行殺（はぁと）新選組りふれっしゅ 近藤勇子ＥＸ
第６幕『新選組ＶＳ新撰組 油小路の戦い』（前編）
（これまでのあらすじ）
局長 近藤勇子の近習 島田誠は頭痛により危険を予知できた。この能力で本来の歴史では暗殺されたり粛正されたりする新選組隊士をこれまで救って来た。そして新選組を内部分裂させ、その弱体化を狙う参謀 伊東甲子（実は隠れキンノー）を自ら正々堂々と勝負して倒した（でも相手は北辰一刀流の師範なので島田も半殺しにされた）。
だが、副長 土方歳江の魔の手が島田本人にまで及び始めた為、島田と近藤は一芝居打ち、島田は逃亡、高台寺にて一文字違いの『新撰組』を立ち上げる。大坂で活動していた芹沢・山南以下の面々も高台寺新撰組の方へと加わり、本来なら伊東甲子が率いていたはずの高台寺党は、実質島田の指揮の下、活動を続けているのである。
「さいとー、さいとー」
俺は新撰組が屯所としている高台寺月真院の庭で親友の斎藤はじめを呼んだ。斎藤は普段、縁側で自慢の刀コレクションの手入れをしていることが多いのだが、今日は見当たらないのだ。
「まこと。はじめちゃんを探してるの？」
金髪ツインテール、池田屋で受けた傷を隠す
彼女は北辰一刀流の使い手で、斬馬刀を振るい常に先陣をきる
「おう！ 新しく手に入れた南蛮渡来の懐中時計を見せびらかそうと思ってな」
そう言って、俺は
「ピカピカだねー」
「ふっふっふっ。金無垢だからな」
「まこと、１８禁、好きだもんね」
「１８金じゃなくて２４金だぞ」
「大人だねえ」 うんうんと一人うなずくへー。
「・・・・今、１８金って言ったんだよな？」
「うん」
「台詞だけ聞いてると、どっちなのか分からなくなるから恐いな」
「あははは。気にしない。気にしない」 あくまで笑顔のへー。
「ところで、へー、斎藤を知らないか？」
「はじめちゃんなら、祇園に遊びに行っちゃったよ」
「祇園に？」
「うん」
「あいつをカモちゃんさん付きにしたのは、間違いだったかなあ」
ため息をつく俺。別に斎藤にカモちゃんさんを止められるとは思ってなかったが、斎藤が染まるとも思ってなかった。誤算だった。
ちなみに高台寺は祇園にほど近い場所に位置するため、芹沢局長ことカモちゃんさんは連日連夜、お座敷に入り浸り、少ない予算をザクザクと削ってくれる。だが、ただ遊んでいるわけではなく、なぜか各藩の動向とかの極秘情報を仕入れて来るのだ。
カモちゃんさん曰く、
『だって、ほら、藩の
との事である。こう言われてはぐうの音も出ない。実際、薩長同盟の締結とか大政奉還とかの超機密情報をいち早く察知したのもカモちゃんさんなので、俺としてはカモちゃんさんが遊び続けるのを黙認するしかない。
ただ、やはり遊び回るだけでは新撰組局長として示しがつかないので、カモちゃんさんの
また、山南さんと
「コレができたそうだよ。芹沢さんが言ってた」 へーがピッと小指を立てる。
「・・・・どうして副長の俺が激務で遊ぶ暇もないのに、平隊士のあいつに女ができるんだ？」
「はじめちゃんも男だったんだねえ」 うんうんと頷くへー。
「あ”〜、俺も男なのに〜〜〜〜〜！」
「まことにはゆーこさんがいるじゃない」
「近藤さんとは最近会ってないー」
そうなのだ。近藤さん率いる本家新選組は幕臣に取り立てられた。幕府は大政奉還してなくなったとは言うものの、近藤さんは偉くなったので、よく二条城で老中との会議とかに出席している。それで会えなくなったのだ。
「わたしと浮気する？」
にこやかな笑顔を崩さずに、へーがそう告げる。真顔で冗談の言えるのがへーの恐ろしい所だ。どこまで本気なのか全然分からない。
「・・・・そんな事したら、斎藤に
嫉妬した近藤さんはとても恐いので気持ちだけいただいておきます」
「あははは。じゃ、私はお夕飯の支度があるから行くね」
「おー」
やはり冗談だったらしい。笑われてしまった。
俺は懐中時計を
その頃、斎藤は祇園の茶屋の一室で女と会っていた。だが相手は商売女でも恋人でもなかった。新選組副長 土方歳江。斎藤をスパイとして高台寺に送りこんだ張本人だ。斎藤は密会と称して土方との連絡を行っていたのである。
「報告書は読んだ」
土方が切り出した。普段の報告は、巡回時に様々な職業に変装した山崎雀にそれとなく手渡していたのだ。
「はっ」
「しかし・・・洋式装備に大量のスナイドル銃、最新鋭のアームストロング砲か。
島田の奴は戦争でも起こす気か？」
「島田に戦争を起こす気はないみたいですが、戦争が起こるとは思ってるみたいです。
山南さんも同じ考えみたいで、それで盛んに洋式調練をやってますから」
「日本国内で内戦が起こって喜ぶのは異国の武器商人どもだ。
それが分かっているから、上様（※徳川慶喜）は下手に出て将軍職を返上されたものを！」
土方が激高する。
「芹沢さんの情報だと、薩長は次の手を考えているらしいです」
「ほう？」
「江戸で騒ぎを起こし、徳川家の無能を天下にアピールするみたいです」
「卑怯者どもが！」
「この情報は、すでに会津公を通じて幕府方に渡っているはずです。
島田の話だと、幕府側もそれに対処すべく江戸の新徴組を動かして警戒しているそうです」
「ふ。味方の情報を敵方に教えてもらわねばならないとはな。情けない話だ」
幕府の動脈硬化は今に始まった事ではない。末端にいる土方にすらそれは分かる。だが、最初からそんな事は分かっていたからこそ、近藤達試衛館一派は武士になり国を支えようと志したのだ。
「土方さん、今のうちにこっちに鞍替えしたらどうですか？
今ならまだ間に合います」
「味方が不利になったから逃げ出すのは武士のすることではない。
と、近藤ならそう言うだろうな」
土方は寂しげに笑った。
「斎藤、ご苦労だった」
斎藤は次の言葉を待った。いつもならば、『そのまま情報収集を続けよ』でこの会合はお開きになるのだが、今回は違った。
「そろそろ高台寺を脱出して新選組に戻って来い」
「は？」 斎藤は思わず聞き返してしまった。
「任務は終了だと言っている」
「いや、しかし、僕は近藤局長の命を受けて、島田の浮気をスパイしに行った事になってるんですよ」
「構わん。非番の時にそのまま抜け出し、しばらく姿をくらまして後、屯所に戻って来い。
お前の席は空けておく」
「構わん・・・って、土方さん」
「高台寺党はもうじき消滅するからな」
「しょうめつ！？」
「島田が
「し、しかし！」
「この世に２つの新選組は必要ない。そうは思わないか、斎藤？」
土方が氷の微笑を浮かべる。
「そんな・・・。」 絶句する斎藤。
「連中と心中したくなくば、頃合いをみて高台寺を離れろ。これは命令だ」
「分かりました・・・・」 斎藤にはこう答える他になかった。
『幕府の褒賞金で七条醒ケ井にお
つきましては、島田くんを新しいお家にお招きします。
今日（１１月１８日）の夕方に来て下さい。
近藤勇子』
という内容の文が近藤さんから届いた。近藤さんは確か江戸に試衛館道場を持ってたから、こっちは京都別邸となるわけか。徳川幕府はなくなったけど、直参旗本として二条城で元将軍に拝謁したり、老中と会議したりしてるし、大変な出世だよなあ。
「え〜、なんで島田くんだけなの〜」
俺の横でカモちゃんさんが口をとがらせる。ちなみに現在、最高幹部会議というか、単に皆でお茶を飲んでるというか、そういう時間だ。
「新しい家を島田君に見せたいのだろう。行ってあげたまえ」
穏やかにそう言うのは山南さんだ。
「それってもしかして愛の巣かな？」
へーがいつもの笑顔のままとんでもない事を言う。
「ぶはっ！」 俺はお茶に
「まあ、何にせよ、めでたいよね」
「じゃあ、お祝いにお姉さんがどーんと１００両出しちゃおう！」
カモちゃんさんがどこからか包み金（千両箱に並んでる白い紙の包みで小判２５枚入り）を４個取り出し、畳の上にコロコロと並べる。
「そんだけの大金、どっから出したあ！」
「えーと、ココとか、こことか」
カモちゃんさんがそれでなくても短い衣服の裾や襟を引っ繰り返す。
「うあ！ 見せなくていいですから」
どうやら裾や襟の内側に隠しポケットがあるらしい。
「大腿や大胸筋が鍛えられるんだよ☆」
“うーむ、あの見事なナイスバディはこうやって作られてたのか”
「小判で鍛えないで下さいよ」
「しかし芹沢局長はよくこれだけの現金を持ってたね」
山南さんも少々
「だってアタシ、クレジットカード嫌いだもん。
それに、いざって時に物を言うのは小判の力よ」
「島田、これは罠だよ！」 今まで黙って話を聞いていた斎藤が会話に割り込んで来た。
「む〜、この小判は本物だよ」 その斎藤の言葉にカモちゃんさんがムクれる。
「そっちじゃないです。この近藤さんの誘いがです」
「罠？ なんで近藤さんが俺を罠にはめるんだ？
はっ！ もしかして既成事実を作って、できちゃった結婚！？」
「島田のばかーっ！」 斎藤のグーが俺に炸裂する。
「ぐはぁっ！」 俺は吹っ飛ばされた。“おのれ斎藤、副長を殴るとは”
「はじめちゃんが言いたいのは、そういう罠じゃないと思うけどな」
「それにゆーこちゃんはそんな
へーとカモちゃんさんも斎藤に同意のようだ。
「斎藤君が罠だと考える根拠は何かね？」 俺が殴られたので山南さんが話を進める。
「それは・・・・実は、僕は新選組から送りこまれた
「何を今更。そんなのは最初から知ってるぞ。お前は俺の浮気を見張る為に近藤さんが送り込んだスパイなんだろ？」
「違うんだ。僕を送りこんだのは、土方さんなんだ」
「歳江ちゃんが？」
「ふむ」 山南さんは短くうなずいただけだ。
「なんで土方さんが俺の浮気を心配するんだ？ はっ！ まさか土方さんまで！？ なんて事だ。
だが、俺は近藤さん一筋なんだ。ああ、俺って罪な男だな。 ふっ」
「そこから離れてよ、島田」 斎藤が
「歳江さんも心配性だからな。島田くんだけならまだしも、
僕や芹沢君まで集ってしまったからね。斎藤君は保険だったのだろう」
山南さんも苦笑する。
「それで斎藤くんが歳江ちゃんの送りこんだ間者だとして、
なんでゆーこちゃんが島田くんを罠にはめるのよ」
「祇園で土方さんと会ったんだけど・・・・」
「ええっ！ 斎藤の相手って土方さんだったのか！
恋愛は個人の自由だが、土方さんは斎藤みたいなのが好みだったとは！」
「・・・・」
「あ、島田くんは無視しちゃって話を進めていいよ」
カモちゃんさんが呆れている斎藤に話の続きを促す。
「土方さんは、新撰組を消すつもりなんだ。
この間会った時、近々高台寺党は消滅するから、離脱しろって言われた。これがそうなんだよ」
「なるほど」
来るべきものが来たという感じだ。俺の頭痛予知のおかげで、本来ならとっくに粛正されている連中の集まってるのが高台寺新撰組だからだ。
「新選組が幕府に取り立てられたから、僕たちの方が邪魔になったんだ。
キンノーに寝返った薩摩藩からまだ支援を受けてるし」
「いわゆる政治的な配慮ってやつ？」 カモちゃんさんも考え込んでいる。
「でも、なんで斎藤がそんな事を話すんだ？
土方さんの計画をバラしちゃまずいだろう。それともこれが土方さんの罠なのか？」
「違うと思うよ。そんな事をしてもはじめちゃんにメリットがないもの」
へーが俺の疑問に答える。
「しかし、これが土方さんの罠だとしても、近藤さんもグルなのか・・・」
確かに近藤さんは忙しくなったから、最近会ってないが、しかし近藤さんが俺を罠に嵌める理由が分からん。俺を嫌いになったのだろうか？
「はっ！ もしや近藤さんに新しい男が！？」
「僕はそんな話は聞いてないけど・・・」
どこまで行っても男女間の
「歳江ちゃんが独断で動いてるんじゃないかなあ。
ゆーこちゃんは政治的な配慮とか、そういうのはあんまり考えない
「ぐっ・・・・」
突然の頭痛が俺を襲った。殴られたような衝撃に、俺は頭を抱えて
「島田くん」「島田！？」「まこと！」 三者三様の驚きの声があがる。
健康優良児の俺が頭痛を起こすときは危険の前触れの予知信号。これまでがそうだったのだ。
“いつもの頭痛か？ それにしちゃチト遅くないかい？”
何かの
強制的に場面の断片が脳に直接送りこまれて来る。これが頭に押し込まれる形でかなり痛い。頭を殴られて散った火花に一瞬の絵が浮かぶ。んで、次々とガンガン殴られて火花が飛ぶ度に絵がチカッチカッと見える。そんな感じだ。
“近藤さんの新居に伊東が招待されてる・・・ちょっと待て！ 伊東は俺が殺したんだぞ！？”
“あ〜、伊東が酔って帰ってるよ。フラフラだな”
“伊東が暗殺された。待ち伏せしていた沙乃が槍で伊東の喉を突き、止めを刺したのは・・・俺と永倉！？ 何で俺！？”
“乱闘が・・・油小路事件だな。・・・ってなんで俺はそんな事を知ってるんだ！？”
“俺が・・・・へーを・・・・斬った・・・”
皆を逃がすために残ったへーを俺が斬った。命を失ったへーの身体が側溝に崩れ落ちる。
“斎藤が俺を後ろから刺した。親友だったのにな。泣いてるのか、斎藤？”
“伊東とへーと斎藤がバニーだよ。・・・俺は客引き？ なんだ、これ？”
頭がグラグラする。だいぶ長い間頭痛に耐えられるようになった。だが、今回はこれで限界のようだ。全ての映像が溶けて混ざりあい、混ざった色はどんどん暗く、黒くなっていく。
「島田！」
斎藤が俺をのぞき込んでいる。斎藤の向こうに天井板が見える。すると俺は上を向いているわけだ。この姿勢は・・・俗に言うひざ枕という奴ではないか？
「てい！」 下から斎藤にアッパーをかます。先程の意趣返しだ。
「あいたっ！」
「これだけ女性キャラが居るにもかからわず、何が悲しくて男のお前にひざ枕をされにゃならんのだ？」
「だってみんな嫌がったんだもん」 斎藤が即答する。
「はうっ！」 俺のパンチよりも破壊力のある言葉だ。
「ど、どーせ、どーせ、俺なんて・・・・」
「そんな事より、島田、何が見えたの？」
“そ、そんな事・・・”俺の落ち込みは斎藤によってあっさりと流されてしまった。
「うーん、今回のは何か妙だったんだが・・・」
「とりあえず話してみたまえ」
山南さんに促されて、俺は今見た光景を話した。
「近藤さんの家に呼ばれたのは伊東参謀だったんです」
「伊東先生は、もう死んでるよ？」 とへー。
「そうなんだが・・・」 俺も首をかしげる。
「続けたまえ」 山南さんが先を促す。
「酒宴の席には土方さんもいて皆で伊東にどんどん酒を勧めて酔わせるんです。
んで、伊東さんが酔って帰ったので、俺と沙乃と永倉が待ち伏せして暗殺しました」
「それって卑怯なんじゃない？」 とカモちゃんさん。
「伊東の暗殺後、土方さんの作戦で死体を七条油小路の辻に捨てて、遺体を引き取りに来た高台寺党を待ち伏せして、包囲・殲滅するんです」
この続きを言おうかどうしようか迷ったが、結局話すことにした。
「高台寺党の中にへーがいて・・・・」
「わたしも斬られたんだ・・・・」
へーが何とも言えない寂しそうな
「俺が・・・・」
「そっか。仕方ない、仕方ないよね・・・・」
“うあ！ そういう目で俺を見るなあ。俺だって斬りたくて斬ったわけじゃないんだあ”
「でも俺も斎藤に斬られた」
「そんな！ 僕は！」 斎藤が抗議の声を上げる。
「えーと、島田くんが甲子ちゃんを暗殺したって事は、甲子ちゃんが高台寺党なんだよね」
「そうなりますね」
「で、へーちゃんも高台寺党で、斎藤くんも高台寺党だったんだよね。
だから油小路で島田くんがへーちゃんを斬って、斎藤くんから斬られたんだよね」
「いや、俺が斎藤から斬られた時は、俺も高台寺党だったよーな気が・・・」
「それって矛盾してない？」 カモちゃんさんが首をかしげる。
「というよりも現状に合ってないよ。伊東参謀はもう死んでるんだし、
近藤さんに招かれたのは島田じゃないか」
斎藤がもっともな意見を述べる。
「他には何も見なかったのかね？」 山南さんは腕組みしたままだ。
「あ、伊東さんとヘーと斎藤がバニーガールの格好をしてました」
「はあ？」「なんで僕まで！？」
「なんか高台寺党はバニークラブになったらしくて・・・俺は客引きをやってた」
「それって目茶苦茶じゃないか」
「俺もそう思う。つーか、今回の頭痛はなんか変だったな」
「島田くんが頭痛で誰かの危険を知ることが出来るのは、島田くんが未来を知ってるからではないだろうか？」
山南さんがとんでもないことを言い出した。
「俺は未来なんか知らないっすけど」
「普段は忘れているが頭痛で思い出すのではないか？」
「未来の事をですか？」
「うむ」
確かに俺は、近藤さん一筋で入隊以来局長付近習で他の仕事はやったことないはずなのに、土方さんの片腕として監察をやってたような経験があるし（体が覚えているという感じだ）、沙乃や永倉、そーじ、斎藤ら実戦部隊と一緒に京の街を巡回してたような気もするし、へーの助手で料理も上手だし、カモちゃんさん係だったよーな気もする。どういう事だ？
「って事は甲子ちゃんが島田くん達に暗殺されるってのは？」
「伊東さんを島田君が殺してしまったから、歴史が変わったんじゃないかな。
油小路に僕や芹沢局長、
「そういえば、いなかったですね」
「どーゆー事？」 カモちゃんさんが首をかしげる。
「本来の高台寺党は伊東さんが指揮する組織だったのだろう。
島田くんが伊東さんを殺してしまったから歴史がズレたんだな。
島田君の頭痛のお陰で難を逃れたが、当然すでに粛正されている僕達はそこにいない」
「じゃあ、わたしたちは幽霊なんだ」 とへー。
「いや、
「そっか。まこと、痛くしないでね」
山南さん、あなたという人はどーしてそういう言い方を・・・・。
「ところでバニーというのは？」 斎藤が口を挟む。
「耳にウサギの耳のついたヘアバンドをしてだな、おしりにモコモコの丸いしっぽのついた
「いや、そーじゃなくて・・・」
「島田くんの選択によっては、そういう未来もあったのだろう」
「俺はバニーがよかったなあ」
「僕もだ」 山南さんが真顔で同意するが、
「山南さんは居なかったみたいっすけど」
「そうかい・・・・」 落ち込んでしまった。
「えーと、って事は今回の島田くんの頭痛はどういう事？」
カモちゃんさんがこめかみに指を当てて一生懸命考えている。
「おそらく、似たような事件が起こるのではないかな？
伊東さんの代わりに島田くんが勇子に招待されたんだからな」
「それって、島田くんが沙乃ちゃん達に暗殺されて、油小路でアタシたちが歳江ちゃんにやられるって事？」
「まあ、そういう事だろうな」
「近藤さんの誘いを断ればいいんじゃないかな？」 と斎藤。
「それはダメ」
「なんで？」
「俺は近藤さんに嫌われたくない。土方さんが近藤さんに内緒で作戦を進めてるんなら、お誘いを断ったら俺は嫌われてしまう！」
「策士の土方さんらしい考えだなあ」
「とすれば、勇子の誘いを受けて、なおかつ生きて帰って来るしかないな」
「
「谷さんを？」
「アタシやへーちゃんだとゆーこちゃんが嫉妬するかもしれないじゃん」
「あー、それは確かに」
谷三十華が山南さんの愛人だというのは公然の秘密だし。斎藤は・・・・女よりまずいかもしれん。
「それに三十華ちゃんは沙乃ちゃんの槍のお師匠さんだから沙乃ちゃんより強いし」
「流れからして伊東さんが島田くんに入れ替わっただけで、歳江さんの作戦は変化してないと見るべきだろう。
まずは島田くんの身の安全だが、三十華がついていれば大丈夫だな。
島田くんは、いつものピストルを全弾装填して持って行きたまえ」
「はい」
「そして、問題はその後だ。歳江さんの当初の計画では島田くんの死体を油小路に晒して、
遺体を引き取りに来た我々を包囲殲滅するのだろうが、島田くんが助かるとなると、歳江さんの計画が狂う」
「そのままあきらめるかな？」 へーが合いの手を入れる。
「いや、島田くんの暗殺未遂は早晩、勇子の知るところとなる。
そうなれば歳江さんとしては、我々に手を出し難くなる。今夜は絶好の機会だ。
それを逃す歳江さんじゃないよ」
「高台寺に襲ってくるって事？」
「おそらくな」
「面白いじゃん。あっちがその気なら徹底的にやってやろうじゃんよ」
おお！ カモちゃんさんの背後で熱い炎が燃えている。
「こっちから仕掛けますか？」
「当然よ！」
「いや、証拠が何もない。島田くんの頭痛だけで新選組を襲うのはまずい」
「そんなのんきな事言ってて、やられたらどうすんのよ」
「こちらも策を講じる。まず、局を二つに分ける。芹沢局長の指揮で
万が一の事態に備え、屯所の警備は僕と斎藤君の隊で固める」
山南さんと斎藤が屯所に残るってのは、山南さんが斎藤を見張る気だ。
「三十華の隊は、島田くんの帰路に伏せさせておき、途中で合流させる。
島田くんと三十華以外は、全員銃で武装。洋式戦の威力を連中に見せてやろう」
「初の実戦が味方ってのが嫌な感じですね」
「仕方ないさ。手加減して勝てる相手じゃないからね」
山南さんは肩をすくめた。
「じゃあ、山南くんの作戦どおりに行くよ。総員、準備始め！」
「おう！」
皆が一斉に立ち上がった。
同じ頃、新選組屯所の土方の部屋に永倉アラタと原田沙乃が呼ばれていた。
「島田を暗殺ぅ！？」 永倉が素っ頓狂な声を上げる。
「そうだ。今宵、近藤が島田を新居に招待する。島田の接待には私も出席する。酒席で奴にはたっぷり飲ませておく。その帰りを２人で襲え」
「ちょ、ちょっと待ってよ、トシさん。ゆーこさんはこの事を知ってるの？
島田はゆーこさんの・・・・」
沙乃が言い
「近藤には内密に事を進める。
確かに近藤と島田は恋仲だ。だが、島田たちをこのまま放置すれば、それは裏切り者を処断できない近藤の不明となる」
苦汁の選択だったに相違ない。２人にもそれは分かった。
「トシさん・・・・」
「島田の死体は七条油小路に晒し、死体を引き取りに来た高台寺党を油小路で殲滅する」
「本気なんだ」
「近藤の未来を邪魔する奴は誰であれ、この私が許さん！」
「トシさん、ゆーちゃんから恨まれるよ」
「近藤に恨まれたとしても、それでも私は近藤を守る！」
たとえ本人から恨まれ嫌われたとしても、近藤を守るためならば自ら手を汚すことも辞さない。それが土方歳江の武士道なのだ。
「分かったわ。島田には気の毒だけど、消えてもらうわ」
「ああ。あいつ、結構いい奴だったんだけどな」
「そうでなかったら近藤ほどの女が惚れはしない」
「トシさんも島田を買ってたんだ」
「近藤が先に目をつけなかったら、私が側に置いたかもしれん」
「惜しいわね」
「ああ。この短期間に新選組に匹敵するような組織を作り上げただけでも見事なものだ」
「ゆーちゃんの近習だったんだもんなあ」
「奴がただの愚物なら長生きできたんだがな」
「出る杭は打たれるもんなあ」
「その為のアラタのハンマーよね」
「仕方ない。島田をぶっ叩いてくるか」
「頼む」
永倉と沙乃は土方の部屋を出た。この時、両方の新選組において決戦の準備が着々と進められていたのである。
（後編へと続く）
（あとがき）
本当は今回、鳥羽伏見の戦いを書く予定だったのですが、いきなり鳥羽伏見に飛ぶと、途中の陣営の移り変わり（大政奉還とか）の説明に紙面をかなり取られてしまうので、いっそのこと油小路を書くことにしました。やっぱり土方歳江は一度ぐらいは裏切り者の高台寺党に仕掛けるだろうなあ、と思って。
今回、原稿を直し直しして、５カ月もかかってしましました。面目ない。
行殺らしく、今回もあっちこっちに新選組ネタを仕込んでおります。
・斎藤が刀コレクター：『新選組血風録』（司馬遼太郎）の中の『虎徹』より。
・島田の懐中時計：『燃えよ剣（下巻）』（司馬遼太郎）の土方の袂時計。
・斎藤が祇園で女に会ってる：『壬生義士伝（下巻）』（浅田次郎）より。
他にもあるかも〜。
ところで、今回、島田の頭痛予知がパワーアップしてます。これまでは、誰かの危機を事前に察知するだけでしたが、今回はゲームの行殺新選組ふれっしゅの分岐により発生する様々なイベントを見てます。ここに至るまでに歴史を変えまくったので、未来予測が当てにならなくなって来たのですな。
へーちゃんのシナリオをプレイすると、島田の台詞に、
【島田】 はっはっはっ、言いよるわ、小娘が。
おぬし、この島田がいったい何度このゲームをクリアしてきたと思っておる。
というのがあります。島田はプレイヤーの分身で、へーちゃんシナリオに至るまでには、何回もゲームをクリアしないとならないのですが、そのプレイヤーの経験（記憶）をキャラクターの島田が共有しているのですな。同じ思いで私も頭痛予知という形で島田に未来を見せていたのですが、島田が高台寺党の副長になり、カモちゃんさん以下、実際には死んでる人間が生きているという全く新しい舞台背景になったため、『一度経験した未来を頭痛で見る』という予知が使えなくなったので、能力が微妙に変化してます。正確には予知ではなく、かつて経験した未来の出来事を思い出している。というのだったのです。