「ゆーこさんがいっぱい☆」


行殺(はぁと)新選組ふれっしゅ・番外編

『ゆーこさんがいっぱい☆』


 元治元年六月中旬。池田屋事件のイベントが終わり、京には新選組の威名が轟いていた。しかしながら、
この時期の新選組は多忙を極めており、そのため会津藩が20名の若手藩士を応援要員として派遣したと
史実にあるとおり、新選組隊士たちは人手不足で疲労困憊していた。

 やー、朝はつらい。昨日の疲れがまだ抜けてないようだ。連日の池田屋の残党狩りで洛中洛外を走り回って
いるからなあ。

 「おはよう、島田くん」

 廊下で近藤さんとすれ違った。俺も挨拶を返す。

 「近藤さん、おはようございます」

 「今日も、がんばろうね」

 「はい!」

 笑顔でにっこりされると、それだけで、もう元気百倍! 疲れなんか吹き飛んでしまう。



 顔を洗うために井戸に行こうとすると、偶然にもまた近藤さんと鉢合わせする。

 「おはよう、島田くん」

 「おはようございます。今日はよく会いますね」

 「え? 今朝会うの初めてだよ」

 「えーと・・・・」

 近藤さんが本当に戸惑った表情をするので、俺もそれ以上強く否定できない。

 「あ、何か、勘違いかも・・・・」

 「うふふ。あたしの出てくる夢でも見たのかな?」

 「あ、えーと、そうかも」

この場は何とか収まったが、何となく釈然としない。



 もしや近藤さんは突発性の記憶喪失にかかったのでは! とか考えながら朝の教練のため屯所の北側にある
道場に向かっていると、またしても近藤さんとすれ違う。

 「おはよう、島田くん」

 彼女の第一声も全く同じだ。

 「・・・・」

 俺は無言でじいっと近藤さんに見入る。藤色の髪。大きな瞳。ぷよっとした頬っぺた。桜貝の様な唇。
やはり近藤さんに間違いない。
 と、いうことは一体どういうことだ?

 「あ、ダメだよ。そんな、朝から見つめちゃ・・・・。島田くんとあたしは、その局長と隊士なんだし・・・・」
 近藤さんは、その後の展開に期待してモジモジと身をよじる。

 「近藤さん! 今朝会うのは初めてですよね!」

 近藤さんは俺の反応に期待外れの様な表情を浮かべたが、すぐに不安気に俺に尋ねる。

 「え? うん、そうだけど。 島田くん、どうかしたの?」

 俺は、よっぽど妙な表情をしていたのだろう。

 「えーと、大丈夫です。ちょっと疲れているみたいで・・・・」

 「大丈夫? あたしからトシちゃんに言って、今日はお休みにしてもらおうか?」

 「大丈夫です・・・・・たぶん」

 頭がクラクラしてきたが、一つだけはっきりした。やっぱり近藤さんがおかしい。池田屋の戦いで頭を殴られた
か何かしたんだ。どうしよう、副長に報告して・・・・



 朝の剣術調練は取りやめだ。そんなことをしている場合ではない。急いで副長に知らせなければ!母家の方へ
急いでいると、向こうから新選組のコロボックルが歩いてくる。

 「誰がコロボックルだ! 沙乃はそこまで小さくないわよ!」

 「おぐっ」

 瞬間的に間合いを詰めた沙乃のアッパーが見事に俺の顎にクリーンヒット。しかし、小さいということは認めた
んだ。沙乃も成長したなあ。

 「勝手に人の思考を読むなよ。不条理な」

 「ははーん、ってことは、沙乃のこと、本当にコロボックルって思ったんだ。
  許せない!」

 沙乃の瞳に炎が宿る。“しまったあ、誘導だったかあ!”

 「ほぐっ」
 今度はボディーブローが決まる。沙乃の高さからなら俺の体は打ち込みやすいまとみたいなもんだろう。

 「いいこと、今度、そんな失礼なこと、考えたらただじゃ済まさないから」

 じゅーぶんにただで済んでない。というか、じゃあ、最初のアッパーは何だったんだ?
 まあ、これは俺と沙乃との挨拶のようなもんだが。

 「それよりも土方さんを知らないか?近藤さんの様子がおかしいんだが」

 「トシさんならゆーこさんと一緒に壬生寺に行ったわよ。虎徹(鉄砲の方)の練習をするんだって」

 「そうか、壬生寺だな! さんきゅー」

 頭の中に、再び『コロボックル』という単語が浮かんだので、沙乃に察知されないうちに駆け出す。



 屯所の門から出て左に曲がり、まっすぐ行くと壬生寺がある。俺は土方副長を探すために境内に向けて走った。
銃の練習をするのなら、広い境内のはずだ。

 待て、さっき沙乃は何か変な事をいってなかったか? 確か『トシさんならゆーこさんと一緒に壬生寺に・・・』
 近藤さんはついさっき道場に居たんだぞ、それがどうして副長と一緒に壬生寺にいるんだ?
 いかん、沙乃までおかしくなったか?



 壬生寺についた。屯所からすぐの場所なので走れば1分以内に着く。
 境内に土方さんと・・・・本当に近藤さんがいる!どういう事だ、わけが分からん。

 「島田じゃないか。どうした、息を切らせて火急の用件か?」

 「あ、島田くん、おはよう」

 「えーと、近藤さんは朝からここに居るんですよね?」

 「ええ、今日は朝から虎徹の練習をしてるの」

 「土方さんもですか?」

 「うむ、接近戦では役に立たんが、かの信長公が武田の騎馬軍団を破ったのも鉄砲だ。うまく使えんものかと、
  近藤を見ながら思案していた所だ」

 「・・・・」
 頭がグルグル回る。じゃあ、朝から俺に微笑ほほえんでくれた近藤さんは?井戸で会った近藤さんは?
ついさっき道場の前にいた近藤さんは???????
 もしかして、おかしいのは俺の方なのか? 近藤さんの幻覚を見てるのか?
 阿片の患者みたいに誰もいないのに挨拶したり、そこにいない人と会話したりするという・・・
 お、俺は阿片はやってない! 頭も打ってない!
 じゃあ、じゃあ、目の前の土方さんと近藤さんも幻なのか?

 確認しなければ・・・・でも、どうやって?
 はっ、ひらめいた! 俺の頭の中に電球のマークが浮かぶ。
 考案、即、実行。

 「ていっ」

 俺は雷光の早さで動くと、近藤さんのスカートをめくった。

 「きゃあ」

 近藤さんが悲鳴を上げる。そして、

 「島田ぁ〜! 士道不覚悟ぉ〜!」

 「ぐはぁ」

 間髪を入れず、土方さんから殴られた。俺は見事にふっ飛ばされ、どさっと背中から地に落ちる。

 「島田くん!」

 突然の事に頬を朱に染めながらも、俺のことを心配してくれる近藤さん。しかし、この痛みは本物だ。
ということは、この2人も本物だということになる。

 「斬る!」

 土方さんが抜いた。

 「待ってよ、トシちゃん。スカートをめくられたのはあたしでトシちゃんじゃないのよ」

 「同じことだ。スカートめくりなぞ、ガキのするようなことを!」

 「うーん。ということは、俺が見た近藤さんは幻覚だったのか・・・・」

 「何?」
 俺のつぶやきを土方さんが聞きとがめる。

 「島田、お前、この近藤の他にも、近藤に会ったのか?」

 「はい。朝、廊下で会って、井戸であって、ついさっき道場で会いました」

 「おう、完成したのか!」

 「やったね、トシちゃん」

 よろこびあう2人。

 「あのー、もしもし、話が見えないんですけど?」

 「うむ、では、皆に説明するから、お前も屯所に戻れ」

 「はい」

 立ち去ろうとする後ろから土方さんが俺に問いかけた。

 「時に、島田、近藤が本物か幻覚か確認するのに他の方法を思いつかなかったのか?」

 「えーと、土方さんのスカートをめくったほうが良かったですか?」

 「・・・・もういい。お前と話しているとこっちのレベルも下がりそうだ。さっさと屯所に戻れ」

 「はい」



 屯所の広間に、俺をはじめとして、新選組の隊士たちが集まって来た。そして上座には土方さんと、数人の
近藤さんが居る!? 

 「先の池田屋で我々は、キンノーの改造人間に手を焼いたが、キンノーがこれを量産していることが
  監察方の調べで判明した」

 「げっ、あのメカおまちちゃんが?」

 新選組最大の火力を誇るカモちゃんさんを倒し、最後はそーじによって倒されたメカおまちちゃんの、
りょ、量産型? あんな強いのをたくさん作ったってのか? キンノーは何を考えているんだ?

 「そこで、キンノーの量産型改造人間に対抗するため、とりあえず近藤を量産してみたのだが」

 「そーじを量産した方がよかったんじゃねーか」 これは永倉だ。

 確かに新選組最強の剣士、沖田鈴音を量産した方が効率が良い。

 「そーじではダメだ。病気で稼働率が低い。あと、京から黒猫が一匹もいなくなる」

 「じゃ、あたいは?」 と永倉。

 「永倉では、町の被害が大きくなる」

 「ひっでー」 と永倉。

 「沙乃でもよかったんじゃないの?」 と沙乃。

 「うむ、一応考慮に入れたが、量産型全員で議論を始めそうなので取りやめになった。
  あと、近藤の量産型ならば影武者としての意味もある」

 「さて、この量産型近藤の運用だが、島田が近藤係なので島田に一任しようと思う」

 「ちょ、ちょっと待ってください」

 俺はあわてるが、

 「じゃ、島田、がんばんなさいよ」 と沙乃。

 「がんばれよー」 と永倉。

 「島田、がんばってね」 と斎藤。

 仲間たちは冷たくも広間から去って行く。後には、俺と土方さんと、数人の近藤さんが残された。

 「と、いうわけでがんばるように」

 土方さんも去る。

 「む、無茶だぁ〜!」

 そして近藤さんたちと、俺だけが残された。近藤さんs(複数形)は、ニコニコといつもの笑顔を浮かべて俺からの
指示を待っている。通常局長から指示があるはずなんだが、うちでは逆転してるなあ。一番偉いの副長だし。
ま、書記長が国のトップってとこもあるから、別に不思議ではないか。
 そして大勢の近藤さんに囲まれた俺は、ある意味贅沢で幸せなんだが・・・・

 「えーと、じゃ、近藤さん」

 「「「「「「はい」」」」」」

 近藤さんが一斉に返事をする。まずこの状況を何とかせねば。

 えーと、みんな同じ顔なので、まず区別が必要だ。うーんと、うーんと。
服装は制服だからどうにもならないし・・・・

 そうだ、近藤さんは髪に大きなリボンをしているから、それの色を変えれば区別がつくぞ。

 「近藤さん」

 「「「「「「はい」」」」」」

 「とりあえず、全員、リボンの色を変えて来て下さい」

 「「「「「「はーい」」」」」」

近藤さんたちが、ぞろぞろと広間を後にする。



 しばらくしてもう1回集まってもらった。
 左から、赤・青・黄色・白・桃色・紫・緑・・・・全員リボンの色が違う。これでよし。
 「では、これから、近藤さんの後に色をつけて呼びますから」

 「「「「「「はーい」」」」」」

 「まず、近藤さん赤は、沙乃と一緒に二条城方面を巡回して下さい」

 「はい」

 「次に、近藤さん青は、永倉と一緒に本願寺方面を巡回です」

 「はい」

 「では、近藤さん黄は・・・・」

 こうして次々と俺の指示が飛び、それぞれの近藤さんは京の各方面へと散って行った。

 ふう、やれやれ。



 「ふむ、さすがは島田だ。近藤の近習、伊達ではないな」

 「土方さ〜ん、終わったころ出てこないで下さいよ」

 「近藤に用があるのだ。島田、近藤はどこだ?」

 「全員、京の町へ巡回に出ましたよ」

 「量産型ではない。本物の近藤の事だ」

 「本物って・・・・・あーっ!」

 「いきなり大きな声を出すな」

 「ひょっとして量産型に混じって巡回に出ちゃったかも・・・」

 「さすがは、島田だ。ちゃんと抜けているな」
 「土方さん、それめてないでしょ」

 「当然だ。何のための影武者か分からんではないか。さっさと本物の近藤を連れて戻って来い」

 「俺、今日は屯所で留守番・・・・」

 ちゃり・・・・。不気味な音がする。これは鯉口の鳴る音だ。

 「わ、分かりました。島田誠、近藤さんの捜索に出ます」




 かくして、俺はその日、一日近藤さんを探して京の町を走り回る羽目になったのだった。



 まず一人目はすぐに見つかった。白いリボンの近藤さんだ。巡回をサボって茶店でお団子を食べている。
パートナーはそーじなので仕方ないか・・・・

 「おーい、近藤さん白」

 「島田くん、島田くんも巡回に出たの? このお団子、おいしいよ」

 近藤さんがうれしそうに微笑む。うーむ、本物そっくり。いや、彼女が本物の可能性もあるわけだが。

 「いえ、土方さんが近藤さんを呼んでますので」

 「トシちゃんが?」

 「あ、本物の近藤さんをです。近藤さん白は本物ですか?」

 「さて、問題です。あたしは、本物でしょうか?」
 ほっぺたに指を当てて首をかしげてみせる近藤さん。め、めちゃくちゃかわいい。
 こういうおちゃめな所は本物そっくりだ。いや、本物かも。

 じーっ。俺は近藤さん白を凝視する。見れば見るほど本物と寸分違わない。
 と、いうことは?

 「えーと、ほ、本物?」

 「ぶーっ、残念。あたしは量産型です。島田くんでも分からないとなると誰にも分からないね」

 「はーっ」

 俺は大きくため息をついた。ま、最初から本物に当たるとは思ってなかったけど。

 「じゃ巡回がんばってくださいね」



 近藤さん白とそーじに別れを告げた俺は、次の近藤さんを探して四条を走った。しかしこれは単なる序曲に
過ぎなかったのである。



 次に近藤さん緑に出会ったが、近藤さん緑は斎藤とはぐれて、しかも道に迷っていた。

 「島田くーん、ここどこー。ぐすっ」

 うるうると涙目で俺を見上げる近藤さん。
 困った顔もかわいい! はっ、そんなことはどうでもいいんだ。

 とりあえず、屯所に連れて帰り、次の近藤さんを探しに出る。



 東本願寺の境内では、キンノーを追って暴走して行った永倉に取り残された近藤さん青がナンパされていた。
相手は指名手配のキンノー。

 ゆ、許せん。キンノーなだけでも許せないのに、近藤さんをナンパするとは!

 一行必殺! 相手に抜く暇も与えず、一刀の元に切り捨てる。行殺だ。

 しかし、近藤さん青も量産型だった。俺は次の近藤さんを探して、祇園へ向かう。




 祇園では、近藤さん桃色が、藤堂と一緒に舞妓のコスプレをして、写真撮影会・・・・、こ、こいつら何を考えて
巡回してるんだろう????

 「あ、誠!」 藤堂が先に俺に気付いた。

 「島田くん」 遅れて近藤さんも気付く。

 「何してるんですか、2人とも」

 「誠、似合うかな?」 そう言ってくるりと回ってみせる藤堂。

 「島田くん、どう?」 同じようにする近藤さん。

 「2人とも似合ってますけどね」 思わず脱力する俺。



 とりあえず、彼女たちも仕事に復帰させ、次は三条大橋に向かう。こっちには近藤さん黄色が来て居るはずだ。

 「あ、島田くん、お茶がおいしいね」

 近藤さん黄色も巡回をサボって団子屋である。まともに仕事している近藤さんがいない。
何だか泣きたくなって来た。とか言いつつ俺も走り回って疲れたので近藤さん黄色と一緒にお茶をする。
しかし、近藤さん黄色も量産型だった。



 次は御所である。混乱を避けるため、京の町に近藤さんを散らばらせたのは実にまずかった。
おかげで俺がひどい目にあってる。



 御所界隈で見つけた近藤さん紫もトラブルを起こしていた。何でも世界が幸せになるとかいう干し肉を
買ったらしい。うさんくさいことこの上ない。科研に回した結果、阿片入りと判明、廻船問屋の上州屋は後日、
新選組の手入れが入ることになるが、近藤さんを騙した売人の上州屋番頭はサクッと斬っておいた。しかし、
修羅場になると凄いんだが、どーして普段の近藤さんは、こんななんだろう。この人が新選組局長をやっていて
大丈夫なんだろうかと時々不安になる。
 そして、近藤さん紫もやはり量産型だった。しかし、本物だったら騙されてなかったかと問われたら、
やはり本物でも騙されていただろうと答えるしかないのが情けないところ。


 だんだん胃が痛くなって来たが、そのまま二条城方面へ向かう。ここには近藤さん赤と沙乃がきているはずだ。
ま、他のみんなに比べると沙乃がついているから、近藤さん赤は大丈夫だろう。


 剣戟と銃の音が聞こえる。天下の二条城の前で物騒な事だ。近づくと近藤さん赤と沙乃がキンノーファイト中
だ。沙乃が正面を守り、近藤さんが虎徹で後方支援している。
 おおっ!ここだけまともだ。さすが、新選組きってのお子様で常識人の原田沙乃!頼りになるぜ。
(【沙乃】お子様は余計だー!)
俺も刀を抜いて突撃をかける。槍の間合いから離れて沙乃の隙を窺っているキンノーにいきなり切りつける。

 「島田誠、見参!」

 「島田!」 沙乃が喜びの声を上げ、

 「島田くん」 近藤さん赤も同じく嬉しそうに俺の名を呼ぶ。

 3人にかかればキンノーなぞ物の数ではない。あっさりと鎮圧に成功する。俺という未確定ファクターの介入
も勝利に大きく貢献した。

 そしてここで見つけた近藤さん赤は、やっと本物だった。事情を説明して屯所に帰営する。



 屯所では先に帰っていた量産型近藤さんが、そこここに固まっていておしゃべりしていた。

 「みんな、ただいまー」
 「あ、おかえりー」
 「おかえりー」
 「おかえりー」
 「トシちゃんが局長室で待ってるよ」
 「なんだろうねー」
 「あ、おやつはお団子かな?」
 「あたし巡回の途中で食べてきたよ」
 「あ、いいなー、いいなー」
 「あたし、八橋ー」
 「いいな、いいなー」
 「あたしは、そろそろお茶がこわいかな?」
 「あ、あたし入れて来るね」
 「あたしは、羊羮がこわいなー」


 あーうー、横で聞いてると頭痛がしてくる。同じ顔、同じ声でよく会話が成立するものだ。さすがは近藤さん、
ただ者ではない。俺の隣では沙乃が同じく頭を抱えている。やはり新選組きっての常識人なので、この非常識に
は耐えられなかったようだ。

 「沙乃、頭痛がしてきた」

 「俺もー」

 「沙乃、もう寝る」

 「俺もそうする」

 沙乃が槍を引きずり母屋へ向かう。俺も自分の部屋へと向かう。あとはもう、知らん。





 数日後、

 「「「「「「おはよう、島田くん」」」」」」

 近藤さん達が、朝餉を終えた俺のところにやって来る。

 「あ、近藤さん達、おはようございます」

 最初は、たくさんの近藤さんを見るたびに頭痛がしていたものだが、最近ではすっかり慣れてきてしまって
いる。どんな状況にも対応する人間の即応性はなかなか大したものだ。

 「島田くん、今日は、あたしと巡回に行こうよ」
 「あたしも、あたしもー。今日は島原を巡回よ」
 「だめー、島田くんは今日は、あたしとお留守番なのー」
 「あたしは虎徹の練習に付き合ってほしいな」
 「今朝はトシちゃんと一緒に、書類整理だよ。島田くんも手伝ってくれるよね」

 取り敢えず、近藤さんがたくさんいるので、みんなで近藤さんの仕事を分業することになったのだが、
その結果、毎朝、近藤さん達が俺を取り合うことになった。近習は俺一人なので、まあ当然だが。
俺を取り合って近藤さん同士で争いが起こる。うーん、ある意味とっても幸せなのだが。

 「みんな、ずるーい、あたしだって島田くんとお散歩に行きたいのにー!」

 おや、これは赤いリボンの近藤さんだ。荒縄でぐるぐる巻にされてて、イモムシみたいに廊下を這って来た。
 な、なるほど、量産型みんなで結託して本物を閉じ込めたのか。さすがは近藤さんの量産型!
 しかし、そこまで想われるとは、男冥利に尽きるねえ。

 「よし、今日は近藤さんと巡回に決定!」

 俺は、ぐるぐる巻の近藤さん赤(本物)をひょいと肩に担ぐと、そのまま小路へ駆け出す。

 「あ、島田くん、待ってよー」
 「巡回なら、あたしも行くー」
 「あたしも、あたしもー」
 「あーっ、今日は留守番の日なのにー」
 「シクシク、やっぱり島田くん、本物がいいんだ。あたしたちだって近藤ゆーこなのに」
 量産型の近藤さん達の声が追いかけてくるが、だんだん後ろに遠ざかって行く。くのに成功した。

 「ふう、やれやれ。近藤さん、無事ですか?」

 「うん、大丈夫だよ」

 量産型を完全に撒いてしまったので、近藤さんを縛っている荒縄をほどく。

 「あー、やれやれ、やっと自由になれた。みんな島田くんの事が好きなんだもん。こまっちゃうなあ、
  島田くんは、あたしのなのに」

 おおっ!近藤さんの大胆発言。

 「えーと、基本的に、全員近藤さんですし」

 「島田くんは、誰でも、良いっていうのぉ〜?」

 「あ、だって、みんな近藤さんだし」

 「ふーん」

 「あ、巡回、行きましょ、巡回」 追求の手を逃れて俺は走りだす。

 「あ、待ってよー」

 近藤さんが笑顔で追いかけて来る。


 今日も京の町は平和だった。

 

<終幕>
 


<あとがき>

 かわぴょんです。実は板橋で処刑されたのは、量産型近藤さんで、本物は幸せに生きてます。

ゆーこさんEX、完!

あ、うそです、うそです。ゆーこさんEXはちゃんと書きます。次もがんばるです。


書庫へ戻る

topへ戻る