やせっぽちのロバ1



**今から2千年ほど前、イスラエルの国、ベツレヘムのある家畜小屋に馬と牛とロバがいました。
**馬のメムは足がはやく、牛のバオはたいそうの力持ちです。
**ロバのロムは小さくてのろまです。やせていて力もないので、重い荷物を乗せると、すぐにうずくまってしまいます。
**人などとても乗せられません。


**ある夜、3頭は干し草を食べながら話していました。
「ああ、腹へった。きょうは朝から日暮れまで畑で働いたからなあ」
**バオが干し草をほおばっていいました。
「わたしは、ご主人をのせてとなり町までいってきたのよ。半日でいって帰ってこれるのはお前だけだってほめられたわ」
**メムがとくいげにブルルッと鼻を鳴らしました。
**ロムは今日も1日何もすることもなく、ひとり家畜小屋で過ごしていました。
「あーあ、バオもメグも人間の役にたてていいなあ。ぼくもだれかの役にたちたいなあ……」
**ロムは、干し草を一口食べて横になりました。
「そんな少ししか食べないから力が出ないのよ。それじゃあいつまでたっても人の役になかんかたたないわよ」
**メムがお姉さんのようにいいました。


「食べるよ。うんと食べて力持ちになるんだ」
**ロムは起きあがると、むりやり干し草をほおばりました。
「ロム、無理して食べるな。今のままの方が気楽でいいじゃないか。人の役になんかたたない方がいい。つかれるだけだ」
**バオはさっき食べた草を口の中にもどして、もぐもぐやっています。


**明け方、ロムが干し草の上でねむっていると、ご主人さまがやってきて、ロムを起こしました。
「ほら、起きてこの荷物を運ぶんだ」
** ロムの背中に小さな荷物がくくりつけられました。ロムは、久しぶりに働けるのがうれ しくてしゃんと足をのばしました。
**ご主人さまに引っぱられてしばらく歩いていくと、背骨がぎしぎしと痛んできました。
**四本の足も棒のようになっています。ハアハアと息切れがして、とうとう前に進めなくなってしまいました。


**そのとき、ビシッとむちが鳴りました。おしりの皮がやぶけたと思われるほどひりひりします。
「これくらいでへたばってどうする。早く歩くんだ!」
**ご主人さまは、かんかんにおこっています。
**ロムは一生懸命歩こうとしました。でも、どうしても足が前に出ません。とうとう足をおりまげてうずくまってしまいました。
「この、役たたずめ! たいした荷物じゃないからお前でだいじょうぶだと思って連れ出したのに……。やっぱり、メムじゃないとだめだ。そうだ、ちょうど明日は市場の日だ。 たいして金にはならんだろうが、売ってしまおう」
**ご主人さまは、荷物を自分で背負うと、ロムをつれて、来た道をもどりました。
「まあいい。売れなかったら荒野にでもすてにいこう。こんな役立たずを家畜小屋に置いておく必要もないしな」
**ご主人さまは、ひとりごとをいって小屋にもどると、こんどはメムを連れ出していって しまいました。

**バオはもう畑に働きに出ています。ロムは、ひとり馬小屋でなみだを流しました。


**その夜のことです。馬小屋に人間の足音が近づいてきました。
**男の人が、おなかの大きい女の人をかばうようにして入ってきたのです。おじいさんのロバもいっしょです。


「よかったね、マリヤ。ここなら休める」
「ほんとうに、泊まるところがあってよかったわ」
**ふたりは干し草の上にこしをおろしました。
**メムが目をさましました。
「まあ、めいわくなこと。せっかくいい気持ちで寝ていたのに」
** バオもめいわくそうに、
「ここは、人間の泊まるところじゃないのにな」
と、低い声でつぶやきました。


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