自由

夏が残した空がその熱を徐々に散らしていく秋口、
ふと思い立って海沿いを歩いた。

穏やかな光の中でただたゆたう波のように
僕らはいつでも平穏な時間が続くことを願うけれど、

どうしたって時はただ流れてゆき、目の前の波も同じ姿を二度取ることはない。

熱は時間とともに散ってゆき、
そこに残るのがただ寒々とした時間の残骸や悔恨だけなのだとしたら
人生も、夢も、悲しみも、愛も、全て色を失ってしまうだろう。

過ぎ去った時間を彩った全ての色が空に流れ、
逃げるように前へ前へとそれを追って歩くうちに、
ふと全ての記憶が黄金に変わるような一瞬が訪れる。
振り向けばその輝きが静かに、永遠に変わらず微笑んでいる。
その確信だけを胸に、長い道のりを進めてゆくのだろう。

心はいつも旅の途上にある。
それは魂の深奥に眠る、まほろばへと続く旅。
僕らは目を閉じれば、いつでもそこへゆける。

遼遠なる、自由のヴィジョン。

 

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