行殺(はぁと)新選組 りふれっしゅ
土方大作戦6 『蘇れ!永倉新・・・・の舞台裏』
「まだ遠くには行ってないはずだよ、探して!」
壬生の新選組屯所で陣頭指揮を取る局長 近藤勇子の声が響いた。
「ゆーさん、1番隊出ます。監察にも動員かけておきました」
沖田鈴音(※通称“そーじ”)が隊士を引き連れ出動して行く。
「うん、そーじ、お願い」
「8番隊、行くよ〜。 じゃ、ゆーこさん、トシさんを探して来るね」
同じく出動準備を整えた藤堂
「へーちゃん、お願い」
外から土方を探す声がする。どうやら捜索隊が出動したようだ。
“ふっ。間抜けどもめ・・・しかし、一体何で私がこんな目に・・・”
暗闇の中でため息をつく土方。
温泉旅行以来、永倉が戦力外になってしまった。何を言っても上の空で、まさに廃人同様になっている。原因は島田の馬鹿だ。どうやら温泉旅行の際に、酔った勢いにまかせて永倉に愛の告白をしてしまったらしい。この際、島田の趣味はおいておくが、
話を元に戻す。恋愛などという事柄に無縁の永倉はそれが原因で頭がショートしてしまい、精神がどこかへ飛んで行ってしまったのだ。
戦力外の島田はどうでも良いとしても永倉は神道無念流免許皆伝のハンマーの使い手。新選組でも1、2を争う腕前だ。このままではどうにも困るので土方は一計を案じた。島田を自分の情夫だった事にして、永倉の前で濃厚なキスシーンを見せつけてやったのだ。ライバルがいるとなれば永倉の頭も正常に回らざるを得なくなる。そう思っての挑発だったのだが・・・・。
永倉は、まあ、作戦どおり現実世界に帰って来たのでよしとしよう。土方に試合で負けた永倉は泣きながら街に出て行ったが、島田を追いかけさせたので、そのうち落ち着いたら戻って来るはずだ。
しかし、島田を賞品に永倉と賭け試合をしたという話が
「トシちゃん、恋愛は個人の自由だけど、役職を
“私がいつそんな事をした〜!!!”
「そ、それに島田くんもあたしの方がいいと思うし〜、そういうわけでトシちゃん覚悟〜!」
「歳江ちゃんも人が悪いなあ。島田クンをいつの間にか囲ってるなんてさ。
士道不覚悟でおしおきが必要だよねえ?」
“あんたにだけは言われたくない!”
「で、歳江ちゃんに勝って島田クンはアタシがもらうんだぁ☆」
「トシさん、破廉恥です。お兄ちゃんがかわいそう」
“その『お兄ちゃん』ってのは何だ?”
「トシさんを倒してお兄ちゃんをあたしの物にします」
「トシさんを倒したら、誠を賞品に貰えるという話だから、私がトシさんを倒すね」
“まったく、みんなして男の趣味の悪い・・・”
近藤は天然理心流宗家4代目で試衛館の道場主、芹沢は神道無念流免許皆伝、そーじは天然理心流免許皆伝で試衛館の塾頭、藤堂は北辰一刀流目録。皆
今不用意に出て行って試合をする事になれば、おそらく全員に負けてしまう。賞品に島田が懸かっているため、みんなの目の輝きが尋常でない。たぶん容赦なくボコボコにされてしまうだろう。副長がそんなに弱いというのでは組織の示しがつかないし、下手したらNo.2の座を山南に奪われかねない。山南はああ見えて北辰一刀流の免許皆伝者なのだ。
そういうわけで、一旦、屯所から逃げ出し、すぐさま引き返して屯所の床下に隠れたのである。灯台下暗しとはよく言ったもので、新選組は総力を挙げて土方の捜索に乗り出したものの、今のところ土方は見つかってない。
“ああ、ひどい事になった。まさか島田がここまでモテてたとはなあ”
無言でため息をつく。
外の
夕刻になった。庭には
「トシちゃんはまだ見つからないの?」
「各方面を捜索してるけど、まだ発見できないみたい」
近藤の問いに沙乃が答える。今回の件で原田沙乃は中立の立場だ。沙乃は永倉が壊れた原因を知ってて、あれが土方の作戦だった事も知ってるからだ(知ってて土方に向かって来た やおいの斎藤は、近藤以下の女性幹部らによって粛正されたらしい)。それと沙乃は
「そういえば、アラタちゃんと島田くんが見えないけど」
「島田とアラタは山籠もりに行ったみたいよ。トシさんを倒す為に修行するって言ってた」
「う〜ん」
「ゆーこちゃん、どうしたの?」
「ねえ、カーモさん。このまま島田くんとアラタちゃんがうまく行くようだったら、あたしたちはあきらめようか?」
「そだね。アラタちゃんに恋人ができるのは喜ばしい事だし」
島田が優勝賞品という事で、沙乃を除く全員が暴走したものの、相手が永倉アラタなら譲ってやろうという気にもなるものだ(土方だったら容赦しないというのが、実に彼女たちらしい)。
「あたしやゆーこちゃんが男を作るのは簡単だからねえ☆」
「あたしは簡単じゃないんだけど・・・」 近藤が小さくなる。
「ところでトシさんはどうするの?」
「アラタちゃんから島田くんを奪おうとするなんて許せないよね!」
「沙乃はちょっと違うと思うんだけど」
「とりあえず歳江ちゃんを倒せば、島田クンを所有する権利が発生するから、
あとはトーナメントで決めるってのはどお?」
とりあえず土方最弱というのは全員の共通した見解のようだ。
「なんか、あたし、そーじには勝てないっぽいんだけど・・・」
「あら? アタシには勝てるっての?」
「だって、カーモさんが刀を握ってるトコ、見たことないし」
「これでも神道無念流の免許皆伝だよ?」
「あたしは天然理心流の宗家4代目〜☆」
「天然理心流なんて田舎剣法じゃない」
「田舎じゃないもん! 多摩だもん!」
2人の間でバチバチと火花が飛ぶ。
「でも、まずはトシさんを見つけることが先決よね」
「そ、そうね」「そだね」 これには2人も同意する。
「沙乃、ちょっと考えてみたんだけど」
そう言って、沙乃はモチを積んだ大皿を用意し、その上に人が一人入れそうな大きなカゴをかぶせて、紐のついたつっかえ棒で支えるという古典的な罠を中庭に用意した。紐の先端を持って、沙乃が植え込みに隠れる。
“ば、馬鹿にしおって〜! そんな罠に引っ掛かる奴がいるか〜!!!”
床下で全てのやり取りを聞いていた土方は、ツッコミに飛び出しそうになるのを
「あの〜、沙乃ちゃん、いくらトシちゃんがおモチが好きでも、
さすがにこんな罠には引っ掛からないと思うんだけど・・・」
「アタシは割と引っ掛かるんじゃないかと思うけどなあ」
どうやら芹沢は沙乃の意図を察したらしい。土方を挑発する。ひょっとしたら床下に隠れてるのを沙乃と芹沢は気付いてるのかもしれない。
「だって歳江ちゃんって、見境なく部下の恋人を奪うような奴じゃん。
人前でキスまでしちゃってさ。乙女の恥じらいってもんがないよねえ」
“あんただけには言われたくない!”
「でもアラタちゃんも壊れてたし」
「恋愛に免疫ってもんがなかったのよ」
「あらぁ? 沙乃ちゃんにはあるのかしらぁ?」
「あるわよ。それくらい!」
「ゆーこちゃん、沙乃ちゃんの武勇談知ってる?」
「ん〜、あたしは聞いたことない」
「沙乃ちゃん、いくらモテないからってウソは駄目よ」
「さ、沙乃にも恋人の1人や2人ぐらい!」
「じゃあ、沙乃ちゃんがどこからどこまでやったのかアタシは聞きたいなあ☆」
「どきどき」 これは近藤。
「え、えーと、その、どこからどこまでと言われても・・・・」
“・・・・私はいつまでこうしていればいいのだろう・・・・”
上からは女の子らしい雑談が聞こえて来るが、そういえば、昼から何も食べてない。空腹だ。身から出たサビとはいえ、ひどい目にあったもんだ。出て行ったらもっとひどい目にあうのではあるのだが。
翌朝、永倉と島田がラブラブ(?)な様子で山籠もりから帰って来た。島田が熊を担いでいる所をみると、熊を仕留めたらしい。永倉は熊殺しにレベルアップした。
島田と永倉が最終的にくっついてしまったのは、全員から好意と祝福をもって迎えられた。昨夜の内にそういう取り決めが出来てたからだ。
「やれやれ、これでやっと私もここから出て来られるな」
よろよろと床下から這い出て来る土方歳江。結局昨夜は床下で一夜を明かしたのだ。
「あら、歳江ちゃん」
「トシちゃん、そんなトコいたんだ」
「灯台下暗しと昔から言うからな」
言いながら沙乃の罠のモチに手を伸ばす土方。
「トシさん・・・・」
「永倉か、良かったじゃ・・・」
祝福を述べようとするする土方の動きが途中で止まる。
「覚悟〜〜〜〜!」
永倉がハンマーを振り上げる。
「ちょっと待て! 私は丸腰だぞ!」
だが永倉は聞いてない。
「問答無用! 島田はアタイのもんだぁ! せぃやああぁぁぁーーっ!」
ゴン!
特訓の成果だ。足腰を鍛える事で、素早く敵の懐に飛び込みながらハンマーで一撃を加える。(一日で足腰が鍛えられたかどうかは疑問だが)
「ああ・・・なんで私がこんな目に・・・・」
頭にコブを
(おしまい)
(あとがき)
永倉シナリオでは、永倉が土方との決闘に敗れたあとの島田と永倉の山籠もりが描かれているので、逆に土方の方を描こうとして・・・・失敗してますな。
これを書き終えた後、もう1回、行殺の永倉シナリオをやったら、行殺の方が面白いや。さすが行殺。