天高く…

 秋ですねぇ。秋というと、まぁマスコミなんかが、うらうらとした秋の陽気と牧歌的な風景を指して、「天高く馬肥ゆる秋と申しますが・・」なんて言うのをよく耳にします。「馬肥ゆる」などというあたり、牧歌的というにふさわしい言葉に感じます。でもね、この言葉のもともとの意味は、秋だ、のどかだ、お馬さんだなどと穏やかなものじゃないんです。
 この言葉が最初に見られるのは「漢書匈奴伝」という書物といわれています。漢書というのは日本史お好きな方ならご存知でしょう、「夫れ楽浪海中に倭人あり、分かれて百余国と為る。歳時を以って来り献見すと云ふ」と、倭国(日本の旧称)について書かれた最も古い書物が、同じ「漢書」の地理志でしたね。匈奴伝というのは漢書の中で匈奴について書かれた部分のことです。匈奴というのは蛮族という意味で、ここでは北方の騎馬民族を指します。ジンギスカンの例を挙げるまでもなく、古代中国において彼ら騎馬民族は、大変な脅威で秦の始皇帝がその侵入を防ぐために、万里の長城を築いたということは超有名なお話。
 その匈奴伝の中に、「秋至れば馬肥え弓勁く(つよく)、即ち塞に入る」とあります。塞とは北方の国境付近に設置された砦のこと。つまり、「秋になると馬が太り、弓も強く張れるようになる。だからすぐに(騎馬民族たちが)砦に攻め込んでくるぞ。」せやから気ぃつけな殺されてまうでぇ、というのが本来の意味です。現代のように、「あぁ秋だねぇo( _ _ )o」、「栗ご飯だねぇ(-_-).。oO」「松茸食いてぇなぁ(´〜`)」などとやってたらァとられちまうわけですよ。
 「海老で鯛」と同様、長い歴史の中で本来とは逆の意味になってしまった言葉なんです。