浦島太郎

 浦島太郎が亀を助けた恩返しに竜宮城に行き、楽しい時を過ごした後、帰ってみると700年が過ぎ去っており、知る人もなく途方にくれ、開けてはならぬと渡された玉手箱を開けてみると白煙が舞い上がり、髭だらけのおじいさんになってしまった。

 これは誰もが知る昔話「浦島太郎」のあらすじ。でも誰もが子供心に疑問を持ったことでしょう。浦島太郎は亀を助けたばっかりに親や仲間たちから永遠に別れ、独りぼっちになってしまった。なぜ開けてはいけない玉手箱なんか渡したのか―

 昔話「浦島太郎」の話の原典としては室町時代に成立した「御伽草子」が有名です。そして、昔話と御伽草子の決定的な違いは陸に帰ったあとのエピローグにあります。
 昔話では周知のようにバッドエンドとなっていますが、「草子」ではハッピーエンドです。誰が何故、こんな妙なエンディングに書き換えたのか、それは私には分かりません。

 では、「草子」のエンディングはどんなものかというと、帰ってみると700年の時が経っていた、これは同じ。玉手箱を開けたら白煙がもうもうとでて老人に、これも同じ。
 でもこれで終わりじゃありません。太郎はさらに鶴に変身します。鶴になった太郎は蓬莱山に飛び立ちます。一方、乙姫は太郎に助けられた亀で、亀の姿に戻った乙姫が蓬莱山に向かい、二人は結婚します。かくして「鶴は千年、亀は万年」、というわけで、二人は長寿の神となって末永く幸せに暮らしました。と、いうのが「御伽草子」です。これなら納得でしょ?

 では御伽草子版「浦島太郎」のさらにもとネタは何か、というと日本書紀とされています。有名な海彦・山彦の話がそれで、これは兄海彦に借りた釣り針を失くしてしまった弟山彦が塩土老翁(しおつつのおじ。イザナギの子)の案内で海神の宮に行く、と言う内容の話です。
 そして海神の娘、豊玉姫を娶って海神の宮で3年間過ごした後、潮を操る「潮満瓊」(しおみつたま)と「潮涸瓊」(しおひるたま)をもらって兄に復讐し、兄を家来にしてしまうというちょっと首傾げちゃう話ですが、まぁ山彦にしてみればハッピーエンドの話になっています。
 ちなみにこの話は、それまで海洋民族であった日本の先住民を、農耕民族の渡来人が制圧した歴史を語っているいう見方もあります。
 昔話をただの作り話として一蹴するのは簡単ですが、そこに何か史実が隠されていないかと考えてみると、非常に面白い発見があります。例えばシュリーマンのトロイの木馬がそうであったように。