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死の壁」 養老孟司  (新潮新書 2004年)
前作「バカの壁」よりずっと平明なものいいになっているので、非常にわかりやすかった。

 「なぜ人を殺してはいけないのか」の問いには、たとえば復讐の悪しき連鎖を引き起こすからというものから、神の意志にそむくからまで、さまざまな答え方があると思う。養老さんの言われているのは、さらりと、「だって一度殺したらもとには戻せないでしょう」というもの。きわめてシンプルに考えれば、当たり前すぎる話。

 とりかえしのつかない事態というのはどういうことか?そこからいかに罪の意識にリンクするのかな?・・・罪と言うと、ちょっと宗教じみた話になってくる。

 現代生活から「死」(身体性といっても)はきれいに隠蔽された。それゆえいろんな形で不具合が生じる。棺桶をまともに運び出せないマンションがでてきたり、脳死の問題が紛糾したり・・・。本来境界が曖昧なところに無理やり線を引いて「死」を明文化しようとする努力よりも、先になすべきは、確かに要介護の基準の明文化なのでしょう。医療技術が進歩して大半の人にはあまり関係のないややこしい問題が出てきている一方で、もっと身近であらゆる人に起こりうる問題が放置されている、という視点は納得。

養老さんは昭和12年生まれ。畑正憲さんは昭和10年。なんだかこのくらいの年代のひとは、ある程度確固としたバックグラウンドがあるように見える。あえて意識化してしまうと事態がややこしくなってしまうもの、言葉で語り尽くせないもの、理性の範疇におさまりきらず溢れ出してしまうものを現実におそらく経験し、そこに信をおいている、というところか。(あと、文章に似たような雰囲気を感じるのは、山田風太郎・・・3人とも大学で医学を修めているから、なんらか共通点があるのね。)

2004.06.23