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やぶれっ!住基ネット情報ファイル

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つくれ住民票裁判・高裁判決に抗議する声明

1.はじめに

2007年11月5日、東京高等裁判所(高裁)藤村啓裁判長は、世田谷区住民票不記載処分取消等請求訴訟(つくれ住民票裁判)の1審原告勝訴部分を破棄し、原告全面敗訴の判決を言い渡した。高裁はわずか1回の口頭弁論で結審したにもかかわらず、原判決を覆すという暴挙に出た。判決文を読んでも慎重な審理が進められた形跡を伺うことはできず、原告に対する悪意に満ちた政治的判決であると断じざるをえない。私たちは、この全く許し難い不当な判決に対して厳重に抗議するものである。

2.裁判の概要

婚姻届を出していない両親が生まれた子の出生届を提出する際、「非嫡出子」という差別表記を拒否したために、出生届が不受理となり、住民票が作成されなかった。この裁判は、両親とその子が原告となり、住民票の記載をしない処分の取り消し、住民票作成の義務付け、および損害賠償を求めて世田谷区を訴えたものである。

3.高裁判決の問題点

(1)首長の裁量権・住民票作成義務を否定

出生の際の住民登録について高裁判決は、出生届の受理という戸籍調製を経て職権で住民票の記載を行うことになっているので、自治体首長の裁量権はないとした。戸籍は国の事務であり、住民票は自治体の事務である。両者は別物であるが、おのおのに対する届出が煩瑣であるから住民票の記載が戸籍の届出に連動しているだけであり、戸籍調製がなければ住民票を作成できない必然性は微塵も存在しない。本来、住民基本台帳は当該住民に対するサービスのために存在する。住民基本台帳に登録されていない住民の存在を把握したら、首長には住民サービスのために住民基本台帳に登録する義務まで課されている。

(2)父母の思想信条を踏みにじり「非嫡出子」差別を正当化

高裁判決は、出生の際に無戸籍となった子を職権で住民票に記載すべき場合を例外的に認めているが、出生の届出を行うことによって届出義務者や子が重大な不利益を被る場合に限定し、原告の場合を「父母の個人的信条」の問題として排除した。まさに原告は非嫡出子差別を重大な不利益と感じたからこそ出生届が受理されなかったのである。「支障がないのにその信条によって手続をあえて拒否し届出を懈怠している」という高裁判決は、人間の最も大切にすべき思想信条の自由の重みを解さず、結果的に「非嫡出子の差別は合理的だ」という立場に立っている。その証拠に「非嫡出子の二分の一相続は合理的理由のない差別とは言えず、憲法第14条1項に反するものとはいえない」と断じている。

(3)自治体の裁量権をめぐり論理破綻

高裁判決は、出生届未済の子を住民登録している他の自治体の存在を認めながら、当該世田谷区にはそれを認めないという論理矛盾を来たしている。すなわち、他の自治体の事例について「それは、各自治体が法の枠内で独自に行政を行った結果なのであって、法の下の平等に違反するということはできない」と言いながら、住民票の職権記載については「各市町村が法令解釈に基づいて区々な事務処理をすることは望ましいとはいえず、できる限り統一的な記録が行われるべきものであるといえる」と自治体ごとの裁量権を認めない相矛盾する論理を展開している。判決そのものが論理的に破綻しており、説得力を全く欠いている。

(4)多様な家族関係を否定する「統合と排除」の論理

総じて高裁判決は、婚姻届を出さないパートナーとの関係を排除し、婚外子は差別されて当然だという国際人権規約やこどもの権利条約にも抵触する価値観を貫いている。それはまさに「統合と排除」の論理の徹底であり、日本国家の要請する天皇制的な家族像である「男女の法律婚と家父長制」から外れた人間関係は、戸籍や住民基本台帳に対する登録からも排除するというマニュフェストにほかならない。そこには自治体による住民サービスという視点は全く存在しない。

4.戸籍・住民票の存在意義とは

高裁判決は、住民登録や住民票がなくても、これらがある者と同じ扱いをされる場合が多く、「重大な損害の生じるおそれ」があるとまではいえないと言う。もしそうであるのなら、住民登録や住民票というシステムはやめた方がよいだろう。戸籍や住民票が、住民サービスにとって何ら影響がなく、国家の管理支配のためにだけ存在することを高裁判決が認めるのなら、私たち市民にとってそんな制度は退場していただくほかはない。もちろん住基ネットとともに。

5.私たちが求めるもの

私たちは、さまざまなパートナーとの関係や親子関係が認められ、自由に生きられる社会を希求している。しかし、原告住民に対する世田谷区の対応、および高裁判決は、そうした私たちの思いを打ち砕き、届出婚優位主義に立つ価値観を押し付けるものである。私たちは、万感の怒りをもって本高裁判決に抗議するとともに、最高裁において高裁判決の見直しを強く求めるものである。

2007年12月5日
やぶれっ!住基ネット市民行動



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初版:2007年12月05日、最終更新日:2008年02月04日
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