娯楽
独行道


宮本武蔵先生は、天正十二年年生まれの天下無双の兵法者です。
若干十三歳で新当流有馬喜兵衛を打ち倒し、その後も諸国遍歴して、
天下の兵法者と六十余度の兵法勝負をしましたが、すべてに打ち勝ってきました。
中でも岩流小次郎との仕合は特に有名です。
五十七歳のとき藩主細川忠利公の招きに応じ客分として千葉城に身を移しました。
忠利公の命により兵法三十五箇条を書きあげ、さらにその集大成とも言うべき兵法五巻の書を自費出版しました。
最近、八百屋町で火事があったとき、大きな猿が民家の屋根を走って渡っていたという目撃談が大きなニュースになりました。
実は大きな猿ではなくて宮本武蔵先生です。
今回は、宮本武蔵先生のお宅におじゃまし、普段は聞けないようなエピソードなど色々と伺ってきました。
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随分ときれいに片付いていますね。
武蔵 :
末々什物となる古き道具所持せず
ということは、何でも捨ててしまうのですか。
武蔵 :
身を捨て名利はすてず
噂では、随分とお金持ちと聞いています。名匠が焼いた茶碗とか名品をお持ちでは。
武蔵 :
老身に財宝所持ちゆる心なし
でも、さすがに太刀は名刀でしょう。
武蔵 :
兵具は格別よ(余)の道具たしなまず
若いころから、諸国を回られて、今は肥後に落ち着いています。
肥後はどうでしょうか。住みやすいですか?
武蔵 :
私宅において望む心なし
さて、いよいよ、ご専門の兵法についての質問です。
若い頃から修行されていますが、最も大事なことは何だと思いますか。
武蔵 :
常に兵法の道をはなれず
やはり、そうですか。兵法勝負のとき、宮本先生でも縁起をかつぐとか、
ご自身のジンクスなど持っていますか。
武蔵 :
我身にいたり物忌みする事なし
宮本先生は、以前、「振りかざす白刃の下は地獄なれど一足踏み込め後は極楽」と詠んでいました。
やはり、最初は怖いですか。
武蔵 :
道においひては死をいとわず思う
宮本先生くらいになると、そのような覚悟もあるということですか。
われわれ、凡人ではなかなか。どうすれば、そのような心境に到達できるのでしょうか。
武蔵 :
身ひとつに美食を好まず
な、なんですか?何かのたとえでしょうか。あ、禅問答ですか。
禅といえば、霊岩洞では座禅を組まれていたとか。やはり、禅は好きですか。
武蔵 :
物事にすき好む事なし
しかし、命を懸けているとはいえ、先ほどから聞いていると、ずいぶんと厳しく自制していますね。
なかなか、簡単にはできないでしょうね。
武蔵 :
一生の間よくしん思わず
へぇ〜、そんなもんですか。確かに、欲があれば、なかなか到達できないでしょうね。
でも、兵法の道を歩んだことに後悔していないですか。
武蔵 :
自他共にうらみかこつ心なし
さて、若い頃のエピソードなどお聞かせください。
兵法一筋で人生を過ごされたようですが、兵法以外で何か楽しかった思い出とかありますか?
武蔵 :
身に楽しみをたくまず
ええ、それは、さっき聞きました。
ファッションとかはどうでしょう。
お若いころは、ずいぶんと髪の毛を伸ばしていたと聞きましたが、でも、今は、失礼ですが・・・。
武蔵 :
何れの道にも別をかなしまず
・・・
さすがに禿ネタだけにすべりますね。
武蔵 :
・・・
武蔵 :
我事において後悔をせず
では、気を取り直して・・・。
最近の若者をどのように感じていますか。
武蔵 :
恋慕の道、思いよる心なし
いえいえ、別に若い女性を見た感じではなくて。
ははぁん。確かに、戦国の世と違って、天下泰平の世になってからは、若者はおしゃれになりました。
城下でも若い男女が寄り添って歩く姿をよく見かけますね。
武蔵 :
善悪に他をねたむ心なし
繰り返しになりますが、最近の若者文化をどのように感じていますか。
武蔵 :
よろずに依枯の心なし
老若男女、全て同じだ、と。
武蔵 :
身をあさく思ひ世をふかく思ふ
よく分かりませんが・・・。
でも、宮本先生が言えば、なんだか含蓄あります。
森羅万象、神仏、全て師だ、と。
武蔵 :
仏神は尊し仏神をたのまず
はいはい、分かりました。
では最後に、城下では若いお弟子さんが多いですが、
今の若者にメッセージのようなものがあればお願いします。
武蔵 :
世々の道をそむく事なし
本日は、お忙しいところ、ありがとうございました。
(編集者注)
宮本武蔵先生がお話しされた言葉は、後に、「独行道」としてまとめられました。

