行殺(はぁと)新選組 ふれっしゅ 『新選組ごっこ』
テクテクテクテク。俺と沙乃の2人組は、いつものよーに京の町を巡回していた。
「なー、沙乃」
「何よ?」
「さっきから子供達が見え隠れしてるのは、なんでだ?」
「島田も気付いた?」
そうなのだ。路地の陰から、犬矢来の脇から、天水桶の陰から、複数の視線が俺たちを
「沙乃と遊びたいんじゃないか?」
「沙乃が子供だって言いたいわけ?」
「子供じゃん」
「む、むかつく・・・。島田、あの子供達になんで沙乃たちの後をつけるのか聞いて来なさいよ」
普段ならキレて槍を振り回す所だが、沙乃も子供達の尾行の方が気になっているらしい。沙乃も大人になったなあ。うん。
「俺が行くと新選組が子供をいじめているように見えないか?」
「そうか、そうね。それがキンノーの狙いなのかも」
「新選組のイメージダウンだな。新選組を
以前、新選組の評判を落とそうと、大坂で『新鮮組』なる偽物が街で暴れるという事件があったが、土方さんとカモちゃんさんが下坂し、あっさりと鎮圧したという過去がある。キンノーも少しは賢くなったのかもしれん。
「じゃあ、沙乃が行って聞いて来るわ」
「その方が違和感がないだろうな」
「でしょ、優しいお姉さんが子供の相手をする方が自然だわ」
そういう意味で“違和感”と言ったわけではないのだが、沙乃が勘違いしてるんなら、まあ、いいか。
「ちょっと・・・」 沙乃が子供達に近づいた途端、
「うわー、新選組が来た〜」 子供達がクモの子を散らすかのように逃げ出した。
「な、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
「新選組だ、新選組だー!」
「待ちなさい!」
子供達が逃げ、沙乃が追いかける。なんつーか、子供同士の鬼ごっこみたいだな。うんうん、微笑ましくていいなあ。
俺は遠ざかって行く子供達と沙乃を見送ると、近くの茶店に入って、団子を注文した。
「わー!」
「待てー!」
通りに面した縁台に腰掛け団子を食べていると、子供達と沙乃が通り過ぎた。
「わー」
「待ちなさーい!」
今度は逆側から走って来て、そのまま通り過ぎる。
子供は元気でいいねえ。
「わー、わー」
「待ちなさいってば!」
「あ、島田くん、お茶?」 近藤さんだ。黒谷からの帰りだろう。
「はい」
「沙乃ちゃんは?」
「走り回ってます」
「待てー!!!」
「新選組だ、新選組だー」
「ほら」 またしても沙乃と子供達が走り去る。
「ホントだー。沙乃ちゃん、元気だね。
あ、あたしもお茶とお団子をお願いします」
近藤さんと2人でお茶してる間も、幾度となく沙乃と子供達が右から来ては左へ去り、左から来ては右へ走り去る。
「お茶がおいしいね☆」
「はい」
「あ、キミもお団子食べたいの?」
沙乃と走り回ってた子供の一人が俺たちの所へやってきた。
「島田くん、お金ある?」
「はい。さきほど桝屋さんから善意の寄付をたくさんいただきましたので」
「じゃ、この子にもお茶とお団子をお願いしまーす」
「まーてー!」
「わー、わー」
あー、沙乃の奴、槍を振り回してるよ。危ないなあ。
走り回るのに疲れたのか、子供達が茶店の方にやって来ては、近藤さんからお団子をごちそうになる。お金は俺が出す。押し借りクイズでキンノー系商人の桝屋から320両ほど巻き上げて来ているので団子ぐらいではびくともしないのだ(※おかげでキンノーに詳しくなってしまった)。
「ちょっと! なに、みんなでのんきにお茶してんのよ!」
最後まで走ってた沙乃がついにこっちに気付いた。ぜーぜー、と荒い息をしている。
「沙乃ちゃんもお茶にしようよ」
「ゆーこさん、そういう問題じゃなくて!」
「でも沙乃、問題は解決したぞ」
「どこがよ!」
沙乃が走り回っていた間、俺は子供達に事情聴取を
「子供達は新選組ごっこをやってたんだそーな」
「新選組ごっこぉー!?」 沙乃が素っ頓狂な声をあげる。
「一人が新選組隊士になって、残りのキンノーを追いかけ回して、斬る!」
「子供達もよく見てるよね☆」
「ちょっと、待って、それって鬼ごっこじゃないの?」
「キンノーを斬るってのが京都アレンジだよな。うん」
「・・・って事は沙乃は?」
「新選組隊士だろ?」
「待ちなさいよ、じゃあ沙乃は、その鬼ごっこの鬼役の新選組隊士と間違われてたって言うの!?」
「みたいだな」
「・・・・」 沙乃が無言で肩を震わせている。
「沙乃ちゃんが怒るのも無理ないよ。
だって沙乃ちゃんは隊士じゃなくって副長助勤なんだし」
「近藤さん、そーゆー問題でもないよーな気が」
「ふ・・・・ふふふ・・・・帰るわよ! 島田!」
子供達に怒るわけにもいかず、目標を失った怒りの矛先は俺へと向けられたのだった。
近藤さん、沙乃、俺の3人になった巡察隊は、三条大橋に差しかかった。
「・・・・」
「島田くん、どうしたの?」
「なんか、今、浅葱色の風が過ぎ去ったよーな気が・・・」
「わぁ☆ 島田くん、詩的だね。今のメモしてトシちゃんに見せていい?」
「いいですけど・・・・」
「あ、そーじ! また、巡察をさぼって子供達と遊んでる!」
沙乃が欄干に駆け寄った。どうやら沖田鈴音が河原で子供達と鬼ごっこをしているようだ。彼女の動きがあまりにも速いので俺には浅葱色の残像に見えたのだ。
「・・・・なあ、沙乃」
「何よ?」
「あれが新選組ごっこの起源じゃないのか?」
浅葱色の羽織が子供達を追い回している。あれは鬼ごっこだな。
「・・・・ふふふ、見つけたわ。島田、今からそーじを追いかけるけど止めないでね」
「沙乃、その笑顔、恐い」
「まてー、そーじ!」
沙乃は三条大橋からひらりと河原に飛び降りると、そーじ目がけて走り始めた。沙乃に気付いたそーじが逃げる。子供たちは集団で沙乃の邪魔をしようとする。
「えーと、新選組ごっこに新しいバリエーションが増えたのかな?」
「どういうルールになるんでしょうね?」
「キンノーが逃げて、新選組隊士が追って、その新選組隊士を副長助勤が追いかけて、キンノーは、実は裏では新選組隊士と癒着してて、副長助勤を妨害して・・・」
「すごく複雑なルールになりそうですね」
「・・・島田くん、帰ろっか」
「そっすね」
俺たちはテクテクと三条大橋を渡り終えると、屯所の方へと歩きだした。
「まてー!」
「沙乃ちゃん、誤解だよ」
背後では、沙乃が元気に走り回っているようだった。
これが今の世に伝わる京の子供たちの風習、『新選組ごっこ』の由来である。(100%ウソ)
(おしまい)
(あとがき)
ゲームの沙乃シナリオ第2幕で、キンノーの尾上宏樹を斬るイベントがありますが、この際に尾上と息子の大次郎の会話の中で『新選組ごっこ』なる単語が出てきます。大次郎の説明では鬼ゴッコそのものみたいなのですが、これをネタにSSを1本書いてみました。