「行殺(はぁと)新選組りふれっしゅ『近藤ゆーこEX』」

第2幕『新選組大坂始末記』(後編)


《前編のあらすじ》
 松平けーこちゃん様の命を受け、近藤らは大坂の商人からお金を借りるべく下坂する。
大坂にて島田は別行動。土方の命令で新型鉄砲の購入の任務に就く。

三十華みそかの弟子でガンマニアの阿部十郎あべのじゅうろうを新たな仲間に加え、いよいよ金策にとりかかる新選組だった。
(うそーん、あれだけの前編がたった3行に収まってしまった・・・・・)


 京都守護職、会津松平けーこちゃん様から金策の命が下されてから数日後、土方は単身、黒谷に来ていた。けーこちゃん様から呼び出されたのである。

 「やっほー。土方ちゃん」

 「これは、松平様、ご機嫌麗しゅう存じます。土方、お召しによりまかり越しました」

 「あーもう。相変わらず、土方ちゃんは固いなあ。ま、だからこそ土方ちゃんを呼んだんだけどね」

 「はっ」

 けーこちゃん様は扇子を閉じたり開いたり。どう切り出したものか逡巡しているようだ。

 「最近さぁ、芹沢がさぁ、ちょっと調子に乗り過ぎてんだよね」

 「はっ」 心当たりは山ほどある。

 「まあ、阿片の密売組織を潰してくれたのはいいんだけど・・・・」

 「方法に問題があったと」 けーこちゃん様の言葉を引き継ぐ土方。

 「そう! できればもっとこう、穏やかに解決して欲しかったのよ!
  火事とケンカは江戸の華って言葉があるけど、京の人間は火事を嫌うんだよねー。
  御所に呼ばれてさあ、孝ちゃんから怒られちゃったわ」

 ちなみに孝ちゃんとは、孝明天皇の事らしい。

 「上州屋に立て籠もったキンノーは新式洋銃で武装しており、残念ながら芹沢さんのカモちゃん砲の
  加勢なくば、突入もままなりませんでした」

 「うん。それは分かる。うちも林のじーさん(会津藩大砲奉行の林権助老人。パンツァー沙乃イベントで
  登場)に大砲と鉄砲の研究をさせてるから。黒谷(会津藩本陣)のすぐ隣の真如堂(佐賀鍋島藩本陣)
  からも新型砲のウワサとか入って来てるしね。新選組の鉄砲もゆーこの火縄銃だけじゃ、
  ちと心もとないわね」

 「ははっ」 確かにキンノーの新式洋銃の前に刀槍集団の新選組は手も足も出なかったのだ。

 “しかし、さすがは会津中将様、すでに時代を見越して大砲や鉄砲の研究をなされているとは、
  うちも早いとこなんとかしなければ”

 伏したまま考えを続ける土方。

 “よし、島田に研究させよう。奴は剣客としては二流で、戦力外だから何の問題もないし、
  近藤との共通の話題にもなるだろう。政治を語られたりするよりは、よほど良い。うむ、まさに一石二鳥”

 「まあ、芹沢の大砲の破壊力は認めるけど、だからって町中で撃たせるんじゃないわよ」

 まだ、けーこちゃん様の叱責おこごとは続いていた。土方は黙って頭を下げたままである。

 「しかも建物丸ごと破壊する必要なんてないじゃない?」

 「ははっ」 土方としては頭を下げ続けるしかない。

 「幸いにして隣家に被害は出なかったから良かったようなものの」

 「うちの連中とか所司代の手勢とかたくさんの人間が目撃しててさー」

 「何でも新選組の副長が刀を振り回して芹沢にどんどん撃てってあおったっていうじゃん」

 “それは違う〜!”

 どうやら誤解したのは芹沢だけではなかったらしい。土方は頭を抱えたくなったが、なんとかぐっとこらえた。

 「新選組の不始末は、私の不始末。かくなるうえは、この土方、腹を切ってお詫び致します」

 「まあ、その事は、ナシをつけといたからいいんだけどさあ。
  土方ちゃん、芹沢をちょっとシメといてくんない?」

 「せ、芹沢さんをですか?」

 「そ、土方ちゃんができないってんなら、ゆーこに命令するけど?」

 “暗殺か・・・・近藤に、そんなつらい真似はさせられない。
  私は汚れ役だ。近藤の代わりに私が泥をかぶればそれでいい”

 新選組における処罰は、切腹・斬首・暗殺のどれかである。芹沢を姉のように慕っている近藤にそんな真似はさせられない。土方は意を決した。

 「心得ました」

 「んじゃ、よろしくね」

 暗澹たる気持ちで、足取りも重く、土方は黒谷本陣を後にした。






 島田たちが大坂に出立するちょっと前、木屋町筋の材木屋の酢屋に投げ文があった。酢屋は土佐藩の浪士組である海援隊の京都事務所のあった場所で、土佐藩邸にほど近く、土佐系キンノーの親玉、坂本龍馬の根城でもあった。

 「くくくっ、おもしれーじゃねえか」 坂本の前には届けられた投げ文が広げられている。

 「しかし、坂本さん、これは佐幕派の罠かも・・・・」

 「虎穴に入らずんば虎児を得ずって言うじゃねえかよ。せいぜい利用してやるさ。
  ま、敵の罠に乗るのも、また一興ってもんぜよ」

 そう言って、不敵に笑う坂本だった。






 壬生の新選組の屯所では、原田沙乃が大坂に出立しようとしていた。猫さんリュックを背負い、手甲をつけ、編み笠を被り、靴の紐を結んでいると、

 「あー、沙乃、そんな旅支度してどこに行こうってんだ?」

 巨大な木槌を担いで現われたのは永倉アラタだ。

 「大坂よ。松平様の書状を芹沢さんに届けに行くの」

 「大坂かー。いいなー。あたいも連れてってくれよー」

 「ダメよ。これはトシさんの命令なんだから」

 「ちぇーっ。つまんないの」

 「やあ、2人ともどうしたんだい?」

 永倉に引き続き廊下からひょっこりと現われたのは、土方と同じく副長職にある山南敬助だ。

 「あ、山南さん。沙乃が大坂に遊びに行くって」

 どうやら永倉の頭の中では、すでにそういう図式が成立しているらしい。

 「遊びじゃないったら! 任務よ、任務! 沙乃は、松平様の書状を芹沢さんまで届けに行くんだから!」

 「ふむ。なるほど、事情はよく分かった。女の子の一人旅は危険だ。
  僕が保護者として沙乃の護衛をしよう」

 「保護者ってのは何だー! 沙乃はもう立派な大人よ!」

 子供扱いされた沙乃がいきり立つが、沙乃の抗議の声をよそに、山南は懐から矢立て(携帯用の墨壷付筆入れ)を取り出し、サラサラと一筆書いた。

 「ほら、これが副長の署名入りの命令書だ」

 「自分で書くのは、反則」

 「おー、いいぞー。じゃあ、あたいは山南さんの護衛をするから、あたいの名前も書いてくれよ」

 「いいとも」 サラサラと永倉の名前も書き足す山南。

 「・・・・」 沙乃は呆れて言葉もない。

 「山南さまっ! どこかへお出掛けですか? わたくしも、お、お供致しますわ」

 ちょっと甲高く裏返った声が響いた。最後がどもっているのは緊張の為だ。

 「今度は、谷さんなの?」

 沙乃が振り返ると、庭の方からやって来た新入隊士の谷三十華みそかが居た。
金ボタンの2列に並んだ制服の黒の上衣(夏服)の上に浅葱色のダンダラ羽織をひっかけている。
ちなみにスカート丈は新選組で1、2を争う短さだ。
芹沢がタイトミニなのに対して、三十華はヒラヒラのミニスカートである。そして、そこから沙乃も羨む
長い脚がすらりと伸びているが、実はこの足は凶器なのである。

馬鹿な男がその美しい脚に見とれていると、即座に膝蹴りが飛んできて、見とれているがゆえに相手は
かわせず、絶対にあごに直撃を喰らうという必殺武器でなのである。
(谷三十華に関しては米倉さとや様の藤鈴堂へGO!)

 「やあ、三十華君。沙乃が公用で大坂に下るから、その護衛で我々も同行することになったんだ」

 「勝手に護衛になってるし・・・」 と、ため息をつく沙乃。どうやらあきらめたらしい。

 「で、では、私が山南さまの護衛を致したく存じます」

 おずおずと申し出る三十華。彼女は槍を持たせたら滅法強く、自尊心プライドも高いため、普段は傍若無人な
女王様なのだが、どうやら入隊試験の時に何かあったらしく、山南の前でだけは普通の女の子に戻ってしまうのだ。

 「あ、それあたいの役目〜」 と永倉。

 「で、では沙乃の護衛をします。私は沙乃の師匠ですから・・・・」

 「それ、山南さんの役目〜」 再び永倉。

 「・・・そ、それでは、私が永倉さんの護衛を・・・・」 必死の面持おももちで食い下がる三十華。

 「いつものように、アラタでいいよ。永倉さんって呼ばれるとなんだかくすぐったいや」

 「いえ、あの、その、わ、私は新参者ですから・・・・」 山南から見つめられ小さくなる三十華。

 山南はちょっと思案した。実の所、山南は永倉と違って遊びに行くのが目的ではない。
局長の下坂前の島田の頭痛が気になっていたのだ。
 “近藤・芹沢両局長には、島田・斎藤コンビがついているから、まあ大丈夫だろうが、島田君の頭痛が沙乃の事を予見していた可能性もある。とすれば沙乃一人を下坂させるのは危険だ。キンノーが各個撃破の戦術に出た場合、沙乃一人では殺られてしまう。僕やアラタがついて行った方が良いだろう。三十華君は、どうしたものか・・・・『千石槍の三十華』は新選組でも屈指の使い手の一人。戦力は多いに越した事はないか”

 「そうだね、じゃあ三十華君にもついて来てもらおうか」

 「ええっ! ほ、本当ですか! う、うれしいです〜。で、ではさっそく着替えて参ります。 
  るるる〜〜〜♪」

 くるくると踊りながら自室の方に向かう三十華。よっぽど嬉しかったのだろう。

 「三十華って面白い奴だよなー」

 「前は、ああじゃなかったんだけど」 再びため息をつく沙乃。

 「三十華君は素直でいい子だよ」

 「山南さんは美人に弱いんだから。絶対騙されてるわよ。谷さんの本性は・・・・」

 そこまで言ったときに、沙乃の背筋に冷たいものが走った。三十華の殺気である。

 「えーと、とってもいい人かな?」

 「なんだよ、そりゃ」

 「まあ、いいじゃないか。みんなで大坂だ」

 「屯所の警備はどうするの?」

 「歳江さんをはじめとして井上さんや、鈴音、平、それに平隊士たちがいるから大丈夫だろう」

 「大坂、大坂♪」

 「は〜」 大きくため息をつく沙乃。“まあ、沙乃のせいじゃないからいいか”

 こうして土方の思惑に反して、新選組の主力が大坂に向かってしまったのである。






 「うーん」 頭が痛い。最悪の目覚めだ。

 “昨日は近藤さん達と大坂に出て来て、阿部君と鉄砲を買いに行って、帰りにカモちゃんさんと合流して、それから近藤さんと阿部君にスナイドル銃を取られて、・・・・近藤さんに銃の台尻で殴られて・・・・その後の記憶がない! ブラックアウトするほど飲んだのか? いや、しかし・・・・”

 顔を洗いに行く。“まずはこのぼんやりと霞のかかった頭をはっきりさせなければ”

 「やあ、島田くん、おはよう」

 「おはよう、島田」

 山南さんと斎藤だ・・・・“えっ! 山南さん!?”

 「ちょっと待て、何で山南さんがここに居るんだ?」

 「あ、そうか島田は気絶してたから知らないんだ」

 「実は、別件で君たちを追っかけてきて、昨夕大坂に着いたんだ。
  ちょうど商家を応接する宴会に間に合ったので我々も参加させてもらったよ」

 「僕は途中でおなかが痛くなって退席したけどね」 と斎藤。

 「我々?」 俺は尋ね返した。

 「ああ、沙乃とアラタと三十華君だ」

 「一体全体、俺が気絶している間に何があったんだ?」

 「島田くんは気絶していて幸いだったよ」

 「そうですね」

 「何がです?」

 「ま、朝礼の時に報告するから」

 「はあ」 曖昧に誤魔化され、俺はうなずくしかなかった。




 母屋から渡った先にある谷武術道場で今朝の朝礼がある。上座に近藤・芹沢の両局長が並び、
その横に谷万沙代まさよ大坂支局長、山南副長が座している。あとは、俺と斎藤と、永倉、沙乃、
谷三十華・周子姉妹、新規入隊の阿倍十郎あべのじゅうろう。なんだか新選組のメンバーが結構揃っている。

 「朝礼を始めます。 それでは山南さん、報告をお願いします」

 近藤さんが朝礼を始めた。副長が報告するのが新選組の朝礼だが、今朝は土方副長が居ないから、
代わりに山南さんが報告を始める。というか、山南さんがここに居るのも変なのだが。

 「局長達が下坂した目的の、会津藩の金策の件は、まあ、成功をおさめたと言って良いだろう。
  それから島田くんの新式銃の買い付け任務だが、これも最新式のスナイドル銃を5丁手に入れたから、
  これは上々だ。そして芹沢君の大坂におけるキンノー退治だが、なぜか、キンノーの活動が少なかった
  事が報告されている」

 「そーなのよ、昨日はキンノーがいなかったんだ〜」

 とカモちゃんさん。しかし、外国の軍艦にカモちゃん砲をぶっ放していたような・・・・

 「きっとあたしたちに恐れをなして逃げたんだよ」 と近藤さん。

 「そーかなー、何か裏があるんじゃないかと、沙乃は思うな」

 「ふむ、その件は、後から調べるとしよう。万沙代君、よろしく頼む」

 「かしこまりました」 谷万沙代は新選組大坂支局長であり、主に大坂での情報収集をしているのだ。

 「ところで、山南さん、昨夜の宴会はどうだったんです?」 俺が一番気になってたのは、そこだ。

 「それを今から話そうと思ってたんだ。まず、昨夜の宴会の成果だが、すでに主だった商家から合わせて
  100万両の御用金を借り受けることに成功した。さらに、新選組にも別に1万両の献金がある」

 「たった一晩でですか!」

 「うむ。すごい宴会だったからね」

 「ああ! 俺も参加したかった!」

 「島田くんは起きなかったから、そのまま寝かせといたんだよ」 と近藤さん。

 “それはあなたが銃で殴ったからです、近藤さん”

 「いや、君は参加しなくて幸いだったよ。ものの十分もしないうちにアラタと沙乃が酔っ払って大暴れを
  始めて・・・」

 山南さんが昨日の宴会の詳細な報告を始めた。

 「お、アタイは覚えてるぞ。昨日の酒はうまかった」

 「沙乃も何となく覚えてるー。何かアラタと一緒に座敷じゅうを走り回った気がするー」

 「もう、アラタちゃんも沙乃ちゃんもお行儀良くしなくちゃダメじゃない」 と叱る近藤さんだが、

 「いやー、飲むと気が大きくなってさー」

 「沙乃もー」

 「でも、そう言うゆーちゃんだってすごかったんだぜ」

 「えっ? あ、あたし、何かしたのかな?」

 「ゆーこは酔っ払って、みゃうみゃう言いながら猫化して旦那方に襲いかかってた」

 山南さんがさらりと答える。

 「ええっ? そ、それであたし・・・・どうしちゃったの?」

 「逃げ回る旦那方を次々と襲い、昏倒させ、最後には鴻池の御主人の上で丸くなって寝ていたね」

 「えーと・・・・ごめんなさい」 近藤さんが小さくなって謝る。

 「あはは〜 ゆーこちゃんもやる〜☆」

 「そして芹沢君は途中で美形の若旦那を2、3人連れて消えるし・・・・」

 「カーモさんどこ行ったの?」

 「えへへ、内緒〜ぉ☆」

 「目茶苦茶ですね」 どうやら『すごい』の意味が違ってたらしい。

 「いや、新選組らしい、実にすごい宴会だったよ」

 「みなさま酒癖が悪いですわ」 ほう、とため息をつく三十華。

 「で、一番最初に酔って寝ていた周子君を同じく酔った三十華君と芹沢君がおもちゃにして、
  それを見ていた斎藤君が鼻血を吹いてぶっ倒れた」

 “おや?斎藤はおなかが痛くなって中座したと言っていたが・・・・”

 「ね、ね、ね、姉様! しうに一体、何をしたんですかぁ!」

 「・・・・うーん。ごめん。覚えてないわ」 と三十華。

 「あたしもー」 同様にカモちゃんさん。

 「ひどいですぅ」

 「斎藤、お前は何を見たんだ?」

 「僕も酔ってたから・・・・あんまり覚えてないや」

 顔を真っ赤にして答える斎藤。なんて分かりやすい奴。

 「はじめちゃん、ほんとう?」

 「え? ああ、その、みんな酔ってたし・・・・」

 周子の真剣な眼差しにしどろもどろで答える斎藤。

 「さらにトドメは三十華君で・・・・」

 「わ、わたくしも何か?」

 どうやら本人は何をやったのか覚えていないようだ。思いっきり慌てている。

 「・・・・まあ、知らない方が幸せな事もあるよ。うん」

 山南さんの言葉にさーっと三十華の顔が青ざめる。

 「阿部、そういえば、お前も居たね?」

 クルリと阿部の方を向く三十華。前髪に隠れて見えないが放射される殺気が怖い。

 「はっ、自分は、宴会の最初の方で景気づけに銃を撃って、三十華師匠から槍で殴られ気絶しました」

 “阿部君まで・・・・新選組にまともな奴は居ないのか”

 土方さんが同行しなかった理由が分かって来た。

 「や、山南さま、私は、一体、何を?」

 三十華が泣きそうな顔で山南さんに詰め寄るが、

 「まあ、覚えてないんならいいじゃないか。うん。みんなの働きでこうしてお金が集まったんだから」

 「教えてもらえない・・・私は、一体何を・・・・」 ぶつぶつと暗く沈み込む三十華。

 山南さんから昨夜の真実を告げられ、皆それぞれ頭を抱えている。
 能天気に笑っているのはカモちゃんさんと永倉だけだ。

 「ところで、山南さんはどうしてたんです?」

 「僕は、邪魔にならないように隅っこで気配を消して烏龍茶を飲んでいた」

 「冷静ですね」 どちらかというと、とばっちりを受けないためだろう。さすが山南さん。

 「うん。お開きにする前に、皆さんの協力が得られなければまた、明日も明後日も接待の宴会を開くと
  言ったら、みんな泣きながら、喜んで念書を提出してくれたよ」

 「それは、脅迫というのでは・・・・」

 「島田くん、接待とはそういうものだよ」 山南さんが真顔でそう言う。

 “違う、絶対に違う”と心で叫びつつも、気絶していて本当によかったと俺は胸を撫で下ろした。

 「ところで、山南さんの用事はなんだっんですか?」

 「けーこちゃんからのお手紙を届けてくれたんだよ」 俺の問にカモちゃんさんが答えた。

 「お手紙を届けに来たのは沙乃で、山南さんとアラタと谷さんは、勝手についてきただけよ」

 「僕らは沙乃の護衛だ。ほら、ちゃんと副長の署名入りの命令書がある」

 そう言って山南さんは書状を広げて見せたが、

 「それ、山南さんの名前じゃないですか?」

 「うむ。僕が自分で書いた」 きっぱりと答える山南。

 「・・・・・」 このオヤジは、意味のない事を・・・・。

 「で、カモちゃんさん、そのけーこちゃん様のお手紙には何と?」

 「えーとね、船を一艘借り切っていいから、1人で先に京に帰ってきなさいって・・・・」

 書状を広げながら答える芹沢。

 「・・・・けーこちゃん、絶対、怒る気だー。ゆーこちゃんどうしよう」

 「うーん、3時間正座でお説教かなぁ?」

 「うわーん。島田くん、どおしよう〜」

 俺に訊かれても困るのだが・・・・何か適当なことを口にしようとした刹那、いつもの強烈な頭痛が俺を襲った。視野が真っ赤になる。赤は血の色。真っ赤な流れ。血の川。鮮血が川の水を赤く染めている。そして視界が赤一色になりレッドアウトする。

 「島田くん?」

 どうやら俺の尋常でない様子に気付いたのだろう。近藤さんが怪訝そうに呼びかけるが、俺は答えることができず、「う・・・・あ・・・・血の川が・・・」そこまで呟いてばったりと気絶した。

 「島田くん? 島田くん!」





 「・・・・・」

 ゆっくりと霧が晴れるように俺の意識が世界へと浮上してくる。外界を認識する。音と光と・・・・近藤さんの大きな笑顔、そして目の前に大きな胸が・・・・いや、胸はどうでもいいが・・・・こ、これはひょっとして俗に言う膝枕というやつでは!

 「あ、島田くん、気が付いた?」

 「あ・・・・あの・・・・その・・・・」 俺は思わず顔を赤くしてしまう。

 「あ、これ? こうしていると、島田くんの心が分かるんじゃないかなー、と思って」

 「えっ! 俺の心が分かるんですか?」

 「ううん。全然分かんない」

 「あ、やっぱり・・・・そうだ、カモちゃんさんは!」

 「カーモさんならアラタちゃんたちと大坂見物に出掛けたよ」

 「まだ京に帰ってないんですね?」

 「うん。島田くんが倒れたから、山南さんがみんなで一緒に帰った方がいいだろうって」

 “さすが山南さん! ちゃんと分かってくれてる”

 「それで山南さんが保護者になってみんなで大坂の街に遊びに行っちゃった」

 “さすが山南さん・・・・”

 「では、ここには?」

 血の川が見えた。カモちゃんさんだと思うが、近藤さんかもしれない。俺の予知能力は今一つ当てにならないからだ。俺一人でも近藤さんを守り抜く覚悟はあるが、正直斎藤にも居て欲しい。いざとなったら盾にするから。

 「三十華ちゃんと万沙代ちゃん、周子ちゃんの谷3姉妹に斎藤君と阿部君もいるよ」

 “さすがは山南さんだ。抜けてるようで抜け目がない。こちらの防備も手抜かりがない”

 「谷さんは、山南さんについて行かなかったんですか?」

 「三十華ちゃんは山南さんについて行きたいって駄々をこねたけど、山南さんが留守番するように
  命令したの」

 「あの谷さんがよく言うことを聞きましたね」

 「山南さんが三十華ちゃんの耳元で何か囁いて、それで三十華ちゃんが顔を真っ赤にして頷いたの」

 “何を言ったんだ? あのオヤジは???”

 「ところで島田くん、今度は一体何が見えたの?」

 「真っ赤に染まった血の川が見えました」

 「それってカーモさんが襲われるって事なのかな?」

 「うーん、確かに船だと逃げ場はないですね」

 「うん、山南さんも同じことを言ってたよ。だから空船を雇っておとりにして、
  あたしたちは一日遅れで、みんなで歩いて帰ることになったんだ」

 「策士だなあ」

 「山南さんは、昔からそういう人だよ。昔、道場同士で良くケンカしたけど、いつも山南さんが作戦を
  立ててたんだよ」

 「そういうのは土方さんの役目じゃなかったんですか?」

 「トシちゃんは、夜の間に落とし穴を掘ったり、罠を仕掛けたりしてたよ」

 「ひ、土方さんらしい・・・・」

 「でね、あたしとそーじと沙乃ちゃんアラタちゃんで敵に突撃して気合で勝つの☆」

 近藤さんが顔中を笑顔にして嬉しそうに微笑む。

 “そーか、近藤さんたちには俺の知らない深い繋がりがあるんだな・・・・”ちょっと寂しく感じる。




 「姉様〜。白湯さゆとお薬を持ってきたですぅ〜」

 俺と同じく局長付き近習の周子ちゃんがガラリと障子を開け、そのまま俺たちの様子を見て
2秒ほど固まり、

 「し、失礼しましたですぅ」

 ピシャリと障子を閉めた。どうやら何か勘違いしたらしい。近藤さんもそれに気付いたらしく顔を真っ赤にして立ち上がる。ゴンッ。俺の頭が音を立てて畳にぶつかる。

 “うーん、頭があ”

 「し、周子ちゃん、違うの、ラブシーンとかそんなのじゃないの」

 近藤さんがパタパタと足音を立てて周子ちゃんを追いかける。そして度重なる頭へのダメージの為、俺は何ら格好いい所のないまま、再び気を失った。






 近藤さん、カモちゃんさん、山南さん、沙乃、永倉、谷三十華&周子姉妹、斎藤、阿部君、そして俺。
来る時の倍の人数に膨れ上がった俺たち一行は、京街道をてくてくと徒歩で北上していた。
途中、淀川沿いに黒山の人だかりがある。俺たちも近づいて行くと、そこには黒コゲになって沈没した三十石船の残骸があった。

 「船頭さんには気の毒な事をしちゃったね。アタシの代わりに・・・」 とカモちゃんさん。

 「・・・・やっぱり島田の頭痛は正しかったんだね」 と斎藤。

 「これでカーモさんも安全かな?」 俺の方に尋ねる近藤さん。

 「・・・・」 何だろう、何となく気分が晴れない。

 そんな俺の様子を察したのか、山南さんが言葉を発する。

 「待ち伏せに失敗したのは敵も分かってるはずだ。用心して行こう」

 「うん、そうだね」 近藤さんが頷く。



 そして、伏見を抜け、伏見街道に差しかかったとき異変が起きた。左右の竹林がざわざわと動いたかと思うと、樫の八角棒や角材をなどの雑多な武器を手にした力士の一団が現われ、俺たちの行く手を遮った。

 「壬生浪みぶろども! 我らキンノー力士軍団の天誅を食らうでごわす!」

 「わぁ、お相撲さんだよ」 近藤さんがはしゃぐが、

 「近藤さん、キンノーですよ」

 「えっ、どうして分かったの? 島田くん、すごーい☆」

 「ちゃんとキンノーって名乗ってるじゃない」

 槍の穂先の槍鞘を外して戦闘準備に入りながら答える沙乃。同じく三十華。俺や山南さん、斎藤の刀組は柄袋を投げ捨て刀を抜く。続いて阿部君、近藤さんの鉄砲組も鉄砲筒からスナイドル銃を取り出し射撃準備に入るが、これは我々よりも少々時間がかかる。

 「どうやら話して通じる相手じゃなさそうだね」 抜き身を引っ提げた山南さんが、ズイと前に出る。

 「山南さん、沙乃ちゃんは右手を」 胴乱から銃弾を取り出しつつ近藤さんが命じる。

 「心得た」「分かったわ」

 「アラタちゃんと三十華ちゃんは左手を」

 「OK!」「了解ですわ」

 状況を正確に読み取りテキパキと指示を飛ばす近藤さん。普段のおっとりした所とは、別人のようだ。
ああ、近藤さん、カッコいいです。・・・・ってそんなことを言ってる場合じゃないぞ、俺。

 「島田くんと斎藤君は、本陣を守って!」

 本陣というのは近藤さん、カモちゃんさん、阿部君の銃砲組 + 戦力外の谷周子ちゃんの事だ。

 「承知!」 俺は刀を抜き、近藤さんの前に立ちはだかる。


 「問答無用、でごわす!」

 キンノー力士’sの一人が先頭の山南さんに角材を振り下ろした。だが、銀光が煌き、角材を掴んだままの腕が、あらぬ方向へ吹っ飛ぶ。

 「悪いが、手加減している余裕はないようだ。すまんね」

 そしてすれ違いざま、相手の胴を抜く。同時に右に握った脇差で、もう一人の喉を突いていた。

 “二刀流!” 俺は目を見張った。憂いを湛えたような、それでいて凄味のある山南さんの目だ。

 “初めて見る。これが本気の山南さんなのか” 俺が戦慄していると、

 「きゃー、山南さまー、すてきですわー」 場違いな黄色い声が上がる。谷三十華だ。

 しかし、そうは言いながらも、彼女も槍を旋回させ踊るように回りながら、次々と刺突を繰り出している。それが全て急所を狙っているからキンノーも容易には近づけない。美しさと強さを兼ね備えた、まさに『舞』だ。



 「どすこーい」 キンノー親方が、鉄棒を振り下ろす。

 「なんの! 永倉ハンマー!」 永倉がハンマーで弾き返す。

 「まだまだぁー」 ぐわん。

 「でやあ」 があん。

 ぐわん、があん、ぐわん、ぐわん、があん。重量物のぶつかり合う音が響く。

 「むう、やるでごわすな」

 「へっ、お前もな」

 そこ、お前たちだけ空気が違うぞ。



 そして、沙乃は苦戦していた。小柄なため、与し易しとみたキンノーが殺到したのだ。連続で突きを繰り出す沙乃だが、相手は脂肪の塊。いつしか穂先には脂が巻き、切れ味が鈍る。そしてついに3人目でキンノー力士の肉の鎧を貫通することができず、槍を突き刺したまま、相手に槍の太刀打ち(穂先のすぐ手前の柄の部分)を握られてしまった。

 「ぐふふ、でごわす」

 「ああっ!」 沙乃が悲痛な声をあげる。柄を押さえられたら後は力比べとなる。沙乃に勝ち目はない。そして槍を離したら、その瞬間に沙乃は無防備になる。

 「そりゃあ!」 キンノーが、槍の穂先を抜いた。

 「わわわ」 沙乃がつられて蹈鞴たたらを踏む。



 「沙乃!」

 沙乃のピンチに気付いた山南さんが駆けつけようとするが、目の前にキンノー・うわの山が立ち塞がる。

 「邪魔だ!」 言葉とともに斬撃を浴びせる山南さん。

 「うわっ、でごわす」

 断末魔の言葉を残し、キンノー・うわの山は倒れるが、倒れた巨体が沙乃までの道を遮る。

 「ちいっ!」




 「わあっ」

 突如、沙乃の槍を握っていたキンノーがゴロリと倒れた。キンノーの足元に三十華の槍が刺さっている。弟子の危機に三十華が槍を投げ付けたのだ。

 「沙乃っ! 油断するな、連中はデブだから重心が高い。足を狙え!」

 三十華の言葉に我に返った沙乃は、槍を風車のごとく振り回し、キンノーの足元を狙う。確かにちょっとした傷でも体重を支え切れず、キンノー力士は面白いように倒れる。



 だが、

 「ぐへへ、武器を捨てて丸腰になるとは、愚かな女でごわす」

 キンノーがジリジリと間合いを詰める。槍のない三十華は下がるしかない。


 「谷さんっ!」 沙乃が振り返る。

 三十華は一人でキンノーを引き付けていたため、誰も助けに駆けつけることができない。屈強な男共に取り囲まれる三十華。絶体絶命のピンチ!



 パーン。銃声が響き、三十華に襲いかかろうとしていたキンノーが眉間を撃ち抜かれて倒れた。
 ようやく射撃準備のできた近藤さんと阿部君が射ち始めたのだ。

 「三十華ちゃん、下がって!」

 さすがは最新鋭のスナイドル銃。パーン、パーンと次々銃弾が発射される度にキンノーが一人ずつ倒れて行く。

 包囲の穴を抜け、三十華がこっちに向かって駆けてくる。そしてそれを追うキンノー。



 はっ、いかん! このままでは、俺の見せ場が全然ないぞ。

 「島田誠、参る!」 武器を失って下がる三十華と入れ違いに俺が前に出る。

 「一人で出てくるとは、愚かな奴よ。土俵の錆にしてくれるでごわす」

 三十華を追っていた3人のキンノー力士、武蔵ふぃあ、千代のりゅん、みょみょの海が
俺の前に立ちはだかる。

 「斎藤!」

 「おうっ!」

 俺のすぐ後ろを走っていた斎藤が、俺の背中を踏み台にして、一気に前方に飛ぶ。

 「牙突ッ!」

 正面から向かってくる俺に意識を集中していたキンノーは完全に不意を突かれた。上空から突き下ろす弐式にしき牙突がキンノーに炸裂する。俺と斎藤がひそかに訓練していた合体技だ。

 「それは、我々の技でごわす!」

 ちなみに彼らは負けがこみ黒星が続いていたため、黒い3連星と呼ばれているそうである。

 「いくぞ、本家本元、ジェットストリー・・・・・ぐわああぁっ!」

 着地して無防備な斎藤に向かおうとするキンノー力士だが、そのかんに俺が追いついて来てる。あっさりと2人を行殺する俺。斎藤の放つ空中牙突と俺の斬撃。これは2段構えの合体技なのだ。

 「やったね、島田」

 「ああ」


 「くそっ、引くでごわす」

 リーダー格の関取、土佐の海が撤退命令を出し、一斉に引き上げるキンノー力士’s。
 しかし、

 「カモちゃん砲発射ぁッ!」

 ドカンという轟音と共にカモちゃん砲が発射される。哀れ、逃げていたキンノーたちは黒コゲになって全滅する。

 「周子ちゃん、次の弾込めて」

 「ふみー、重いですぅ」

 「カモちゃん砲発射ぁ!」

 ずどーん。全滅しているにも関わらず、容赦なくカモちゃん砲が撃ち込まれる。き、気の毒に。


 「やったあ☆ 大勝利!」

 近藤さんがガッツポーズを決める。確かに皆の連携の取れた大勝利だった。数に倍するキンノーを全滅させたのだから。




 「ふん、連中にゃ期待してなかったが、一人のたまも取れねえとは、情けねえ奴らぜよ」

 竹林の中から黒い銃口が覗いていた。



 「ゆーこちゃん、あぶない!」

 はっと気配に気付いたカモちゃんさんが近藤さんを突き飛ばす。そして銃弾がカモちゃんさんを貫いた。血が吹き出し、鮮血が浅葱色の隊服を赤く染める。

 「カーモさん! カーモさん!」

 「阿部っ! 右の林の中だ!」

 三十華の言葉に阿部君がスナイドル銃を射ち掛けるが、既に逃げてしまった後で、銃声が空しく響き渡るばかりだ。

 「へへ、ゆーこちゃん・・・・よかった、無事で・・・・てへ、島田くんの予言通りになっちゃったね・・・・こほっ」 

 肺に穴が空いたのか、咳と共に吐血する芹沢。

 「カモちゃんさん!」

 俺もカモちゃんさんの所へ駆け寄るが、だんだんとカモちゃんさんの体が青白くなってゆく。カモちゃんさんの体から急速に生気が抜けてゆく。

 「カモちゃんさんしっかりして下さい」

 「島田くんが、島田くんがあんな予言をするから、カーモさんがこんな目に・・・・」

 「ゆーこ、今はそんな事を言っている場合じゃない。沙乃と三十華君の槍、それと隊服で担架を作るんだ。
  島田君、斎藤君、先に行って医者に連絡を!ここからなら伏見に戻った方が近い」

 錯乱した近藤さんに代わって山南さんが適切な指示を飛ばす。

 「弾は抜けてるな。酒が・・・・芹沢君の清酒か。芹沢君、痛むけど我慢するんだよ」

 カモちゃんさんが腰に着けていた丸徳利から、中身を口に含むと、山南さんはブッと傷口に向かって酒を吹きかける。

 「きゃああああああ」

 傷口に染みるアルコールの痛みは筆舌に尽くしがたいものだ。カモちゃんさんが絶叫する。その絶叫を後ろに聞きながら、俺と斎藤は医者を呼ぶべく走りだしていた。





 沙乃と永倉の連絡ですぐさま土方さんが駆けつけて来た。監察の調査で犯人が居たとおぼしき場所に、
土佐藩の家紋を彫り込んだ拳銃用の空薬莢が発見された。この物的証拠により今回の件の黒幕は土佐系のキンノーであると断定。わざわざ薬莢に土佐藩の家紋を彫るような真似をして、さらに証拠の品をわざと残したことからも、これはキンノーからの明らかな挑戦状だと推測された。
(※リボルバー拳銃の場合、全弾撃ち尽くしてから排莢して、再装填リロードするため、薬莢が一発だけ落ちている
ということはワザとそうしたという以外に考えられない。オート拳銃なら一発撃つ度に空薬莢が飛び出すが、オート拳銃は1900年前後に開発された銃なので、この時代には存在しない)
 まさに、宣戦布告。何か大きな事件の先触れを感じさせる事件だ。ともあれ、新選組の局長が狙撃され重傷を負ったのだ。このまま捨て置くわけにはいかない。新選組監察部はその総力を挙げて、土佐藩の動向を探り始めた。




 結局、カモちゃんさんは一命を取り留めたものの、傷は浅くなく、大坂城で養生することになった。ちょうど将軍と一緒に大坂に来ていた御典医の松本良順の治療を受けることになったのである。

 「しばらく、大坂でのんびりするね」

 血の気を失った青白い顔で、別れの挨拶を口にするカモちゃんさん。
死にかけていたカモちゃんさんを救ったのは、山南さんだった。あの清酒の一吹きが効いたらしく、
激痛で黄泉路から戻って来たらしい。止血され包帯でぐるぐる巻にされて、医者まで運ぶ間中、

山南さんをののしっていたらしい。

 「カーモさん」 近藤さんが今にも泣きそうな表情かおでカモちゃんさんを見つめる。

 「ダメ、そんな顔しちゃ。アタシは一人だけ大坂でいい思いをするんだから。
  それに新選組はこれからが大変なんだから。ゆーこちゃんがしっかりしなくちゃ、ね☆」

 「カーモさん・・・・」

 「じゃ、行って来るね」

 芹沢を乗せた駕篭かごが大坂へ向けて出発する。




 「カーモさん大丈夫だよね?」 不安気な表情かおで俺の方を見る近藤さん。

 「大丈夫ですよ。御典医の松本先生と言えば、天下の名医ですから」

 「しかし、近藤、これで新選組の局長はお前一人となった。それを心得ていてくれ。
  ・・・そして、私がいつでもお前を支えてやる」

 「うん、カーモさんの分までがんばって立派な局長になるね」

 「・・・・」

 俺の脳裏には一つの疑問があったが、せっかくやる気をみせている近藤さんの興を削ぐ事もない。
とりあえず、胸の中に収めて置くことにする。だが、近藤さんにもしものことがあったその時は・・・・。


第3幕(池田屋事件)に続く予定。


(あとがき)
 近藤勇子EX第2幕の後編です。芹沢は暗殺こそ免れたものの、重傷を負い、新選組を去ります。ここに土方の目指した近藤一局体制が整います(史実だね)。土佐系キンノーの黒幕もちょっぴり顔を見せました。実は、行殺のゲームの中で芹沢暗殺事件の時に、なんで薬莢が落ちていたのかというのが、
ライアーの旧行殺掲示板で一時期話題になりました。坂本龍馬の使用していた拳銃は、S&Wスミスアンドウェッソンの1型
もしくは2型と言われており、これは世界で初めて金属薬莢メタルカートリッジを使用したリボルバー拳銃なのです。一発だけ
薬莢が落ちてるのは、多分、オート拳銃のイメージでシナリオが書かれたからだと思うのですが、それをデフォルトとして考察すると、キンノーの挑戦状であると結論が導き出せました。その他にもキンノーに罪を着せるために誰かがわざと置いたという可能性もあるのですが、史実だと芹沢を暗殺するのは土方ですから、シナリオによってはそれもアリだとは思うのですが、敵を増やしそうなので止めにしました。


(おまけ)
【近藤】 斎藤君との合体技って何、何なの?
【原田】 合体って、なんかやらしいわね。
【永倉】 そーかー、島田と斎藤はそういう関係だったのか! やるなあ2人共。
【沖田】 コホコホ、男の世界ですね・・・
【近藤】 いやーっ! 島田君のバカー!
【土方】 不純同性行為は士道不覚悟で切腹だ。
【藤堂】 ま、仕方ないよね。
【島田】 仕方ないで済ますなー!
【斎藤】 島田、ボクたち××だちだよね。
【島田】 お前も誤解を招くような伏せ字を使うんじゃない!


書庫に戻る

topに戻る