偽・行殺(はぁと)新選組ふれっしゅ番外編
デザートクエストV 爆熱ゴッドハンマー
この作品は『行殺』の世界で発生したかもしれないし、発生しなかったかもしれない些細な事件・任務・冒険の顛末について語るという、妙なコンセプトで作られたものだ。
食後のデザートを食するような感じで読むのがいい。だからDessertQuestシリーズと呼ぶ事にする。(でも、このVは些細な事件どころか・・・まあいいか)
主人公・島田誠は京都の治安を守るため、会津藩お預かりの新選組に入隊する。そして日々を生きるうち副長助勤・永倉アラタとの仲を急速に深めていった。しかし、最新キンノーテクノロジーを集結させた殺人マシーン、その名も『メカおまち』によって、新選組は局長の一人を失ってしまう。それから季節はめぐり・・・ついに、池田屋大活劇の夜が来た。
「・・・・・・永倉君はそれでどうするつもりだね」
島田は抑揚のない声で、すでに特別の存在となっている永倉に、険しい目を向けた。
「全開で勝負!」
永倉が、やたら気合いの入った顔で宣言した。一時は、正常とは到底呼べない状態になり、再起不能との噂さえあった永倉。その永倉が、異様な気合いに満ちている。
「心意気は理解できるが、その両手に持ったものは何かと聞いているつもりなんだが」
島田は険しい目を向けたまま、思っていた。俺が永倉に告白して以来いろんな目に遭ってきたけど、それも今日が最後かもしれないな、と。
「忘れたのか?」
永倉が呆れたような声を出した。
「どっちもハッキリ覚えてるよ!だから何でハンマーと刀を両方持ってんだ!」
島田は声が荒くなるのを押さえきれなかった。もっとも言われた本人はどこ吹く風。
「アタイは判ったね。刀は強い。けどハンマーも強い。なら両方持てば2倍強くなるんだ、って。だから今のアタイは最強なんだ!」
島田は、できるだけ穏やかな声を出そうとした。怒鳴っても、状況は好転しない。
「実戦結果どうだった?勝てたか?」
「今日が初めてなんだけど、力がガンガンみなぎるって感じでいい調子だぜ!」
これ以上ないほどの爽やかさで、永倉は言い切ったのだった。島田は不安になった。島田のみならず、その場にいた全員が同じ思いだったろう。そんな雰囲気を吹き飛ばすかのように、
「じゃあみんな、あたしちょっと池田屋さんに挨拶してくるね」
局長の近藤が、努めて明るく言って、とことこと池田屋の表戸に歩み寄った。いよいよだな。そう思うと島田の身体は、その他諸々の心配事のせいもあって、ぶるっと震えてしまった。
「どうした!?武者震いか?」
永倉が、ズレた問いを発してきた。
「いや、色々とな」
島田は簡単に答えておいた。説明しても理解しないだろうし、その時間も今はない。
「アタイが守ってやるから安心しな!」
永倉の言葉に裏など全くない。ないからこそ・・・。島田は戦う前から疲労していた。
「夜分にすみません。新選組でーす。お宿をあらためにまいりましたぁ☆」
近藤がそう声をかけると、果たして・・・。
「新選組だと!?」「敵だ!敵だ!」「血祭りにしろ!」
奥からは、このような殺気だった声が返ってきたのである。
「ここだったみたい。みんな!気を引き締めてね!」
近藤が全員を振り返り、気合いのこもった声を出した。それを聞いていたのかいないのか、
「一番乗りぃ!」
永倉が勢いよく中に突入していった。続いて沖田が、
「けほけほ」
対照的に密やかに中に突入していった。
「待ってぇーー!」
置いて行かれたような悲鳴を上げて、近藤も突入する。島田の足下から、凛とした声がした。
「二つも武器持ってたら勝ち目がないから、島田は徹底的にアラタを守るのよ!沙乃が守ってあげるから!」 新選組最年少、違った最低身長の原田が精一杯背伸びをしつつ、檄を飛ばしてきた。
「頼む!」
「お願いします、でしょ!」
打てば響く、という感じで原田から反応が返ってくる。沙乃らしいな、と島田は心のうちで微笑した。
「お願いします!」
島田は丁寧に言い直してから、刀を構えて池田屋の中へと飛び込んで行くのであった。
池田屋の二階に駆け上がっていった近藤、永倉、沖田といった面々。だが、やはりと言うか永倉の動きは精彩を欠いていた。島田はすんでの所で永倉と合流し、一旦階下へと退避する。原田の協力を得て、島田は『永倉・救出復活作戦』を展開する。
作戦を
「キャーー!」
二階に上がった島田の耳に聞こえてきた、局長の悲鳴・・・いや、気合いの声。
“局長は健在か!そーじは!?”
島田は辺りを見回した。辺りにはキンノーどもの物言わぬ身体が、ぼろ布のように転がっている。思っていたよりずっと数が多いように思えた。
“・・・!”
何かと何かがぶつかり合うような、甲高い音がした。そして次の瞬間、島田の視界に二つの影が飛び込んできた。一つは見知った沖田のもの。そしてもう一つは・・・。
「う・・・」
思わず島田は立ちすくんだ。無表情な緑の目。額に輝く『朱雀』の二文字。
「・・・こ、これが・・・」
右腕には『白虎』左腕には『青龍』と刻まれている。かつて、おまちと言う名で呼ばれていた少女だ。
「し、島田さん・・・げほっ」
沖田が真っ青な顔をして、島田のそばに寄ってきた。
「ちょっと・・・ゆーさんの負担を減らそうと・・・張り切りすぎちゃいました・・・」
口元からたらたらと赤いものが垂れていた。肩で息をしていて、相当きつそうだ。
「計算より・・・疲労が、ごふっ・・・手傷は負わせたんですが、まだ」
沖田の言葉どおり、目の前のメカおまちのそのむき出しの身体のあちこちには刀による傷が見られた。しかし彼女はそれらの傷を、あまり気に留めていないようだった。
島田は、けれど沖田を責める気はなかった。また事態がこうなったのには自分にも責任がある。
「俺も手を貸す」
島田は額に流れ落ちてくる冷たい汗をぬぐって、沖田を庇うように前へ出た。沖田の体力はもう限界に近いようだ。かくなる上は副長たちが駆けつけてくるまで・・・。
「だ、駄目です」
沖田は弱々しい声で、だがはっきりとそう言った。
「島田さんが迂闊に彼女に近づいたら、一瞬で死にます」
沖田の刀は、真ん中からポッキリと折れていた。
「あたしの体調が万全だったなら、斬れたんですが」
島田は、それでも戦いの構えを崩さなかった。
「クスクス・・・テンチュー」
メカおまちが笑った、ように見えた。島田の服の裾が強い力で引かれた。
「え・・・?」
島田はそう思った。何が起こったのかわからなかった。気がつくと三間(約5.4メートル)ほども後退していた。沖田に引っ張られて、である。
「島田さん、右の頬」
沖田が囁く。あわてて手をやると、そこがざっくりと(と言うほどでもないが)斬られていた。かすっただけのようだが、島田の目には何も見えなかった。
「彼女の手や足は、刀よりも鋭利な凶器です。もう少し身をかわすのが遅かったら、島田さんの顔は」
沖田はそこで言葉を止めて、明言を避けた。
「ここは・・・あたしに、まかせてくだ、げほっ」
切れ切れに、そう言いながら前へ出ようとする沖田を、島田は思わず制止していた。男として、本能的に止めねばならないと思ったのだ。
「そーじ、おまえは外で休んで・・・」
ガシッ!島田の言葉を遮って、身体が強烈な力でつかまえられた。
「な・・・!」
いつのまに間合いを詰めてきたのか、メカおまちがその腕で島田の腕をつかんでいた。
島田の目と、メカおまちの目とが合った。かつては天真爛漫な光をあふれさせていた、目。しかし今は何の感情の光も発していない、目。
「おまちちゃん、俺がわかる・・・」
か?の声は出せなかった。島田の身体が宙に浮いた。世界が回った。
一瞬の浮揚感の後、身体に強い痛みが走った。島田の身体は池田屋の二階から一階に、投げ落とされていた。背中から落下したせいか、呼吸ができない。
「が・・・はっ!」
仰向けのままで島田は息を吐いた。その視線の先・・・階上には、冷たい目をしたメカおまちがいる。
「島田さん!」「島田!」
同時に名前を呼ばれて、島田は目だけを動かして周囲を見た。そーじの声と、もう一つは?
「島田!しっかりしろ!アタイが来たからにはもう大丈夫だ!」
根拠はないが、大丈夫だと言われて島田は安心した。そう、大丈夫だ。
“永倉も・・・そして俺も”
島田は跳ね起きた。メカおまちはゆっくりと歩いていた。階段を挟んで階上にはメカおまちと沖田が対峙している。間合いにして数歩の距離。そこへ、
「そーじ、下がってろ!その身体じゃもう戦えないだろ!?」
と叫びながら、永倉が猛然と階段を駆け上ってきた。手には愛用のハンマーがあった。
「芹沢さんのカタキは、アタイが討たせてもら・・・!」
スッ・・・。沖田が永倉の目の前に手を突き出して、その動きを制した。
「・・・!?」
不思議そうな目で、永倉は沖田を見た。沖田は小さな声で、はっきりと言った。
「その武器では、まともに当たっても仕留められません」
先にあたしが・・・と囁いて、沖田が一歩前に出た。メカおまちも、一歩前に出る。
ゴクリ・・・島田と永倉が生唾を飲み込んだ。それを合図にしたかのように、両者は動いた!
階段のすぐそばで、二人の身体は交錯した。島田の目には何がなんだかわからなかった。それでも沖田がやられたのではない事は理解できた。
沖田はメカおまちの攻撃を紙一重でかわし、傍らの壁を蹴った。そして真横からメカおまちの頭部に一撃を加えたのだ。メカおまちの身体が階下まで、大きな音をたてて落ちた。
「アラタさん、今こそ『神道無念流・最終奥義』の出番です」
沖田の言葉に、永倉はぎょっとなった。口ごもりながら言い返す。
「で、でもアレは・・・アレを放ったらアタイの・・・」
「何を失う事になっても、今ここで、おまちちゃんを楽にしてあげなくては!げふぉっ!」
階下の島田には話が見えないが、こう判断した。永倉には奥義があるらしい・・・のか?
「そのために必要なモノは・・・あたしが武田さんから預かってきてます」
懐に手を入れて、沖田が小さな袋を出して永倉に見せる。永倉の心も決まったようだった。
「・・・・・・・・・・よっしゃー!やるぜ!」
ハンマーをしっかと構えて永倉は、二階から一階の島田にこう叫んできた。
「島田!ちょっと間、おまちちゃんの動きを封じててくれ!」
「え!?」
島田は辺りを見回した。永倉が声をかけたのは、俺に間違いない。確認した。メカおまちはゆっくりとした動きで立ち上がって階段に向かおうとしている。彼女を止めろ、と言うのか!?
「何かわからんが、ちょっと止めればいいんだろ?やってやるぜ!」
俺だってそのくらいなら・・・そんな思いで、島田は後ろからメカおまちの身体を捕まえた。
「・・・クス」
メカおまちは慌てなかった。ゆるゆると、しかし『万力』とでも表現すべき力で島田の腕を引きはがしにかかった。
“く・・・何て力だ。長くは保たないぞ”
息をするのも忘れて島田は全身に力を込めた。
「ヨッシャー、やるぜ!神道無念流・最終奥義!」
永倉が、ぶんぶんとハンマーを振り回し始めた。沖田がそれを見て、手の中の小袋を見据える。
「アラタさん・・・行きますよ、せいっ!」
沖田がその小袋をふわりと投げた。それは静かに、メカおまちの額の辺りに落ちてきた。ぶんぶんと武器を振り回していた永倉が、それに合わせて飛んだ!一階に向けてダイブした!
「永倉ハンマー・・・トドロキどかーん!」
ハンマーが、メカおまちの顔面を、小袋ごと、激しく打ちつけた!
一瞬の後。小袋が真っ赤に燃えたように見え・・・。
どかーん!メカおまちの頭部を中心に、大爆発が起こった。
「うわっ!!」「・・・つっ!」
島田と永倉の声がして、何も見えなくなった。なにやら破片が飛来して二人を襲った。
そして・・・・・メカおまちは立っていた。下半身のみの姿で。
上半身はさっきの爆発で跡形もなく吹き飛んでいた。
「つつ・・・指切っちまった」
永倉が、右の手の親指の付け根を押さえていた。そして島田は・・・。
「いててて・・・何か額にぬるっと・・・血だ!?」
島田の額が何かでざっくりと割れていた。結構血が出ている。
「な、なあそーじ。武田の奴、何を?」
永倉が聞いた。鎚の部分が粉々になってもはや使い物にならない、永倉ハンマーを手にしたまま。
「小袋の中身は硫黄の粉末に日本酒をふりかけて、銀粉と酸の化合物を混合したモノ、だそうです」
あたしにもよくはわからないんですけど、沖田はそう言って笑った。
硫黄は可燃性の黄色の固体(危険物第二類)で、酸化剤との混合物は加熱や衝撃などで発火する。微粉状の場合だと爆発の危険あり。
銀粉と酸の化合物は、正しくは硝酸銀である。酸化性の白色の固体(危険物第一類・硝酸塩類)で可燃物との混合は加熱・衝撃・摩擦などで爆発の危険あり。
つまり武田某が作成したモノとは、いわゆる手投げ爆弾のような物なのだ。
神道無念流最終奥義、永倉ハンマー轟どかーん!とは(長い名前だな・・・)すなわち、ハンマーで爆弾を爆発させ、打撃力と爆発力とを一つにして敵を仕留める破壊の奥義なのだ。
この奥義を放つと、確実にハンマー(特に鎚の部分)は壊れてしまう。だが、その爆発力は打撃力に比例する。永倉でなくては、メカおまちを粉砕した、あの威力にはならなかった。
1864年6月、新選組の池田屋襲撃は成功を収め、京に巣くうキンノーは排除される。
「いやぁ、勝った勝った」
「けほけほ・・・・・・みんな無事でよかったですよね」
原田と沖田がそう言っていたが、島田はとても同意できなかった。
「あの、俺、額割られたんですけど」
割られた、という言い方は不適当かもしれない。爆発の余波に巻き込まれたわけだから。
「その程度では傷のうちに入らんな」
土方が、島田に目も向けずに言った。・・・見もしないで言われても。島田は思った。
“いや・・・それよりも”
島田はさりげなく永倉に近づいて、囁いた。
「おい、永倉。ハンマーの事なんだが」
島田の記憶では、確か大分以前に・・・。
「予備のハンマーがあっただろ?ほら、金のハンマーとか銀のハンマーとか」
おまちちゃんが島田の彼女になりたくて屯所に押しかけてきた日、だったか。
「ああ、あれか?あの、泉の精霊が置いていった」
永倉もどうやら覚えていたようだ。
「銀のハンマーなら、あの後武田がぜひ譲ってくれってしつこいんで、やっちまった」
金のハンマーは・・・どうしたんだっけ?永倉は島田に、逆に聞いてくる始末だった。
<注・金銀ハンマーのイベントはシナリオ二話、永倉を伴って小路に行くと発生した>
「ま、利き腕の親指切っちゃったからさ。しばらくはハンマー使えねえんだけどな」
怪我が治ってから考えりゃいいさ。そう言ってカラカラ笑う、脳天気(に振る舞ってるだけか?)な永倉であった。
近藤勇子が故郷の養父に宛てた手紙には、池田屋事件について書かれてあった。沖田や永倉の武器が使い物にならなくなった事なども。
多摩では近藤の養父や養母、他数人がその手紙を読むに至った。その中に永倉の悪友兼親友であった松前藩脱藩の浪人がいた。名を、
『近藤氏の文を拝見(中略)下拙保管いたし置き鎚・・・制作者既に亡く遺作ながら逸品(後略)』
壊れた永倉ハンマーの生みの親は他界したが、自分が遺作である【ハンマー真打ち】を預かっている。京都からの手紙にて事情を知り、ぜひ永倉に使ってほしいと思った、との事であった。
永倉は、新しい永倉ハンマーを手に入れた!(加えて、島田の提案で技の名前を『爆熱ゴッドハンマー』と変えた。ゴッドとは神道無念流、の『神』であろう)
「やっぱ、持つべきはいい仲間といい友だな!」
永倉はそれ以後、時間があれば島田をつかまえて、贈られたハンマーの威力を試していたと言う。島田の悲痛な叫びが響き渡るのを除けば、京の町は平和を取り戻していた。
(若竹あとがき)
ジャックスカがフロッピーディスクでもって来てくれた原稿には、あとがきがなかったので、私が書きます。
永倉ハンマーですが、私ならゴルディオン・ハンマーを持ってくるんだが、彼はガオガイガーを知らないのだった。残念。
実はデザクエU第2稿とV第1稿を同時に持って来てくれたのですが、Uの方は、第3稿に直すため持って帰りました。(私がダメ出しした)ので、先にVの方が発表になります。
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