Urban Architecture Planning Partnership
           
















連載企画 「環境配慮型住宅 試考」A
仮)『副都心の旗竿住戸』
もうすぐ生まれる!』
 私たちの事務所での「環境共生住宅」についての取組みは、『大きな地形を背負う環境配慮住宅』から始まったが、この住宅プロジェクトは、環境工学の研究者との協働プロジェクトとしての手応えを引き継ぐ形で始まりました。
 クライアントは、(結婚前から)我々のオープンハウスに参加してくれており、『大きな地形を背負う環境配慮住宅』のオープンハウスに際に土地取得の相談を受け、設計が始まったと記憶しています。

 敷地・クライアントのこと、など
 敷地は仙台市都心部から見て南に開発されている「副都心エリア」に位置し、周囲は近年になり大型マンションやショッピングセンターの建設が活発に行われています。
 計画地は、メインの通りから少しだけ入った、静かな街並みの中の「旗竿敷地」で、周囲は住宅に囲まれています。 南に接する隣地は空き地となっているが、利便性が良い立地上、周囲でも戸建て住宅や賃貸アパートの建設が活発に行われており将来的に住宅や賃貸アパートが建つ可能性が高かいと思われます。

 クライアントは夫婦2人、小さな子ども2人の4人家族です。このような敷地条件であるためもあり、当初からプライバシーに配慮しつつも光を取込んだ空間にしたいという要望がありました。


 ↓ 敷地模型を見てください。写真の左下側が南です。
 『東側に「竿部分」を持つ旗竿敷地』であり、西側隣地は、現状では、計画地に接して多少の庭が確保されていまするが、将来的な建て替えの可能性も想定される状況です。
 敷地南側隣地は、現状では空き地となっていますが、アパート等の計画も想定される敷地です。
1/100敷地模型
 このような敷地条件とクライアントの希望から、「環境共生住宅(エコ住宅)」として計画してはどうかと、クライアントに相談し、「可能であれば、そういうことを前提とした提案としてほしい」、との返事を貰いました。
 早速、東北大学の小林光先生東北大学大学院工学研究科 都市建築学専攻サステナブル環境構成学分野 准教授)に相談し、前回に引き続き、このプロジェクトでも共同プロジェクトとしての体制を引き継ぐことを前提に打ち合わせが始まりました。

 最終的に、我々の提案を受け入れていただきクライアントとの間で設計監理契約を取り交わすことになってからは、国立大学法人東北大学と弊社(都市建築設計集団/UAPP)との間でも「共同研究契約書」を取り交わして、設計進めることになりました。


 今回も、震災以降のバタバタの中で失われてしまった模型も多く、残っている模型の残骸の中から、思考の軌跡を拾い上げてゆきます。
 検討の始まり
 検討の当初から、「敷地周囲の条件(建蔽率容積率など)から想定される周辺状況から、長期にわたり良好な生活空間をどうつくるか」に最も時間を割きました。

 ↓ 下の初期案は、「漠然と周囲の建物が高く隔たる」というイメージから、「高さを稼いだ」単純な四角いボリューム(塔状の住宅)を想定していました。その屋根面にトップライトを設け、屋上利用もする、という案です。
 ↑ 2018-03-07
 
 ↓ 下の模型もそうですね。プランを覗いてみると、寝室と子室や水廻り、クローゼットなどを1階に配置し、リビングダイニングキッチンを2階に上げる計画としています。2階の階高を高くし、その上で屋上利用を想定しています。
↑ 2018-03-09

 ↓ 下の案も同様の考えでつくりました。
 確か、屋上の「塔屋部分」は、「屋上に上がる」という塔屋本来の機能に併せて、「採熱室」として利用することを想定していました。
 そういう意味では、前の『大きな地形を背負う環境配慮住宅』の考え方をそのまま踏襲しています。
↑ 2018-03-10

 ↓ 下の案は、2階「リビング上部東西に設けたハイサイドライト(高窓)」から、室内に光を取り込み、天井面に設けた反射板に反射させて、光を室内に取り込もうとしています。
 このころから急に、「光を天井に反射させ、良好な光を室内に取り込む」ことを考え始めています。
↑ 2018-03-14
 ↓ 覗いてみると、こんな感じです。
 どうしてこういう事を考え始めたのかは、残念ながら記憶にありません…。
↑ 2018-03-14 覗き込み
 ↓ この模型では、「採熱室兼階段室」とラクガキした奥に、前の模型と同様の「採光装置」を設けています。
↑ 2018-03-16@
 ↓ 下の案で、また大きくがらりと考え方が変わっています。
 計画を大きく変更し「平屋案」をつくりました。理由はよく覚えていませんが、「東西の光を生活の中に大きく取り入れようとすると、二階建てとするよりも、平屋とした方が有利だろう」と言うことだと思います。
 何故か、何となく「えんぴつ削り器」や「かつお節削り器」が頭に思い浮かんでいたように思います。
↑ 2018-03-16A
 ↓ 覗くとこんな感じです。「午前中の光」が降り注ぐ下には「午前中を中心に使う機能…例えば、奥さんのためのキッチンであるとか、洗濯室であるとか」を配置し、
 「午後の光」が降り注ぐ下には「午後を中心に使う機能…例えば、子どもの勉強コーナーであるとか」を配置するというイメージで、クライアントと打ち合わせをした記憶があります。(何度かの打合せの中で、クライアントの奥さんは朝早くから家事をこなすという事をお聞きしていました。)

 「光の質」によって、「空間の自然なゾーニング分けをする」ようなイメージです。結果的にこの案は不採用になりましたが、いつか実現したい計画案です。屋上階にはテラスもとれており、非常に面白い在案だと思います。


 平屋案については、奥さんにはすぐに気に入っていただきました。2階建て案の際に「家事動線が上下に分かれてしまうこと」はずっと気になっていたようです。。
↑ 2018-03-16A 覗き込み
 ↓ 前の案を更に推し進めた案です。
 これまでは、「採光窓」を建物の東西壁面に設けていましたが、これでは、東西の隣家の日陰の影響を大きく受けてしまいます。そこで、「採光窓」を建物の中心に設けることを考えました。こうすることにより、「より安定した光」を享受できます。
↑ 2018-03-19
 ↓ 覗き込むと…。
 これはこれですごく面白い案ですよね。
↑ 2018-03-19 覗き込み
 このあたりで、1/100模型での検討は終了しています。
 この後、1/50模型での検討が始まっていますし、形に大きな変化があります。ただ単にその間の模型が消滅してしまっているだけかもしれないのですが、「覗き込んでの内部空間の検討・評価」のために、模型のスケールを上げざるを得なかったのかも知れません。
 1/50模型での検討
 ↓ この模型から、形はいきなり、「切妻屋根」に変わっています。
 「このひとつ前の模型」から「切妻案」に変わった理由を上げると、多分、以下のような感じです。

 @採光窓のつくり方として「天窓」を採用したほうが安価に納まることが分かったこと。
  (「ベルックス」という天窓メーカーに相談し始めています)
 A「ひとつ前の模型」の採光窓のとり方よりも、建物の外皮面積(表面積)を減らすことが出来、
  より、環境共生住宅・エコ住宅としての性能の向上が見込めること。
 B防水上、「屋根面にプールをつくる」より切妻屋根とする方が納まり易い。

↑ 2018-03-21
 ↓ 覗いてみると、この模型でも、「午前の光」と「午後の光」に対応した平面計画を志向しています。ただ、このような「採光窓」だと、これまでとは反対側にそれぞれのゾーニングをすることになります。
(朝の光は、建物西側(写真左側)に落ち、夕方の光は、建物東側(写真右側)に落ち、それぞれに対応した空間をつくる、ということですね。)
↑ 2018-03-21 覗き込み
 記憶はまったく曖昧で、資料等の日付を辿ると、別の事実がよみがえってきます。
 資料を辿ると、この模型の時点で、小林研究室に相談し、「光の解析」をおこなってもらっていました。
 下の図は「2018年4月19日」の日付になっています。
 ↑ 「時間ごとにどう光が入るか」について解析してもらっています。

 この表の、「左下の図」を拡大してみますと…
 ↑ この解析を見て想像するに、『取り入れた光を「午前の光」と「午後の光」に分け、それぞれに魅力的な場所をつくる』というアイデアには、まだこだわっているようです。
 また、この「解析図」とは別に、この結果に対するコメントも別にもらっていました。

 ↓ 下の図は「2018年4月26日」付けで解析してもらった資料です。
 …あまり記憶にありません…。

 模型と資料の日付を追ってゆくと、このあたりで「大きく方向転換」した形跡が見られます。
 ↓ 下の模型から、ぐっと、「最終案」に近づきます。

 屋根の頂部から「太陽光(直射光)」を取り込み、室内に導き入れています。また、「光を魅力的に室内に取り入れる」ために、屋根の頂部を捩じっています。
↑ 2018-04-下旬?
 ↓ まだ、採光窓の下に反射板はありませんね。
↑ 2018-04-下旬? 覗き込み
↓ この模型もそうですね。
↑ 2018-04-下旬頃?
 ↓ ただ、覗いてみると、この模型でもまだ、取り入れた光をそのまま室内に取り込んでいます。
 こうして直射光を取り入れてしまうと、「取り入れた光」は、物質に当たった時点で、その光の一部が「熱エネルギー」に変換されてしまいます(残りの光は光のまま反射します)。

 このままだと、床面に当たった光の一部が「熱エネルギー」に変換され、床面に熱エネルギーが発生し、夏季にはかなり室内空間がかなり暑くになってしまうことが予想されます。

↑ 2018-04-下旬頃? 覗き込み
 「では、光を取り入れながら、快適な温熱環境をつくるのには、どうすれば良いか?」について、環境工学の小林研究室チームと共同研究のなかで、計画を調整してゆくことになります。
 (多分)ここまでの段階では、口頭での相談や打合せという形で話を進めていますが、こののち、ぐっと実際的な検討に加わっていただくことになります。このあとの検討は、(これまでの私たちの検討作業のような)模型だけでなく様々な手法を用いて、検討を行うことになります。私たちも「初めて経験すること」も多く、手探りの中で検討作業を吸据えてゆきます。
以上、2019-08-04 筆
 次第に、「こう言ったことは、温熱環境的に、実現可能か」ということを、リアルに検証してゆくフェイズに移行してゆきます。

 ↓ 下の図は、小林先生に作成してもらった「太陽位置から『取得エネルギー・取得光量』を算出するためのエクセル表」(2018-07-16作成)です。これを用いて、「夏至時点では、1m角の天窓に、これくらいの熱量が室内に入ってしまう」ということを算出しています。
 このときの「20180729小林先生との打合せメモ」から、重要な項目を抜き出しますと…、
■エクセルデータについて
 ・上記エクセルデータはある時期(夏至、春秋分、冬至など)の熱量を計算するもの。
 ・窓の反射率は考えていない。
 ・勾配30度の東向きの屋根に1m×1mのトップライトがあると仮定した場合の夏至の(1時間当たりの)
  日射熱取得料は、400W/u。光は4500lx。
 ・冬至は(1時間当たり)200W/u。意外と熱取得は少ない。直射光が屋根の尾根で比較的すぐ切られ
  てしまう。天空光は入るが天空光では熱取得は殆ど無い。
   →本当に熱を取りたいと時に入らない。
 ・春秋分は350W/u。(1時間当たり)
 ※以上、一日の内のピーク時の取得熱量


■「屋根裏蓄熱スペースを設ける案」について
 ・前回の案と比べて、トップライトから取得した熱が室内環境から隔離されているので、熱のコント
  ロールが考え易くなる。 
→@
 ・シリカエアロゲルという透明な断熱材がある。それを使えば、断熱しながら光だけ取り入れることが
  可能だと思う。市場には出回っていないかもしれない。値段も不明。断熱性能は一般的なスタイロ
  フォームなどの断熱材に比べて高い。
   →@透明な断熱材について調べる。
 ・「屋根裏蓄熱スペース」の天井を半透明素材で設けても、直射光が当たるので全体的に均等に光らず、
  直射光が当たる個所のみ極端に光る。
 ・直接天井に光が当たらず、拡散光による光天井とするために、反射板などを間に設けるのも良さそう。
  →反射板に光を当て、そこで赤外線を熱熱に変え、以外の光だけ反射させて室内に落とす。 →A
 ・夏季に「小屋裏が暑くなり過ぎることによる輻射熱」は断熱性能を高くすることで対処する。

 「@」の記述を見て、慌てて、過去のスケッチをひっくり返しましたが、この時点では、「屋根面に『採熱室』を設ける」案を前提に相談していました(下スケッチ)。
 「夏に『取得してしまう熱』が暑すぎないか」が気になっていました。そこで、「採熱室」を断熱しながら、光だけ取り入れることを考えています。採熱室と居室の間には「シリカエアロゲル(という透明な断熱材)」といった新素材を検討に加えています。
 結局、この「シリカエアロゲル」は、高性能ながら、実際に販売される段階までには至っておらず、利用は断念しました。
 「A」の記述を見ると、「最終案」についてのアイデア(の萌芽)が出て来ています。
 まだまだ「20180729小林先生との打合せメモ」の内容から拾い上げると…、
夏季の熱の考え方について
 ・「通常の直天井のつくりの住宅」でも、屋根が板金であれば、屋根面は70度くらいの高温になるが、
  室内では普通に生活している。「多少天井が暑いなぁ」と感じるが、その程度の範囲である。
  現案は、基本的にその考え方と同じだと言える。
  →今回は屋根断熱をした上で、天井面に透明な断熱材を入れることになる。この採熱スペースの熱
   気がうまく抜ければより問題は発生しないと言える。
 ・夏季の排熱はトップライトからの自然排気でかなり確保できる筈。
  →Aこれについてはメーカー資料等を整理し性能を明確化すれば良い。

冬季の熱の考え方について
 ・現在のトップライトの付け方では取得できる熱量は大したことはないことが分かった。
 ・ただ、逆に言えば、(晴天時に)ここで取得できる熱量が分かっているので、それで賄えるほどに
  断熱材を入れてやれば、それだけで冬季の暖房は成立すると言える。
  (一番上の屋根面とその下の屋根面に断熱材を入れるので、冬場の断熱性も増す)
  →Bこれについては、取得熱量に見合う断熱性能が計算・推定可能なので、並行してその作業を行う。

 また、これまでの検討では、かなり悩みながら進んできたのですが、「トップライトをどうつくるかの考え方について」として、以下のように考えをまとめています。
トップライトをどうつくるかの考え方について
 ・熱の取得については窓(トップライト)の方位が重要である。
  →「南向き30度」にすれば冬も熱を取れる。夏はさらに熱くなるが。
 ・現在のように、南北方向に窓を設けると、一日の中で光の表情に一番変化ができることは確かである。
  →「光の表情を室内のデザインに取り込む」ことをコンセプトにする、と整理すると、現案の南北方
   向の窓が良いと言える。
 ・では、切妻屋根の東西のどちら面にトップライトをつけるべきか。
  →夏の熱気対策を考えると、東の方が西より良い。と言えるかもしれない
  →外気温が上がり始めるときにトップライトに直射光が入らなくなり、熱気対策的に有利だと言える。
  →冬季は、取り込んだ熱を利用するので、いつ熱取得したかは、関係ない
   計算上「1日の内でどれだけ熱を取得したか」だけが、問題となる。

  結論としては、「切妻屋根の東面にトップライトをつける方が良い」と整理できる。

 …ということで、大きな方針は、「数字を前提とした論理的な整理と積み上げ」で決まっていきました。

 ノートから幾つかのスケッチを抜き出しますと…

 ↓ 以下の「2018-08-30スケッチ」では、まだまだ、「採熱部」らしきものを残したり、或は室内に反射させたりしています。

 ↓ 2018-09-01スケッチ
 
 どう反射板をつくり、室内に光を入れるか」を巡る思考です。

 ↓ 2018-10-12スケッチ
  

 ↓ 2018-09-01スケッチ
 その2 

 ↓ より最終案に近いスタディ模型になっています。
↑ 2018-04-下旬頃?
 ↓ 中を覗くとこんな感じです。
 採光窓のすぐ下に反射板を設けています。この反射板に「取り入れたすべての光」を一度反射させ、「光から熱を『漉し取って』しまってから、光だけを内部空間に取り入れよう」ということを考えています。

 しかし、「光から熱を『漉し取る』」ためには、反射板の色を黒っぽくしなければならず、そうなると、反射させて室内に取り入れる光の量もかなり少なくなってしまいます。逆に、室内に取り入れる光の量を増やそうと、反射板の反射率を上げると、光は光のまま反射してしまい、熱も室内に導き入れてしまう結果となります。

 さて、「その矛盾をどう解決するか」を東北大学環境工学チームの最新の知見を借りながら、取り組んでいのですが…。
↑ 2018-04-下旬頃? 覗き込み
 小林先生から「熱線吸収塗料」という素材の提案を貰いました。
 「熱線吸収塗料」のは、熱線吸収硝子と同様に、「当たった赤外線を熱に変える」という機能を持っています。それを反射板に塗れば、反射光から熱だけを「漉しとって」、「(赤外線を含まない/熱を多く含まない)光」を室内に取り入れることが出来ます。
 
 結局、「トップライトから取り入れた光と熱をどう処理するか」は、以下のような考えに至りました。

 採熱窓(トップライト)から光を取り入れるが、
 ・ガラスの性能により、71%ほどの熱がカットされる。
 ・採熱室から取入れた光は、ほぼすべて、「反射板」に当てる。
   (反射板の素材は、ストロボや照明器具の内部に使用しているものを使用)
 ・「反射板」には、「熱線吸収塗料」が塗布されており、「反射板」に当たった赤外線は熱に変換され、
  その他の光(熱を漉しとった光)は、光のまま反射し、室内に照度を与える。
 [冬季には…]「反射板で変換された熱」は、ダクトを経由して床下に送り込まれ、補助暖房となる。
 [夏季には…]「反射板で変換された熱」は、「開閉式トップライト(ひとつだけ設置)」を経由して、
   外に自然排熱される。(開閉式トップライトは降雨センサー付)

 これでほぼ、設計の骨格はまとまりました。

 内部空間に「どのようにクライアントの要望に乗せてゆくか」など微調整はまだまだ続いてゆきます…。
 ↓ 「屋根のねじり」についても、「左右どちらにねじるのが良いか」など、何度も検討しています。結果としては、東の光を受けやすいように、これとは「反対のねじり」になりました。
↑ 2018-03-30(1/100模型)
 ↓ 「1/50最終模型」です。
↑ 2018-03-??
↑ 2018-03-??
↑ 2018-03-??
1/30模型での検討
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