるので、最初は右操縦桿を左操縦桿より前に倒して、左サイドブーストペダルを踏みながら、右足でサイドブースターの出力調整ペダルを軽く自分側へ倒れる様に踏み、結果として重量級ACは右足を前に出して左肩のブースターの低出力噴射で機体を右側に寄せて、ビルに当たらない様、旋回半径を少し広げた。
その後、反対側のサイドブースターで軸を調整し、オーバードブーストに加えてメインブースターによるブーストダッシュで加速する。
一瞬でコンデサ内の電力が干上がるが、莫大な推力故に浮き上がった機体を振り向かせるには数秒で事足りる。
自分より明らかに重いであろう機体に、さも当然の様に追い抜かされた逆関節ACのレイヴンは当然驚き、当然の反応としてオーバードブーストを停止しバックブースターで減速する。
しかし、そのまま後退するのでは減速から加速に移り変わる間に攻撃されるので、右側へメインブースターと脚部に内蔵されたブースターの推力を活かして飛び上がり、ビルを蹴って更に上昇する。
その直前に放たれた砲弾がビルの抉れた部分をさらに破壊する。
逆関節型に対して、発射されたのは、重量級が右手に持つ、正面から見ると右腕部その物を隠してしまう程の大きさのバズーカである。
外した、と重量級側のレイヴンが舌打ちする。
即座に両操縦桿の使用装備変更ボタンを押し、使用兵器を変更する。
メインモニターに表示されていたロックサイトが一瞬姿を晦まし、直後にもう少し大きなロックサイトになってメインモニターの視界に現れる。
逆関節型が上からガトリングガンを撃ち下す。
それに対し、操縦桿を左に、同方向のサイドブースターを蹴りつける様に踏んで直後に機体を右直角方向へ旋回させてメインブースターのブーストペダルを踏み込む。
ビルの窓ガラスがプラズマの電磁波と熱、圧倒的な風圧に負けて、沢山のガラスが一斉に割れる。
広くなったロックサイトに敵を入れ、ロックオンを待つ。
背部(肩の後ろにある接続部の名称)、その両方には大型のマルチコンテナ射出装置が装備されている。
通常はミサイルを発射するが、この装備は推進機能搭載型ミサイルコンテナを射出するので、三次元的広範囲にミサイルが広がる。
その結果として地上で使うと、下に発射される分が地形で無効になるが、上に発射する分には問題ない。
二つのロックサイトに敵ACを捉え、FCSによるロックオンを待つ。
ロックオン完了次第、両操縦桿の兵装使用ボタンを入力、発射する。
太い白煙を後方に伸ばしながらコンテナが風を切る。
放たれたコンテナに反応し、オーバードブーストで真横を通過しようとする逆関節型だが、その間は近い方のコンテナへガトリングガンを掃射していた。
一つが撃破され、大爆発が起こる。
もう一発は目標を見失い辺りに滅茶苦茶にミサイルを乱射し、上擦りに旋回して地下都市の天井へ激突、やはり大爆発した。
擦れ違い様にレーザーブレードを振る逆関節型と、それを左腕の大型エネルギーシールドで防ぎつつ、バズーカの砲口を敵へ向けようとする重量二脚型。
結局、二回目のコンテナミサイルを使用した重量二脚AC。
放たれたコンテナの内一つはミサイルを発射し始めた頃にガトリング掃射で破壊されるが、もう一つは爆炎の中をミサイルを撃ちながら突き進む。
迎撃が間に合わないと判断し、レーザーブレードを振ってコンテナを破壊するも、装甲の大部分が吹き飛び、レーザーブレード腕部は使用不能な程に、明らかに外装が消し飛んでおり、コアも黒焦げて、特徴的な丸いフォルムの一部が大きく抉れていた。
制御を失いながらも、稼働し続けているのはロックオン出来るのが証拠だ。
止めを刺す為、両背部の兵装を破棄する。
一次破棄で上の装置が、続く二次破棄で射出装置とコアを繋ぐ接続が解除される。
背面の二つあるハッチが開き、プラズマ粒子を溜め込んで光と軽い電撃を放ち始める。
直後に始まるエネルギー爆発と、それを後方に放つ装置の働きによって重量級ACが凄まじい勢いで進み始める。
そのまま跳躍して何度か壁蹴りをして高度を稼ぎながらバズーカを発射する。
5発中全弾が命中し空中で爆散した重量逆関節型ACの残骸が周囲のビルや自動車を叩き潰す。
そのまま公園の滑り台が設置された丘の地面を抉りながらブースターで減速し、池に入って動きを止める。
周囲に敵反応がない事を確かめ、歩いて池から出るAC(因みにACは10メートル程ある為、池に入っても精々足が濡れる程度なので水没はしない)だが、不意にブーストダッシュしてビルの陰に隠れる。
企業のノーマル部隊だ。
敵は市街地戦に特化した警備隊。
その目的故、索敵能力は通常のACより遥かに高く、速度はAC程出ないが、中量二脚のノーマルは、非常に厄介な機動性を持つ。
それ以上にパイロットが街の構造を頭に叩き込んでいるのは当然だろう。
その場合、マップで確認する以上に感が物を云う領域だ。
各地を転々とするレイヴンも作戦会議時に構造図を覚えるが、長年同じ所を警備していれば、その精度は別格だろう。
非常に拙い。
レイヴンの背に寒い物が走る。
幸運なのは、『企業の警備部隊』である点だ。
無論、装備の質は落ちるが、質が悪いのは『街に住むメンバーで構成された警備部隊』だ。
警備するだけでなく、実際に住んでいれば大きなノーマルからのカメラを介した視界で確認出来る以上の確認が容易だ。
そんな警備部隊は、敵ACを追う際、狭い路地を積極的に利用するそうだ。
様々な武装組織から腕の良さで英雄と称えられるレイヴンは、この時代では、その手のノーマル警備部隊に呆気なく倒されているのが大半だ。
そんな連中を相手に逃げるのは嫌なのは誰でも同じ事だ。
だが、『企業の警備部隊』でも、メンバーが企業の職員とは限らない。
例え、そうでも出身が此処では結局、危険度が跳ね上がるのだから。
どの道、油断するのは馬鹿な行為である訳だ。
「個は群に潰される……か。
………俺も…その程度―――」
―――或いは――。
この数を相手に生き延びれる事が出来れば、自分の名が格を上げる。
「――命か…名か…任務…か、か。
…なら……!!」
右操縦桿の兵装使用ボタンと使用装備変更ボタンを同時に長押しする。
ディスプレイにバズーカ破棄の報告と、格納兵装解放の文字が表示される。
右腰の格納庫から手持ち式の小さいレーザーブレードを取り出す。
左腕のシールド機能を停止させ、左腰から小型アサルトライフルを取り出して準備を済ませる。
「さて、生き延びられるかは―――俺次第だ!!」
旧技術では地上進出が出来なかった為、人類は地下へ移住する事を余儀なくされた。
そんな時代、数多くの大型地下都市の市民の食料の大半は旧時代に確立された地下農業生産技術に頼った物で、それ故に現時代迄発展が継続された物だ。
無論全ての都市、市民の平等に、必要数供給するのは無理があり、故に暴動が発生した。
だからこそ、レイヴンには有難い時代でもあり、AC開発により利益を得ている企業にも有意義なシステムであった。
企業間のプラント数と規模は、一社のみならず地下社会全体の在り方すら左右する重要にして重大な要素であった。
そんなある日、遂に不十分なシステムに反抗した市民が同時多発暴動を計画、実行した。
それぞれの規模は、それなりに大きく、それ以上に厄介なのが発生数の多さと、その大量の暴動の殆どが同時発生した点である。
システムは、その最重要点たるプラントユニットに委ねられていた。
各プラント制圧こそ順調に終わったが、それでも約一月の間は供給停止を余儀なくされ、大規模な畑荒らしにより一般市民の殆どが飢え、貧民層は大量の食糧を市場へ運び込む事が出来た。
一時の変化は、後のバランスへの要素となり、時代の在り方を一変させる程の大規模な戦争を引き起こす。
プラント強奪被害により疲弊した企業が所有、或いは開発する新兵器の強奪依頼が企業間で多発し、情勢は更なる混沌へ陥る。
混沌の深まりに引き寄せられた軍事強化の必要性により兵器開発は高価なACから安価なMTのコスト維持した高性能化と大量生産のし易さ、同時に大量生産用コロニー開発すら行う大企業が続出した。
この波に飲まれた他の企業が消えた事により、経済に大きな穴が開き、地下世界は極めて不安定な戦争状態に陥った。
地下世界の全人口が2割から1割へ低下した頃、その状態に気付いた各社が連携して、ある計画が発案された。
その第一弾階に於けるのが大規模プラントである。
今でこそ、殆どの企業の地上進出に伴い、世界が再び地上へ戻りつつあるが、一部の大企業以外の殆どの企業が関わる企業間戦争は地下のままだ。
特に近年では生産停止し、上部企業が組織した『企業連合』が戦力を派遣しており、警備部隊ながら高レベルの武装が施されている。
その警備部隊は、多数の暴動組織間の武力衝突から連勝し、激戦区を抜け出した勢力の排除が主な仕事で、警備部隊と別に常に待機している迎撃部隊の猛威故に現在に於いて迄、突破を許す事はなかった。
それでも厄介な存在はある。
武装勢力の中には他の勢力を飲み込んで拡大し続ける類も多く、その大半は格の低い企業となら充分渡り合える程の戦力を保持している。
そんな勢力同士の戦闘的衝突は主に互いが雇ったレイヴン同士の激闘によるものである。
ACを追尾していたミサイル二発がビルへ激突する。
『動きが速い、流石の出力だな!!』
武力組織相手に商売する開発企業も多く、現に敵ACを追っているのはその類の所が販売する最新鋭戦闘浮遊メカだ。
地上世界で運用されている戦闘機にヘリコプター要素を注ぎ込み地下世界での空中戦闘行動に特化した機動兵器で、その火力は小さなガンシップと言える。
平たい形をした戦闘機の主翼に可動式大型プロペラをカバー付きで装備し、角度調整する事で、飛行と滞空浮遊を即座に変更し敵を追う。
計四門のバルカンでACを追うも、突然、その姿が消える。
高度を落として減速したのだ。
背後を取られた事に気づき、浮遊モードに移行しながら、その場で旋回するも間に合わず両動作の途中で4発のレーザーを食らい、機能停止、落下し始め鉄道の高架橋に衝突、真下に落下して道路へビルを抉る様に激突、大炎上する。
『敵飛行兵器破壊。
各リコン、反応データ、リンク…。
敵反応なし、殲滅完了と判断。
帰還する』
所々赤黒く塗装された黒い軽量二脚のACが荒々しく着地し、道路を抉りながら、ブーストダッシュへ移行、そのまま反転しオーバードブーストを点火して離脱する。
撃墜された方は、一人だけ辛うじて生き残れたが、他の操縦士は状態不明だ。
「…生き残ったのは俺一機。
……独り…、か」
落下が始まったと思った瞬間、脱出した彼は、自分の機体が鉄道の高架橋に激突するのを目撃していた。
「…」
着地したのは大穴の空いたビルだった。
何階かは分からないが、このフロアの一番下の道路から数百メートルの高さがあろう筈なのに、何故か黒焦げた戦車の残骸が主砲を壁に突き刺していた。
何だろうと思って、外を見ると大分上の方を通っている高速道路らしき所の一部の壁が崩れており、恐らく其処から落ちたのだろうと分かる。
良く分からないのは、下に落ちた筈なのに刺さっている砲身は勿論、車体その物が水平状態な所だ。
一応、修理すれば動ける範囲は狭いが、移動不能な場所と姿勢でない事は確かだ。
最も修理した所で、この状態では砲台にしかならないし、この高さなら早々役に立つ事もないだろう。
そもそも此処迄修理資材を運べるとは思えないし、した所で如何やって移動させれば良いのか見当が付かない。
一番手っ取り早いのは飛行可能なMTに掴んで貰って降ろすか高速道路に戻すかだろうが、やっても利益が無さ過ぎる。
砲身の刺さり方も不自然だが、仮に技と刺したとして、その真意が何処にあるか分からない。
ふざけてやっているのなら、折角の戦車を無駄にするのは馬鹿や愚か者に値する連中だろう。
「如何して、こうなった…?」
本当に、それ以外の言葉が思いつかない。
経緯も分からなければ意味も分からない。
何故、この様な状態になったのか不明だ。
取り敢えず、戦車を修理するには資材関係で無理だが、戦車自体が資材になる事もある。
そう考えて、砲塔に上ってドアを引っ張る。
一分程引っ張り続けて漸くドアが外れたので、中に入ると、見事に真っ暗だった。
パチン。
ヘルメットのライトを使う。
しかし見えた所で目ぼしい物がある様に見えない。
溜息を零し、後ろを振り返り――その途中で目に入った何かへ顔を向ける。
「…漢字だ。
…何て読むんだろう?
き、さ…らぎ…。
如月、かぁ。
ああ、道理でこんな変な所に戦車が突っ込んである訳だ。
けど、何で突っ込んでるんだろう?」
苦笑する他ないが、やはり意味不明だ。
如月社のマークの入った小さな箱を持ち上げ、観察する。
鍵穴の様な物を見つけ周囲を見回すと、砲塔の梯子の向こうに鍵らしき物を見つけた。
其処迄歩み寄り、手に取った鍵を観察し、それから鍵穴に指して半回転させる。
パカっと小さな音と共に蓋が開いて、可愛らしい音楽が流れ始める。
「な、何だこれ?
オルゴール…!?
何で戦車の中に、こんな物が!?」
改めてライトの光に当ててみると、暗くて分かり難かったが箱自体、かなり可愛いデザインだった。
「ええ〜〜…」
何やってんだ、如月。
そう心の中で突っ込んだ時、変な音が聞こえた。
周囲を見回してみるが、暗いだけだ。
車両の外へ顔を出すも、殺伐としているだけで、取り敢えず向かい側のビルの屋上から企業の看板を突き破って四脚の緑色のACが落っこちる所だけは目撃して、中に戻る。
「あ、…えっ?」
まさか。
そう思い、オルゴールへ耳を近付ける。
――ギュ、ギュ〜〜〜、ギュギ、ギギキィィ…、キイイイ〜〜
まるで周波数の合わない通信音の様な――。
『―――れか―――』
「っ!?」
『――れか、お願い、へん――て!
だ――誰か――』
「嘘…通信!?」
『…誰か!!』
漸く聞こえる程度に雑音が消える。
「でも、これ…ビデオレター?
うーん、映像がないけれども…」
『誰か聞こえる!?』
「聞こえますよ〜〜」
『…駄目ね』
「駄目なんだ」
如何やら、想定した答えは正解らしい。
『…ああ…。
何て事。
さつまいもが…』
如何やら食べ物が駄目になった様だ。
地下世界では割と洒落にならない類だ。
しかし言葉から推測するに、プラントの襲撃者だろうか、と考えつつ続きを聴く。
『…もう。
何でプラントの中に戦略級兵器が待ち構えているのよ。
意味が分からないわ。
何も育ててなかったみたいだけど、畑を容赦なく機銃で駄目にするんなんてどうかしてるわ…』
(兵器?
企業も随分過激な…)
『駄目ね。
そろそろ追手が来る…。
音声だけでも…』
其処で別の声が入る。
『え?
何?
スイッチ入ってるの?』
(道理で独り言が録音されている訳だ)
その段階から録音されている様だ。
『何録音してたの?
オルゴールの音楽?
そんな物、オルゴールだけで良いじゃない?
…売る?
売っても売れないわよ、オルゴールの音だけだなんて…。
良い?
オルゴールってのはオルゴールがあって――戦車を走らせて!
追手が来た、早く!!』
音声に爆音が聞こえる。
続いて車のエンジン音。
『お願い誰か!』
急に声が近くなる。
焦って握り締めているのだろう。
『誰でも良い。
ファレッツェの連中でも良い!!
誰でも良いから皆に伝えて!
あのプラントに居るのは生体兵器と―――』
音声は此処迄。
爆音や悲鳴が切れる寸前に聞こえて来たがブツッと不快な断絶音の後、音楽も声も爆音も、何も聞こえなくなった。
生体兵器と何か――恐らく最初に言っていた戦術級兵器とやらが待ち構えているとでも言いたかったのだろうが、最後の爆音で納得出来た点がある。
如何やら高速道路走行中に敵の撃った弾が爆発か直撃かして此処に落ちたのだろう。
爆風で吹き飛ばされたのなら、壁に突っ込んで、そのまま――と言う訳ではなさそうだ。
(生体兵器…。
そう言えば如月社が最近変な研究してるって噂は聞きはするけど…)
オルゴールを持って戦車から出てビルを探索する。
この階は特に目ぼしい物はない様だ。
その上の階は屋上の様だが、激戦が続いており、外に出ない方が良いだろう。
そう思ってドアから離れた瞬間、周囲が爆発で薙ぎ飛ばされる。
急いで中に戻り、そのまま階を降りる。
途中、激しい揺れが起き、何事かと振り返るも、廊下の壁や床、天井に変化はない。
胸を撫で下ろして螺旋階段へ近付く。
だが、このロビーはガラスの向こうに沢山の兵器の残骸が散乱しており、外から丸見えだ。
「うわ!?」
ミサイルを食らった特殊戦闘ヘリがガラスを突き破って頭上の壁に激突し、次いで幾つものミサイルが着弾して様々な物を吹き飛ばす。
床が崩れ、爆心地へ傾き始めたので、急いで狭い通路の所へ戻る。
間一髪、崩壊に巻き込まれる事は免れたが、崩壊した床が下の階を巻き込み、更に下の階が…と次々と下の階が巻き込まれ、螺旋階段も崩壊し大きな窓ガラスを引っ掻きながら一階迄崩壊し切ってしまった。
だが、収穫になるだろうと思っていた箱が瓦礫の中へ落ちてしまった。
飛び込んだは良いものの、廊下の床迄大きく傾いたので壁を掴んだ為だ。
もう片方の手も其処に掛け、体を持ち上げる。
「うん…しょっっ…っと!」
壁と床の間に体を置いて一息つく。
「はあ、はあ。
駄目だ、内側から降りないと危ないよ…、はあ」
――激しい銃撃戦。
だが、それは『只の銃撃戦』ではない。
両者共に激しく動き回る。
AC対ACのレイヴン同士の戦闘である。
一機は赤黒い丸みのある重量二脚の重装甲型。
もう一機は重逆関節の左腕がガトリングガン、右腕が大型レーザーブレードの所謂『武器腕』のAC。
右背部は上に突き出したユニットに乗っている皿状の回転し続ける装置。
これ全体は即ちレーダーである。
反対側にはミサイルがある。
それを重量級へ3発発射する。
重量級は両肩の装甲のハッチを開き、小型ミサイルを大量に放って、敵ミサイル3発を撃破する。
残ったミサイルは逆関節型へ向かうが、逆関節側もブーストダッシュで後退しながらガトリングガンで、ある程度のミサイルを叩き落とす。
それでも残った一発はレーザーブレードのモード変更による光波射出で薙ぎ払う。
小型ミサイルを破壊された重量級はオーバードブーストでビルの向こう側へ逃げ込む逆関節を追う為、やはりオーバードブーストを使用する。
左へ80度程急旋回する必要があるので、最初は右操縦桿を左操縦桿より前に倒して、左サイドブーストペダルを踏みながら、右足でサイドブースターの出力調整ペダルを軽く自分側へ倒れる様に踏み、結果として重量級ACは右足を前に出して左肩のブースターの低出力噴射で機体を右側に寄せて、ビルに当たらない様、旋回半径を少し広げた。
その後、反対側のサイドブースターで軸を調整し、オーバードブーストに加えてメインブースターによるブーストダッシュで加速する。
一瞬でコンデサ内の電力が干上がるが、莫大な推力故に浮き上がった機体を振り向かせるには数秒で事足りる。
自分より明らかに重いであろう機体に、さも当然の様に追い抜かされた逆関節ACのレイヴンは当然驚き、当然の反応としてオーバードブーストを停止しバックブースターで減速する。
しかし、そのまま後退するのでは減速から加速に移り変わる間に攻撃されるので、右側へメインブースターと脚部に内蔵されたブースターの推力を活かして飛び上がり、ビルを蹴って更に上昇する。
その直前に放たれた砲弾がビルの抉れた部分をさらに破壊する。
逆関節型に対して、発射されたのは、重量級が右手に持つ、正面から見ると右腕部その物を隠してしまう程の大きさのバズーカである。
外した、と重量級側のレイヴンが舌打ちする。
即座に両操縦桿の使用装備変更ボタンを押し、使用兵器を変更する。
メインモニターに表示されていたロックサイトが一瞬姿を晦まし、直後にもう少し大きなロックサイトになってメインモニターの視界に現れる。
逆関節型が上からガトリングガンを撃ち下す。
それに対し、操縦桿を左に、同方向のサイドブースターを蹴りつける様に踏んで直後に機体を右直角方向へ旋回させてメインブースターのブーストペダルを踏み込む。
ビルの窓ガラスがプラズマの電磁波と熱、圧倒的な風圧に負けて、沢山のガラスが一斉に割れる。
広くなったロックサイトに敵を入れ、ロックオンを待つ。
背部(肩の後ろにある接続部の名称)、その両方には大型のマルチコンテナ射出装置が装備されている。
通常はミサイルを発射するが、この装備は推進機能搭載型ミサイルコンテナを射出するので、三次元的広範囲にミサイルが広がる。
その結果として地上で使うと、下に発射される分が地形で無効になるが、上に発射する分には問題ない。
二つのロックサイトに敵ACを捉え、FCSによるロックオンを待つ。
ロックオン完了次第、両操縦桿の兵装使用ボタンを入力、発射する。
太い白煙を後方に伸ばしながらコンテナが風を切る。
放たれたコンテナに反応し、オーバードブーストで真横を通過しようとする逆関節型だが、その間は近い方のコンテナへガトリングガンを掃射していた。
一つが撃破され、大爆発が起こる。
もう一発は目標を見失い辺りに滅茶苦茶にミサイルを乱射し、上擦りに旋回して地下都市の天井へ激突、やはり大爆発した。
擦れ違い様にレーザーブレードを振る逆関節型と、それを左腕の大型エネルギーシールドで防ぎつつ、バズーカの砲口を敵へ向けようとする重量二脚型。
結局、二回目のコンテナミサイルを使用した重量二脚AC。
放たれたコンテナの内一つはミサイルを発射し始めた頃にガトリング掃射で破壊されるが、もう一つは爆炎の中をミサイルを撃ちながら突き進む。
迎撃が間に合わないと判断し、レーザーブレードを振ってコンテナを破壊するも、装甲の大部分が吹き飛び、レーザーブレード腕部は使用不能な程に、明らかに外装が消し飛んでおり、コアも黒焦げて、特徴的な丸いフォルムの一部が大きく抉れていた。
制御を失いながらも、稼働し続けているのはロックオン出来るのが証拠だ。
止めを刺す為、両背部の兵装を破棄する。
一次破棄で上の装置が、続く二次破棄で射出装置とコアを繋ぐ接続が解除される。
背面の二つあるハッチが開き、プラズマ粒子を溜め込んで光と軽い電撃を放ち始める。
直後に始まるエネルギー爆発と、それを後方に放つ装置の働きによって重量級ACが凄まじい勢いで進み始める。
そのまま跳躍して何度か壁蹴りをして高度を稼ぎながらバズーカを発射する。
5発中全弾が命中し空中で爆散した重量逆関節型ACの残骸が周囲のビルや自動車を叩き潰す。
そのまま公園の滑り台が設置された丘の地面を抉りながらブースターで減速し、池に入って動きを止める。
周囲に敵反応がない事を確かめ、歩いて池から出るAC(因みにACは10メートル程ある為、池に入っても精々足が濡れる程度なので水没はしない)だが、不意にブーストダッシュしてビルの陰に隠れる。
企業のノーマル部隊だ。
敵は市街地戦に特化した警備隊。
その目的故、索敵能力は通常のACより遥かに高く、速度はAC程出ないが、中量二脚のノーマルは、非常に厄介な機動性を持つ。
それ以上にパイロットが街の構造を頭に叩き込んでいるのは当然だろう。
その場合、マップで確認する以上に感が物を云う領域だ。
各地を転々とするレイヴンも作戦会議時に構造図を覚えるが、長年同じ所を警備していれば、その精度は別格だろう。
非常に拙い。
レイヴンの背に寒い物が走る。
幸運なのは、『企業の警備部隊』である点だ。
無論、装備の質は落ちるが、質が悪いのは『街に住むメンバーで構成された警備部隊』だ。
警備するだけでなく、実際に住んでいれば大きなノーマルからのカメラを介した視界で確認出来る以上の確認が容易だ。
そんな警備部隊は、敵ACを追う際、狭い路地を積極的に利用するそうだ。
様々な武装組織から腕の良さで英雄と称えられるレイヴンは、この時代では、その手のノーマル警備部隊に呆気なく倒されているのが大半だ。
そんな連中を相手に逃げるのは嫌なのは誰でも同じ事だ。
だが、『企業の警備部隊』でも、メンバーが企業の職員とは限らない。
例え、そうでも出身が此処では結局、危険度が跳ね上がるのだから。
どの道、油断するのは馬鹿な行為である訳だ。
「個は群に潰される……か。
………俺も…その程度―――」
―――或いは――。
この数を相手に生き延びれる事が出来れば、自分の名が格を上げる。
「――命か…名か…任務…か、か。
…なら……!!」
右操縦桿の兵装使用ボタンと使用装備変更ボタンを同時に長押しする。
ディスプレイにバズーカ破棄の報告と、格納兵装解放の文字が表示される。
右腰の格納庫から手持ち式の小さいレーザーブレードを取り出す。
左腕のシールド機能を停止させ、左腰から小型アサルトライフルを取り出して準備を済ませる。
「さて、生き延びられるかは―――俺次第だ!!」
13/06/03 21:01更新 / 天