やせっぽちのロバ2



**人間といっしょに入ってきたロバが、すまなそうに頭を下げて、
「ごめんなさいよ。町は人でいっぱいで、どの宿屋も満員だったんじゃ」
と、たいそうつかれたようすでいいました。
「ぼくは、かまわないよ。この干し草食べて、ゆっくり休んで下さい」
** ロムがいうと、おじいさんのロバは目を細めて喜びました。
「お前の名前は何というのかね?」
「ぼくの名前は、ロム。おじいさんは?」
「わしは、ギル。一日中人を乗せて歩いたんで背中がいたくてのう」
**ギルは草を食べる元気もなく、体を横たえました。
** そのときマリヤとよばれた女の人が、苦しそうにおなかをおさえていいました。
「もうすぐ生まれるわ」
**メムはおどろいてひひーんと鳴き声を上げました。
「何ですって! こんな所で人間が赤ん坊を産むなんて……」
「だいじょうぶかなあ。人間のお産って、ぼくたちより大変だって聞いたよ」
**ロムは心配でじっとマリヤを見守りました。


**やがて、マリヤは男の子を産みました。
「神さま、感謝します。この子をイエスと名づけます」
マリヤは、赤ん坊を布にくるんで、飼い葉桶に寝かせました。


「わしらの食べ物置き場をベッドにするなんて、けしからん」
**バオがモウモウ文句をいいました。
「そんなこといわんでくれ。この子は神さまの子どもなのだから」
**ギルが頭だけ起こしていいました。
「神さまの子どもだって!」
**三頭は声をそろえました。


「うそ、人間の赤ん坊とちっとも変わりないじゃない」
「神さまの子どもが、こんな所で生まれるものか」
**メムとバオは信じられないという顔で赤ん坊をながめました。
「どうして人間から神さまの子どもが生まれるの?」
**ロムがギルにたずねました。
「わしは天使の声を聞いたんじゃ。天使はマリヤに、お前は神の子を産むといっていた。そして、その子こそが救い主なんじゃ」
「信じられないわ。しょうこを見せてよ」
**メムが前足をとんとんふみならしました。
「しょうこといわれてもなあ……」
**ギルはこまってだまりこみました。
「まあいいわ。そういうことにしておきましょう。わたしには、関係ないわ。もう寝ましょう。大事なすいみん時間をとられちゃったわ」


**メムは目を閉じました。バオはとっくに寝息をたてています。
**ロムはなかなかねむれなくて、飼い葉桶の上の生まれたばかりの赤ん坊をながめていました。


**しばらくしてギルが起きあがると、ロムにふらふらと近づいてきてました。
「ロム、お前さんにたのみがあるんじゃ……」
「なあに? ギルじいさん」
「わしはここまでマリヤさんを乗せてくることができた。だがもう無理じゃ。これ以上人を乗せて歩くことはできん。これから先はお 前が、このイエスさまとマリヤさんを乗せて歩いてほしいんじゃ」
**ギルは、ロムの耳に鼻をよせてささやきました。


「えっ、ぼくが? ぼくは……だめだよ。ぼくはのろまなんだよ。メムの方がいいよ。メムは背が高くてとても足がはやいもの」
**ロムはおどろいて体をふるわせました。
「いや、マリヤさんと赤ちゃんイエスさまが乗るのには、メムは背が高すぎるんじゃ。それにあんまりはやく走ったら、目が回ってこ わいだろう」
「じゃあ、バオはどう? バオはとっても力持ちだよ。ぼくは、全然力がないんだ。今日だって小さな荷物を乗せられただけでへたば ってしまったんだ」
「いや、マリヤさんとイエスさまが乗るのには、バオは大きすぎるんじゃ。それに、力がありあまってふりおとしてしまうじゃろうよ。 おまえさんは小さくて、ゆっくり歩くから、ちょうどいいんだよ。たのむよ、ロム」
**ギルはふうっと息をはくと、また干し草の上に体を横たえました。


「できることなら、お乗せたしたいよ。でも……、でも……ぼくにはできない」
**ロムは首を横にふりましたが、ギルは目をとじてねむってしまいました。
(ああ……もしぼくが、イエスさまとマリヤさんをのせて歩けたらどんなにいいだろう……。神さまの子どものロバになれたら、どんなにすばらしいだろう……)


**外からやわらかい星の光がさしこんできて、飼い葉桶の上の赤ちゃんイエスを照らしました。
**イエスさまはすやすやとねむっていました。
そのかたわらにヨセフさんとマリヤさんがよりそって横になっています。
**ロムは、イエスさまに近づくと話しかけました。
「イエスさま。ぼくは、あなたとマリヤさんを乗せて歩きたいんです……。でも力がなくてだめなんです。明日は野にすてられてしま うかもしれないんです」


**すると、どこからか声が聞こえました。
「ロム。お前にふたりを乗せて歩けるだけの力をあげよう」
おどろいてあたりを見回しましたが、起き ているものはだれもいません。
**そのとき、ロムの細い体にむくむくと力がわきあがってくるのを感じました。

「神の子、イエスさま。ぼくはあなたのロバになります」
**ロムは、幼子の前にひざまずいて深く頭を下げました。
**それからロムは、イエスさまとマリヤさんを乗せて歩くようになりました。不思議に、 ふたりをのせてもちっともつかれないのです。
**ときどき背中が痛んでも、つらいとは思いませんでした。だって、神さまのみこイエス さまを乗せているのですもの。


************************* おわり





イエスさまをのせて



******ロム、ロム
******ぼくは、弱いロバだけど
******イエスさまを 乗せて 歩けるよ
******神さまが おおきな
******力を ぼくに くださったから
******神さまが おおきな 
******力を くださったから


神さまありがとう



******神さま イエスさまを くださって
******ありがとう ありがとう
******たとえ せなかが いたくても
******イエスさまを のせて どこまでも
******神さま イエスさまを くださって
******ありがとう ありがとう



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