行殺ホワイトデーSS 2009

『ダイエット・ワルツ』


 弥生やよい・・・。

「島田さん。新しい彼女ですか?」
「うお、そーじ(=沖田鈴音すずね)か? 舞台裏の放送室に来るなよ。登場人物は袖で待機だぞ」
「島田さんも、ここにいるじゃないですか?」
「行殺は主人公である俺の一人称の物語だから、俺は登場人物でもあり、ナレーターでもあるのだ」
「今回あたしは出番がないんです」
「あ、そーですか・・・」
「ところで、島田さん、弥生さんって誰です?」
「弥生は3月だぞ」
三月みつき弥生さんですか?」
「無理やりボケるなよ・・・」
「一応確認しとかないと。
 危うく、トシさんに『島田さんに新しい恋人が出来た』って報告する所でした」
「そういう恐ろしい事はめて下さい」
「『弥生やよい・・・。』なんて、まぎらわしいナレーションをするからです」



 3月のある日の夕刻。
 新選組副長の土方歳江は、その日の執務を終え、湯殿に向かっていた。

《って、そーじ、勝手にナレーションするなよ。行殺は俺の一人称なんだぞ》
《女湯のナレーションをしないで下さい。後でトシさんに言い付けますよ?》
《それは勘弁して下さい。まあ、ここのシーンに俺は居ないから、一人称のナレーションには無理があるな》
《そういうわけで、あたしが代わりにナレーションをやります》
《うい、よろしく》

 脱衣所に入り、服を脱ぎ始める土方。隊服から袖を抜き、きちんと畳んで籐籠に入れ、次いで冬物の上着を脱いで同じく畳み、ネクタイを緩めて一息つく。男物のネクタイをしているが、これはオシャレなだけでなく、気を引き締める為のアイテムでもあるのだ。
 膝下15cmのプリーツスカートのホックを外すと、スカートはストッと床に落ちる。スカートを拾おうとかがんだ所で、土方は脱衣所の隅にある体重計に気付いた。
「ふむ、ウェイトコントロールも隊士の務めの一つだからな」
 角襟のYシャツのような黒のブラウスを脱いで、これは洗濯籠に放り込む。
 土方は下着姿になると(※ちなみに、上下お揃いの可愛いらしいピンクだ)、おもむろに体重計の上に乗った。

《島田さん、勝手にナレーションに混ざらないで下さい!》
《下着は重要な萌えポイントで、おとこのロマンなんだあ!!!》
《そんなロマンは知りません! えいっ!》
《ぎゃああ!》(※島田、斬られた)

 体重計の針が回り・・・ピシッ! 擬音と共に固まる土方。
『そ、そんな馬鹿な!』 体重計の針は無情にも56.5kgを指して止まっている。
「あ、そうか、服の重さを引かないとな、うっかりしていた。ははは」
 目に縦線を入れ、乾いた笑いをあげて。強引に自分を納得させようとする土方だったが、
「トシちゃん、鉄のブラでもしてるの?」
「うおっ!」
 突然、後ろから声を掛けられ、驚いて飛び上がった。

「な、なんだ。近藤か」“いつのに近づいた!?”
 近藤も下着姿(※近藤の下着を描写ナレーションしようとした島田は、口を開く前にそーじに切り捨てられた)で、土方の後ろから体重計の針をのぞき込んでいる。
 近藤が自分も脱いでからトテトテと近づいて来るのに気付かなかったのは、体重計の数字に衝撃を受けて土方の体内時計が止まっていたせいである。
「だって、トシちゃん、服の重さって、今、下着だけじゃない。1kgもあるの?」
「え・・・いや・・・これは、その・・・髪も伸びたし・・・」
「確か、トシちゃんの体重って55kgだったよね」
「そうだが・・・」
「今、56.5・・・あれ? 4・・・6」 土方の動揺が伝わったのか、体重計の針が小刻みに震えている。だが、無情にも56kg以上の所で針は振動している。
「こ、これは違うぞ。断じて・・・その、今日のブラはワイヤー入りだし・・・」
「トシちゃん、太った?」 ズバリ、土方の目を見て、そう断言する近藤。
 ズガーン! 言われたくなかった一言が、土方の頭に衝撃を走らせる。
「い、いや・・・これは・・・その・・・」
「あたしも太っちゃって、ホラ」
 茫然としている土方を体重計から降ろし、自分も体重計に乗る近藤。その針は54.2kgで止まった。近藤の普段の体重は54kgだから確かに200gほど体重が増えているが、それでも土方よりもはるかに軽い。
『なぜだ!? 同じものを食べてるのに、なぜ近藤の方が軽い!?』 衝撃の事実に愕然とする土方。近藤も甘いものが好きだが、毎日一緒にお茶をするからお茶受けのケーキなども同じものを食しているのに。
「さ、お風呂に入ろ。こんな格好じゃ風邪ひいちゃうよ。あたしも稽古で汗だくだし」
 そういえば、近藤は天然理心流の宗家4代目なので新入隊士達に剣の稽古をつけたりしている。それに対して土方は完全な内勤だ。激しい稽古をしている近藤とでは消費カロリーに差があるのだ。
『すると近藤の増えた分は筋肉で、私のは・・・』 “脂肪”という単語は死んでも口に出したくはない乙女心だ。
『書類仕事を山南に任せて、明日から私も市中巡回に出る! 痩せなければ!』
 精神的なダメージでフラフラしながらも、近藤の後を追って風呂場に向かう土方だった。



 バタッ。
 京の往来で突然俺は倒れた。
「島田、どうしたの?」 倒れた俺に、斎藤が手を差し伸べて来る。
「いや、今、2回ほど斬られた気がしたんだが・・・」
「誰に?」
「そーじから・・・」
「沖田さんは、永倉さんや谷さんと別の所を回ってるよ」
「そうよ、島田。自分が転んだのを、他人ひとのせいにするもんじゃないわよ」 と沙乃もつっこみを入れる。
 こちらは現在、原田副長助勤の下、俺と斎藤の3人組で珠数屋町通の狭い路地を巡回中だ。西本願寺が長州贔屓びいきなので、この辺りにはキンノーがよく現われるのだ。ちなみにそーじ・永倉・三十華(※谷三十華みそか)の助勤3人組精鋭部隊は、現在、河原町通を巡回中のはずだ。そちらは長州藩邸や土佐藩邸があるため、キンノーのメッカなのである。
「でも、そーじなら視線だけで人を斬りそうだぞ」
「そーね。天然理心流には気合だけで相手を気絶させる技があるそうだし」
「沖田さんは、試衛館で塾頭だったんですよね」
「そーよ。剣の腕はゆーこさんが認めるぐらいだもの。沙乃も刀で戦ったら3本に1本取れるかどうかね」
「槍だと?」
「沙乃の圧勝に決まってるじゃない。って、斎藤、ドコ行くのよ? 単独行動は慎みなさい」
「そろそろホワイトデーですから、お返しの飴とかクッキーとかを買っとこうと思いまして」 お菓子屋さんを見つけたので、そちらの方に向かいながら答える斎藤。単独行動は危険なので俺と沙乃も斎藤に続く。
「それは殊勝な心掛けね。でも3倍返しは基本中の基本よ」 嫌な基本だ。
「ホワイトデーかぁ〜」
「何よ、島田。遠い目をして」
「そういえば、そういうイベントもあったなあ。って」
「忘れてたんだ・・・」 あはは、と笑う斎藤。
「島田、さいてー」 沙乃はあきれ顔だ。
「いつもは俺に縁遠いイベントだからなあ」
「それはチョコを貰えないからよね」
「でも今年は島田も土方副長からチョコを貰ってたじゃないか」
「トシさんの男の趣味も変わってるわ。まさにたで喰う虫も好き好きって奴よね」
「本人を目の前にしてそういう事を言うか? 土方さんだけが俺の魅力に気付いたのかもしれないじゃないか」
「アンタの魅力って何よ?」
「さあ? 俺も知らんけど」
「ふうん。そうね、トシさんが島田のどこを気に入ったのか試してみるのも悪くはないわね。島田、沙乃と恋愛体験してみる?」 沙乃が色っぽく微笑んでいる(※らしい)。
「いや、俺、ロリ属性ないから」 ばっさりと斬り捨てる俺。
「ふ、ふふふ・・・」 沙乃がどす黒いオーラを立ち昇らせながら、槍を構える。
「し、島田。今のは、まずいよ」
「分かった。言い直す。俺、お子様属性ないから」
「沙乃を子供扱いするなぁ!」 沙乃が槍を振り上げる。
「どうして、あおるんだよ、島田」
「面白いから」 俺と斎藤は槍を避けるべく身構える。沙乃も本気ではない(ある意味本気ではあるのだが)。甘噛みのようなものだ。この程度の攻撃を避ける事ができなければ、沙乃の部下は務まらない。

「原田! 往来で槍を振り回すんじゃない! 人目を考えろ」
 沙乃の後ろに突然現われた土方さんが、沙乃をたしなめる。
「だって、トシさん。島田が・・・」 ここで沙乃は口を閉ざした。『沙乃を子供扱いした』と言ったら、その程度の事でキレるな。と叱られるのが目に見えているからだ。代わりに沙乃は、とんでもない事を口走った。どうやら俺への意趣返しのようだ。
「ホワイトデーの事を忘れてたのよ!」
「ほほう?」 土方さんが氷の様な微笑を浮かべてこちらを見る。先程の沙乃の微笑と異なり、色気はあるが、それでいて殺されそうな冷たい殺気を感じる。
「えーと、いや、そのですね。土方さんは、飴とクッキーとマシュマロのどれが良いですか?」
「島田・・・」 土方さんが、ふるふると小刻みに肩を震わせている。
「はい?」
「この馬鹿者が〜!」
「ぐはあっ!」 俺は土方さん渾身のぐーで吹っ飛ばされた。沙乃と斎藤は呆気あっけに取られている。

「トシさん、やり過ぎなんじゃない?」
「島田、気を失いましたよ」 斎藤が島田の下に駆け寄っている。
「受け身も取らずに頭から落ちてたもんねえ」
「というか、なぜ土方副長がここに? どこかへお出掛けでしたら護衛は・・・」
「たまには私も現場の風を肌で感じたくてな」 まさかダイエットの為にウォーキングを始めたとも言えず、ごまかす土方。

《島田さんが気を失ったのでナレーションはあたし、沖田鈴音が代わりました》

「トシさん。いくら島田がホワイトデーを忘れてたからって、全力で殴る事はないんじゃない?」
「原田も、島田がホワイトデーを忘れていたから槍を振り上げていたのだろう?」
 ダイエット中にお菓子の事を言われたので、思わず殴ってしまったとは言えない土方。
「あ、うん。そうだけど」 こちらも本当の理由は違う。
「原田もひそかに島田にチョコレートを渡していたのか?」
 薮蛇やぶへびである。島田がホワイトデーを忘れていて、それで沙乃が槍を振り回すぐらい怒ったという事は、島田にチョコレートを贈ったからだと邪推されても致し方ない。土方の殺気が沙乃に向けられる。恋は盲目。『我ながら余計な事を言ったものだ』と沙乃は思った。土方から恋敵こいがたきと誤認されるのは何としても避けたい所だ。『っていうか島田と恋人でも何でもないし、誤解されるのは迷惑だわ』
「沙乃のは義理チョコよ。斎藤にも渡してるわよ」 そうよね! という強い命令系の視線で斎藤を見る沙乃(※実は渡してない)。
「え、あ、はい。もらいました」 どうやらアイコンタクトはうまく行ったようだ。
「ふむ、そうか、義理か」 ほっとした表情の土方。
「トシさんは本命だったのよね?」
「なっ、ばっ、私が島田ごときに懸想けそうするはずがないだろう!」 ムキになって否定する土方。その慌てよう、実に分かりやすい。
「義理なら3倍返しは常識よね。島田にも命じといたから大丈夫よ、トシさん」
「さ・・・」 土方が絶句する。3倍返しだと、大量の飴やマシュマロやクッキーが・・・。だからと言って断るような真似は出来ない。
『これは原田の罠か!?』

 土方のホワイトデーは前途多難だった。




「うーむ」 屯所への帰り道。俺は腕を組んで唸った。
「何よ、島田。さっきから」
「俺は何で土方さんから全力で殴られたんだろう?」
「ホワイトデーの事を忘れてたからよ。で、お菓子屋さんの前で取ってつけたように飴とかクッキーとかマシュマロとか訊いたからじゃない?」
「それのどこに怒るポイントがあったんだろう?」 俺は首をかしげる。
「副長のチョコって手作りだったんだよね?」 と斎藤が訊いて来る。
「形が不揃いだったもんなあ。ハートもいびつだったし。あれでは売り物にならないだろう」
「って事は手作りチョコだね」
「そうだろうなあ」 
「馬鹿ねえ。買って済まそうとするからよ。トシさんは手作りだったんだから島田も自分で作るべきね」
「そーかー、そっちかあ・・・でも俺、クッキーとか作った事ないぞ」
「男だもんね」
「今時、料理も出来ないような男は、男として失格よ。へー(※藤堂たいら)にでも習ってクッキーを作りなさい」
「土方さんが不機嫌なままだと僕たちも困るから、ちゃんとやってよ、島田」
 屯所に着いた。斎藤が腰から刀を外しながら、俺の方を向いてそう言う。
「とほほ。土方さんからもらったばかりにとんだ災難に・・・って、沙乃! 巡回手帳に書き留めるんじゃない!」 そんなものを提出されたら、俺は身の破滅だ。
「書いた振りだけよ。いいからあんたは、さっさと厨房に行きなさい。副長助勤命令よ」
「へーい」
 こうして、俺は厨房に向かったのだった。




「へー、居るか〜?」 厨房の入口で呼びかける俺。
「いるよ〜」 新選組の調理担当は今日も厨房にいた。へーは北辰一刀流の達人なのに、料理好きなので調理担当をしているのだ。だから行殺のゲーム本編でも厨房に行くシーンがない為、へーにはなかなか出会えない。
「クッキーの作り方を教えてくれないか?」
「ホワイトデーだからかな?」
「ああ」
「ひょっとしてお給金を使い込んで、クッキーを買うお金がない。とか?」
「さすがにその程度の持ち合わせはあるけど、どうやら手作りじゃないと駄目らしいんだ。しかも3倍返しが常識らしい」
「それは常識だね〜」 へーも笑顔で肯定する。
「つーわけで教えてくれ」
「えーと、まずは生地を作って、型で抜いて、それから焼くんだよ」
「ふむふむ」

 それから俺はへーの指導を仰ぎ、バターをクリーム状になるまで掻き混ぜて、砂糖と卵を混ぜて、薄力粉をふるいにかけて、混ぜて練って、生地を作った。
 生地を寝かせる間は、へーの夕餉ゆうげの準備を手伝って、その後は、そばを打つ要領で生地を延ばして、湯飲みで型抜きして、オーブンで焼いた所、勝手が分からず黒コゲになった。
 最初から作業をやり直して、ようやく完成したのは、へーが夕餉を完成させた頃だった。

 そして、それから数日。俺は市中巡回の合間をぬって、クッキー作りに精を出した。お菓子作りは、始めると面白いもので、クッキー作りで余った卵白から淡雪やマシュマロを作り(材料が無駄にならない。へーの考えは合理的だ)、麦芽から飴を作ったりと3倍返しに十分な量を作り出すことに成功した。




 そしてホワイトデー当日。
 俺がさまざまなお菓子を詰めた籠を持って土方さんの部屋に向かっていると、
「もらった!」 一陣の風が吹き抜けて、気付いたら俺の手から籠がなくなっていた。振り返ると永倉が籠を奪って走り去って行く。
「待て、永倉!」
 俺も全力で追いかけ、永倉を築地塀まで追い詰めた。
「お前が甘い物好きなのは知ってるが、それを渡すわけにはいかないんだ。おとなしく返せ」
「嫌だと言ったら?」
 チャキッ。俺は刀の鯉口を切った。
「うわ、マジかよ」
「おとなしく返せ」 永倉はハンマーを持っておらず、両手で大きな籠を抱えているから、いかに神道無念流の免許皆伝とはいえ、避けられない。つーか、武器を持った男が女を壁際に追い詰めてるので俺が悪人のように見えなくもないが、でも泥棒は向こうだからなあ。
「そーかー、それじゃあ、しょうがないな」
「分かったら、おとなしく・・・」
「芹沢さん、パス!」 永倉が籠を放り投げた。
「あ?」 籠はきれいな放物線を描いて、塀の向こう側へと飛ぶ。
「ナイスキャッチ!」 築地塀の向こう側からカモちゃんさんの声がする。
「しまった!」
 逃げ場のない塀の方に逃げたのは永倉の作戦の内だったのか! しかも共犯者が居たとは! 俺が数日、厨房に籠もってお菓子作りをしてたのは周知の事実なので、この2人は完成するのを狙ってたんだ。何という悪党っぷり。
「ちっ! おのれ!」
 俺は急いで長屋門に回り、永倉が籠を投げた辺りの外側に回ったが、すでにカモちゃんさんの姿は影も形も見えない。
「あ〜・・・・・」 あっさりと強奪されてしまった。今から作り直す時間もないし・・・土方さんも俺が厨房でお菓子作りをしてた事は知ってるから、ここは一つ、素直に謝って・・・許してくれるといいなあ(希望的観測)。




 永倉とカモちゃんさんにホワイトデーの贈り物を奪われた俺は、意気消沈して土方さんの部屋へ行った。
「土方副長」
「ああ、島田か。どうした?」 俺が手ぶらなのを不審に思ったのか、土方さんが眉をひそめる。
「申し訳ありません。ホワイトデーの為に、クッキーやマシュマロや淡雪などをたくさん作ってたのですが・・・」
 土方さんがピクっと動いたように見えた。
「それで?」 土方さんが続きを促す。
「申し訳ありません! 永倉とカモちゃんさんに奪取されました」 俺はその場に土下座した。
「そうか」 おや、何か土方さんが安堵してるみたいに見えるのだが・・・気のせいか。
「お前が厨房でお菓子作りをしているというのは藤堂から報告を受けていた。ないものは仕方あるまい。お前のその気持ちだけで私は十分だ」
 土方さんが満足げにうなずいている。変だな、庭まで蹴飛ばされる覚悟をしてたのに、妙に優しいというか、甘いというか・・・。
「申し訳ありません!」 俺は土下座したまま、再び頭を下げる。
「馬鹿者、男がやたらと頭を下げるな。それに芹沢さんと永倉には後でたっぷりと話を聞こう・・・地下室でな!」
 ああ、やっぱり怒ってる。でも怒りの矛先が俺じゃなくて良かった・・・。
「あと2、3日お待ちいただければ、また作り直しますが・・・藤堂助勤に教わって、作り方はマスターしましたゆえ
「いや、ホワイトデーはホワイトデーにもらうからこそ意味があるのだ。それ以外の日では意味がない」 なんかちょっとあせったように土方さんが、そう言う。でも割と意味深な言葉だ。
「ははっ!」 俺はまた頭を下げる。
「ふむ、ご苦労だった。下がってよし」
「はっ」 なぜ今日は土方さんがこんなに優しいのだろうと首を傾げながらも俺は、副長室を辞去した。




「島田クンのお菓子作りもなかなかの腕前じゃない☆」
「さすが、へーから習っただけの事はあるよな」
 籠一杯のお菓子を平らげた芹沢と永倉の2人だ。喜々として笑いながら屯所に戻って来た。
 そして玄関に入った所で、式台の上に仁王立ちしている土方歳江の姿に気付いた。顔を伏せているため、目は前髪の陰になって見えないが、背後にどす黒いオーラをまとっている。
「と、歳江ちゃん?」
「トシさん?」
 その無言の迫力に気圧されて、思わず2人が後退あとじさる。
「島田から手作りのクッキーを奪ったそうだな?」
「淡雪とかマシュマロとか、飴細工とか、あいつ器用だよな」
「バカ、アラタちゃん!」
 素で答える永倉と、あわててたしなめる芹沢。
「なるほどな・・・」
 芹沢には、土方のどす黒いオーラの下から、ゴゴゴっと音を立てて炎が立ち上るのが見えたような気がした。
「あ、ほら、歳江ちゃん、ダイエット中だったじゃない?」
「どこで、それを聞いた!」
「え、その、ゆーこちゃんから。
 そう! だからアタシたちは島田クンの悪魔の誘惑から歳江ちゃんを救ってあげたのよ」
 とってつけたような説明だが、説得力がないわけではない。
 しかし、土方には通じなかった。
「なるほど、それでは礼をしなければならないな」
「と、歳江ちゃん?」 きびすを返して逃げようとする芹沢と永倉の足首にガチャンと手錠がかかった。手錠からは細い鎖が伸びており、その端が土方の手に握られている。
「まさか、これは投げ手錠わっぱ!?」
「トシさん、いつの間にこんなワザを?」

「さあ、地下室に行こうか。たっぷりと礼をしてやる! 私からホワイトデーを奪った罪は重いと知れ」
 土方が普段からは想像出来ないほどの力で、ズルズルと2人を引きずって行く。思いの力は偉大だ。
「トシさん、ごめん!」
「歳江ちゃん、悪かったってば!」
「話は地下室で存分に聞いてやる。心配するな、木馬はちゃんと2台用意してある。そうだな、島田も呼んであいつもたまには楽しませてやるか。ははははは」 乾いた笑い声をあげる土方。
「歳江ちゃんが壊れてる〜」
「へるぷみー」


 悲鳴を伴った2人の姿が地下室へと消え、地下室に続く重い扉がバタンと音を立てて閉められた。


「愛よね、愛」 物陰からその様子を眺めていた沙乃。
「土方さんがダイエット中だとは知らなかった」 同じく俺。
「島田くん、助かっちゃったね」 と近藤さん。
「そうですね。カモちゃんさん、俺の身代わりになってくれてありがとう。あなたの恩は一生忘れません」
「アラタ・・・いい奴だったのに・・・。惜しい人物を亡くしたわ」


 かくして、この年のホワイトデーは、俺は・・平穏無事に終える事ができたのだった。

(おしまい)


(あとがき)
 ゲームの行殺新選組は、主人公である島田の一人称で物語が進んで行きます。そこで私は本物に近い贋作を書くために、同じように島田一人称でSSを書くのですが、島田が登場しないシーンでの描写は、毎回悩みます。
 『シャーロック・ホームズ』の主人公はホームズですが、基本的に著者であるワトソンの一人称で書かれており、ワトソンが登場しないシーンの描写は、後からホームズとの会話の中でホームズの台詞として書いてあります。
 同様に『涼宮ハルヒ』も、キョンの一人称で書かれてますが、キョンが登場しないシーンの描写は、『後から古泉から聞いた話では、』とかいう感じで、そのままキョンの一人称で書いてあります。
 今回、舞台演劇の様に、ナレーション方式を採ってみました。島田が出てるシーンでは島田一人称で物語を進め、島田が登場しないシーンの描写は、作品中に出番のない、沖田鈴音がナレーション原稿を読んでいるという形をとった三人称にしてます(そーじ一人称にすると、かなり面倒な事になりそうだったので。そのうち、この方法も試したい)
 こういった舞台でのナレーション設備に関しては、神悠士様に教えを請いました。
 このようなナレーションは『カゲナレ』と呼ばれ、カゲナレは舞台袖のマイクで行うとの事でした。本当はクオリティを出すために、そのようにしたかったのですが、作中で舞台劇をやってるわけではないのと、演劇やその手の知識がないと分からなそうな気がしたので、単純に『舞台裏の放送室』という風にしました。

 タイトルはアクエリオンのBGM集の曲名から。17話『食べたくて合体』で多用された曲です。
 ネタ的には、『らき☆すた』で柊かがみが体重を気にしてダイエットする4コマが多数あるので、じゃあ、ダイエット期間中がちょうどホワイトデーに引っ掛かったらどうなるんだろー? と思ったのがきっかけです。


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