件(くだん)

 最近ではあまり見かけないけど、証文など契約書を書くとき、末尾を「よって件の如し」としめくくる場合があります。
 この、「件」って何の件のことでしょう。どの件のようにすれば良いのでしょうか。
 実は、この「件(くだん)」というのは、妖怪の名前です。その姿は人面牛体で、生まれるとすぐに予言をし、すぐに死んでしまいます。そして、その予言は百発百中で絶対に外れないことから、「よって件の如し」とは、「確実に遂行すべし」という意味になるのです。なお、天保7年に丹波国与謝郡の瓦版に次のような記事が載っています。

 天保7年申12月丹波の国倉橋山の山中に、図の如くからだは牛面は人に似たる件という獣出たり。昔宝永2年酉の12月にも此件出たり、翌年より豊作打ちつづきしこと古き書に見えたり。文字は人偏に牛と書いて件と読す也。
 然る心正直なる獣の故に都て證文の終にも如件と書も此由縁也

 天保7年といえば、有名な天保の大飢饉の頃です。この瓦版の発行者は件出現のニュースを演出することで、来年こそはと希望を託したのかもしれません。ちなみにこの飢饉は天保10年まで続きました。