球根のうた



ここは、真っ暗な土の中
春だよ
春がきたよと
だんご虫が叫びながらごそごそと 
のぼっていった
土の上は明るい世界だという
ぼくも明るい世界をみてみたい

一匹のだんご虫がもどってきていった
「きみはなぜ芽を出さないの?
もうあったかくなったのに
ほかのプランターにはムスカリが花を咲かせているよ」

ぼくだって芽を出したい
どうしてぼくは芽が出ないんだろう……
誰にも知られないまま
土の中で腐ってしまうのかな

ぼくはどうしてここにいるんだろう
どうして生まれてきたんだろう
生まれてこなければよかったのに
苦しいよう
苦しいよう
このまま消えてなくなってしまいたい……

どれくらいたったんだろう
気が遠くなるほどの長い時間、真っ暗な中にいたけれど
いま、目覚めたら、新しい世界がみえた
何て明るいのだろう
まぶしくてびっくりした

「まあ。やっと、芽を出したのね、待っていたのよ」
女の人が、やさしいまなざしをぼくに向けた
「土の中にぼくがいること知ってたの?」
「もちろんよ。だって、わたしが植えたんだもの」
「あなたが植えてくれたの?」
「そうよ。よかった、毎日水やりしたかいがあったわ」
「ぼくのために水をかけてくれてたの?」
「そうよ。遅く植えたから、芽が出るか心配で、掘り起こしてみたいのをがまんしていたの。 ちゃんと根が伸びていたのね」

「ぼく、知らなかった。根が伸びていたこと……。ありがとう」
「成長させてくださったのは、わたしじゃないわ、神さまよ。
春を造って下さったのも、あなたのことを造って下さったのも神さまよ」
「そうなんだ……。神さまありがとう!」



だいじょうぶだよ



肩に重い鉄板が乗っているように
体が重い
地球の重力が大きくなったのでしょうか

気管支が細くなってしまったように
息が苦しい
空気の濃度がうすくなったのでしょうか

2年前の乳癌手術あとの
傷が痛む
傷口が開いてしまったのでしょうか

神さま 
助けて下さい
わたしはどうなってしまうのですか
恐れと不安に押しつぶされそうです

わたしを快く思わない人に取り囲まれ
責められ 弱り果てています
あなたの握っている手を開いてごらん
だいじょうぶだから
と語る声が聞こえました

わたしは 無意識に両手を固く握りしめていました
何を握っているのでしょうか

かた結びになった紐をほどくように
指の一本一本をゆるめていきました

ぱっと両手を開いたとき
また、語りかける声がしました

だいじょうぶだよ
どんなことが起こっても
どんな状態になっても
わたしがあなたを支えるから

だいじょうぶだよ
つまずき倒れて
一歩も歩けなくなっなら
わたしがあなたを背負うから


Back