「行殺(はぁと)新選組りふれっしゅ・緋村こころちゃんシリーズ」
『京に咲く徒花』
新選組では、朝の訓練の後、朝餉である。やはり体を動かした後、食べるごはんはおいしいからだ。
今朝のメニューも・・・・・いつもと変わらないが、それはまあ、仕方がない。
「いただきまー・・・・」
俺が両手を合わせて食べようとしたところ、前の方から奇妙な歌が聞こえてくる。
「ごっはん♪ ごっはん♪ ほっかほっか ごっはん♪」 声の主は沖田鈴音だ。
「きっなこ♪ きっなこ♪ ごっはんにきっなこ♪」
そーじは歌いながらご飯にきなこをかけ、きなこご飯にして、おいしそうに頬張る。
「・・・・」
ま、まあ、きなこは大豆の粉だから健康には良いのだろうが・・・・・。
だが、他のみんなもあきらかにひいている。そーじからお膳を遠ざけ、彼女の回りだけ空間ができた。
そーじが切腹する日も遠くあるまい・・・・。
さて、朝ごはんも美味しくいただいて、今日の巡回に・・・・・なに? か、体が・・・・足がもつれ、
廊下に転がる俺。起き上がろうとするが、体全体に痺れが走って動けない・・・・。
な、何事。さてはさっきの朝ごはんか、キンノーが姑息にも毒を仕込んだのか!
ま、まずい。早くみんなに知らせないと、新選組が・・・・。
「島田!」
たたたっと駆けて来る足音が聞こえる。首も動かないので目だけでそちらを見ると、この足袋は斎藤だ。
「島田、大丈夫かい? しっかりして!」
斎藤が俺を抱え起こす。斎藤に伝えなければ。“朝ごはんに毒が!” だが俺の口からは、
うう・・・という音が漏れるだけだ。あごや唇も麻痺してるのでしゃべれない。
「島田、かわいそうに」
斎藤が、俺に顔を近づけ、唇を合わせた。
“さ、斎藤! い、いったい何を!?”
「この味、神経毒にやられたね。大丈夫、僕が解毒剤を持ってるから」
“そうか、毒を確かめたのか。・・・・なに? なぜ斎藤が解毒剤を持ってるのだ?
神経毒の解毒剤はそれ自体が猛毒だから・・・・!!” 俺は突如気付いた。
“犯人は斎藤か! ま、まずいこのままでは俺の貞操が・・・・”
「大丈夫、島田は全然心配しないでもいいからね。全て僕にまかせて・・・」
“だ、誰か、助けてくれ〜”
「こら、そこ、何をアブナイ事をやっておるのだ。不純同性行為は切腹だぞ」
「うう」 “土方さん!”
「副長! あ、これは、そう、柔道です。受け身の訓練ですよ」
「うう」 “うそつけ!”
「ふむ、誤解を招きそうな事を廊下でするんじゃない。そういうことは道場でやれ!」
怒った土方さんがスタスタと立ち去る。
「うう」 “土方さーん!”
「さあ、島田、邪魔者はいなくなったね。あとはゆっくりと・・・・」
顔に天使の微笑を浮かべて、斎藤が俺を引きずって行こうとする。
「うう」 “だ、誰か助けてくれ〜”
「そうはいきません!」
中庭に凜とした声が響き渡る。
「うう」 “こころ!”
そう、現われたのは短身痩躯、赤い長髪に左頬に絆創膏。新選組新入隊士の緋村こころだ。
今日の服装は臙脂のブレザーに紺リボン、ピンクのチェック柄のプリーツスカート。
新選組の女性隊士は、不条理にも学校の制服の様な服装で、そのうえに浅葱色の羽織を羽織っているが、
こころもそれに合わせたらしい。
“め、めちゃくちゃかわいいぞ!こころ!・・・・でも、お前、男じゃなかったか? 確か?”
「ち、現われたな、抜刀斎。偽物を仕立ててうまく新選組に潜り込んだんだつもりだろうが、
この僕の目はごまかせないぞ。お前はキンノーの刺客、人斬り抜刀斎だ!」
「えー、なんのことー。こころ、分かんない〜」
“違うぞ、斎藤。こころは自分の身を呈して俺を助けてくれたんだ。俺たちの仲間だ”
ああ、声の出ないのがもどかしい!
「悪・即・斬。 島田に近づく者は全て悪。この僕が刀の錆にしてやる!」
斎藤は俺を離すと(ゴンと床に頭をぶつけた。こら、斎藤、もっと大事に扱え!)、刀を抜き、
いきなりこころに斬りつけた。
「きゃー! おとこ同士だなんて、斎藤さんのへ・ん・た・い〜」
こころは斎藤の刀をひらりとかわす。スピードではこころの方が上だ。
「お前だって、男だろう!」
「こころは、純情可憐な女の子ですー。でも斎藤さんがその気ならこころも負けません。
斎藤さん、島田さんを懸けて勝負です!」
こころも構える。こころの得意技は居合なので、抜かずに俊速の剣で相手を仕留めるのだ。
「望むところ!」
斎藤も構える。上半身を左にひねり、刀身を寝かせて突き出した切先に右手を添える。
必殺技、牙突の構えだ。
キン、キィンと刃と刃の打ち合う音が聞こえる。こ、こいつらは男同士で俺を奪い合うなよ(泣)
「あ、誠、何 廊下で寝てるの?」
頭上から声が聞こえる。新選組副長助勤、藤堂平の声だ。
健康そうな膝小僧、おいしそうな大腿。そして・・・・
ぶしっ。そこまでで顔面を踏まれた。
「こら、人がせっかく助けて上げようと思ったのに」
「うう」 “ごめんなさい。もうしませんから助けてください”
「斎藤と緋村で、誠の奪い合いか。若いっていいよねー」
中庭で剣戟を繰り広げる斎藤とこころを見やり、うんうん、と一人頷くへー。
そしてへーは、俺の方を見て、ニコリと笑った。
「モテモテだねえ、誠」
「うう」 “お願い、助けて”
「ふーん、そっか、薬で動けないんだ」
「うう」 “そうなの、だから早く助けて。あいつらが戦ってる間に”
俺は哀願の目をへーに向けるが、そういえば俺はへーの足元に仰向けに寝転がってるのだった。
今度はモロにへーのスカートの中が!
“あっ、白”
ぶしっ。もう一回顔面を踏まれた。
「まこと〜。自分の立場が分かってるのかな〜」
「うう」 “誤解です。偶然です。今のは事故なんです” 弁解しようとするが言葉がでない。
「あっ、島田!」 斎藤が俺とへーに気付いた。「島田は渡さない!」
すでに逆上している斎藤が、何を勘違いしたか、へーに牙突を仕掛ける。
「島田さんは、誰にも渡しません!」 こころも同じくへーに斬りかかる。
「えっ? なに、なに?」
2人がかりで問答無用で斬りかかってくるので、へーも斬馬刀を持ち出して、二人に応戦する。
結局、中庭では三つ巴の戦いが始まってしまった。
キン、キン、キン、ギィン(これは斬馬刀の音だ)。それでも、転がっていることしかできない俺。
俺が一体何をしたというのだろう。
「こらっ! 私の闘争は士道不覚悟で切腹!」 剣戟の音に土方さんが戻って来た。
「違うんです。藤堂さんが、島田を誘惑しんたんです!」
「してない!」
「斎藤さんが、いきなり斬りかかってきたんですぅ」
「緋村が邪魔をするから!」
「一服盛ったの、斎藤さんでしょ。こころ見てたんです」
「だからわたしは通りかかっただけで、何にもしてない!」
「やかましい! 習練なら道場でやれ! それ以外は私闘と見なす。全員解散!」
土方さんがキレた。相手は副長なので、3人はすごすごとその場を後にする。
“やれやれ助かったあ。さすが土方さん”
だが、俺の安堵感は、直後打ち消されることになったのだった。
「島田、薬で動けないのか。ふむ。たまにはそういうのも一興か。よし、島田、地下室に行くぞ。
ふふふ、久々に燃えそうなシチュエーションだ」
目を爛々と輝かせた土方さんが動けない俺を引きずって行く。
“えっ? 俺、助かったんじゃなかったの?”
「かわいがってやるぞ。島田」
“誰かぁ〜、助けてくれ〜”だが、声が出ない。
“へー、斎藤、こころぉ〜!”
「心配するな、お前に大人の快楽を教えてやる。楽しいぞぉ。くっくっく」
“嫌だぁ〜。俺はノーマルなんだぁ。へー、斎藤、こころぉ〜!”
がたんと音を立てて地下室の扉が閉じた。ガチャリと内側からカギがかけられる。
そして・・・・・。
(おしまい)
(あとがき)
この作品は、副長ラブ様のINKYOの801番を踏んだ記念に、やおい作品になるように書いたものです。
※緋村こころちゃんは副長ラブ様の創作されたオリジナルキャラクターです。