道具は自分で作る(2)

    次は南京鉋である。これは曲線形状のものを削るための鉋である。市販品でも売ってはいるが、自分が思い描いたカーブを削るためには、用途に合わせて自作した方が具合が良い。

 台となる樫の角材を、希望のサイズで木取る。その中央にV字形の穴を開ける。刃が納まる溝を掘る。全体に丸みを付け、使い易い形に整える。そして裏側に真鍮の板を張り付ければ出来上がり。真鍮板の目的は、被削材とこすれて台が磨耗するのを防ぐのである。

 刃は、専門店に行けばバラで売っている。これにもいろいろなサイズや形がある。私は東京浅草の水平屋で買い求めたものが多い。水平屋の店主は、「こんなものを買う奴は、近頃滅多にいやしないさ」とこぼしていた。売っている状態では、先が尖ってもいない。それを自分の好みの角度になるようグラインダーで削り落とし、砥石で研いで鋭利に仕上げるのである。

 余談になるが、私はずうっと自作の南京鉋を使ってきたが、最近になって特に小さい円穴を削れるものを一つ、注文で誂えた。製作者は大町市に住む木工家の柏木圭氏。氏は家具や小物など、いろいろな木工品を作るが、南京鉋も得意分野である。いざ出来上がった南京鉋を受け取ると、値段は少々高かったが、実に素晴らしい品物だった。手に馴染む使い易さが抜群だったのである。こうなると、自作の上を行くものが特注品ということにもなろうか。この南京鉋、例えばSSチェアの背板の三次元的な削り加工に欠かせない。

 真鍮板と言えば、市販品の鉋に自分で張ることもある。反り台鉋といって、凹面を削るための鉋などは、やはり台がすり減り易いのだが、市販品は木のままである。それに真鍮の板を張れば、形が崩れず、長持ちする。真鍮ではなく、別の木で埋めることもある。写真の右側三ケは反り台鉋だが、一番右は樫材の木口で埋めてある。木口で埋めるとは、木口が表面に表れるようにして埋めることを言う。同じ材でも、木口は硬いのである。

 写真の左端は、平鉋の小さいものである。いわゆる小鉋であるが、これも刃の手前を樫材の木口で埋めてある。小鉋は角材や板の面取りに使うことが多く、やはり硬いもので補強しないとすり減ってしまって具合が悪い。

 真鍮板にしろ、木口で埋めるにしろ、ぴったり納めるにはそれなりの技術が要る。しかしこれが上手く行けば、それだけでなかなか美しい細工となる。市販品の鉋も、この細工によって見違えるような表情となる。実用を目的とした改造が、見た目にも花を添え、なんだか楽しい気持ちにもさせる。道具に魂が吹き込まれるというのは、こういうことを言うのだろうか。

 

 南京鉋以外にも鉋を作ることがある。写真の右はごく小さい反り台鉋。これくらいのサイズになると、市販品に見つけるのは難しい。この鉋の台は、一つの木の部材に穴を開けているのではなく、予め刃が入る部分を欠き取った二つの部材を合わせて一体としている。この方が簡単にできるので、特に加工が細かくなる小さい鉋には向いている。刃の手前には、補強のために木口で埋めた模様が見えている。

 左は、四角に組んだ枠の内側の面を取る鉋。突き当たりまで削れるように、刃が先端に付いている。刃は、金ノコの刃を流用している。刃を台に固定するのに、クサビが入っている。鉄の棒を横に差し、それと刃の間にクサビを入れて固定するのである。金ノコの刃はギザギザが張り出しているので、台に押し付ければしっかりと固定される。

 さて、自作の工具の中でもっとも単純で、そのわりには意外な程役に立つのが、スクレーパーである。木材の表面をこそぐようにして削るための道具で、薄い鋼板で出来ている、というか、鋼板そのものである。長方形の鋼板は、平面を削るのに使う。曲面を削るには、その曲率に合わせたカーブを持った鋼板を作る。そのようなものをラウンド・スクレーパーと呼ぶ。日本の伝統木工ではあまりお目にかからないが、欧米では頻繁に使われる。使い方次第では、実に便利である。

 作り方は簡単。不要になったノコギリの刃を、好みの形に整形するだけである。鋼板の厚みによって、金切りバサミで切れることもあるし、金属用の糸ノコで切る場合もある。整形の仕上げはグラインダーである。自分の好みの形に、いかようにでも作ることができる。

 スクレーパーも使ううちに切れ味が落ちる。従って、作業の合間にグラインダーで研ぐ必要がある。しかし、鉋やノミなどの刃を研ぐのに比べれば、ひどく大雑把である。しかしそれで良い。そのような道具なのである。

 こんなに簡単な道具であるが、曲面を加工する上では、とても役に立つ。南京鉋でも曲面を削るが、それは細かく見れば曲面とはならず、多面体を成している。鉋の刃は直線だからである。だから私は、南京鉋で一通りの加工を終えた後、ラウンド・スクレーパーで加工面をさらう。そうすると、滑らかな曲面になるのである。スクレーパーを使わない場合は、サンドペーパーで滑らかにするしかない。しかし、堅い広葉樹をサンドペーパーだけで丸くするのは大変だ。スクレーパーの工程を入れた方が格段に作業性が良くなるのである。

 ちなみにアームチェアCatの仕上げ工程では、ラウンド・スクレーパーが大活躍をする。






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