木工万力

 
 右の画像は、米国製の木工万力である。2001年に米国西海岸へ木工の取材旅行へ行った際、立ち寄った道具屋で購入した。偶然目にして買ったくらいだから、たいした金額ではない。こういう、安価で性能の良い木工道具、特にクランプや万力の類は、米国製に優れモノが多い。

 この万力、本来は作業台に固定して、作業台の機能の一部を担うべきものだろう。しかし私は、作業台に元々作り付けの万力が二ヶ備わっていることもあり、この万力は取り外し式にしている。万力は一枚の板にネジ止めされていて、その板ごと作業台にクランプで固定する。使わない時は、外して部屋の隅に置いてある。

 万力も、工夫次第でその活躍範囲は大きく違ってくる。


 二枚目の画像は、アームチェア06のアームを挟んでいるシーン。万力に、ちょっとした補助具を使っている。補助具と言うほどのものでも無い。二枚の板である。これを使うことによって、万力の締め付け面を外れた位置で、部材をくわえることが可能になる。そうすると、部材を多様なポジションで保持することができ、取り回しが良くなる。要するにこの補助具は、万力の懐を深くする道具(エクステンション)である。

 この場合気を付けなければいけないのは、保持する部材の反対側に、部材と同じ厚さのダミーを挟む必要があるということ。そうしないと、この補助具は全く意味をなさない。ダミーは、わざわざ作らなくても、部材を切断した余りを使えば、同じ厚みで具合が良い。補助具には、固くて、丈夫な板を使うのが好ましい。さもないと、万力の締め付け力がしっかりと伝わらない。補助具を頑丈に作り、万力を強く締めても、部材が動いてしまう場合がある。そのような時は、締め付ける面を濡れ雑巾でサッと拭く。それで摩擦が大きくなり、しっかりと固定される。



 三枚目の画像は、垂直方向のエクステンション。原理は前述のものと同じである。万力は、作業台のサイドに位置するので、立体的で複雑な形状をしたモノを挟もうとすると、作業台が邪魔をしてくわえられない。このエクステンションを使えば、椅子をまるごと保持することができる。この補助具の場合も、反対側にダミーを挟む。画像では、作り置きの同じ部位に使う部品を挟んでいる。








 残りの三枚の画像は、別のタイプの補助具。回転式のカンチレバーとでも名付けようか。厚板に角棒を垂直に取りつけたものである。厚板を万力で挟むと、角棒が片持ち梁(カンチレバー)となる。この角棒の部分に、加工すべき部材をクランプで固定する。

 こんな構造では、グラグラして加工に差し障りが出るのではと思われるかも知れないが、万力の締め付け力の強さと、作業台の十分な重さと、補助具の堅牢な作りによって、事実上問題無い。

 厚板は、下半分が円弧になっているので、万力のスピンドルをかわして、左右90度までスムーズに回転させることができる。この保持具の利点は、部材を回転させ、任意のポジションで固定できる点にある。

 もともと万力というものは、挟む面が鉛直であるから、挟んだ部材の上面を加工するのに適している。側面は、万力に邪魔されて加工できない。だから、側面にアクセスする場合は、いったんネジを緩め、部材を90度回転させて挟み直さなければならない。部材の加工が、上面、側面といった、90度で交わる面に限定されるなら、別に補助具は要らない。では、その中間の角度の部分を加工しなければならない場合はどうするか。

 万力だけでやろうとするなら、作業者が体を傾けて、側面を覗き込むような格好で加工をしなければならない。45度を超えた領域は、部材を90度回転して、挟み直してやるわけだが、いずれにしろ鉛直から45度までは、体を傾けて作業をするしかない。デリケートな加工の場合、そのようなやり方では加工精度が荒くなる。斜めから見て行う作業は、上手くやっているつもりでも、チェックしてみれば、思いの外不揃いが出るものである。

 
 この回転式カンチレバーを使えば、どのような部位でも正対して加工ができる。作業者が希望する角度で部材を固定できるからだ。90度単位でしか反転できない構造に比べれば、加工の自由度に格段の差がある。

 最後の画像は、この補助具を使ってアームチェアCatを保持しているシーン。三次元的な曲面で構成されたこの椅子を、無理なく自然な流れで加工し、所定の精度で仕上げるには、この補助具が欠かせない。



(Copy Right OTAKE 2010.3.16)