「師走の宴」


「『くりすますぱーてー』とやらをしませんか!?副長!!」
「本日只今を以て島田隊士に切腹を申しつける!」
「うわ、即断かよ!!」

 文久三年も師走を迎え、京の街でもツケの回収に商店主が奔走している頃、新撰組屯所でも日頃の張りつめた雰囲気は変わらずともどこか浮ついた雰囲気が混じり始めていた。
 隊士島田誠も新撰組で迎える初の年越しとあって、なんとか抑えようとはしているものの心がウキウキして仕方がない。
 祭りとあらば何でも良いやと噂に聞いた「くりすます」をダシに宴会でも開きたいなどと考えつき、土方に提案してみたところだった。

「島田、貴様自分のいる立場が分かっているのか?」
「え〜?だって攘夷はキンノーが掲げているんでしょう?ウチらはそれと敵対してるんだから大丈夫じゃないすか」
「はぁ……こういう馬鹿の方が扱いやすいと思ったのだがな……」

 首を振りつつ、土方は去ってしまった。

「って、ヲイ、俺って無視!?」

 命拾いしただけ感謝しておいた方が身のためです。

 自分の幸運に気づきもせず、「さて誰に言えば実現できるかぁ?」と全く懲りない島田は、ここはやはり(形式上に過ぎないとはいえ)最高権力者である局長のところに行ってみよう!ということになった。

 宴会と言えばカモちゃんさん。
 カモちゃんさんにかかればいくら副長と言えども阻止できまい。
 我ながら良い思いつきだと得たり顔で局長室へと向かう。

「カモちゃんさ〜ん?折り入ってご相談が……」

 障子を開いたそこには、いつものように酔っぱらいが…………居なかった。

「あら、島田君。どうかしたのかな〜?」
「……………」
「?あたしの顔、なにか付いてる?」
「キ、キサマ誰だ?局長をどこに隠した!?」
「え?え?」
「うるさい!昼間から素面のカモちゃんさんがいてたまるかっ!!うまく侵入したとでも思っているのだろうが、この島田の目はごまかせないぞ!!」

 そう叫びながら腰の大刀に手をかける。
 カモちゃんさん相手に刀一本とは良い度胸である。

「ちょっと島田君?最近かまってあげなかったから怒ってるの?」
「くぅぅ!!そうなんだ、最近副長が厳しいからカモちゃんさんもおとなしくなっちゃって、あぁ!あの豊満な胸に顔を埋めて窒息してみたい!!……って何言わすんだーーーーっ!!」
「もぅ、そんなよっきゅーふまんだから怒りっぽくなっちゃったんだねぇ。よしよし、ホラ、久しぶりに可愛がってア・ゲ・ル☆」
「ぁあ……引き寄せられる!?ダメだ!ダメだ!これは罠だ!逃げるんだ島田、お前の手に負える相手じゃない!!」
「あ、行っちゃった……ちぇ」

 しばらく走ると、肩で息をしながらようやく歩をゆるめる。

「はぁ…はぁ…あぁ、危なかった。ん?ここはゆーこさんの部屋か……」

 本来の目的を思い出し、障子をぼすぼす叩いて呼んでみる。

「近藤さ〜ん、いますか〜?」
「はぁ〜い?」

 中からのんびりした声で反応があり、遅れて障子がスッと開いた。

「あ、島田君。何か用?」
「えぇまぁ」
「どうぞ、入って」
「お邪魔しま〜す」

 遠慮無く部屋に入らせてもらい、かくかくしかじか事の顛末を説明した。

「あはは、それはトシちゃんも怒るよ〜」
「そうすか……」
「でも忘年会ならやろうっていう話はあるんだよ?」
「だってまだ十日もあるじゃないですか」
「あはは、そうだね〜」

 たぶんなにも理解していない。
 島田はそう直感した。

「えーと、とりあえずお邪魔しました」
「あ、もういっちゃうの?また来てね〜☆」
「えぇ、喜んで」

 次は誰の所に行こうか。
 今までの失敗を振り返ってみる。
 そうだ味方が少なかった。
 平隊士の自分がいくら働きかけても効果は期待できない。
 ここはある程度の地位にあるものを抱き込んだ方が得策だ。
 そこまで考えると、再び廊下を駆け出す。

「お?丁度良くそろってるじゃん」

 巨大ハンマーと三叉槍が並んで歩いていた。

「おーい、そこのお二人さ〜ん」
「ん?おぉ、島田じゃないか」
「しーまーだ!!先輩に対する礼儀がなってないって何度言えば分かるのよっ!!」
「アラタ、ちょっと相談があるんだが……」
「……あたしを無視するなー!!」

 ギャーギャー叫ぶ原田はおいといて、永倉に「ぱーてー」のことを説明する。

「へぇ、向こうはそんなことやってんだ」
「な?俺一人じゃちょっと実現が難しいんだよ。アラタ、副長助勤だろ?なんとかならないか?」
「助勤ったって、実質、隊はトシさんが全部しきってるからなぁ」
「そんなこと言ってご覧なさいよ。即刻切腹だー、って言われるのがオチだわ」
「あ〜、言われた言われた」
「……アンタ、命知らずね」

 原田の呆れ顔もなんのその、ひとまず賛同者を確保して良しとする。
 次なる標的として、斉藤はじめの部屋に向かった。

「斉藤、俺と一緒に死んでくれ!」
「えぇ!?いきなり何!?」
「男が四の五の言うな!死ぬのか生きるのか、どっちだ!?」
「え、え〜と、島田と一緒なら僕は……」
「良し!それでこそ我が友だ!!」

 顔を赤らめてもじもじしている斉藤の肩をバシバシ叩き、賛同者確保、と心の中で追加した。

「あとめぼしいのは……山南さんとそーじかな……」

 副長と副長助勤のコンビである。
 この二人の賛同を得られれば、心強い後方支援となる。
 おそらく山南も沖田の部屋にいるだろうと思い、沖田の部屋へ向かう。

「たのもー!」

 障子をずさーっと開け放つ。

「島田君……入るときは声くらいはかけたまえよ」

 案の定、山南もいた。
 これは好都合とばかりに、相談してみる。
 かくかくしかじか。

「ね?山南さんも良い考えだと思いません?」
「そうだねぇ、最近殺伐としてるし、たまにはぱーっといきたいものだね」
「さっすが話が分かる!」
「しかし相手はあの歳江君だろう?手強いぞ?」
「ふっふっふ、いかな副長と言えども、俺らが一丸となれば折れないわけないですよ!」
「それもそうだな。よし僕も協力しよう」
「ありがとうございます!!」

 がっしと山南の手を握る。
 あぁ!素晴らしき上司に万歳!

「ねぇ、お兄ちゃん」

 勝手に盛り上がる島田に、沖田が言いにくそうに話しかけてきた。

「ん?なんだそーじ」
「その『くりすます』っていつだか知ってる?」
「良くは知らないけど、年末にやるって聞いたぞ?」
「あのね、向こうは日本と違って太陽暦だから、向こうの年末って先月なんだよ?」
「……………………え゛?」


 そして十日後の忘年会まで、島田の放心状態は続いたという。



感想は、椎名ひなた様まで〜。

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