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富本憲吉語録Ⅱ

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富本憲吉語録Ⅰ 製陶余録から


陶器に詩はない、然し実用がある。美も用途といふ母体によって産みだされた
美でない限りは皆嘘の皮の皮といふ感がする。用途第一義。


          皿は満開の花
          鉢は半開の花
          而して壺は
          内に香と力をふくんで
          将に開かむとする花に似たり。


花開かぬ毒獨活も亦美しからずや。陶器を見る人、模様のみを見或は素地のみ
を云ふ事、花無き草花の見るにたへずと云ふに等しからずや。


          絵に描き
          皿に彫り
          後、汁にして喰うて仕舞けり
          美と用を兼ねたる
          茗荷の芽。


          山せまれば谷細く深し、人の技にも似たるものあるが如く思う。


          大壺に列むで置かれた水滴、
          何だか大人に寄り添ふ子供のやうで面白いではないか。


          受け載せるための丼、
          半開の花、
          丼開きをはりて一直線に近き皿、
          用途は美しさの一要件、
          轆轤の成形はその美しさの整理。


          窯なき陶工は翼なき鳥のかなしみ、
          築窯なかば雨ふる日、
          なすこともなきさびしき我かな。


          前にも火、
          うしろも火、
          右も左も皆火、
          火を把って火を防ぐ、
          炎々たる火の夢、
          陶工の夢。