行殺(はぁと)新選組 りふれっしゅ『恐怖! 機動ビグ・サノ』
第2話『女たちの戦場』


(第1話のあらすじ)
 新選組は琵琶湖畔の雄琴おごと温泉へ慰安旅行に出掛けていた。願いをかなえてくれるが、かなうと不幸になる大麻神様にお参りした島田の願いでHな神風が起こり、その結果、島田はボコボコにされ、沙乃や山南らの願いが大麻神様に曲解されて沙乃が巨大化してしまった。



 慰安旅行中の俺たち新選組だったが、京都守護職にして会津藩主の松平けーこちゃん様(新選組のスポンサーでもある)からの緊急の呼び出しを受け、京に戻って来ていた。

 土佐系キンノーの陸援隊装甲狙撃旅団が京を制圧すべく進撃を開始したのだ。かつて陸援隊はM4戦車数輌で京に迫った事があったが、その時は近藤さんが趣味で保有してた虎徹戦車ことキングタイガーにより全車撃破されている。今回は新選組の留守中を狙っての行動だったが、残念ながら琵琶湖から京まではすぐなので、新選組はあっさりと戻って来て防衛体制を整える事ができたのだった。


『こちら虎徹こてつ戦車、配置についたよ』 無線機から近藤さんの声が流れる。
 虎と名のつくものが大好きな近藤さんは、ナチスドイツの6号戦車B型ティーゲルU(※連合国側の呼称はキングタイガー(和訳すると虎の王様))を趣味で保有している。これに“虎徹”の愛称をつけ、新選組カラーに塗装して使っているのだ。浅葱あさぎ色に白の段だら模様(▲▲▲▲)の新選組の隊服のカラーリングで、保護色効果も迷彩効果もまるでない為、戦車の塗装としてはどうかと思うのだが、とりあえず、どこの藩の部隊からも一目で『新選組だー』と分かってもらえる効果はあるらしい。幕府軍は各藩の侍の連合軍、悪く言えば寄せ集めなので、この敵味方識別効果は保護色効果よりも重要なのかもしれない。
 キングタイガーは重武装・重装甲のせいで重量が70tと重く、さらにディーゼルではなくガソリンエンジンの為、燃費が非常に悪い。新選組の財政状況は常に良くない(のに予算でキングタイガーそんなものを買わないで下さい・・・・)上に、昨今ガソリンの値段が上がってるので燃料不足の為、普段は車庫で眠っている。まるで太平洋戦争末期の連合艦隊である。・・・しかし、幕末のこの時代に近藤さんはこれで何と戦うつもりだったのだろう?

『本部だ。監察部の報告によると、今回、大坂に陸揚げされた敵の戦車は百輌に達する模様。警戒せよ』
 新選組屯所に置かれた本部で、土方さんが無線で答える。
『百輌! どうしよう、トシちゃん。砲弾が足りないよ』
 キングタイガーは砲塔バスル(砲塔後ろの張り出し部分)の砲弾ラックに22発の砲弾を搭載している。また車体左右のキャタピラの上の張り出し部に44発の砲弾を搭載しているので携行砲弾数は66発だ。とは言え、新選組は年中財政難なので車体部分に積む予備の砲弾は買えず、今回の予算は20発だ。
『だーいじょうぶ。アタシにまかせて☆』 カモちゃんさんの声が無線に割り込んで来た。 カモちゃんさん率いるカモちゃん砲中隊(と言っても、こちらも88ミリ砲1門しかないが・・・)は、高台たかだいの伏見稲荷の境内に布陣しており、低地全体を狙い撃ちできる。戦車の弱点は真上と真下なので、装甲の厚い虎徹戦車で敵の前進をはばみ、その間に敵の側面からカモちゃん砲の弾道射撃で真上から敵戦車を撃破する作戦なのだ。
『芹沢さん、準備は完了したのか?』
『まーかせて☆』
『しかしこちらも弾薬が足りません。88ミリ砲弾が20発では・・・』
 無線に割り込むのは砲術指南の阿部十郎だ。
『仕方なかろう。88ミリ砲弾が1発いくらすると思ってるんだ。それを芹沢さんが普段から無駄遣いするから。建物を壊せば弁償せねばならんし、そもそもキンノー退治に大砲が必要だという芹沢さんの考えが・・・・』 無線で土方さんの小言が始まった。
『うあー、耳が痛い〜』
 キングタイガーも戦車としては最強の88ミリ砲を搭載している。ちなみにキングタイガーの主砲は88mmKwK43(1943年に制式化された88ミリ戦車砲)で、カモちゃん砲の方は88mmPaK43である。実はこの2つは同じもので、対戦車砲は(Panzer Abwehr Kanone:対戦車砲)を略してPakと呼ばれるが、この大砲が戦車に搭載されると(Kampfwagen Kanone:戦車砲)と名前が変わる。が、両者は実は同じ大砲なので、当然砲弾は共通だ。弾薬の共通化はコストの削減につながる合理的な考えなのだが、新選組の場合、燃料不足で動けない虎徹戦車用の88ミリ砲弾をカモちゃんさんが勝手に持ち出して使っているという現実もあるので、共用じゃない方が良かったのかもしれない。
『でも、トシちゃん、ほんとにどうしよう? あたしとカーモさんで全部命中させてもまだ半分以上残るよ』
『数で押して来るとは卑怯な連中だ』
 前回の戦いでは虎徹戦車の圧勝だったのだが、しかしこちらは1輌しかないので、キンノーは物量作戦を取る事にしたみたいだ。
『沙乃ちゃんの方はどうなってるの?』

『はい。こちら島田小隊。準備は完了してます。現在、待機中』
『馬鹿、原田小隊でしょ! 大体、何で島田が無線に答えてるのよ、沙乃に寄越しなさいよ』
『しょうがないだろ、無線機のレシーバーは沙乃には小さいんだから』
『小さいって言うな〜!』
『小さいのは無線機で、いや無線機は普通の大きさで、沙乃が大きすぎるんだ』
『じゃあ小さくないじゃない』
『いや、まあ、そうなんだが・・・』

夫婦めおと漫才は無線を切ってからやってくれ』 無線の向こうから土方さんのあきれたような声がする。
『ちょっとトシさん、誰と誰が夫婦めおとなのよ!』
『沙乃と山南さん?』 と俺。
『何で突然、山南さんが出て来るのよ!』
『じゃあ、斎藤?』
『何でよ!』
『まさか、俺とへー!?』

『却下』 虎徹戦車のへー(※藤堂たいら)が無線に割り込んだ。

『お馬鹿! 今の話の流れだと沙乃と島田に決まってるじゃない!』
『そーかー、俺たちは夫婦めおとだったのか』
『何でそうなるのよ!』
『今、原田が自分で言ったぞ』 と土方さん。無線の向こうでも声が冷静だ。
『はっ! しまった。つい、うっかり島田の馬鹿な策に乗ってしまったわ』
『そうかー、夫婦めおとだったのか〜』
『まだ言うか!』
『・・・まあいい。そちらも準備は完了してるのだな?』
『はい』
『お前たちは新選組の切り札だ。敵に気取られないよう、動くなよ』
『了解です』
『了解よ』




「こうしてると、エレファントに乗ってた頃を思い出すねー」 と虎徹戦車の車長席でつぶやく近藤さん。
「ゆーさんは斥候だったじゃないですか」 操縦席に座ってるのはそーじ(※沖田鈴音すずね)だ。
「それは言わない約束でしょ」
「あ、敵が来たみたいだよ」 砲塔の上に立ち上がって双眼鏡で前を見ていたへーが車内に戻って来る。ピンクパンツァーではモバイルコンバットオフィサーを演じていた彼女は、現実の世界では装填手だ。
「あ、こっちでも見えた。えーと、距離2000mぐらいかなあ?」 車長用ペリスコープをのぞきながら近藤さんがつぶやく。
「敵の車種は何ですか?」 そーじの座る操縦席は車体側にあるため、砲塔内にいる近藤さんやへーよりも位置が低い。それでまだ見えないのだ。
「えーと、M4シャーマン戦車みたいだね」
「またM4ですか?」
「多分、米国であまってたんだよ。向こうは南北戦争が終わったばっかりだから」
 土佐陸援隊の戦車は、米国製M4シャーマン。南北戦争が終わって大量にあまっていたのを亀山社中が輸入して来たようだ。ちなみに亀山社中とは土佐系キンノーの首魁で全国指名手配中のテロリスト、坂本龍馬が主宰する武器の密貿易組織だ。
「はい。装填完了」 近藤さんとそーじが話してる間、へーは砲弾を装填してた。
「じゃあ、狙います・・・発射!」
 轟音と共に88ミリ砲が火を吹く。車内ではへーが素早く尾栓を開け、空の薬莢を床に転がし、次弾を装填にかかる。
「3、2、1、やった。命中よ。 わーい、一撃でクリアー☆」




 土佐陸援隊のM4シャーマンでは、隊長の中岡しずかがキューポラから身を乗り出していた。
「あはははは、わたしが土佐の中岡よっ! キンノーのすばらしさ、坂本お兄ちゃんの理想を、身体で教えてあげるわーっ!」
 ピカッ。敵の戦車が発砲した。
「臆したか、この距離で発砲するなんて。 素人め、間合いが遠いわ!」
 だが、ドムっと音がして、中岡の座乗する戦車の隣のM4が内部から破裂した。装甲を貫通して内部で砲弾に誘爆したのだろう、砲塔が宙に舞い、車体がつんのめって止まる。爆風に中岡のショールがあおられる。
「馬鹿な、この距離で一撃か! あの戦車はフリゲート艦なみの大砲を持っているのか。
 チッ、固まるな、散開しろ、狙い撃ちにされるぞ!」
 車内に入った中岡が無線でそう命じた途端に、最右翼の1輌が撃ち抜かれて擱座する。
「敵はわずか1輌に過ぎん! こっちも撃て、撃ち返せ!」
 横一線に並んだM4戦車の75ミリ砲が次々と火を吹き、新選組の戦車が爆煙に包まれる。
「あはははは、見たか! 数の勝利よ! 坂本お兄ちゃんがたくさんの戦車を・・・」
 言葉を続けられなかった。爆煙の中が光り、こちらのM4が更に1輌爆発する。
「無傷だと? 直撃したはずだぞ。ええい、連中の戦車は化け物か!」
 一陣の風が吹き、爆煙が晴れたが新選組の戦車に特に変化は見られない。
「距離を詰めて砲撃するぞ! 全車、前へ!」




 ガン、ガン、ガン、ガン!!! 巨大なハンマーで殴られた様な音が車内に響き渡った。
「あう〜、耳鳴りがする〜」
「でも無傷だよ。さすがキングタイガーだよね」 せっせと砲弾を装填しながらへーが答える。
「我がドイツの科学力は世界一ぃぃぃぃぃ」 近藤さんが得意がる。
「ゆーさん、徳川幕府はフランス寄りなのに、プロイセンの戦車を使っていんですか?」
「だって、フランスの戦車って弱いんだもん」
「いいのかな〜」
「そーじ、こっちも狙われてるからジグザグに走って」
「了解」
 だが、ジグザグに走っても、敵の砲弾は容赦なく命中する。虎徹戦車は時速20kmと遅いのだ。M4の半分以下の速度だ。敵からすれば止まってるも同然だろう。だが、その分、装甲板は前面で180mmと厚い(厚さ18cmの鉄板を想像すると分かりやすいと思う)から全部はじき返してるので損害はないものの、中に乗ってるとやかましいことこの上ない。
「そーじ、少しはけてよ」
「無理ですよ。同じドイツでも5号戦車のパンターを買えばよかったのに」
 パンターとキングタイガーは同じエンジンを搭載しているが(キングタイガーはパンターの700馬力エンジンを流用している)、パンターの方が軽い為、速力が出るのだ。
「だって豹より虎の方が好きなんだもん」
「そんな理由で戦車を買わないで下さい」
「はい、装填完了」 マイペースで砲弾を装填してるへー。
「砲塔旋回」 現在、車体が敵部隊に対して斜めなので、近藤さんがレバーを押して油圧で砲塔を敵の方に向ける。
 ティーゲルTは砲塔の旋回速度が1分間/1回転と遅かったが、キングタイガーでは油圧装置により19秒/1回転に向上している。砲塔は素早く旋回し、敵に狙いをつける。
「撃て!」
 主砲が発射され、M4がまた1輌行動不能になる。
 だが、すぐにその穴を埋めるように後ろから1輌前に出て来るので、やはりM4が横一列に広がってる光景に変化はない。
「敵が減らない〜」




 高地の伏見稲荷からは、戦場の様子が一望できる。
「おー、始まったねえ」
 虎徹戦車の発砲を皮切りに、眼下で戦車戦が始まった。
 虎徹戦車は確実に敵を仕留めているものの、敵の数が多すぎる。進攻をくい止める事ができず、滅多矢鱈めったやたらと撃たれているだけだ。まあ、あれだけの数の直撃弾を食らっても元気に走り回っているから、大丈夫なのだろうけど、このままでは突破されるのは時間の問題だ。
「じゃあ、こっちも派手に行こうかあ☆」
「虎の子のクラスター弾を使うわよ」
「クラスター弾は後始末がやっかいだから使うなと土方副長の命令が・・・」
 クラスター弾とは広範囲の敵を撃破する為の特殊な砲弾で、敵の上空で炸裂し、子爆弾をばらまく。戦車の上面装甲は薄いので子爆弾が当たれば敵戦車を破壊できるし、当たらずに地面に落ちた子爆弾は、そのまま地雷と化し敵が踏めばキャタピラを破壊し行動不能にする。前述したように戦車は真上と真下が弱点なのだ。ただし、爆発しなかった子爆弾は、そのままにしておくと大変危険なので、人海戦術で除去作業をしなければならないというまことに迷惑な砲弾でもある。
「ふ〜ん、アタシに逆らうんだ」 カモちゃんさんの視線が氷のように冷たい。
“このままだと殺される。いや、殺されるよりひどい目に合わされる”まさにヘビににらまれたカエルである。阿部の全身が総毛立った。
「分かりました。クラスター砲弾を装填します」 カモちゃんさんのおどしにあっさりと屈する阿部。土方副長の地下室も恐いが、不機嫌になったカモちゃんさんはもっと恐い。
「照準、敵第2集団直上100m!」
 カモちゃんさんの命令で砲身が旋回し、大きい仰角がつけられる。元々88ミリ砲は対空砲として開発された物なので、仰角はかなり大きく取る事が可能だ。
「照準完了しました!」
「発射!」
 轟音と共に88ミリカモちゃん砲が発射される。砲弾は敵戦車隊上空ではじけ、多数の子爆弾を辺り一面にばらまく。まず直撃を受けた戦車が何台も燃え上がり、次に地面に落ちた子爆弾を踏んだM4が次々と動かなくなる。
「よーし、じゃ、後は動いてる奴を狙い撃つわよ☆」




「何だ? 側面から!?」 指揮戦車の中で中岡があわてる。後方の部隊が敵の側面攻撃を受けている。
「このまま正面の敵を抜く。続け!」 後ろに退けば敵の思う壷だ。正面の敵に肉薄すれば、側面の敵は同士討ちを避けるために攻撃できなくなる。そして正面の敵は、いくら強力だとは言っても、所詮は1輌ぽっきり。同時に数十輌の戦車を相手には出来ない。敵を抜き、京洛に入ればこちらの勝ちだ。




「ゆーさん、敵が速力を上げて向かって来ます」
「へーちゃん、次弾装填、急いで!」
「もう砲弾がないよ。全部撃っちゃった」
「ゆーさん、どうしますか?」
『トシちゃんどうしよう』 困ったときの土方さん頼みである。

『芹沢さん、近藤を援護出来ないか?』

『ん〜、ゆーこちゃんの虎徹戦車と敵の距離が近すぎるね。虎徹戦車にも当たってしまうわよ』

『致し方ないな。近藤、後退しろ』
『でも敵前逃亡は士道不覚悟で切腹じゃないの?』
『逃亡ではない。原田の罠に誘い込むだけだ。それより砲弾のない戦車で何をする気だ?』
『分かんない』
『そーじ、やれるな?』
のろいけど頑張ってみます』
 そーじの言葉どおり、虎徹戦車キングタイガーは、ノロノロと動き始める。重戦車なので小回りは効かないものの、左右のキャタピラを逆向きに動かすことでその場でグルリと向を変える超信地旋回をやってのけ、砲塔は後ろに向けて(砲塔前面が装甲が厚いから)、すたこらと逃げに入る。もう撃たないのは砲弾がないからだ。




「ははははっ、奴が逃げ出したぞ。我らに恐れをなしたか」
「いくら重戦車と言っても砲弾は無限じゃありませんからね。弾切れを起こしたんですよ」 中岡の言葉に操縦手が答える。
「今がチャンスだ! 押し込むぞ! 全車、砲撃やめ!」
 75mm砲を撃っても全く効かないのでは、砲弾の無駄だ。しかも砲撃しながらではスピードも出ない。更に向こうが撃って来ないのだから、こちらは安心して前進できる。
 虎徹戦車にM4が速力を上げて迫っていた。




『島田、近藤が下がる。準備しろ』 無線機から土方さんの声が流れる。
 俺たちは主戦場からちょっと離れた塹壕の中だ。
「敵が来るよ」 と俺の隣の斎藤が言う。安月給の俺たちはかぶとを買えないので、全員、自分の頭に合う大きさの鉄なべを被っている。
「3、2、1・・・やった!」




「な・・・・!」 一番槍を果たそうと、中岡の戦車を抜いて行った先頭のM4がふっと視界から消えた。
「対戦車壕!」 中岡の目にも地面に掘られた巨大な穴が飛び込んで来た。地面と同じ色の布が敷いてあって気付かなかったのだ。
 操縦手が瞬間にギアを逆に入れ、中岡の乗るM4はかろうじて墜落をまぬがれる。
「しまった! 全車後退!」
 だが、命令は一瞬遅かった。第1集団を構成するM4が次々と対戦車壕に落ちていく。戦車は急に止まれないのだ。
「何という・・・100輌のM4があったのに・・・このままじゃ坂本のお兄ちゃんに合わせる顔がない・・・」
 残っているM4は、対戦車壕に落ちなかったのがわずかに5台。後方の第2集団も側面からの砲撃により10台も残っていない。
「迂回して京を目指すぞ!」
「了解!」
 それでもまだ10台以上のM4がある。敵の補給地点がどの辺りにあるかは不明だが、M4の速力ならば、敵の重戦車に楽々と追いつける。補給前に追いつければ、まだこちらにも勝機がある。




 対戦車壕と言えば格好が良いが、実は巨大な落とし穴である。沙乃の為に会津藩が京都中の鍛冶屋を総動員して作ってくれたのが、特製の巨大なシャベルである。巨大化した沙乃は土木作業において数十倍のマンパワーを発揮する。パワーショベルなどより遥かに強力だ。巨大なシャベルを使って、畑にあっさりと戦車用の落とし穴を完成させてしまった。この作戦の発案は土方さんで、土方さんによると、落とし穴は罠の基本なのだそうである。
 しかし、実際、落とし穴の底で20台近い戦車が横転したり引っ繰り返ったりしてもがいてるのをみると、戦車に落とし穴は有効なようだ。

「それ、埋めてしまえい!」
 俺たちは、戦場の脇に掘られた(こっちも沙乃が掘った)塹壕から飛び出し、手に持つスコップで落とし穴の縁を崩して戦車ごと埋めにかかる。
 戦車の中にあっても、土砂の落ちる音が聞こえるのだろう、生き埋めにされる恐怖から敵の戦車の乗員が次々と出て来て、両手を挙げて降伏する。
「うーむ、こんな単純な手で勝ってしまっていいんだろうか?」
「対費用効果は高い作戦だよ」 と斎藤。
「でも沙乃が巨大化してなかったら、こんな馬鹿でかい落とし穴を1時間で掘るのは無理だったぞ」
「ケガの功名だね・・・あ、島田、敵の戦車がまだ生きてる!」
 落とし穴に落ちなかった数台と、後方から追いついて来た数台が一緒になって近藤さんの虎徹戦車を追おうとしている。近藤さんの虎徹は弾切れだし、カモちゃんさんは俺たちが居るから狙えない。
「沙乃!」

「そうは問屋が下ろさないわ」
 沙乃が塹壕から飛び出した。落とし穴を飛び越えて、敵の前に出る。
 沙乃は手に持つシャベルで1輌の戦車を引っ繰り返した。フライ返しの要領である。沙乃は次々と敵の戦車を引っ繰り返していく。もちろん、戦車は自分で起き上がれないので、この時点で無力化される。これも巨人と化した沙乃だから取り得る戦術だ。

 最初は呆気あっけに取られていたのだろうが、目の前の危機にキンノーの戦車隊は素早く反応した。敵ながら良く訓練されている。
「な、なんだ、この化け物は! 砲を回せ!」
 目の前に突如現われた巨人に対して砲を向けようとするが、その動きは人間がそのまま大きくなった沙乃に対し圧倒的に遅い。しかも沙乃は宝蔵院流の槍の達人である。攻撃の気配をいち早く察し、砲塔が向けられるよりも早く敵に近づき、シャベルを一閃した。

 ゴンッ。

 鉄と鉄のぶつかる音がして、M4の砲塔が車体にめり込んだ。

「うーむ。全滅したな」
「したね」 と斎藤。
「沙乃が一人いれば虎徹戦車は要らないんじゃないか?」

「無理よ。沙乃一人で戦車100台を相手にできるわけないじゃない」

 サイズ的には、デカいラジコンカー100台が向かって来るような物か。そりゃ、確かに無理だ。

「さあ、勝鬨かちどきよ、エイ・エイ・オー」
 いつの間にか、虎徹戦車が戻って来ている。
『おー!!!』 キューポラから身を乗り出した近藤さんの勝鬨に合わせて、俺たちも勝鬨を上げる。

 かくして、キンノーの電撃作戦は頓挫し100輌のM4戦車が失われた。新選組の大勝利である。

『さて、盛り上がってるところ悪いが、さっそく仕事だ』 無線に土方さんの冷静な声が飛び込んで来る。
『芹沢さんの砲兵隊は、撤収後、クラスター弾の不発弾の処理を。永倉と沖田の組も手伝え』
『えーっ、歳江ちゃんのいけず』
『アンタが使うからだ。後始末がやっかいだから使うなと言っておいたはずだぞ』
『歳江ちゃんは本部に座ってただけじゃない!』
『私はこれから会津藩のご重役と事後処理の会議だ。局長の芹沢さんに代わってもらっても良いが?』
『・・・不発弾処理でいいわよ』
『近藤は現場の事後処理の指揮を取れ』
『はーい』
『原田は敵の戦車を落とし穴から取り出せ。島田たちも手伝え』
『まあ、確かに沙乃にしか出来ないわね』
『後で売るから大切に扱えよ』
『売るんですか!』
『当然だろう。そのための落とし穴なんだからな』
『そーすか』


 陸援隊隊長の中岡しずかには逃げられたが、100輌からの戦車を失い、キンノーは大打撃を受けたのである。これにより土佐藩のキンノー活動は一時後退し、薩摩と長州にその座を奪われる事になるのである。

(第3話に続く)


(おまけのSS)
【島田】 えーと、こいつのエンジンは生きてそうだぞ。
【斎藤】 こっちの、主砲塔は無傷だね。
【永倉】 こいつキャタピラが切れてるだけだぜ。
【山南】 いや、トランスミッションがいかれてるな。
【島田】 カモちゃんさんが撃った方は、穴だらけでボディは使えないなあ。
【斎藤】 虎徹戦車にやられたのも、中から爆発してるからダメだね。
【島田】 っていうか、何で俺たちがこんな事をしてるんです?
【土方】 同じM4だから使える部品を組み立てれば、まともなのが1輌できるだろう。
【原田】 芹沢さんは元整備兵だったんじゃないの?
【芹沢】 いやあ、アタシはどっちかっていうと、てきとーな整備兵だったからさあ☆
【近藤】 動く戦車は、けーこちゃん様が買い上げて下さるんだよ。みんな頑張ろうね☆
【沖田】 会津藩が戦車隊を作るのに使うんだそうですよ。
【藤堂】 イスラエルみたい・・・。


(あとがき乱れ書き)
 ・・・・これ、行殺かなあ? しかも戦車戦の部分だけで長くなり過ぎて、おまちロボを出せなかったし。おまちロボは後編に回そう・・・。
 私は、海軍の方から入った(我が町は軍港ですから)ので、戦車には疎いのですが、びみょーにマニアックなネタを入れつつ、デタラメな歴史物に仕上げました。
 ベースにしてるのは、行殺のパンツァー沙乃シナリオと大麻神シナリオですが、戦車戦の部分がオリジナルですね。あと落とし穴作戦。

 近藤勇子の虎徹戦車は、絵を見る限り、ティーガーTなのですが、虎の王様の方がより素敵なのでキングタイガーにしてみました。
 キングタイガーは、88ミリ砲を搭載し、前面装甲が180mmにも達する重戦車で大活躍しましたが、戦車として見たときに失格な感じです。まず、その重武装・重装甲の為、重量が68tと大変重く、しかもエンジンは5号パンター戦車の700馬力ガソリンエンジンを流用したので、エンジンの出力が足りず、時速20km程度しか出ませんでした。(計算上重量1t当たり10馬力の出力しかない事になる)
 現在の戦車はアメリカのM1エイブラムスを除けば(M1はガスタービンエンジン)、そのほとんどがディーゼルエンジンです。トラックもディーゼルエンジンですが、ディーゼルの方が燃費が良いのです。しかもガソリンは爆発性が高くて危ないし。第2時大戦当時、なぜかドイツと日本の戦車だけがガソリンエンジンを搭載し、その他の国ではディーゼルエンジンを使ってました。
 ちなみに55tのM1戦車を動かすガスタービンエンジンは1500馬力ですが、それでも時速50kmぐらいしか出ません(不整地で)。自衛隊の90式戦車も重量50tで1500馬力のディーゼルエンジンを搭載してます。時代が違うと言えばそれまですが、キングタイガーはその重量の割にエンジン出力が低すぎるのです(まあ、パンターのエンジンを流用したから仕方ないけど)。
 また、サスペンションも68tの重量を支えるのには貧弱だったので、故障が頻発したのだそうな。そんな走行系に問題のある戦車が遠くの戦場まで走って行けません(トランスポンダーに載せるには重すぎるし)。では、なぜ大活躍できたかと言うと、敵が国のすぐ近くまでやって来てくれたから。ドイツが負けかけてた頃に完成した戦車なので、遠くまで行かずとも良かったのです。やって来る敵を待ち受けて反撃するには180mmの装甲と88ミリ砲は無敵! 連合軍の戦車を大量に撃破したのだそうです。戦車戦で撃破されたキングタイガーは1両もなく、全部燃料切れで放置されたのだそうな(それもまた情けないが・・・)
 まさに拠点防衛には、その威力を如何いかんなく発揮する戦車なので、今回、京都防衛の為にキングタイガーを採用してみました。
 ところでキングタイガーってのは連合国側が勝手にそう呼んでただけで、ドイツではティーゲルUと呼ばれてました。零戦がジークと呼ばれてたのと同じですね。

>『女たちの戦場』
 このビグ・沙乃シリーズの各話サブタイトルは、ガンダムの物で行くことに決めました。今回の『女たちの戦場』は機動戦士Vガンダムの第47話のサブタイトルです。

>「ゆーさんは斥候だったじゃないですか」
 ピンクパンツァーでは、斥候の神凪留美子でした。ちなみにそーじはエレファントの操縦手の砂海沙希でした。同じライアーのゲームなので声優さんが同じです。

>わーい、一撃でクリアー☆」
 『アーケードゲーマーふぶき』から。やはりパッション・パンティを発動させるべきだったろうか?

>素人め、間合いが遠いわ!」
 非武装の旧ザクでガンダムに突っ込み、ビームサーベルでやられたガデムの名台詞。

>あの戦車はフリゲート艦なみの大砲を持っているのか。
 分かり難いが、元はシャアの『何という事だ、あのモビルスーツは戦艦なみのビーム砲を持っているのか!?』より。ビーム砲(メガ粒子砲)は、当時ムサイやマゼランなどの戦艦の主砲サイズの物でしたが、ガンダムが史上初の小型化に成功。後にジオンもゲルググでビームライフルの開発に成功します。
 と、いうガンダム小ネタはさておき、本当は『戦艦の主砲』という台詞にしたかったのですが、日本初の戦艦三笠ですら、30.5cm砲を登載してます。軍艦だと88mm砲はフリゲート艦クラスの備砲なのです。軍艦には浮力があるため、巨大な大砲を積めるのですな。

>ええい、連中の戦車は化け物か!」
 同じくシャアの有名な台詞。シャア・ザクキックを受けても平気なガンダム。でも無重力の宇宙空間で蹴っても後ろに吹っ飛ぶだけで、ノーダメージなのは当たり前のような気がするな。うん。

>「我がドイツの科学力は世界一ぃぃぃぃぃ」
 『ジョジョの奇妙な冒険』のシュトロハイム少佐の有名な台詞。
 ナチスを誇ったのはSSぐらいなので、台詞を『ドイツの科学力』に変更しました。シュトロハイムはSSなので、彼がナチスの科学力を誇るのは問題なし。

>前述したように戦車は真上と真下が弱点なのだ。
 白色彗星と同じである。実はデスラーの台詞をパロディーとして入れたかったのですが・・・さすがにやり過ぎなので止めました。

>【原田】 芹沢さんは元整備兵だったんじゃないの?
 ピンクパンツァーでは整備兵の大停蘭子伍長でした。

>【藤堂】 イスラエルみたい・・・。
 実際にイスラエルはスクラップのM4シャーマン戦車を再生させて戦車隊を作りました。のみならず! それを改良してM50スーパーシャーマンという戦車を開発してたりします。戦車の著作権ってどうなるんだろう?



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