Urban Architecture Planning Partnership
             



















 好評連載 「もうすぐ生れる!」 模型の残骸で綴る思考の軌跡 「MTD松戸の住宅」編

ファーストコンタクトから設計契約まで

2003-10-16
 ファーストコンタクト。クライアントからの初めての電話。10月11日放送の「渡辺篤史の建もの探訪」武井邸を見て電話をくれたそうだ。
 一週間後にクライアントを訪ね、敷地の現地調査ならびにヒアリングを行う。現地は静かな住宅街。100坪ほどの変形敷地で、但し、南側西側を2階建て住宅やアパートにギリギリまで阻まれている。北側には隣地の広めの庭がひろがり、東側の4m道路よりアプローチ
 家族構成は、40代前半のご夫婦に大学生と中学生の息子さん二人。現在所有しているマンションは65m2程度の広さで狭くて生活し辛いことから住宅の新築を思い立ったとのこと。

「さいたま市武井邸」
敷地
2003-11-20
 第一案プレゼンテーション
 基本的には外部に閉じた形の構成で建物中心部に「120角の木材を使った列柱の中庭」を配した。ここで安定した採光と通気を確保するつもり。この時点では、必要な広さとコストを考慮して木造で考えていた。こっちとしては「とにかく広く安定した内部空間を確保したい」。家族の事情を考えそう考えての案だった。2700幅の中庭周りの作りは「NAGAMACHI-HOUSE」を更にグレードアップさせる予定
 右の模型写真はスタディ時最終模型。プレゼンした模型はクライアントのところにあり、その他のスタディ模型は去年年末の仙台事務所引越し時に処分してしまったため、現存せず。便宜上、唯一残ったこの模型をスタディモデルー1とした。

study-model-1
〜2004-02-01頃マデ
 12月末に行った鎌倉「雪ノ下の家」のオープンハウスにご夫婦揃っておいでになったり、電話でプレゼン案に対しての質問等多い熱心なクライアント。質問は中庭からの採光の具合や結露の状態、温熱環境、家族の視線の交わり方など多岐に渡る。
「雪ノ下の家」
2004-02-15
 設計契約日。クライアントと待ち合わせてクライアントの経営するオフィスにて無事設計契約を締結。
 クライアントも乗り気で、「東正面2階部分(東北方向)ににテラスが欲しい」とか様々な話が飛び交う。その真意はプレゼン案はスゴク刺激的で気に入っているが閉塞感があるかもしれないと危惧してのこと。内部から視線の抜ける外部空間が欲しい。なるほど、と思い納得した。
 あとの要望は以下の通り。1、防音室が1室欲しい。2、個室の広さがもう少し欲しい。
  本格スタディ開始   設計契約以降

2004-02-19
 クライアントからの一番大きな要望である「東側に室内から視線の抜けるテラス」についてスタディを行う。先ずは何も考えず、そのまま、テラスをくっつけた。敷地の都合上、中庭部分を多少縮小したが、それによって雰囲気がずいぶん違ってしまうことが判明。まるでつまらない住宅になってしまった。スタッフ内で、何が問題なのかを話し合った結果、「この列柱の中庭空間は求心力が強烈過ぎて他の要素を盛り込もうとすると、拒否反応を起こしてしまうのではないか」との結論に至った。しかし、やはり、クライアントの言う閉塞感も今となっては理解できる。開放的なテラスを装備してやろう、との方針で再出発。
study-model-2
2004-02-24
 中庭テラスの取り方を再検討し始めたスタディ模型。東西方向でなく、南北方向に二つ、中庭を確保し、その間にリビングを配するのはどうかとの、意見がスタッフからあり。何も考えずに手を動かす。これはこれで良いのかもしれないが、伸びやかさの足りない空間が出来そうな雰囲気。
study-model-3
2004-02-24
 上のスタディ模型をもう少しいじってみる。中庭やリビング棟も形を敷地条件に合わせて斜めにし、中庭部分を壁面・上部共にルーバーで覆ってやることにより、室内・中庭込みで一体空間として成立しないかと、妄想する。ラフな模型だが、ほぼ、この路線の限界は把握できた。このまま行っても見るべき所の少ない住宅になりそう。この路線はこれでお終いにすることにした。
study-model-4
2004-02-25
 やはり、ボリュームはボリュームとして把握するべきではないか、と思い始める。それをきっちりと抑えていないと、この敷地の広さでは「ゴマカシ」の建築になってしまうのではないか、と思い始める。右の写真は基本構成を原案に戻し、中庭を広めに、居住空間をきっちりとボリュームに置き換えて作成した模型。前の路線脱却のためにあまり深く考えずに手を動かす。この頃からRCのボリュームと武井邸アプローチ部分のような木製ルーバーの外部空間を組み合わせて全体を構成しようと思い始める。予算を考慮して、ボリュームは完全なRC造ではなく、屋根床面は木造とするハイブリッドで考える。
study-model-5
2004-02-27
 RCのボリュームとルーバーに覆われた外部空間の組み合わせとして全体を考え始める。今回の最終案に至る元となったスタディ模型。全体の構成として、ガッチリとした「厳密な構成」をイメージし始める。しかしこれではまだ、構造・構成も合理的ではなく、曖昧な感じ。
study-model-6
2004-03-01
 RCと木造のハイブリッドの方法として、本格的に構造を考える。高さ6m、2層分までの壁を一気に打設し、床・屋根はそのRC壁に乗せる形で木造にて施工するイメージ。これであれば予算内に納まるであろうと読み、スタディ模型を作成。構造的な合理性を考え、建物四隅にRCボリュームを配置し、 それぞれの間の1F部分に個室、2F部分にテラスを配置することにした。
study-model-7
2004-03-02
 上の模型をもう少しコンパクトにし、しまりを持たせたスタディ模型。スタッフ内では、この構成をすごく気に入っている。厳密で、厳格で、引き締まった空間構成の住宅になるのではと、期待した。周辺環境との納まりも良好だと思われた。雑多な、テクストを読み辛い敷地ではあるが、そこに毅然と座っているような感じ。ただ、難点を挙げれば、平行四辺形をモデュールとしているため、個室の家具の収まりが悪い。それを何とかしようと思うが、この平行四辺形のモデュールが空間に伸びやかなリズムを与えていることも事実。今回はクライアントにこのことをきちんと説明し持ち込もうとの結論に至る。
study-model-8

  第二回プレゼンテーション

2004-03-08



study-model-9
 設計契約後、初めてのプレゼンテーション。初期案からの変化にクライアントがどういう反応をするかが気になるが、コチラとしては自信満々の案だった。
 しかし、クライアントの反応は芳しくない。「テラスが活用されずに寂しい感じになってしまうのではないか」との第一印象。確かに2階テラスへの動線が日常化されておらず、わざわざソコに出なければならないという欠点は指摘されて初めて気がついた。良い点といえば、RCと木の素材の組み合わせと風呂の取り方くらい。結論としては「前の案の方がダイナミックで良かった」とのこと。どこが、と言えば「全体のフロア構成がゆったりと繋がっていて、しかも中庭で緩やかに区切られているところ」とのこと。
 一緒に持っていった、「スタディ模型-5」と初期案をベースに再度検討を行うこととなった。

  またまたスタディ 第三回プレゼンテーションまで


2004-03-12
 前回プレゼンテーションの玉砕から、緩やかにスキップするフロア構成RC打ち放しのボリューム構成で全体を構成しようと、再度、作業に取り掛かる。先ずは何にも考えずに手を動かしてみる。ボリュームは多少小割りになるが、ボリューム構成にリズムがあるものを目指す。前回の提案はボリュームと素材の迫力に力点を置きすぎた構成だったように思い直す。
study-model-10
2004-03-12
 「初期案の構成が気に入っている」とのクライアントの話を思い出し、大きなワンルームの中に様々なボリュームがある構成で再度挑戦。しかし、やはり、閉じたボリュームだけで空間を構成すると息が詰まってしまう。クライアントの話は話として、内部と外部が心地よく入り混じった建築を目指して再度、考え直すことにした。
study-model-11
2004-03-13
 内部空間と外部空間、RCのボリュームと空白、それらの空間を空中に市松模様に配置し内部と外部が不思議な感じで構成されないかと考え、試したスタディ。次回提案までの基本路線はここで固まった。しかし、これをどう構造的な辻褄を合わせるかなど、まったく考えていなかった。
study-model-12
2004-03-16
 study-model-12をもう一度考え直しながらマイナーチェンジ。最も気になっているのは、外周部にRC壁をぐるりと巻き込んでいる点。このままでは面白くもなんともない、ただ不細工なだけの箱になってしまう。
study-model-13
2004-03-17
 RCの構造を念頭に置き、されど、考え込むこともせず、更に手を動かす。一歩前進しようなどと大それたことを考えず、半歩前進することを念頭においてつくってみる。四隅にRC壁を立ち上げそれを足掛かりに構造的な辻褄を合わせようと目論む。しかし出来上がってみれば、やはりその四隅の壁がやはり邪魔になってしまうことに気付く。
study-model-14
2004-03-18
 四隅のRC壁を排除して構造的な辻褄を考える。構造的な辻褄に関しては多少先が見え始める。
 中庭のスキップフロアの見えがかりを多少気にし始める。

study-model-15
2004-03-19
 更にマイナーチェンジ。プラン的な整合性を持つには幾つかの平面構成が考えられるが、あまり深く考えず、全体構成を考えてみる。この時点ではリビングは北側に、ダイニングキッチンもリビングとは別室で北側にと漠然と考えていた。
study-model-16
2004-03-19
 構造的な辻褄を合わせることに始めて成功。スタッフ内での雑談は施工方法、RC打ち継ぎの方法にまで及ぶ。
 リビングとダイニングキッチンは西側、エントランスから見て一番奥の棟、に配置した方が良いのではないかと思い始める。日当たりとしては今ひとつ問題は残るが、落ち着き具合を考えると敷地の一番奥の方が良いのではないか。

study-model-17
2004-03-20
 study-model-17を再度マイナーチェンジにて作り直す。頭の中では平面構成をどうするか、ある程度細部まで考えながらつくったつもり。中庭の構成は微妙な違いで、まったく違う表情を見せるので注意を払って考える。
study-model
-18
2004-03-20
 第三回プレゼン案に最も近いモデル。ここまでのスタディを振り返って、同じ模型を何度も作り直しているようにも見えるが、考え方や最終的な出来栄え、施工方法等において少しずつ積み上げているのが分かる。
 ただ、この時点では、それまであった自信が揺らぎ始めているのも事実。途中までは結構な自信があったのだが・・・。もうすでに自分ではこれが良いのか悪いのかよく分からない状態。

study-model-19

  第三回プレゼンテーション

2004-03-27
 さて、第三回プレゼンテーション。午後にクライアントの事務所にお伺いする。
 先ずは、同乗したエレベーターでチラリと模型を眺め、「また菱形ですね」とクライアント。その一言ですごく緊張する。
 事務所に入り、落ち着いて前回提案以来考えたこと、感じたことをそのまま話す。
 やはり、内部空間だけでこの敷地を覆ってしまうのは良くないと考え直したこと(最初の提案でそうしたのはコチラだが・・・)。内部空間と外部空間が心地よく入り混じった四季を通じて心地よい空間をここに作り出したいこと。スタディ途中から念頭にあった「ルイス・カーンのRCの硬質な噛み応えをここに再現したいこと」等を話す。


 クライアントもいろいろと話し始め、最初僕に映ったクライアントの表情は困惑ともとれたが、話を聞いていると気に入ってくれていることが次第に分かってきた。

 細かいことは、図面を持ち帰りよく眺めてから返事をするとのことではあったが、基本的には気に入ってくれているとのこと。課題としては、「寝室等の小部屋の菱形が気になる」とのこと。全体の考えを歪めない範囲で検討して欲しいとのことだった。また、中庭を更に魅力的にしたいとのことで、中庭の一部を「水盤」としてはどうか、との提案を受ける。水面に反射する光がリビングや中庭に表情を与えそうで、コチラももちろん賛成した。

 クライアントの話の中で一番うれしかったのは打ち合せの途中でこの模型のことを「この子」と呼んでくれたこと。何ともうれしい瞬間だった。

study-model-20
1F 平面図
2F 平面図


菱形案断念!

2004-07-上旬
 第三回プレゼンの後も、何回かのプレゼンを行い、クライアントも気に入って頂き、実施設計へと進んだ菱形案は断念することになる、その経緯は実施設計終了後に建設会社へ見積もりを依頼するが、コスト面でズレがあった。 菱形案を実現するには部分的に仕様を落とすなどのコスト調整を行う必要がある、そういった作業を何度か行い最初の設定金額に近くはなるが、クライアントから「仕様などを落とすなどの妥協はしたくない、最初からやり直しませんか?」という返事を頂き、私たちはクライアントの熱意を感じ「賛成」した。

第二次設計開始

2004-08-下旬
第一次設計は[RC]だったが、第二次設計はコストを考慮し一次設計最初の案を元に「木造」で走り始めた。

基本的には外部に閉じた形の構成で建物中心部に「105角の木材を使った列柱の中庭」を配した。ここで安定した採光と通気を確保するつもり。この時点では、必要な広さとコストを考慮して木造で考えていた。こちらとしては「とにかく広く安定した内部空間を確保したい」。家族の事情を考えてこの形にした。

       study-model-01

第二次設計(第一回プレゼンテーション)

2004-09-下旬
上記の案をまとめ二次設計での第一回プレゼンテーションを行うことにした。
すぐにここまで進んだように見えるが、この間にも模型などを作成し事務所内での打合せを行い、短期間に集中して作った自信のあるプランである。

プランは中庭を挟み回遊性のある家族環境を考えたプランになっている。
リビングを1.5階に配置しほかの諸室との繋がりを仲介している、リビングを1.5階部分に配置することで、リビング下を広い床下収納として使用する。

クライアントは気にいってくれたが、詳しい要望は持ち帰り返事を頂くことになり、後日その返事を頂いた、クライアントの要望は初めからの要望であった「抜けのあるテラスと目線」ということだったので再度スタディーをすることになる。

1F 平面図
2F 平面図

再々スタディー

2004-10-上旬
クライアントからの要望をふまえスタディー。
「抜けのある空間」を構成するため、「リビング・ダイニング」など客人を招く「リビング棟」と「寝室・浴室」などの「プライベート棟」の2つの棟に分割しテラスを通し2つの棟が繋がりを持つ空間構成としてみた。

study-model-21
上記スタディーの発展型。
中庭の西側に目隠しの塀を設置してみる。

1/100のスケールの模型はここまでとし、中庭部分・建物内部スタディーのため1/50の模型作成に入る。

study-model-22


第二次設計(第ニ回プレゼンテーション)

2004-10-12
1/50のスケールの模型と図面を用意しプレゼンテーションを行う。
2棟分割は生活の動線を考えてプランを作図し、自信はあったものの、建物を2棟に分けることについて、クライアントからどう思われるか不安であったが、その心配もクライアントが模型を見た時点から無くなった。建物を2棟に分けることにより、回遊性は少し落ちてしまったが、「抜け」ということについては数段に良くなる。
クライアントはこのプランを気に入って頂き、収納関係の要望はあったものの実施設計へと進むことになる。
この模型写真では確認できないが、中庭部分にもレベル差を設け、中庭部分にも「テラス」以外の役割(テーブル・各部屋との距離感・意匠性など)をもたせ空間が間延びしないようしている。


         tudy-model-22
1F 平面図
2F 平面図


実施設計

2004-11-30
実施設計は今までのプランを建設会社が見積もり・施工できるような図面を作図する。
無事2004年中に実施設計は終了した。

見積もり提出・工事契約

2004-12-25
3社に見積もりを依頼。会社の実績・総額を含め、クライアントがお付き合いある1社に決定!多少の図面修正後、無事工事契約。

工事着工

2005-01-09
ようやく工事着工になるが、これからの工事を進めるにあたり、無事竣工するため、地鎮祭を行う。
2005-02-02
砕石漉き取り
2005-02-07
割栗地業
2005-02-09
砕石地業+防湿シート敷き
2005-02-10
基礎周りの鉄筋配筋
2005-02-14
図面どおり鉄筋が配筋されているかの
現場立会い配筋検査
2005-02-15
基礎のベースコンクリート打設
2005-02-17
高基礎部分の型枠建込
2005-02-22
高基礎部分のコンクリート打設
これから養生期間をとり型枠をバラス
2005-02-25
高基礎部分の型枠バラシ
2005-03-01
躯体建て方のため先行足場掛け
2005-03-03
無事上棟


上棟後の施工

2005-03-10
屋根部分の下地母屋掛け
2005-03-26
屋根下地合板張り
2005-03-31
中庭部分のガラス受け金物取り付け
2005-04-01
内部床下地合板張り
2005-04-02
屋根部分の防水シート施工
2005-04-09
内部軸組み施工
2005-04-14
天井・壁部分の断熱材 グラスウール敷込み
2005-04-23
アルミサッシ取り付け
2005-05-10
中庭部分の2F床梁隠しのため
ステンレス張り
2005-05-17
外壁ガルバリウム鋼板張り
2005-05-19
中庭部分外壁杉板張り
2005-05-26
リビング鉄骨階段ササラ取り付け
中庭木製建具取り付け
浴室防水工事
2005-06-08
中庭外壁杉板キシラデコール塗装
2005-06-10
内部プラスターボード張り
2005-06-13
足場解体


RC部分に撥水材塗布
2005-06-22
植栽植え込み



そして完成!!実際の建物はこちら