back to top
[book] [movie] [art] [sewing]  [photo] [cooking] [BROG;EnglishBooks]>> *ContactMe*
<back

北槎聞略」桂川 甫周  岩波文庫 1990
「おろしや国酔夢譚」井上 靖 文春文庫
「大黒屋光太夫」山下 恒夫 岩波新書

北槎聞略を久しぶりに読み返してみました。 (きっかけは、こけつまろびつの描写をLord of the Ringsと比較してみたこと。詳細こちら>>)

聞き書き、幕府に提出するレポートとは思えないくらい、生き生きとした情景描写、細やかな心情描写が楽しめます。

で、大黒屋光太夫に改めて興味が湧いたので、井上靖の「おろしや国酔夢譚」を読む。光太夫の人となりには同時代の史料から紹介して、客観性と説得力があるし、乗組員一人一人に個性が与えられている。小説としてはなかなか力作だと思うけれど、どうかしら?となんだか歯切れの悪い気持ちになりました。

10年間の艱難辛苦の末、愛国の情から念願の帰国を果たしたが、鎖国制度のもと、幕府の管理下に置かれ、不幸な余生を送ったという、悲劇のヒーローとして描いている、といえるのでしょう。

が、えてして漂流譚というのはそういうものなのかもしれませんが、帰国前後から急激に面白くなくなるのです。悲劇としては最後のドラマが足りないのかしら?波乱万丈の人生が尻すぼみになった、という印象が残ってしまいました。

 なので、読み物としては断然『北槎聞略』のほうが優れている、と言わざるをえないのです。語り手の興奮・情熱・ウキウキ感すら伝わってきますので。

さて、最新の研究による、山下恒夫の「大黒屋光太夫」では、帰国後をそれほど絶望的に描いていません。もともと百姓にすぎなかった光太夫と磯吉に、将軍お目見え資格をもつもの、旗本格の身分保障と、江戸の屋敷と一生分の経済的援助を与えた、として。

結局光太夫は78歳、磯吉は75歳という当時にしてみれば長寿を全うしたわけですから、それなりに穏やかで健やかな生活をした、と考えるのが妥当なのでしょう。


Copyright Yuki I. 2008. All rights reserved.