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超ウラン元素
2004年2月21~22日 柴田昭彦 作成
2005年8月22日 110~118番元素についてのデータを更新
2007年2月20日 「周期表の覚え方」の記事を改訂
2008年5月29日 「周期表の覚え方」の記事を増補
2014年1月26日 超ウラン元素の一覧表を改訂
2015年12月30日・31日 超ウラン元素の一覧表を修正
2016年1月1日・4日 日本初の発見となった113番元素の記事を追加
2019年9月1日 113・115・117・118番元素の発見・命名記事、本文記事を修正
2023年1月13日・22日 118元素を紹介している文献を追加
1789年、ドイツの化学者クラプロート(Martin Heinrich Klaproth,1743-1817)は、ピッチブレンドから新しい金属元素を見つけた。1781年に発見された新惑星、天王星(Uranus)の名前から、ウラニウム(Uranium)と命名した。原子番号92にあたるこの元素が放射性元素であることが発見されたのは、1896年のことであった。原子番号が92よりも小さいものはほとんどすべて天然にも存在するが、92より大きいものは天然には存在していない。
原子番号43の元素は、天然に存在せず、1937年にサイクロトロンを用いた照射実験によって、生成の確認が行われ、1947年、ギリシャ語の「人工の」という意味のことばである technikos から、、テクネチウム(Technetium)と命名された。
ウラン(ウラニウム)は天然に比較的豊富に存在する元素のうちで、もっとも原子番号の大きい元素であり、93番以降の元素は天然にはごく微量しか存在しておらず、超ウラン元素と呼ばれている。
超ウラン元素は、ほとんどが加速器などの実験装置を利用して人工的に作られて発見されてきている。ひとむかし前の化学の教科書には、原子番号103までの元素だけが記載されている時期が長く続いた。
103よりも大きい原子番号の元素は、発見されたという報告が散見するものの、呼称すら二転三転する状態で、I UPAC(国際純正・応用化学連合)によって正式に呼称が決まったのは、1997年のことであった。
2019年9月現在、超ウラン元素は、以下の表のとおり、118番まで発見され、2016年11月には、I UPACによりすべて公式に命名されている。119番以降の元素については、今のところ、生成に成功したという報告は見られない。理論的には、元素は218番まであるという。
超ウラン元素の最新情報については、ウィキペディア(Wikipedia)の「超ウラン元素」の記事を参照されたい。
最近は、超ウラン元素の発見史もみかけるようになったが、いざ、調べようとすると、一覧のような形で手軽にわかるものが少ないので、筆者自身のための備忘録(メモ)として、ここにまとめておきたいと思う。
筆者は、103より原子番号の大きい元素の発見の歴史に興味があり、昔から資料を集めていたが、呼称があまりにも混乱していることに、本当にあきれてしまった。また、元素名のカタカナ表記は、一般的な表記法を無視しており、まずさが際だつ。しゃくし定規に立てられた原則に縛られて、日本語としての整合性を欠いている。
具体的に言うと、「ユウロピウム」「カリホルニウム」「アインスタイニウム」「ラザホージウム」は、「ユーロ」「カリフォルニア」「アインシュタイン」「ラザフォード」が一般的に用いられる慣習から考えて、常識的には「ユーロピウム」「カリフォルニウム」「ラザフォージウム」とするのが当然ではないだろうか。こういったものは、日本語としての定着度をものさしとして、不都合であれば、いったん決めた表記であっても、憚ることなく改めるべきだと思うのだが、いったん決まったものは変えにくいようだ。
ウィキペディアの中の項目「周期表」には、元素記号の覚え方が多数、族別に載っている。
誰が考えたものか知らないが、エッチな文が多いので、覚えやすいかもしれない。興味のある人はアクセスするとよい。
(グーグルなどで、「周期表の覚え方」と入れて検索すれば、大量の記憶用の文が見つかる。
また、単に、「水兵リーベ」と入れて検索するだけでも、たくさん発見できる。)
筆者がむかし覚えた方法は、次のようなものだった。一番、ポピュラーなものだろう。
「水兵リーベ(Liebe)僕の船、名前があるよ、シップス・クラーク、閣下はスコッチのバクロマン」
『チャート式新化学基礎、数研出版、2022年』では、次のものが載っている(51頁)。
「水兵リーベ(loveのドイツ語)僕の船 ななまがり(船の進路)シップス(ship’s)クラーク(船長の名)か」
『新ひとりで学べる化学Ⅰ』(清水書院、2005年)には、次のものが載っている(35頁)。
「水兵 リーベ ぼくのおふね 何とマグロがあるよ しっぽにさわると狂ってあれるよ」
『センター試験 化学Ⅰの点数が面白いほどとれる本』(中経出版、2005年)には、次の通り(16頁)。
「スイヘーリーベーボクノフネ ナナマガリ シップスクアークカ」 (注)「クアーク」は誤植で、「クラーク」であろう。
阿刀田高『ことば遊びの楽しみ』(岩波新書、新赤版1019、2006年)には、次の通り(177頁)。
「水兵 リーベ 僕の船、 なあに間がある、シップはすぐ来らあ、閣下はスコッチ、ヴァクロマン、
H He Li Be B C N O F Ne Na Mg Al Si P S Cl Ar K Ca Sc Ti V Cr Mn
鉄子(てつこ)にどうせ会えんが、ゲルマンあっせんブローカー・・・・・・」
Fn Co Ni Cu Zn Ga Ge As Se Br Kr
※阿刀田さんのこの本はユニークで面白いので、おすすめしておきたい。
超ウラン元素一覧
番号 | 元素名(日本語) | 元素名(英語) | 記号 | 発見年 | 発見者 命名の由来 |
93 | ネプツニウム | Neptunium | Np | 1940 | マクミラン、アーベルソン 海王星Neptune |
94 | プルトニウム | Plutonium | Pu | 1940 | シーボーグ、マクミラン、ケネディ、ウォールら 冥王星Pluto |
95 | アメリシウム | Americium | Am | 1945 | シーボーグ、ジェームス、モーガン、ギオルソら アメリカ大陸 |
96 | キュリウム | Curium | Cm | 1944 | シーボーグ、ジェームス、ギオルソら 人名[Curie夫妻] |
97 | バークリウム | Berkelium | Bk | 1949 | トンプソン、ギオルソ、シーボーグら 米地名[Berkeley] |
98 | カリホルニウム | Californium | Cf | 1960 | トンプソン、ストリート、ギオルソ、シーボーグら 米大学と州名 |
99 | アインスタイニウム | Einsteinium | Es | 1952 | ギオルソ、シーボーグ、トンプソンら16名 人名[Einstein] |
100 | フェルミウム | Fermium | Fm | 1952 | ギオルソ、シーボーグ、トンプソンら16名 人名[Fermi] |
101 | メンデレビウム | Mendelevium | Md | 1955 | ギオルソ、ハーベイ、ショパン、トンプソン、シーボーグ 人名メンデレーエフ |
102 | ノーベリウム | Nobelium | No | 1956 | ギオルソ、シーボーグら 人名[Nobel] |
103 | ローレンシウム | Lawrencium | Lr | 1961 | ギオルソ、シッケランド、ラーシュ、ラティマーら 人名[Lawrence] |
104 | ラザホージウム | Rutherfordium | Rf | 1969 | ギオルソら 人名[Rutherford] 1997年命名 |
105 | ドブニウム | Dubnium | Db | 1967 1968 1970 |
フレロフら(1967、1968、1967~70、1968~70) ギオルソら(1970) ロシアの地名[Dubna] 1997年命名 |
106 | シーボーギウム | Seaborgium | Sg | 1974 | ギオルソら 人名[Seaborg] 1997年命名 |
107 | ボーリウム | Bohrium | Bh | 1981 | アルムブルスター、ミュンツェンベルクら 人名[Bohr]1997年命名 |
108 | ハッシウム | Hassium | Hs | 1984 | アルムブルスター、ミュンツェンベルクら ドイツのHessen州のラテン語名[Hassia] 1997年命名 |
109 | マイトネリウム | Meitnerium | Mt | 1982 | アルムブルスター、ミュンツェンベルクら 人名[Meitner] 1997年命名 |
110 | ダームスタチウム | Darmstadtium | Ds | 1994 | ホフマン、アルムブルスターら ドイツの地名[Darmstadt] 2003年命名 |
111 | レントゲニウム | Roentogenium | Rg | 1994 | ホフマン、アルムブルスターら 人名[Roentgen] 2004年命名 |
112 | コペルニシウム | Copernicium | Cn | 1996 | ホフマン、アルムブルスターら 人名[Copernicus] 2010年命名 |
113 | ニホニウム | Nihonium | Nh | 2004 | ロシア・米国合同研究チーム(2004年2月発表)→未確定 日本の理化学研究所(森田浩介ら)(2004年7月23日合成)→生成に成功したと発表(2004年9月28日)。成功した可能性が大きいという。2005年4月2日にも合成。2012年8月12日に3個目を生成し、9月27日に発表(★日本が命名権を獲得した)。2006年6月、ロシアの原子核共同研究所は、別の方法によって、その生成を確かめたという(2009年にも検出)。2015年12月31日、IUPACから理化学研究所に対して、新元素として正式に認定するメール通知が届き、命名権を獲得した。2016年6月8日、IUPACは名称案としてNihoniumを発表し、2016年11月30日に正式決定した。 国名[Nihon(日本)] 2016年命名 |
114 | フレロビウム | Flerovium | Fl | 1998 | ロシアのオガネシアンら(ドブナ原子核共同研究所)によって発見された(1998年12月)という報告が1999年1月に行われた。2009年9月にアメリカ、2010年6月にドイツでも発見された。 人名[Flerov] 2012年命名 |
115 | モスコビウム | Moscovium | Mc | 2003 | ロシア(オガネシアンら)・米国合同研究チームが発見した(2003年8月)という報告(2004年2月2日)がなされた。この元素の生成は日本の科学者もまた報告している。2006年5月、ロシアの原子核共同研究所は、別の方法によって、その生成を確かめたという。 2013年8月、スウェーデンとドイツの研究者のチームが2003年の実験を再現した。2016年6月、IUPACは名称案としてMoscoviumを発表し、2016年11月に正式決定した。 地名[Moscow] 2016年命名 |
116 | リバモリウム | Livermorium | Lv | 2000 | 1999年の米学者の発見の報告は2002年に捏造と判明。 2000年12月に、ロシアのオガネシアンら(ドブナ原子核共同研究所)は、同位体の生成に成功し、2001年5月にも生成を報告している。(ロシアの研究所と、アメリカのローレンス・リバモア国立研究所が共同で合成したもの。) 2004年、ロシアの原子核共同研究所は、別の方法によって、その生成を確かめたという。 2006年10月、118番元素の生成後における、116番元素の生成が報告された。2010年までに約30原子を観測。 地名[Livermore] 2012年命名 |
117 | テネシン | Tennessine | Ts | 2009 | 2009年7月~2010年1月の7か月間の実験で、ロシアとアメリカの合同チームは、元素の生成を観測できたと発表した(2010年4月9日)。2012年と2014年に実験が再現された。2016年6月、IUPACは名称案としてTennessineを発表し、2016年11月に正式決定した。 州名[Tennessee] 2016年命名 |
118 | オガネソン | Oganesson | Og | 2002 | 1999年の米学者の発見の報告は2002年に捏造と判明。 2002年に、ロシアの核物理学者オガネシアン(ドブナ原子核共同研究所)が率いるアメリカ(ローレンス・リバモア研究所)との合同研究チームが元素の生成を観測し、2005年にも観測できたことを、2006年10月9日に報告した。116番元素と118番元素を同時に発見した。118番元素は3または4原子が生成した。2016年6月、IUPACは名称案としてOganessonを発表し、2016年11月に正式決定した。 人名[Oganessian] 2016年命名 |
119 | ウンウンエンニウム | Ununennium | Uue | 未発見 | 生成の報告なし。 |
120 | ウンビニリウム | Unbinilium | Ubn | 未発見 | 生成の報告なし。 |
★104~118番元素の発見については、Wikipediaと次の雑誌(新装版)を参考にした。
(参考) 『Newton別冊 完全図解 元素と周期表 新装版』(ニュートンプレス、2018年12月)
★118元素について詳しく紹介している本が出ているので、紹介しておこう(2023年1月13日、22日追記)。
(4)は添えられたイラストが楽しいが命名の由来で分類してあり、元素番号順にまとめられている(2)のほうがよくまとまっていて使いやすいと感じた。
最近は、118番元素まで命名されて、ますます、類書が多く発行されている感がある。
(1)『元素周期表パーフェクトガイド』(誠文堂新光社、2017年2月)
(2)江頭和宏『元素の名前辞典』(九州大学出版会、2017年8月)
(3)『14歳からのニュートン 超絵解本 元素の並びに秘められた法則 周期表』(ニュートンプレス、2022年7月)
(4)江頭和宏(著)、黒抹茶(絵)『元素に名前をつけるなら』(オーム社、2022年10月)
(5)キット・チャップマン(著)、渡辺正(訳)『元素創造 93~118番元素をつくった科学者たち』(白揚社、2021年8月)
(6)左巻健男『面白くて眠れなくなる元素』(PHP研究所、2016年7月)
(7)栗山恭直・東京エレクトロン(監修)、森山晋平(文)『世界でいちばん素敵な 元素の教室』(三才ブックス、2017年11月)
(8)三井和博(監修)『新版 元素ビジュアル図鑑』(洋泉社、2016年2月)・・・元素の鉱物・結晶の写真を掲載
(9)若林文高(監修)『図解 苦手を”おもしろい”に変える!大人になってからもう一度受けたい授業 元素の世界』(朝日新聞出版、2021年11月)
この本には、元素番号172番までの元素を並べた「拡張周期表」(2011年公表)が紹介されている(118~119頁)。
いままでの周期表には収まりきらない「121~138番元素」(8周期)が、88番ラドンと89番アクチニウムの間の下に新たに並び、横長に拡張されている。
139~140番、165~166番、167~168番が、左から右への順番を守らない、不規則な位置に並ぶことも、興味深い。
141~164番(8周期)は、89~112番の下に並ぶ。
165~166番(9周期)は、119~120番(87~88番の下)の下に並ぶ。
167~168番(9周期)は、139~140番(113~114番の下)の下に並ぶ。
169~172番(8周期)は、115~118番の下に並ぶ。
★113番元素の命名権は日本に与えられた。1908年に小川正孝が発見を報告したエカマンガン(当時、43番元素と考えた
が、小川の遺品のX線写真乾板の解読により、2003年に75番元素レニウムと判明した)に付けられた「ニッポニウム」という
元素名は、今では幻となってしまい、元素記号が93番元素のネプツニウム(Np)に既に使用(1940年発見)されているので、
過去に一旦、登録された元素名は採用できないというルールによって、除外された。その結果、命名権を持つ関係者により、
日本に由来する「ニホニウム(Nh)」の採用となった(日本初、アジア初の命名)。2016年11月に正式に決定された。
※正式に命名されていない新しい元素には、IUPACによる暫定名が、下の命名規則によって一時的に用いられる。
ただし、研究者の間ではほとんど用いられず、誰にでもわかりやすいように、元素番号の数字を用いるのが通例である。
0(nil ニル) 1(un ウン) 2(bi ビ) 3(tri トリ) 4(quad クアド)
5(pent ペント) 6(hex ヘキス) 7(sept セプト) 8(oct オクト) 9(enn エン)
最後に「ium」をつける。ただし、「i」が重なる場合には、「um」をつける。「n」が3つ重なる場合には、2つにする。
日本語名は、できた名称を日本語読みする。 元素記号はそれぞれの頭文字を一字ずつとってつける。