Urban Architecture Planning Partnership
       

















 好評連載 「もうすぐ生れる!」 模型の残骸で綴る思考の軌跡 TMH−町に露出する中庭」編
2010-08-29 現地調査
 クライアントと現地にて待ち合わせをし、敷地を見せていただく。
 
その後、「山神の住宅」を見学していただき、その場で計画案を作るための要望をお聞きした。
敷地
敷地は、仙台市営地下鉄駅から徒歩数分の、新しい住宅地の一角に位置しています。
敷地面積は54坪ほどと比較的狭く(しかもその一部は擁壁に取られています)、クライアント自身もその狭さをかなり気にしていましたが、利便性を優先して購入を決断したようです。
1/100 敷地模型
(敷地模型は、写真上側が南、下側が北)
ちょうど真ん中の平行四辺形の土地が今回の敷地です。

敷地北側は2mほどの高さの擁壁があり(擁壁もこちら側の敷地)、擁壁の下には、公共の緑地帯が備わっていました。北側の道路を挟んで向かいにも住宅が建っていますが、ほど良く距離が離れています。
敷地の形状は変形した平行四辺形で、その鋭角部分をどう使うかも、土地利用計画上の重要な要素となりそうでした。
1/100 敷地模型
敷地の東隣には竣工したばかりの住宅が建っており、敷地西側はこの時点では空地(数ヵ月後にはあっという間に住宅が完成していました)であり、南側道路を挟んで向かい側も空き地のままですが、1mほどの擁壁が立ち上がっており、普通に南側に窓を設けると、視線があたってしまうことが予想されました。
「第一種低層住居専用地域」
 建蔽率 50%
 容積率 80%
要望
 要望をすべて羅列すると……、
■家族構成は夫婦、小さいこどもふたり(3歳、0歳)。
■駐車場は2台分確保したい。(自家用+来客用)
■必要諸室は、LDK、水廻りと、寝室、こども室(将来ふたつに分割する)、
 夫用書斎スペース()、客間。
■素材について。コンクリート、木、石を中心に構成したい。鉄板は好きではない。
■光や風を活かした家にして欲しい。
■リビングを広く確保したい。ダイニングキッチンと一体で…。
■リビングの開口部をテラスに面して大きく取りたい。
■玄関には、玄関収納が欲しい。
■リビングの一部に畳スペースが欲しい。(フラワーアレンジメントの教室をしたい)
■オール電化

特に、(前にも少し触れましたが)敷地が狭すぎるのではないか、ということを気にしており、「広くなくても…、広く感じるような住宅がよい」とのことが、何度も話に出ました。
スタディ
2010-09-01〜
1/100敷地模型を元に、スタッフと打ち合わせをしました。
先ずは、「将来にわたって誰にも邪魔されないであろう」敷地北側の借景をメインに考えよう、という方針でスタートしました。
先ずは、建蔽率を反映したボリュームを幾つか置いてみました。「第一種低層住居専用地域」であり、建蔽率50%容積率80%と、建築制限の厳しい地域であるために、うまく計画しないと、ぼってりとした住宅になってしまいそうです。
study-model-01
隣もそうであるように、もっとも、オーソドックスな形です。シンプルな形ですが、内部空間が複雑に構成されていれば面白いのではないか、と考えました。
study-model-02
study-model-03
study-model-04
study-model-05
北側の借景に寄り添わせてテラスを確保し、建蔽率一杯に建築すると南側道路沿いに取るつもりの駐車場もままなりません……。
study-model-06
「東京カテドラル大聖堂」のような内部空間のプロポーションです。北側隣地の借景と、南側上空の空を素直に結ぶとこんな形になりました。
study-model-07
南側と北側を素直に『筒状の空間』でつないでやると、こんな感じでしょうか?内部空間は、スキップフロアになっており、北側の借景と、南側上空がつながるように、構成してあります。
study-model-08
これも、「北側の借景と、南側上空をつなげる」ことをテーマにしています。形が蛇行しているのは、敷地北端の形状が鋭角にとがっていることに引っ張られてしまっています。
ただ、この敷地面積と建蔽率の中にクライアントの要望を入れようとすると、どうしても敷地北側の形状を積極的に受け入れざるを得なさそうです……。
study-model-09
これも、「北側の借景と、南側上空をつなげる」路線です。階段状に空間が連なっています。
study-model-10
これもです。
南側の直射日光は少なめに抑えて、北側の安定した採光を、大きな開口で取り入れられないか、と考えていました。
階段状に配置された各室が、腰から上の部分には、窓が設けられており、その下の部分からは、全ての部屋が段々畑上に見下ろせる、という空間構成にしようと考えていました。
「それぞれの諸室が、それぞれにオーソドックスな自分だけの窓を持ち、しかし一方でワンルーム的な側面を持つ」という不思議な空間をイメージしていました。
study-model-11
これもそのシリーズです。
study-model-12
スキップフロアが、螺旋状に連なっている空間です。
study-model-13
最初の単純なボリュームのなかに、階段状のスキップフロアのプランを入れ込んでいます。南側は、道路向かいにそそり立つであろう住宅を想定し、トップライトで光だけを取り入れる形にしています。
要望である「テラスに面したリビング」は、敷地北端の三角形の部分に設けるしかありません…。
study-model-14
これも、同様のイメージで作ったものです。
「北側の借景と、南側上空をつなげる」ことを普通に捉えて、きちんと解決していこうとすると、どうしてもこういう形になります。きっとこれが、その課題に対しての一番オーソドックスな作り方であり、ある意味での「正解」なんだと思います。
……しかし、面白くないんですよねぇ……。
ある程度優秀な建築家であれば、誰でもこの答えに辿り着いてしまいそうな気がして……。
study-model-15
面白くないので、細長い空間を蛇行させています。リビングとついになるテラスは、リビングの横に配置する予定です。
study-model-16
同じく、面白くないので、先端を少し曲げてみています……、が、やはり何も面白いものは生まれてきません。

この敷地で、この条件だと「今回は大して良い案が出来ないんじゃないか」と、心の中で「諦めモード」が芽生え始め、何度目かの打合せも沈みがちになっていったのですが……、
study-model-17
変形した敷地の「変形した部分にギリギリの大きさ」で建物を作り、建蔽率の許す限りの大きさで中庭を取ったものです。

一見して、アバンギャルド過ぎてリアリティのないこの形が、最も合理的なのではないか、と、思いはじめました。
study-model-18
担当スタッフと一緒に上の模型を眺めながら、勝手な空想がスラスラと展開してゆきます。
(上の模型はそうなっていないですが)
北側の三角形はリビングの棟で、その三角形の一面(東側)にはキチンが造り付けられており、北向きの一面は北側の借景のための大きな開口部、そして残る一面はテラスに面している、という構成です。中庭を挟んでその向こうの棟にその他の諸室が配置されています。


頭の中で、あっという間に「抜群に筋のいい建築」が組みあがりました。
study-model-19
先ずは、両方の三角形共に平屋で構成してみました。
2つの三角形のあいだに設けた中庭は、ちょうど「都市のスキマ」のような場所を狙って、設けています。
study-model-20
全体を2階建てのボリュームに置き換えました。
北側の「リビング棟」は、中二階にして高い天井高さを確保してあり、そのまま、テラスを介して、「個室棟」の2階とフロアが連続してゆきます。
「個室棟」の1階部分には、水廻りと寝室、クローゼット、玄関、客間を詰め込んでいました。いま思うとプランニングにはかなり無理があり、「無理やり詰め込んでいる」感じが拭えません。

しかし、今までの案と比較すると、雲泥の差で良くなっています。「基本的にはこの路線しかない」と確信しました。
2010-09-11
study-model-21
プランニング上の問題点を克服するために、「個室棟」をいじっています。三角形の形状がプランニングし辛い元凶だと考え、出来るだけ方形を導入しようと考えました。
しかし、今度は駐車場の取り方に無理が出てきます。
それに、内部のプランも思ったほどに改善しませんでした。
しかし、とにかく上の案(study-model-20)で一度クライアントの意見を聞いてみようということになりました。
わたしたちにとっては最上の案でも、クラアントが同じように考えてくれるとは限りません。
「三角形2つの連なり」は、形としても刺激が強すぎて、受け入れてくれない可能性が高いのではないか、と思えました。

これ(study-model-20)が最上の案であるにしても、いきなりこれを押し付けるのはまずいのではないかと考え、もうひとつ、中間的な「駄目案」を作り、それを「てこ」に提案した方が良いと考えました。
study-model-22
これがその「駄目案」です。
基本構成は、「三角形案」と全く同じです。
棟の形状自体は直方体ですが、(必然的に)中心に設けた中庭は隣家の壁面にドンとぶつかってしまい、空間の広がりと良好なプライバシーが確保できなくなってしまいます。
これを元に、一見理不尽に見える「三角形案」が以下に理に適っているかを説明しようと考えました。
2010-09-19 第1回打合せ
上の資料をもって、クライアントに打合せをお願いしました。

結局、懸念したことは杞憂に終わり、わたしたちが上の手順にしたがって慎重に説明しようとした途中で「この三角形の案が良い」ということになりました。初見では、「この案は無いな」と思ったそうですが、少しするとすぐに、この案の(隠れた)秀逸さに気づいてくれたようでした。

この模型写真を再掲します。
study-model-20
とは言え、内部のプランにはまだまだ課題が多く、とても「納まっている」という代物ではありません。
基本路線はここに定めて、再度検討を行うことになりました。
その後のスタディ
2010-10-09  その後のスタディと、第2回打合せ
study-model-23
study-model-24
平面的なプランの検討をひたすらに繰り返し、その結果を2つの模型にまとめて、再度打合せをお願いしました。

今思い返せば、結果として、まだ良い案には辿り着いていません。
…建蔽率はギリギリで調整を繰り返していました。
2010-10-09〜  その後のスタディ

study-model-25
いろいろと試行錯誤を繰り返しましたが、結局、決め手になったのは「玄関の取り方」でした。

上の案までは、敷地南側に確保した駐車場に面する形で、玄関を設けていました。敷地を最大限に有効利用するために、「個室棟」の三角形は、端から端までギリギリの大きさで設けられていました。

ふとした思い付きから、中庭デッキ下の空間に、玄関や、玄関収納、風呂トイレなどの水廻りを集約した方が、プランが綺麗に片付く、ということに気付きました。
そうすることによって、「個室棟」は1階、2階ともにフリースペースとして広く使うことが出来ます。三角形の平面形状は、細かく区切らずに使えば、「使い辛い感じ」は払拭できそうです。そうして「個室棟」は上下階共に、家族の成長と変化に伴ってプランを自由に変更できる形を提案しようということになりました。
study-model-26
前面道路から、「中庭下部の玄関」に導くために「個室棟」の三角形を変化させ、人に道を開けるように形をズラシました。
その上で建蔽率ギリギリまで確保するために、三角形の一辺を道路境界線に平行に設定し……、

これによって、「カタチの純度」も確保できたと思います。
今までは、何が合理的かよく分かっておらず「個室棟」を直角三角形でした方が「安全」なのでは、と消極的に考えているだけでした……。いま思うと、です。

このころには、何をどう受け止めてくれそうか、こちらとしても確信を持てるようになってきていましたので、自信を持って提案することにしました。
study-model-27
もちろん細かい修正は多くありますが、基本的に、大切な事項は全て手に入れたという確信がありました。
2010-10-17〜 1/50模型でのスタディ…その1
1/50模型でのスタディ…その2