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「一病息災」 内田百閨@ (中公文庫)
優しい懐かしい日本語だ。

とくにこの中公文庫のは、仮名遣いを現代のものにしていないので、味わいがある。(ちくまから文庫で全集ができつつあるのだけども、こっちはすべて現代仮名。)飄々とした感ひとしほ、といったところ。

エッセイだからかもしれないが、同時代の貴賎尊卑の意識が自然ににじみ出ているようだ。葬式を「お葬ひ」といったり、日本酒は「お酒」。医師は「お医者」。折り目正しいというか、自分の酒好きが病気に悪影響を及ぼすことがあっても、酒は「お酒」。尊いものであることは微塵もゆるがせにしない。

そういえばなくなった祖父も同じような言葉遣いをしていたな。瀬戸内海の地域だからかな?

気になるのはこういう書き方。「飄々」というのは、あざとくないユーモアなのかも知れない。

「 先年来さう云ふ風に段段歯の数が減つて来て、残りすくなになつた。木の葉が落ちる様なもので仕方がない。(中略)
 そこでお膳の上に、あきらめなければならない物が出来て来る。大概のかたい物は食べてゐるが、どうも工合の悪いのは、なまこ、あはび、たこの類である。丸つ切り歯がなくなつてしまへば、或はまた味へるかも知れないが、今のところ口に入れて楽しくない。みんな好物ばかりで未練がないこともないけれど、また今度来てからの事にしよう。」

2004.03.16