〈甘いわい!〉
 斬られた霊がふうっと消えた。その直後、島田の身体の中に何かが入ってくる感覚があった。
「え?」「まずい、入られたな」
 山南の声を最後に・・・島田の意識は消失する。
〈フフフ、ムハハハハ、若くて健康な肉体じゃあ。この肉体なら女どもと・・・ウヒヒヒヒッ!〉
 島田の声で、島田ならぬ言葉を吐いた。そのままおまちに歩み寄ろうとする。
「・・・止まりなさい」
 小さな、だがしっかりした声で沖田が島田(の中の霊)の前に立ちふさがった。
「ん?なんじゃおまえら。この肉体はおまえらの仲間のモンじゃぞ。それを忘れたのか?」
 老人霊は島田の声で、そう胸を張って主張した。
「この肉体。攻撃できるか?でーきまーい!」
 自信たっぷりに言い切る老人霊であった、のだが。
「・・・ふっ」
 不敵な声がした。鬼の副長・土方歳江、復活!
「好都合だ」
「な、なに?」
 土方の言葉に老人霊は間の抜けた声を出した。
「そいつは多少痛めつけても死にはせん。全員、かかれ!」
 断固とした口調で命令する土方。そしてその声が消えるや否や。
「一番手はアタイだぜ!くらえ、永倉ハン「とぉーーーーっ!」」バキャ!
 ハンマーより速く、巨大な斬馬刀が島田(の肉体)をぶっ飛ばした。
「あーっ!へーに先越されたあ!」
 身体のすべてを使って永倉は悔しさを表している。対照的に藤堂は、何故か照れていた。
「へへー、だってほら、私『先駆けのへーちゃん』って言われてるから。一番乗りは譲れないかなって」
「ぐ、ぐおっ・・・おまえら。この肉体はおまえらの仲間・・・」
 老人霊の言葉は途中で遮られた。
「今度こそ食らえ!神道無念流・永倉ハンマー!」ぐわん!
「沙乃だって、えい!」ザクッ!
「うごぉ・・・お、おまえら仲間の肉体を平気で・・・それでも人間か!?」
「あなたが悪霊なくらい、僕らは人間だよ」
 山南が険しい目で島田(の中の霊)を睨みつけて答えた。
「そーよぉ☆だから覚悟してねぇ。神道無念流オウギなんちゃって、えい!」ガスッ!
 芹沢がおちゃらけたように言って。鉄扇の一撃を島田に食らわせていた。
「今はその人はあなたで、あなたは仲間じゃないから」びしゅっ!
 沖田が(練習用の木刀でとはいえ)遠慮なく一撃を与えていた。
 バキャ、ぐわん、ザクッ、ガスッ、びしゅっ。バキャ、ぐわん、ザクッ、ガスッ、びしゅっ・・・よってたかって攻撃された島田の肉体は、すぐに動かなくなってしまった。
「・・・・・」
 近藤、山南、そして命じた土方さえも呆気に取られて見ていた。
“私が命令した事とはいえ・・・助勤以上の者たちによる総攻撃はすさまじいな”
 土方はちょっとだけ反省した。
「悪霊に乗っ取られてるとはいえ島田クンの身体なのに・・・みんなよく平気で攻撃できるわよねぇ」
 ぱたぱた。扇で顔に風を送りながら、土方の隣で芹沢がそうつぶやいた。
「ちょっと待て!あんたも思いっきり加わってただろう!?」
「えー?アタシ昔のことは忘れちゃう性質たちだから」
「・・・もういい。それより」
 土方は芹沢から目をそらして、島田に目を転じた。
「悪霊はどうなった?死んだのか?」
「歳江さん、悪霊はもう死んでいるからそれ以上は死なないと思うけど」
 山南がそう言って島田の身体に近づいて、足先でつんつんした。
「返事がない。ただの意識不明物体のようだ」
「これからどうするのトシちゃん?」
 心配そうに島田の身体を見下ろしながら、それでも微妙に距離を取って近藤が聞いてくる。
「山南。西洋では邪悪なるモノは焼いて浄化するならわしだと、前に言っていたな」
 振られた山南は、ぎょっとなって目を見開いた。
「ま、まあ確かにそう言ったけどね・・・。まさか、島田君を?」
「ちょっとトシさん。いくら何でもやりすぎよ。死んじゃうわよ」
 原田が、島田の身体から目を離して言った。
「気組みだ!心頭滅却すれば火もまた涼しと言うではないか」
「無理だって」
 永倉が頭をポリポリ掻きながら、さも楽しそうに言葉をつなげた。
「それよか、江戸じゃ変な物に当たった奴は首まで土に埋めて一晩放置するんだぜ」
 土方は一瞬考えた後で、首を左右に振った。
「手ぬるい。五体バラバラにするぐらいの事をしなければ、私の気がすまん」
「あ、あのねトシちゃん。気持ちはわかるけど島田くんの身体なんだから、ね?」
「そ、そーですよ!あたしの島田さんをギタギタのズタズタのメチャメチャにするだなんて、天が許してもこのあたしが許しません!(そこまでは誰も言って・・・ない事もないかな?)」
 放心状態だったおまちちゃんが、我に返ってそう話に割り込んできた。そんなおまちの首根っこを、
「んふふ☆おまちちゃんは、アタシが送っていくわね。夜も遅いし」
 芹沢がつかまえて、そのままズリズリと連れていこうとしていた。
「んきゃ!ちょっと待ってください。私、猫の子じゃありませんよお!あーれー!拉致されちゃいますー。島田さーん、たーすーけー・・・」
「んもう、騒々しいわねえこの娘。えい」ドスッ。
 おまちの声は聞こえなくなった。もっとも、今の島田には聞こえていなかったが。


 提灯の明かりの下で、島田の身体は中庭の一角に埋められた。
 永倉「うん、だいたいこんなもんだ。首から上はさすがに出しとかないと呼吸できないからな」
 土方「気組みだ。気組み次第でそんなものはどうとでもなる。全部埋めてしまえ」
 近藤「だからトシちゃん、息ができないと苦しくて苦しくて死んじゃうんだよ?」
 山南「悪霊が憎いのは理解できる。だが島田君の身体であることを忘れないで頂きたい」
 沖田「そうですよ。どうせ殺すんでしたら、窒息なんて時間のかかる事しちゃ駄目です」
 藤堂「ちょ、ちょっとそーちゃん。さらっと怖いこと言ってない?」
 そして一同は夜の眠りについたのだった。


 翌朝まで、島田の身体は中庭に埋められたままだった。
 巡回に出ようと通りかかった斎藤が、地面から首だけ出している島田を見て卒倒した事は、彼の名誉のためにも黙っている事にしよう。(言っちゃってるって)
 島田の中に老人霊の気配はもうなかった。悪霊がどこへ行ってしまったのかは、誰も知らない。


                       終了


 あとがき、のようなもの。
 デザートクエストUを略すとDQUになります。だから副題が『悪霊の〜』なんです。題名から一目瞭然かもしれませんが、(超・遅ればせながら)PS2版のDQ5発売記念と言うことで。あとDQ7発売間近記念も兼ねて。
 おまちの唱えた般若心経の一部『あーのくたーらさんみゃくさんぼだい』とは原語をそのまま漢字に音写したもの(アヌッタラ・サムヤック・サンボーディ)で、意味は『完全な悟り』だそうです・・・。


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