偽・行殺(はぁと)新選組ふれっしゅ番外編

デザートクエストT そんなお前が


 この作品は『行殺』の世界で発生したかもしれないし、発生しなかったかもしれない些細な事件・任務・冒険の顛末について語るという、妙なコンセプトで作られたものだ。
 食後のデザートを食するような感じで読むのがいい。だからDessertQuestと呼ぶ事にする。


 某月某日。島田誠は同僚の永倉アラタと共に巡回の任務についていた。そこへ
「ヌシだー」「またヌシが出たぞー」
 という声が聞こえてきたもんだから、
「おっしゃー、今日こそケリつけてやるぅ!」
 喜びの絶叫と共に永倉が突進していった。島田は取り残されてしまった。
「ふう、またか」
 と言いながらも実はそんな永倉を憎からず思っている島田、
「待てよ、俺を置いていくなよー」
 まるで芝居にある、女と男の『つかまえてごらんなさーい』『ははは、待て待てー』をやっているような顔で、永倉の後を追うのだった。既に夕暮れ時だった。


 ヌシ。鴨川に潜んでる謎の生き物。身長57メートル体重550トンであるとか、身長40メートル体重35000トンであるとか、頭頂高19.8メートル本体重量28.7トン可変型で大気圏突入が可能であるとか、様々な噂があるが・・・。
 そのヌシと永倉のバトルが今にも始まろうとしていた。
「でぇーい、永倉ハンマー!」 ぐわん!
「くえー、くえー」 ちょこちょこ!
「なんのー、今日こそハンマーの錆にしてやるう!」 ごわんごわん!
「くえっくえっくえ!」 ちょこちょこきゅーきゅー、ちょこきゅう!
「うわーーーーーー!」
 今日も今日とて永倉は、哀れにもヌシの前に敗北を喫した。だが普段と違うのは、ここ数日の雨で川が増水していた事だ。当然、流れも格段に速い。
「あああああああああ」 ざぶーん!
 永倉は川に落ちて、すごい勢いで流されていく。そこへやっと島田が到着した。
「ああっ永倉が!待ってろ、今俺が」 ぴゅーん、どぼーん!
「ぐあっ足がつった!やっぱ準備運動をすればよかっ・・・ぶくぶくぶく」
 島田は、永倉を助ける事はできなかった。川岸に、永倉のハンマーだけが残された。
「おい、どうする?」「やっぱり壬生に知らせに行った方が」「お、おまえがいけよ」
 見物人たちはざわざわするばかりで、なかなか行動を起こそうとはしなかった。


「ごふぅっ!?」
 島田は腹部に猛烈な痛みを感じて目が覚めた。同時に口の中から大量の水が吐き出されて・・・それらは一瞬の後に、島田の顔面に降り注いだ。
「うひゃっ!?」
「おー、気がついたようだな」
 永倉がそばにいて、笑顔で島田を見下ろしていた。腹がズキズキするのを我慢して、島田は辺りを見回した。一面の草原だ。空はもう暗い。夜風が身にしみる。
「アタイらは、結構下流まで流されたんだぜ」
 永倉が濡れた髪をかき上げ、るほどボリュームはないがその動作だけした。
「しっかし島田も何やってんだよ。アタイが溺れるとでも思ってたのか?」
「・・・・・」
「自慢じゃないけどアタイはな、体を動かすことで苦手な事はねーんだ」
 島田はうなだれたまま身体を震わせた。状況から見て、溺れた自分を助けたのが永倉だと言うことは間違いなかった。助けるつもりが逆に助けられて・・・ばかりだ。
「後先考えずに飛び込むから、そうなるんだよ」
 永倉に言われるようでは、おしまいである。
「身体が勝手に動いたんだから、仕方ないだろ」
 ぶっきらぼうに、島田は言った。
「勝手にねえ・・・ま、へーや沙乃と一緒の時はいいけど、アタイが周り見てる事なんて滅多にねーんだからさ。次は助からないかもしれねえぜ。気をつけてくれよ」
 肩をぐるぐる回しながら、呆れたような声を出す永倉。気をつけてくれよ・・・くれよ・・・くれよ・・・島田の頭に言葉が反響する。
「気をつけてるさ!」
 つい声が荒くなった。永倉がびくっとして動きを止めた。
「俺はいつでも気をつけてる!永倉だからだ!永倉は俺にとって特別だからいつもいつも気にかけて!いつもいつも空回りして!そんな俺の気持ちも知らずに・・・」
 そこまで言って島田は言葉に詰まった。俺は一体何を言ってるんだ?
 永倉をこっそり見た。永倉は
「お天道様の下で恥ずかしい事言ってんじゃねえ!」 ドゴォッ!
「うご!」
 島田の鳩尾に、永倉の正拳突きが決まった。たまらず地面に膝をつく。
「ご、ご・・・ごれはいくら何でも。て言うか、今は夜中だろうが!」
「あ!わりいわりい」
 永倉は照れくさそうに、軽い調子で謝った。
「あんまクサイ台詞言ってるからさ、つい手が出ちまった」
 そんなにクサイ台詞だったかな?島田はそう思って頭をかいた。
「でもさ、島田は誰にでも優しいから、他の奴にも似たような事言ってんじゃねえか?」
「・・・いや俺は・・・」
 島田の言葉を全然聞かずに永倉は続けた。
「まあ、アタイはその方がいいけどな。ほら、お話とかでよくあるだろ?『わたしだけに優しくして』っていうやつ。アタイそれ嫌いなんだよな」
「・・・?」
「裏を返せば他の奴には冷たいって事だろ?つまり・・・二人の関係が終わっちまったらその瞬間から、自分も『他の奴』になっちまうんだぜ」
「・・・・・??」
 首を傾げる島田。永倉は真っ赤な顔で無意味に両手を泳がせながら
「ほら、さ。だからアタイが言いたいのは・・・」
「・・・永倉」
 島田は一歩、二歩と永倉に近づいてその手を取ろうとした。
「誰にでもデレデレ、あ、いや優しく接するおまえが・・・って言わせるなよぉ!」
 ドシュドシュッ!永倉が両手を振り回し、島田は見事に吹っ飛ばされた。
「おおおおお」
「あ・・・またやっちまった。いやー御免御免、そういう空気はアタイ駄目なんだ」
 気を取り直して二人は壬生へ帰る事にした。
「それにしても全身ずぶぬれだなあ。このカッコで宴会や逢い引きには行けねえよな」
 永倉のぼやきに、島田は突然思いだした。
「はっ!そういえば!」
「んあ!?何だ?敵襲か?何人いるんだ?薩摩か、長州の奴らか?」
「今夜。おまちちゃんが東海屋の近くで待ってるって」
「何い!ちゃっかり逢い引きの約束してたのか!?」
「あ、いや約束って言うか。おまちちゃんが一方的に宣言して走り去ってしまった」
 永倉は拳を握りしめて、それを島田の目の前に突き出した。
「そりゃあ、確実に約束だな。待ち合わせの時間は?」
「・・・星の位置からして、もうとっくに過ぎてる・・・」
 夜空を見上げて落とす島田。そんな二人の前に、深夜徘徊の浪士の群れが現れた!
「おい、こいつら新選組だ」「一人は顔も知らねえが」「そっちは確か幹部だったぜ」
 口々に喋り出す浪士たち。全員が刀を持って、飢えた野良犬みたいな目をしている。
「ハンマー使いだったよな」「でも素手だぜ」「素手の今ならやれるんじゃねえ?」
「んだな」訛りのある浪士もいるようだ。ぞろぞろと二人を囲んできた。
「島田。ここはアタイに任せて、おまちちゃんとこへ急げよ」
 何気ない口ぶりだが、島田はさすがに首を横に振った。
「何言ってるんだ。おまえハンマーもなしで・・・敵は10人以上いるみたいだぞ」
「島田は約束があるんだから、こいつらに構ってる時間なんかねーだろ?」
「馬鹿野郎、おまえを一人残して行けるもんか!待ち合わせは、仕方ないさ」
 島田が真剣な顔をして怒鳴ると。永倉はそれ以上に真剣な顔をして怒鳴り返した。
「馬鹿野郎はこっちの台詞だ!約束ってもんは『守ろうとした』じゃあ駄目なんだぜ!」
 胸ぐらをつかまれ、島田は硬直して永倉の目を見返した。
「新選組の隊士として、交わした約束は命懸けで守れ!それが漢だろ!?」
 二人で勝手に盛り上がっている間にも、敵はどんどん迫ってきていた。
「俺らの事忘れてねえ?」「イチャイチャバイオレンスってやつか?うぎゃっ!」
「何だ!?」浪士の群れが割られた!二つの影が島田たちの所にやって来る!
「アラタ、それに島田も平気?」「ご無事そうで安心しました」
 お子様と日本人形・・・ではなく、原田沙乃と谷万沙代である。いやもう一人いた。
「へなちょこと手ぶらは邪魔よ。さっさとお行き」
 凶悪姉ちゃん・・・いや、谷三十華は手にした槍をぶんと振った。
「ここは私たちに」「アラタ、屯所に帰ったら暖かくして寝なきゃ風邪引くわよ!」
 万沙代も沙乃もそう言って、手で『早く行け』とせかす。
「何だてめーらぁ!」「急に出てきやがって」「どこのどいつだ?」
 数を頼みとしてか、荒々しく叫ぶ浪士たち・・・を尻目に島田と永倉はさっさと行く事にした。島田はおまちちゃんとの約束を果たすために。永倉は帰って寝るために。
「新選組副長助勤・谷三十華だ」「同じく原田沙乃よ!」「谷万沙代です(ぺこり)」
 背後で、三人の名乗りの声がしていたが、気にせず走った。
「・・・え?谷って、あの千石槍の」「俺ら、もしかして超やばくねえ?」
 背後で阿鼻叫喚のような声がしていた・・・ようだったが島田たちは無視した。


 とまあ。こんな訳で一件落着である。ちなみに島田はおまちちゃんから、高価な高価なかんざしをねだられ(遅刻の罰)、永倉は風邪を引いて寝込んでしまい、沙乃から文句を言われたのだが、それはどうでもいい事なので書かない。おわり。

<言い訳・ヌシの噂で使ったのはコンバトラーV、ウルトラマン、Zガンダムのデータです。世界観にそぐわない。知識のひけらかしと思いながらもつい・・・>


若竹です。
 ジャッスカの手になる永倉アラタの恋物語。永倉アラタのキャラクターをよく掴んだよい作品だと思います。
が、その反面、デザート・クエストというのが略すとDQになってドラクエだったりとか、身長57mとかの下らない遊びを止めてくれればなお良いのだが。ギャグと低劣さの境目が微妙な所です。


 彼はやっぱりネット環境にないので、原稿はフロッピーディスクで届けられてます。感想は若竹掲示板か、若竹宛にメールをいただければ、私が彼のところに印刷して届けます。
  


投稿書庫に戻る

topに戻る