行殺(はぁと)新選組りふれっしゅ 近藤勇子EX

第7幕『剣林弾雨の鳥羽伏見』(中編A・伏見の戦い:島田編)


 1月3日午後5時頃。鳥羽伏見の戦いが勃発。鳥羽街道での砲声に呼応するように、薩摩藩本陣の御香宮ごこうのみやと桃山の薩摩藩砲台から伏見奉行所に向けての砲撃が始まった。だが、俺たち新撰組は龍雲寺に『丸に十文字』の旗を掲げてはいるものの、特に何するでもなく静観していた。事前の斎藤情報で近藤さんの新選組が伏見奉行所を追い出されたという事を知ってたからだ(そうでなかったら、御香宮と桃山陣地をあーむすとろんぐカモちゃん砲で瞬殺してたに相違ない。俺は近藤さん命なのだ)。ちなみに俺たち新撰組は幕臣に取り立てられたわけでもないので、幕府方に着く理由もない。今のところ新選組に応援の必要はなさそうだし、応援するとしても、下に薩摩軍がいるので抜けられないし。


「あ〜、戦いが始まったよ〜。ねぇ、島田クン、そろそろ撃ってもいいかな?」

 カモちゃんさんが指を唇に当ておねだりのポーズだ。

「どっちをですか?」

「どっちでもいい! ゆーこちゃんたちは奉行所に居ないんでしょ。
 だったら奉行所を砲撃しようよ」

「でも会津藩の人達がいますよ」

「ん〜。けーこちゃんの部下を攻撃するのはマズいかなあ。
 じゃあ、桃山か御香宮でもいい〜。大丈夫、一撃で沈黙させるから☆」

「うーむ」

 どうやらカモちゃんさんは身内に被害が及ばないのなら、どっちの陣営でもいいらしい。




「もうしばらく様子を見た方がいいな」

 下の防御陣地の視察から戻って来た山南さんが、ひょっこりと会話に加わる。実は俺とカモちゃんさんの会話が、新撰組の行動方針を決定する最高会議だったりすることがよくあるので、山南さんがブレーキ役として交ざってくる事が多々ある。

「え”〜っ。なんでよ〜」

 カモちゃんさんがむくれる。

「僕たちが両方の敵だということを忘れない方がいいな。
 幕府にとって僕たちは裏切り者だし、薩摩にとっては元新選組だからね。
 それに今は薩摩軍が優勢だが、幕府軍は淀に本隊を残したままだ。
 淀の本隊が攻めて来れば戦局は簡単に引っ繰り返る」

「だったら、今のうちに薩摩軍を攻撃して、幕府軍に恩を売っとこうよ」

「それもまずい」

「どーしてよ?」

「僕らは薩摩軍の旗を揚げてるからね。彼らも裏切りは許さないだろう。
 芹沢君のあーむすとろんぐ砲で薩摩の大砲を全て潰したとしても、薩摩や長州、安芸の兵がいる。対して僕らは百名に満たない。とても勝ち目はないよ」

「じゃあ、やっぱり伏見奉行所を砲撃する〜」

「えーと、そうすると、淀の幕府軍本隊がやって来たときに、薩摩軍の巻き添えを食って俺たちもやられちゃうわけですよね」

 確か山南さんがついさっきそう説明してたよーな気が。

「その通り」

「あ”〜も〜、じゃあ、どーすればいいのよ!」

「とりあえず日和見ひよりみしておこう」

「これだから二股男は! 島田クンはこんなオジサンになっちゃダメだからね」

 ちなみに二股というのは、谷三十華みそかと武田観奈かんなの事だ。2人ともオヤジ趣味なので山南さんにLOVEなのだが、当の山南さんはのらりくらりと2人のアタックをかわし続けている。ないすばでぃの谷三十華。知的な美人の武田観奈・・・・この2人を断り続けるとは・・・・実は山南さんってロリコンなのかもしれん。

「島田君、今、何か失礼な事を考えただろう?」

 うお! 鋭い。

「しかし、日和見は武士らしくないのではないですか?」

 とりあえず俺はごまかした。

「そーだ、そーだ。三十華ちゃんか観奈ちゃんか、どっちかはっきりしろー」

 カモちゃんさんの援護射撃。だが、そっちなのか!?

「とりあえず、伏見奉行所の幕府軍や勇子たちが健在な間は、薩摩軍は僕たちに手出しはしない。兵の数では薩摩軍が幕府軍に劣るから、正面の伏見奉行所と背面の龍雲寺の二手に兵を分けるのは得策ではないからだ。だからこちらが何もしなければ彼らが攻めて来ることはないよ。
 逆に下の薩摩軍が健在な限り、幕府軍から攻撃される事もない。間にいる薩摩軍を抜かないと龍雲寺にたどり着けないからだ。したがって大きな動きが見えるまでは僕たちは下手に動かない方がいい」

 真面目な顔でカモちゃんさんの質問を黙殺する山南さん。

「あ〜、ごまかした〜」

「うーむ。じゃ、そういうことで」

 俺はスタコラとその場を逃げ出す。山南さんの正論にカモちゃんさんは押さえ付けられたし、逆にカモちゃんさんの個人攻撃も正論なので山南さんとしても逃げられない。俺がどちらかに味方すると戦局は傾くだろうが・・・・お! これって今の幕府軍VS薩長軍&新撰組の関係と同じじゃん! と、すると・・・・ここは日和見に限るな。うん。そうしよう。

「ちょっとー、島田く〜ん」

「さすがに飲み込みが早いな。彼は」

「まあ、島田くんにはゆーこちゃんっていう彼女がいるからいいのよ。
 問題は山南くんの方なんだから。さあ、三十華ちゃんなのか観奈ちゃんなのかはっきり答えを聞こうじゃないの」

「実は僕が本当に好きなのは、芹沢くん、君なんだ」

 さすがは山南敬助。ごまかしの達人だ。

「う〜ん。山南くんはかわいくないからなあ」

「はっはっはっ。見事にフラれてしまったね。それでは僕も退散するとしよう」

 そう言って山南も逃げ出した。

「・・・・はっ、逃げられたわ。まあ、いっかー。戦火を見ながら一杯やろーっと」

 知恵者の山南の言うことだから、おそらく正しいのだろうということは芹沢にも理解できた。まあ、もう少し経てば、あーむすとろんぐカモちゃん砲を撃つ機会はたくさんあるだろうし。芹沢は諦めるとあらためて呑み始めた。




 陽が落ちた。龍雲寺眼下の伏見市街では、新選組と薩長が戦ってるらしい銃火が花火のように煌いている。同じく眼下の御香宮ごこうのみやでも四ポンド山砲の上げる閃光、そして少し遅れて砲声が聞こえてくる。
 新撰組の本陣にも刻々移り変わる戦況が伝えられてくる。新選組の監察方と言えば、山崎すずめ(※山崎すすむの行殺女性化キャラ)が有名だが、実は谷3姉妹の谷万沙代まさよも監察方なのである。監察として有名でないということは、それだけ彼女が密偵として有能だということだ。新選組の方では山崎雀が、新撰組の方では谷万沙代が、それぞれの配下に命じて様々な情報を集めて来ているのだ。
 谷万沙代の報告によると、伏見の町中において新選組は主に長州藩の兵と市街戦を繰り広げ、どうやら新選組の方が勝ってるらしい。薩摩軍の砲台は伏見奉行所に対して間断ない砲撃を浴びせているが、これといった決定打もないままだ。伏見奉行所に集結している幕府伝習隊を封じ込めるために、薩摩軍が奉行所を包囲したものの、新選組が包囲網の外側からこれを攻撃。包囲網に穴を開け、少なくとも林権助と佐川官兵衛率いる会津藩兵が脱出できたらしい。


「まことー。また薩摩藩から人が来たよ〜」

 下の防御陣地を守っているへー(※藤堂たいら)が報告に来た。鳥羽伏見の開戦以来、度々、薩摩藩の陣地から新撰組も攻撃に参加するよう要請があったのだが、山南さんの言葉をれて、ことごとく無視していたのだが・・・。

「何か、今回は鉄砲隊が来てるよ」

神君しんくん家康公を真似するとは猪口才ちょこざいね!」

 カモちゃんさんがいきどおる。
 家康公の真似というのは、関ヶ原の合戦の故事だ。松尾山に布陣して日和見を決め込んでいた小早川秀秋こばやかわひであきに対し、徳川家康は鉄砲を撃ち掛け脅しをかけ、結果、ビビった小早川勢が東軍についたため、いくさの流れが変わり、家康が勝利したのだ。薩摩方はそれを真似たらしい。

「山南さん、どうしましょうか?」

「とりあえず、一発撃てば薩摩も納得するんじゃないかなあ?」

 と、カモちゃんさん。どうやらどうしても撃ちたいらしい。

「うーむ。日和見もここまでか。万沙代まさよ君の情報では、幕府軍本隊は淀にとどまったままだそうだ。おそらく明日の朝から総攻撃をかける気だろう。それで薩摩軍に余裕ができたんだろうな。確かにこのままではまずい」

「じゃあ、勇子ちゃん達に味方する?」

「いや、新選組や幕府軍は小競り合いに勝利しているだけだ。
 薩長軍の重要施設を奪ったわけじゃないし、戦線を突破したわけでもない。
 しかも今は夜だから新選組と連絡を取って連携作戦を取ることもできない」

「じゃあ、奉行所を砲撃する?」

「遺憾ながら、それしかないだろうな」

「でも、そんな事したら幕府軍の本隊が来たときに、俺たちまでやられませんか?」

 近藤さんに味方したいのは山々だが、間に薩摩藩がいるので、合流する前に俺たちが全滅してしまう可能性が高い。というか、ここにあーむすとろんぐカモちゃん砲があるので俺たちはここから動けないのだ。と、いうのは、ここが絶好の砲撃ポイントだからだ。伏見奉行所も御香宮も伏見市街でも、どこでも射程内に収める事ができる。できるのだが、両方から敵視され孤立無縁なのが困った所で。

「・・・・夜だからどこから撃ったか分からないんじゃないかな? 薩摩藩以外は」

 山南さんが首をかしげる。

「なるほどー」

「じゃあ、さっそく伏見奉行所を砲撃するね」

 そう言い残すと、カモちゃんさんは、ダッシュであーむすとろんぐカモちゃん砲台へと向かった。大砲をぶっ放したくてうずうずしてたからなあ。

「じゃ、へー。俺たち新撰組も奉行所を砲撃する旨を薩摩の人に伝えてくれ」

「うん、分かった」

 短く答えてへーも持ち場の防御陣地へと戻っていく。

「いいのかなあ?」

いくさは時の運だ。なるようになるだろう」

 俺の独り言に山南さんが答える。

「ならなかったらどうするんです?」

「その時は、なるようにするのさ」

 うあ! カッコいい! おとこの台詞だ。あ〜、くそ〜、谷三十華みそかと武田観奈かんなが山南さんに惚れるのが分かるなあ。時々カッコいいからな、この人は。




「阿部クンッ! お許しが出たよ!
 あーむすとろんぐカモちゃん砲発射用意!」

 龍雲寺背後の高台の松林の中に設置されたアームストロング砲台に芹沢が飛び込んで来た。

「了解でありますっ」


「尾栓開け!」

 アームストロング砲は最新鋭の後装砲である。芹沢の命令で阿部が尾栓のハンドルを回す。ネジ式の尾栓が緩められ、ベントバイスの固定が外れる。

「ベントバイス解放!」

 阿部が砲尾のベントバイス(鎖栓)を上に引き抜く。そしてベントバイスにファイアリングチューブ(発火棒)を差し込んで点火準備をする。

「周子ちゃん、砲弾に着発信管を装着して!」

「はいですぅ」

 谷3姉妹の谷周子は、元々近藤勇子の近習だったのだが、新撰組ではカモミール・芹沢の大砲部隊に組み込まれ、主に弾薬運びなどの仕事を受け持っている。
 ちなみに着発信管とは、バネ仕掛けで命中と同時に砲弾が爆発する仕組みだ。それまでの榴弾は導火線による時限式だったので、命中までの時間を予測して信管を切らねばならなかった。信管を切り間違えると、目標に届く前に爆発したり、地面にめり込んでから爆発したりして目標にダメージを与えられない(第7幕中編@の大林兵庫のように)。着発信管だと命中した瞬間に爆発するので目標の破壊率が飛躍的に高まるのだ(特に夜だし)。

「砲弾装填!」

「はいですぅ」

 谷周子が、先端に信管をめた砲弾を尾栓の中に入れ込み、阿部がすかさずランマー(込め棒)で砲弾を砲身へ押し込む。

「装薬装填!」

「はいですぅ」

 砲弾の時と同様に、谷周子が筒状の装薬の袋を尾栓の中に入れ、阿部がランマーで薬室まで押し込む。(初期のアームストロング砲の尾栓は中が中空のストロー状で、尾栓の中の空間を通して砲弾と装薬を薬室に押し込む形式。薬室の閉鎖はベントバイスで行うのだ)

「ベントバイス閉鎖! 尾栓閉鎖!」

 再びベントバイスが差し込まれ、尾栓のハンドルを回して、尾栓でベントバイスを固定する。

「照準!」

「どこにでありますか?」

 阿部が尋ね返す。ここで一連の流れるような砲撃準備が止まってしまった。確かに芹沢はどこを狙うか言ってない。

「あ、ごめーん。目標、伏見奉行所!」

「了解であります」

 砲車の尾部にテコ棒を差し込んで砲車ごとアームストロング砲を旋回させ、更に砲口を上下させるハンドルを回して砲身に仰角をつけて照準する。

「照準完了!」

「じゃあ、ランヤード(点火索)はアタシにちょうだい」

「はっ」

 阿部がベントバイスから伸びるランヤードを芹沢に渡す。

「よーし、行くよ〜。あーむすとろんぐカモちゃん砲、発射ぁ!」

 芹沢が勢いよくランヤードを引っ張る。ファイアリングピンが抜けると同時に装薬に点火。轟音とともに砲車が後退し、アームストロング砲が発射する。


 龍雲寺から伏見奉行所まで約10町(1km)。3秒ほどで砲弾が奉行所の建物に命中して炸裂した。

「やったあ。命中! 次弾装填・・・・あ?」

 突如、地響きを伴う大音響を上げて、伏見奉行所が爆発した。爆発は次々と連続して起こり、高々と火柱が立ちのぼった。火災が奉行所内の他の建物にどんどん広がり、闇夜を真っ赤に染める。大火災だ。

「あ、あれ? え、えーとお」

「弾薬庫に直撃したみたいであります」

「もう撃たなくてもいーかな?」




 背後の松林からアームストロング砲の発射音が聞こえた。砲弾は見事に伏見奉行所に命中し、奉行所の屋根が吹っ飛ぶのが見えた。直後、その建物は膨れ上がり爆発。そして上がった炎が次々と建物を舐め、炎がどんどん広がって行く。火柱が立ちのぼり、火の粉が舞う。辺りは炎に照らされ昼間のような明るさになった。

「・・・・カモちゃんさん、やり過ぎなんじゃないでしょーか」

「よっぽど溜まってたんだねえ」

 うんうんとうなずく山南さん。

「そーゆー問題ですか?」

「おそらく弾薬庫に命中したんじゃないかな?」

 山南さんが今度は真顔で答える。

「あーむすとろんぐ砲は椎の実型の先の尖った砲弾だから、奉行所の屋根か壁を貫通して炸裂したんだろう。で、運よくその場所が弾薬庫だったというわけだな」

「さすが、カモちゃんさんというべきか・・・」

 この会話の間にも、奉行所から爆音が響いてくる。貯蔵してあった砲弾とか火薬が誘爆しているのだ。御香宮ごこうのみやと桃山からの砲撃は止まっていた。奉行所があまりに派手に燃えてるのであっけに取られているのだろう。そういう俺たちも、目を丸くして見つめるしかない。




 そして、この伏見奉行所の大火災が各方面に与えた影響は大きかった。折からの西風にあおられて奉行所は燃えに燃えた。驚いたのは御香宮ごこうのみやの薩摩軍である。御香宮と伏見奉行所は目と鼻の先だ。目には見えないものの、大火災の発する熱波が御香宮にも押し寄せる。熱さで近寄れないほどだ。着ている衣服から煙が立ち上るので水を被り、桶を持って水をかけて回る。可燃物が熱で自然発火しようとするのだ。建物に水を掛け延焼を防ぎ、弾薬を避難させるのに薩摩軍本陣はおおわらわになった。同じく慌てたのが、伏見奉行所から東側にある桃山の薩摩軍砲兵陣地である。風に乗り火の粉が飛んで来るのだ。砲撃どころではない。こちらは山の中だ。山火事になれば逃げ場がない。桃山の方も火災消火に手を取られいくさどころではなくなった。
 これに対し、伏見の市街地は奉行所西側の低地にある。風上なので火災による直接の被害はない。逆に新選組・会津藩兵・桑名藩兵は、伏見奉行所を炎上させられ、一層怒りに燃えて正面の長州藩に対して熾烈な攻撃をかけた(このとき、薩摩藩は火災への対応に手一杯で、長州藩に加勢できなかった為、新選組は1月3日の夜間に多大な戦果を上げた)。結果、あーむすとろんぐカモちゃん砲の砲撃は伏見奉行所を炎上させたものの、新選組に対する援護射撃になったのである。


「えーと、結果オーライかな?」

 御香宮ごこうのみやと桃山では軍事活動が停止し、火災の消火と延焼の防止に全力を挙げているのが遠眼鏡とおめがね(※望遠鏡)のレンズ越しに見える。

「島田君、今のうちに薩摩軍の旗を降ろしておこう」

「え、でも・・・・」

「大丈夫だ。薩摩軍は、今、それどころではないし、逆に僕たちを敵に回した時の恐ろしさが身に染みて分かったはずだ」

「アタシのカモちゃん砲は、世界一だから☆」

「うあ!」

 いつの間にか、カモちゃんさんが俺の真後ろにいた。あーむすとろんぐカモちゃん砲が大戦果を上げたので御機嫌な様子だ。

「一発でこの戦果だ。薩摩軍も驚愕している」

「でも旗を降ろしてどうするの?」

 カモちゃんさんが山南さんに尋ねる。俺も同じ疑問を持ったので、山南さんが答えるのを待った。

「伏見奉行所を炎上させたのが芹沢君の大砲だったと歳江さんにバレたら・・・・」

「そ、それは、恐ろしいことになりそうですね。カモちゃんさんは地下室に直行ですかね。
 ムチや木馬で済めばいいですけど、ロウソクや五寸釘とか出て来そうですね」

「うむ、歳江さんは容赦ないからな」

「アタシのせい、アタシのせいだっての?」

「誰がどう見たって、カモちゃんさんのせいだと思いますが・・・大砲撃ったのカモちゃんさんだし」

「あ、アタシは島田くんに命令されただけなんだもん。関係ないんだもん」

 いつものように責任だけが俺に回って来る。だが今回は責任を取るのが嫌だ。土方さんの地下室はこわすぎる。

「うあ! 俺のせいですかい! 発案したのは山南さんじゃないですか!」

「だが、許可したのは島田くんだな」

 山南さんまで逃げを打つ。

「薩摩軍の旗を降ろしましょう。伏見奉行所を炎上させたのは薩摩軍の大砲だったんです!」

「アタシのカモちゃん砲だってば」

「じゃあ、カモちゃんさんは土方さんの地下室決定っと」

「それは、いや〜」

「俺たちは薩摩軍の旗を降ろして中立だった事にしましょう」

「でもアタシたちが薩摩軍の旗を揚げてたのは歳江ちゃんたちも知ってるよ」

「開戦したので旗を降ろした事にすればいい。どうせ夜だから誰も見てない」

「そうしましょう。そうしましょう」


 俺たちは山南さんの提案どおり、さっさと薩摩軍の旗を下ろした。こうして後の世に、カモちゃんさんの砲撃が原因で伏見奉行所が炎上したのは伝わらなかったのである(俺たちも黙ってたし)。

(今度こそ後編の1月4日へと続く)


(あとがき)
 1月3日の伏見の戦いを書いたので、次は1月4日の戦いを書くはずだったのですが、なんとなーく、島田サイドの話になってしまいました。どうでしょうか?
 作品中で谷万沙代が監察方になってますが、私の知る限りそのような事実はありません。ですが『風光る』のP巻に谷万太郎が監察方の一員だとそう書いてあったので、流用してみました。
 土方さんの地下室というのは、ゲームの行殺新選組での設定です。
 また、伏見奉行所の炎上で、薩摩軍が自軍の消火と延焼防止に手一杯になりますが、これは私の創作です。と、いうのは、伏見奉行所の炎上が遠く大阪湾から見えたというのは文献に残っているのですが、そこまでの大火事だったら、すぐ近所の御香宮が無事で済むはずがないんじゃないかと思ったのです。現地に行ったけど、伏見奉行所と御香宮って本当にすぐ近所なんだもん。で、まあ、それを作品に生かしたら、素晴らしく辻褄が合うじゃん! というわけでこのような作品になりました。自分で書いといて言うのもなんですが、近藤サイドから書いた中編@よりもデキが良いような気がします。


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