You Can Hear The Whistle Blow

「どうして僕はこんなところに」
かつてブルース・チャトウィンが呟いたその言葉を、いま反芻してみる。

前の街を出て2日、後部座席の青林檎と5ガロンの水だけが道連れ。
かつて世界の半分そのものであったこの大陸を彷徨う旅。

寂寞としか形容しようのない風景が延々と続く中で、しかし僕は静かに高揚する。
「果て」を望むようになったのはいつだったか。

居心地の悪さを噛み殺すことも、与えられた状況に甘んじることも拒否し続けるため、
その正しさを改めて魂に刻み付けるために、
いま永劫にも思える風景の中に溶け消えるように車を走らせている。
これはグレイト・エスケープか、それともグラン・デパールか。
いずれにせよ、啓示の汽笛を聞いてしまった者は、もといた場所に帰れはしないのだ


フロンティアの幻想にララバイを歌うように、この大陸に夜がカーテンを下ろし始める。
砂漠の嵐も治まった。
明日には国境に着くはずだ。

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