Urban Architecture Planning Partnership
           
















  『大きな地形を背負う環境住宅』
もう生まれた!』
『大きな地形を背負う環境住宅』『もうすぐ生まれる!』編は、→コチラ

掲載:新建築住宅特集2018年12月号

はじめに

 仙台市近郊の小高い北斜面に建つ住宅です。南には八木山の斜面を背負い、北側には仙台の中心部を見渡せる眺望に恵まれ、それが施主にとって土地取得の大きな動機となりました。そこで、前面の急傾斜道路をそのまま住宅に引き込み、坂道からつながる一体的な空間体験の後に眺望が広がような住宅としました。

眺望を取り込むための計画的操作は、「仙台の気候を運用する住宅」への筋道を開かせてくれる結果となりました。
 例えば、風は通常、周囲の微地形や隣家などに影響されますが、眺望を確保するための計画操作は、気象データ通りの安定した風を受けることができ、日照もまた同様に効果的であることが調査の結果わかりました。眺望確保と同時に、風と熱を計画的に運用することがこの住宅の骨格です。


 眺望を室内に取り込むため、北に面して大きな開口部を設けています。一般的に北側の開口部は断熱上の大きな弱点とされています。開口部の大きさと仕様が住宅の数値的な断熱性能を決定します。
 そこで、北側開口部の熱損失を補うために南に面して予備的な動線を兼ねた採熱室を設けました。
 冬季に採熱室で集めた熱をファンでLDKの床下に送り込み、床下に敷設した「潜熱蓄熱材(PCM)」に蓄熱さています。PCMは、事前に設定した温度で周囲の温度を安定させようとする性質(後述)を持っており、室温を夏期も冬期も快適とされる23度付近で維持しようします。八木山の大きな地形を引き受けた計画的操作を行うことで、仙台平野の眺望と熱と風を享受する住宅が成立しています。


 また、竣工後の効率的なエネルギー運用を考える仕組みとして、採熱室からLDKまでの熱の移動経路などに、温度を検出するための温度センサーを設置しました。南の採熱室から取得した熱量の、どの程度がPCMに蓄熱され、それが北の窓に面したLDKの室温にどの程度影響するかを継続的に計測することになっています。理論的推測との誤差がどの程度かを検証し、効率の良い運用の仕方を施主と共有していくことになっています。

配置計画

 北側へのダイナミックな眺望の獲得と、風向を考慮して建物の空間ボリュームを配置しています。急坂を延長するように設けた段々状のリビングダイニングが最頂部である眺望点へと導きます。


※環境省風況マップより
 敷地の夏季の日中の風向を確認。
 ↑ 敷地は急坂を登り切った終点にあります。玄関側の外観は、「西側隣地(急坂の向かい側)に建つアパートからの見下ろしの視線」を考慮し、プライバシーに配慮した外観となっています。自然素材を基本モチーフとして、ごつごつした土のイメージで外観を形成しています。

 ↑ 玄関扉を開けたところ。暖気の損失を防ぐために、小さな風除室になっています。

 ↑ 玄関と風除室を室内に入った見返しです。
 風除室2枚面のドアをガラリと鍵のついたドアとすることで、夏は鍵をかけながら通風できるようにしました。
 冬はガラリを閉じて、通常の風除室として活用します。


LDK/子供室

 ↑ 玄関を入ると「段々状のリビングダイニング」が広がります。ここから見て、右手が「子どものスペース」であり、左手に「仕事室」があります。
 手前の階段を上った場所が「リビング」であり、もうひとつ登り切ると「ダイニング」です。住宅全体が大きなワンルーム空間です。

 ↑ 地面から1.6mの高さまで登るとリビングです。
 右奥に見える下への階段は、床下収納や寝室や風呂などへの動線です。


 ↑ リビングとダイニングキッチンは、大階段で一体空間になっており、このように、こどもが遊んだり、スクリーンとプロジェクタを持ち込んで小さな映写会を開催したりできます。

 この大階段を、ぐぐっと、登ると…
 ↑ 風景の中に浮かぶダイニングキッチンです。最頂部のダイニングまで登頂した視線の先に、仙台市中心部への眺望が広がります。

 ↑ ダイニングから、振返ったところです。
 右手の「採熱壁」の上部に、ダイニングキッチンへの南側直射光の採光のための高窓が設けています。この直射光により、北からのの「天空光」の「少し不自然な青白さ」に自然な彩を加えています。(…このあたりの感覚は好みの問題です。)

 天空光 : 太陽光のうち、直射日光を除き、天空のあらゆる方向から地上に到達する光。 空気分子などによる散乱・反射の結果で、天候によって晴天光・曇天光に区別される。 スカイライト。(コトバンクより引用)

 ↑ リビングに立って、くるりと、180度振り向くと、子ども室はリビングの床下にあります。
 「はしご」でもリビングから昇り降り出来ます。子どもたちが楽しく過ごせるような場所を意識して作りました。
 ↑ 子ども室の様子。先ほどの玄関から右側に振り向いたらこんな感じです。

 ↓ さらに中に入って、振り向くと、このような感じです。
 ↑ 子ども室は洞窟のような空間になっており、2つ用意してあります。
 プライバシーの守られた「個室」としては、収納と、寝るために必要な最低限の大きさとし、子ども室の前に共用の勉強用長机を設けています。
 茶色い壁は、土と藁を混ぜた左官壁です。山形の原田左官さんにオリジナルでつくってもらいました。


 さて、リビングに戻り、そこから一番てっぺんに、ぐぐっと、上りますと…
 ↑ 最頂部のダイニング゙は、長いキッチンから続くダイニングテーブルを設けています。
 基本的に「現在、家族はダイニングで過ごしているので…、これからも」というご要望がありました。
 左手の「ガラリ付き扉」の向こう側が「採熱室」を兼ねた階段室です。家事動線が最短化された「1階水廻りへのショートカット動線」となっています。


 テーブルはレベル差を活かして「掘りごたつ状」にしています。
 (「もうすぐ生まれる!」編でも触れましたが)このダイニングテーブルを「掘りごたつ式」にした最大の理由は、以下の理由です。
 ・冬季には「採熱室で採取した熱」を
身体の近くに(潜熱蓄熱材PCMに)蓄え、身体の近くで放熱させることに
  より効率的な「熱の運用」を図ること。
 ・夏季には、「潜熱蓄熱材(PCM)」は、室温を「設定温度(23度)」に近けようとする力が働くが、身体の近
  くでその作用が働くことにより、その機能をより実感できるようにすること。

 ↑ 掘りごたつの足元には、南側「採熱室」で採取した「熱」がファンを通してダイニングの床下に蓄熱されるように設計をしています。この熱は足元に設けた「ガラリ」を経由してダイニングに吹き出します。

 ↑ 夜景です。冬の日中晴天時は石巻あたりまで見えることがあります。
 ↑ 北側の窓は、眺望に対して足をぶらぶらさせながら腰かけられるようにしました。「頂上に上り切った達成感」の一部です。

仕事室
 ↑ リビングに戻ってみると…。
 玄関横の土壁でできたボリュームが書斎です。仕事をする場所として、独立した場所としました。


 ↑ 仕事室内部

 ↓ リビングに戻って…、この階段を降りると、1階の「諸室ゾーン」に入ります。
1階諸室
 ↑ 中二階に位置するリイングから1階に降りる階段を降りて、振り向いたところ。
 「諸室ゾーン」には、洗面所、バスルーム、トイレ、クローゼット、寝室(10畳)と、床下収納があります。

 ↑ 大きな容量のウォークインクローゼットを経由して、寝室に向かいます。
 ↑ 寝室です。開放的ですが、天井高さを低めに設定してい居ることもあり、心地よく落ち着いた空間になりました。

環境計画   南で取得した熱を北側で運用する取組み
南側の階段室を熱を取得する役割に特化させ、大開口をもつ北側へ運用する仕組みを取り入れています。
東北大学大学院の小林光准教授と共同で仕組みを考えました。
↑ 南側「採熱室」。太陽光によって溜まった熱を壁上部のスリットから壁内に吸引し、ファンを通じて壁の北側の「DK」へ循環させています。
 
ファンは施主がスマホでコントロールできるようにしてくれたおかげで、外出していても稼働させることができるようになりました。

 ↓ 「採熱室(ショートカット階段室)」内部を、階段を上ってみたところです。右手の壁が「採熱壁」です。
 冬季には、この「採熱壁」に直射光を当てることにより、直射光を「熱」に変えます。この壁を白っぽくすると熱を反射してしまうので、左官やさんに濃い色で統合して貰いました。
 この「採熱壁」に開けられた「スリット」から「熱」を引き込み、ダイニングの床下にセットした「潜熱蓄熱材(PCM」に蓄熱します。)
 ↑ この「採熱室(兼ショートカット階段室)」の下部は、ドアで他の部屋と区画され、熱が逃げない工夫をしています。

 リビングに戻って、「採熱壁」全体を見てみると…
 ↑ 「採熱壁」全体は、このような感じです。南面に向けて、熱を採取するために、「羽」を広げているような感じです。

 ↑ この図のように、北側へ循環させた熱を「潜熱蓄熱材(PCM)」に蓄熱させています。
 「潜熱蓄熱材(PCM)」は、夜間、気温が下がり始める時に、室温の低下を緩やかにさせる役割を果たします。

 しばらく詳しく説明せずに、来ましたが、では、
「潜熱蓄熱材 PCM(Phase change material)」とは何でしょうか :
 物質の相変化転移に伴う転移熱(潜熱:水が氷になるように、物質が液体から固体、固体から液体に相変化する際に放出もしくは吸収される熱エネルギーのことを「潜熱」という)を利用したものです。蓄熱密度が大きく、出力温度が一定であること、凝固温度を自由に設定して製造できることが特徴で、今後の住宅建築へ適用が期待される材料で、今回はメーカーの協力で実験的に設けました。夏でも冬でも快適である23℃に設定したPCMを使用し、冬の熱取得だけではなく、夏のピークカットにも適用可能な計画としました。
 ↑ シルバーのアルミパックに入ったものが「PCM」です。このように床下にぎっしり敷き詰めています。

 ↑ また、PCMには、粉状の製品もあります。
 採熱室から循環させた熱を活用するLDKの左官壁は、土と藁を混ぜた左官壁で仕上げています。オリジナルに混合した左官材には、小さなカプセルに封入させたPCM(白い粉がPCMです)を混ぜ、左官壁自体に室温を安定させる蓄熱効果を持たせています。


測定 ~クライアントと最適な使い方を共有するために~
↑ 竣工後に、「実際に熱がどの程度に採取され、PCMにどの程度蓄熱され、室温がどのような状態になっているか」や「最適なファンの稼働時間を知り、最適な運転方法を模索し、施主と共有する」ために、熱の移動箇所に温度測定できるセンサーを設置しています。
 これにより、温度変化の継続的な調査が可能になります。


 これにプラスして「おんどとり」というという個別独立式(?:配線不要なロガー)のデータロガーも併用し、必要な箇所の温度データを採取しています。

 ↑ データロガー
 温度センサーの配線を確認しやすい1点(ダイニングの床下)に集約し、温度データのログを取り、継続的に分析しています。この装置では20点の計測データが記憶できます。現在の設定では、5分ごとの温度をすべて計測しています。


 「日射計」も設置予定でしたが、うまく設置場所が確保できず、仙台気象台の「1時間ごとの値」の「全店日射量(MJ/u)」を参考にすることにしました。

 ↓ また、この測定のために事務所で新たに、「サーモカメラ」を導入しました。スマホに接続できるタイプで、この方が、インターバルタイマー撮影(等時間撮影)なども可能で、価格のわりに高性能でした。
 さて、ここまでが「もう生まれた!」編です。
 このように、私たちとしては万全の態勢で取り組んできました。

 このあと、採取したデータの内容をまとめます。
 よろしくお付き合いくださいませ。
 m(__)m

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