行殺(はぁと)新選組 りふれっしゅ

土方大作戦5 『士道☆超不覚悟』


 新選組局中法度、以下の如し。
  一つ、士道に背くまじきこと。
  一つ、局を脱するを許さず。
  一つ、勝手に金策するべからず。
  一つ、みだりに訴訟取り扱うべからず。
  一つ、私の闘争を許さず。

 なお、この局中法度にそむいた者は、

切腹!


 新選組の鬼の副長 土方歳江の考案した新選組局中法度である。違反者は切腹という容赦ない鉄の規律が新選組を最強集団らしめていたのだが・・・・。


 ある日、土方は島田を呼び出した。

「島田。心に何かやましいことがないか?」

やましいこと・・・・」

 島田は、しばらく考えたが、

「ないっす」 あっさりと否定した。

「ほう? 監察方から報告があった。最近、島田隊士が白昼堂々、芹沢局長とふしだらな行いをしているそうなのだが?」

「身に覚えがありません!」

「人前で抱き合ったりしてるそうではないか」

「あー、その事ですか」

「その事ですかって、他にも何かあるのか!」

「あれとか、これとか、それとか」


 島田の言葉に土方の妄想が爆発する。

“もう、島田クンったら大胆なんだから”

“カモちゃんさん! 俺、もう我慢できません!”

“あっ、だめ・・・もっと優しく・・・・”


「土方さん、顔、真っ赤ですよ」

「う、うるさい。と、とにかく士道不覚悟だな」

「俺は局中法度を守ってるんですよ」

「どこがだ! 鴨川河原の草むらに2人して寝転んで・・・・って、何を言わせる!」

「あ〜あ、そこまで知られてるんですか? 新選組監察、恐るべし」

「これでも士道不覚悟でないと言い切るか!」

「だって、天気が良いから今日は外でしよーってカモちゃんさんが・・・・」

 チャキッ! 土方が兼定かねさだの鯉口を切った。

「それ以上、不適切な発言をしたら、切腹させるまでもない。この場で叩き斬る!」

「だから、俺はちゃんと『しどう』を守ってるんですよ」

「島田の行いは士道不覚悟ではないか!」

「しどうって子作りの事ですよね?」

「はぁ? お前は何を言ってるのだ、島田」

「だから『子道』ですよね」

「・・・・誰からそんな事を聞いた?」

「山南さんに聞いたんですけど、局中法度の1番目に出てくる『しどう』は『子道』の事で、それはすなわち子作りの為の愛の儀式なんだそーで」

「・・・・・」 土方は怒りにフルフルと拳を震わせている。

「新選組隊士たるもの、いつでもどこでも子作りの事を忘れてはならないと・・・・」

「そんなわけあるかーーー!!!」

 島田の説明を途中でさえぎって、土方渾身のグーが島田に炸裂。

「ぐはぁっ!」 島田は後方に大きく吹っ飛び、障子ごと中庭に落下した。

「ば、馬鹿者がぁ! 『しどう』と言ったら『士道』、武士の心構えに決まってるではないか!」

 土方が叫ぶが既に島田は聞いてない。中庭に落ちて、そのまま目を回したらしい。

「島田の馬鹿者が!」

 吐き捨てるようにそう言うと、土方はドスドスと廊下の板張りを鳴らして立ち去った。




“士道が子道だと! 何というふしだらな!”

 が、心中の怒りとは裏腹に、頭が勝手に妄想を始めてしまう。

“はっ。いかんいかん。このようなモヤモヤした気持ちで新選組副長が務まるものか! 道場に行って、己の煩悩を断ち切らねば!”

 道場の方に向かうと、中から竹刀の弾ける音と、永倉アラタの気合の入った声が入ってくる。

「オラ! 何やってんだ! 剣は気合だ! そんなへっぴり腰でどうすんだよ!」

「気合が入ってるな、永倉」

「ああ、トシさんか。ちゃんと新入りの面倒をみないと『指導不覚悟』で切腹なんだろ?」

「は?」 土方の目が点になる。

「だからこないだトシさんが言ってた局中法度だよ」

「ちょっと待て! 士道だぞ!」

「だから指導だろ? ちゃんとやってるから心配しないでいいよ」

「・・・・」

 『士道』 『子道』 『指導』・・・土方は何だか頭痛がしてきた。




「ひとか〜どの武士になるために、情け〜は、無用の新選組〜ぃ〜♪
 ひと〜つ、詩道不覚悟切腹よ〜♪
 ひと〜つ、局を抜けたら切腹よ〜♪
 ひと〜つ、無断の金策切腹よ〜♪
 ひと〜つ、訴訟を受けても切腹よ〜♪
 ひと〜つ、ケンカをしても切腹よ〜♪」

 カモミール・芹沢が歌いながらやってきた。

「ちょっと待て! 今の詩道ってのは、何だ!」

 どうやら局中法度の歌らしいのだが、『士道』が『詩道』だった。

「詩を作ること。歳江ちゃんはポエムを作ってるから、アタシは作詞してみようかと思って。だって詩道不覚悟は切腹だもんね」

「なんで芹沢さんがその事を知っている!?」

 土方がポエムをたしなんでいるのは、新選組の中でも極秘中の極秘事項なのだ。

「だって履歴書に書いてあったじゃん。趣味:ポエムって」

「履歴書・・・・あ!」

 土方は思い出した。そういえば江戸で浪士組が結成され、小石川の伝通院に集まったとき履歴書を提出した。そしてカモミール・芹沢は浪士組の道中取締手附の役だったのだ。

「いや、それは、昔の話で・・・・」

「だから局中法度の第1条が、詩道不覚悟は切腹なんだよね」

「士道だ」 心中をごまかすかのようにぶっきらぼうに答える土方。

「あ、ひょっとして島田クンの言ってた『子道』の方?
 そっちも大丈夫。アタシはちゃんと守ってるから。
 あ、そうそうみんなにも守るように言っといたよ」

「詩を作る方か?」

「ううん、子作りの方。だって詩道には才能が要るけど、子道の方は誰でもできるもん」

「ちょっと待て! みんなって誰と誰に言ったんだ!」

「へーちゃんとー、そーじちゃんとー、沙乃ちゃん」

「・・・・」 土方はあまりの事態に絶句している。数秒間固まってしまった。

「浅葱〜のダンダラ翻り、緋色〜に誠の旗が立つ♪
 たとえ〜壬生浪みぶろと呼ばれても、心は武士もののふ、新選組〜ぃ〜♪」

 土方が正気に戻った時には、芹沢は歌いながら立ち去ってる所だった。




 その日の真夜中、藤堂たいらと島田誠が手を繋いで屯所に戻って来た。

「お楽しみだったようだな」

 暗がりの闇に溶け込んでいた土方がいきなり声をかけた。

「ひっ、土方副長!」

「トシさん!?」

 2人はいたずらを見つかった子供みたいにビクッと体を震わせた。

「局中法度を破ったら切腹なんだもん。仕方ない、仕方ないよ」

「仕方ないで済ますな! 島田、お前もお前だ! お前には芹沢さんがいるだろうが!」

「カモちゃんさんとは遊びで、本気なのは、へーだけです」

「まことぉ〜

「今の台詞、芹沢さんの前でも言えるか?」 土方がズイと前に出る。

「え、えーと、それはその・・・・」 言いよどむ島田。

「まことの馬鹿ー!」

 ゴンッ。煮え切らない島田に対して、藤堂が斬馬刀で峰打ちを食らわせる。

「ぐはっ!」 島田、本日2度目の撃沈。

「ふん、愚か者が。藤堂も芹沢さんの言う事を信じるんじゃないぞ」

「は〜い」

 分かったのか分かってないのか、藤堂はいつものポーカーフェイスの笑顔で、島田を引きずりながら母屋へと向かう。

「ふう」 ため息をつく土方。

 局を引き締めるために作った局中法度が堕落の原因になっているような気がする。

「何とかせねば・・・・」

 ひとり呟く土方だった。




 だが、翌日になって事態は更に悪化した。土方が行動を起こす前に、子道不覚悟は切腹だからと山南は遊郭に遊びに行った。『子道』の事を聞き及んだ沖田鈴音は『お兄ちゃん』とオニゴッコして、島田がそーじを小屋に追い詰めて、そーじを捕まえた所で、突然、沙乃が島田を奪取。長屋の空き部屋に逃げ込み『子道』に及ぼうとした所を、今度は永倉が島田を拉致し、押し入れに隠れてしまった。が、そこに最後の1人の藤堂が現われ、斬馬刀の一撃で戦線を突破! 島田を奪い返し屯所に戻ろうとしたところで、カモちゃん砲が火を吹いた。
 こうなってしまっては、もう止まらない。土方は頭を抱えた。士道不覚悟だらけだ。

「トシちゃん、どうしたの? 今日は屯所が何だか騒がしいよ」

 局長の近藤勇子がトテトテという足音と共に現われる。近藤は天然なので事態に気付いていないようだ。

「かくかくしかじかだ」

 手短に事の次第を説明する土方。

「ん〜。それは間違った解釈だよ」

「なに?」

「子道って、子として親に仕える道を説いた儒教の教えの事で、子作りの事じゃないよ」

 実は近藤は農家の出で、学がないのを気にしているため、江戸に居た頃から独学で猛勉強しているのだ。土方からみると、箔をつけるだけの実際の役に立たない学問だったが、それでも近藤が一生懸命なので黙っていたのだ。

「なに〜! し、しかしあの博学の山南が島田に・・・・」

「いつものようにウソをついたんだね」

「おのれ、山南〜!!!」

「立て札を立てたらどうかな?」

「立て札?」

「口頭で言っただけだから、みんな士道を子道とか指導とか詩道とか勘違いしたんだよ。
 だから局中法度を箇条書きにして立て札にすれば大丈夫だよ」

「ナイス、近藤!」

「でも・・・」

「なんだ?」

「最初から、士道じゃなくて、武士道にすれば問題なかったんじゃないかなあ?」

「い、言われてみればそうかも・・・でも士道の方が響きが良かったのだ」

「さすが豊玉とよたま宗匠だね」

豊玉ほうぎょくだ。だが、言葉の響きにこだわるあまり、局中法度が誤用されたのだから、私もまだまだ未熟だな」

「でも、これで問題は解決だね☆」

「うむ、さっそく立て札を用意させよう」




 その日の午後、墨痕も新しい立て札が屯所に立てられた。

 新選組局中法度、以下の如し。
  一つ、士道に背くまじきこと。
  一つ、局を脱するを許さず。
  一つ、勝手に金策するべからず。
  一つ、みだりに訴訟取り扱うべからず。
  一つ、私の闘争を許さず。

 なお、この局中法度にそむいた者は、切腹申し付ける。


 音だけなら『士道』も『子道』も区別がつかないが、こうして文字にしてしまえば問題ない。

「なんだ、『しどう』って『士道』だったのかよ」 と永倉。

「アタシは『子道』の方がいいなあ」 と芹沢。

「沙乃もー」

「と、いうわけだ。今後、『士道』に背いた者は切腹だからな」

 土方は得意満面だったのだが・・・・事態はそれだけで終わらなかったのである。一度『子道』に火がつき、恋の炎が燃え上がった以上、それはなかなか消せるものではなかったのだ。




 数日後、

「島田! 今日はおまちとかいう町娘と、その、えーと、やったそうだな! 覚悟はできているだろうな!」

「おまちちゃんから誘われたんですよ! 敵前逃亡は士道不覚悟って説明にあったじゃないですか!」


「山南! いいかげんに遊郭通いはやめろ!」

「はっはっはっ、据え膳食わぬは武士の恥というじゃないか。
 士道とは武士道。問題ないよ」


「斎藤、島田をストーカーするのはやめろ。やおいは士道不覚悟で切腹だ!」

「恋の至極は忍ぶ恋と見立て申し候です」

「なに?」

「『武士道とは死ぬことと見つけたり』で有名な葉隠れですよ。
 葉隠れに忍ぶ恋は至極と書いてあるんです。
 身体で恋を語るなど邪道! 真の恋は忍ぶものなのです!」

「・・・・」 武士道の神髄である葉隠れを持ち出されては土方もぐうの音も出ない。




「ど、どいつもこいつも言い訳ばかり上達しおって!」

 土方は自室で地団駄を踏んだ。局中法度は切腹させるのが目的ではなく、あくまで綱紀を引き締めるのが目的だ。やはり最初がまずかった。

「トシちゃん、どうなった?」

「近藤か・・・・。駄目だった。奴らの方が1枚上手だ。
 どいつもこいつも局中法度を自分の都合のいいように拡大解釈している」

「拡大解釈は日本人の特徴だもんね」

「それでは困るのだ!」

「でも法度でみんなをがんじがらめに縛るのは良くないよ」

「局中法度を変えろと?」

「そんなの駄目だよ。みんなが仲良くやるのは良いことだけど、でもちゃんと武士としての心構えがないと、あたしたちいつまでも壬生浪みぶろのままだよ」

「その通りだ。だが、人間はやすきに流れるものだと、今回、思い知った」

「・・・うん、あたしにまかせて。名案があるの☆」

「分かった」

 ぼーっとしているようだが、近藤には将器がある。土方は近藤に全てを任せる事にした。多少の不安が残りはするが。




 翌日、局中法度の立て札に次の一文が付け加えられた。




「え、えーと・・・・」

 芹沢は頭をフル回転させて何らかの逃げ道を探ろうとするものの、こうも正面から、しかも全ての行為を包括するように書かれては逃げようがない。しかも『いけないと思います☆』と罰則は書いてないから、破ろうと思えば破れるのだが、そうなると近藤の顔を潰すことになってしまう。つまり罰則がないのは、こちらを信用してくれてるということで、その信用を裏切るということは、局長としてできるものではない。

「山南くーん」 もう一人の知恵者、山南の方を見る芹沢だが、

「やあ、こいつは参ったね。さすがは勇子だ」 山南は近藤の打った手に感心している。




 こうして6番目の局中法度が発表されてから1週間が経った。土方があれだけ取り締まろうとしても駄目だったのに、近藤の『エッチなのはいけないと思います☆』の効果で、局に士道不覚悟に及ぶ者がいなくなった。あの芹沢ですらおとなしくしている。

「う〜む、こんなのが効果があるとはな」

「じゃあ、そろそろ消すね」

「待て、近藤。せっかく綱紀が引き締められたものを」

「トシちゃん、人の心を繋ぎ止めるのは法度じゃないんだよ」

「強い組織には鉄の規律が必要だ」

「うん。でも、信頼に勝るきずなはないよね。
 みんながあたしの言葉に誠意で応えてくれた事が大事なんだよ」

「近藤・・・」

「だから消すね。やっぱり武士も人間だもの。息抜きは必要だし。今回の騒動は、トシちゃんがいきなり厳しい法度を作ったから、みんなが反発しただけ。もう落ち着いたから、大丈夫」

「近藤・・・」

 土方は感動していた。だから自分は近藤の下で副長をやってるのだ。だからみんなは近藤の下に集うのだ。今更ながらその事を再確認する土方。

「近藤〜〜〜〜!!!」

 感極まった土方は、近藤にひしと抱き着いた。

「トシちゃん、ほら、泣かないで」



「あー、歳江ちゃんとゆーこちゃんが士道不覚悟してる〜」

 素っ頓狂な声が上がった。偶然通りかかったカモミール・芹沢だ。

「な、芹沢さん!? こ、これは違うんだ!」

 土方が慌てて近藤から離れる。

「カーモさん、6番目は消しちゃった。ほら」

 芹沢に立て札を見せる近藤。

「わーい☆ さすが、勇子ちゃん、分かってるなあ。
 よーし、今日からエッチ解禁だあ☆」

「でも、カーモさん、ほどほどにね」

「うん。分かってる」

 近藤の笑顔に、芹沢も笑顔で応える。それは心の通じ合った者同士の笑顔。
 その2人を土方がまぶしそうに見つめていた。

“信じる心か・・・私は大切なものを忘れていたのかもしれないな・・・・”




 こうして1週間だけ存在した6番目の局中法度は姿を消し、後の歴史にも伝わっていない。だが、この事件以後、新選組では節度ある行動が取られるようになり(時々羽目をはずすけど)、まさに土方が望んだような最強の組織への道を歩むのである。


(おしまい)


(あとがき)
 ネットをさまよっているときに、『士道超不覚悟』という同人誌が存在するのを知りました(買えないので内容は分かりません)。この単語が頭の片隅に引っ掛かってたのですが、今回、アイデアの神様が私の頭に降臨してくれたので作品になりました。


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