生きている提供者の保護のための法改正試案
および研究対象者保護法試案(200309.ぬで島次郎他)

2003.10.30. by てるてる

2003.11.18. by てるてる

科学技術文明研究所ぬで島次郎さんが、生体臓器移植の提供者を保護する規定を臓器移植法に追加する改正案「生きている提供者の保護のための法改正試案」(CLSS【提言】No.1, 2003年9月30日)を提案しています。試案では、現行の臓器移植法の第10条の後に、生体臓器移植についての規定を追加しています。

取り寄せなどの問合せ先は、科学技術文明研究所です。

科学技術文明研究所
215-0004 川崎市麻生区万福寺1-1-1 新百合ヶ丘シティビル3階
電話: 044-969-3030

「生きている提供者の保護のための臓器移植法改正・試案」の提言部分
http://www.clss.co.jp/policy/index.html

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ぬで島次郎さんはまた、弁護士の光石忠敬さん、コントローラー委員会の栗原千絵子さんとともに、人についての研究で、対象とされる人の身体・人権を守ることを目的とする試案「研究対象者保護法要綱試案 生命倫理法制上最も優先されるべき基礎法として」(「臨床評価」vol30no2.3 2003, p.369-95)も提案しています。

「研究対象者保護法要綱試案」は、研究利用を目的として人から臓器・組織を採取する場合の、提供者保護の規定を含み、移植目的の臓器・組織の提供者保護について規定した改正試案と相補的な関係にあると言えます。

特にその「4-3 (死体等についての研究)」は、脳死・心臓死後に移植のために臓器を提供したが、医学的に適合しなかった場合に、研究目的に提供してもいい、と思う人にとって、意思表示の機会を提供することになるでしょう。あるいは初めから移植目的でなく研究目的で提供したいという人にとっても、意思表示の機会を提供すると思います。

「研究対象者保護法要綱試案」の問い合わせ先
03-kinmokusei@mbm.nifty.com

両案の基本となる、提供者保護、研究対象者保護の理念は共通するものです。
両案は、最相葉月さんの掲示板でも、紹介されています。
http://homepage2.nifty.com/jyuseiran/sunbbs3/

研究対象者保護法要綱試案の策定の経緯および今後のとりくみについては、「研究対象者保護法試案 生命倫理をめぐる議論の焦点を結ぶ」(「法学セミナー」No.585, 2003/9)で述べられています。ぬで島次郎・光石忠敬・栗原千絵子の3氏は、「02金木犀」と命名されたメーリングリストで試案を作成しました。作成の過程では、ぬで島次郎さん所属の科学技術文明研究所と栗原千絵子さん運営の「くすりネット・くすり勉強会」の共催で、シンポジウム「被験者保護のための立法を考える -- 人対象研究規制の現況と将来」も開かれました。

以上、三つの文献の抜粋を、ここに御紹介します。また参照として、臓器移植法と死体解剖保存法の一部も載せておきます。


「生きている提供者の保護のための臓器移植法改正・要綱試案」
(CLSS【提言】No.1, 2003年9月30日)
ぬで島次郎編集、科学技術文明研究所発行

一 臓器の移植に関する法律(平成9年7月16日法律第104号)第10条のあとに、次のような第10条の2を設ける。

(生きている者からの臓器の摘出)
第10条の2

生きている者からの臓器の摘出は、その者の生命または健康に深刻な危険をもたらす恐れがある場合は、行ってはならない。

2 国が認定した医療機関において、医師は、生きている者が臓器を移植のために提供する意思を書面により表示している場合に限り、この法律に基づき、移植術に使用されるための臓器を、その者(以下「提供者」という)から摘出できる。提供者は、移植を受ける者と●親等内の血縁者[か、または●年以上結婚生活を共にした配偶者]でなければならない。

3 前項の摘出は、以下のものに対しては行ってはならない。
一 未成年者
二 同意能力のない成人
[三 受刑中の者]
[四 非任意での施設入所者]

4 移植実施医療機関は、提供者に対して、臓器の提供の前および後、および日常生活への復帰後に、必要な医療上のケアが継続して行われることを保証しなければならない。

5 提供者に予想される危険、移植を受ける者に予想される危険と治療上の益、および提供者として医学的・心理的・社会的に適当であるかどうかの評価は、移植術にあたる医療従事者とは別の独立した、多分野の者で適切に構成された審査組織によって行われなければならない。

二 同法第6条の頭書きを、「(死亡した者からの臓器の摘出)」に改める。
同じく第6条第1項冒頭に、「国が認定した医療機関において、」と加える。

三 同法第1条「移植術に使用されるための臓器を死体から摘出すること」を、「移植術に使用されるための臓器を摘出すること」に改める。

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省令ないし指針事項

一 提供者および移植を受ける者に予想される危険の内容と評価の基準(再移植が認められる条件を含む)
二 提供候補者に説明しなければならない事項(再移植の可能性と伴う危険を含む)
三 生きている人から臓器の摘出と移植を行える施設の認定基準と設定方法
四 提供者に保証される医療上のケアの内容と提供者のフォローの方法(登録制度など)
五 審査組織の地位、構成


*参照

臓器の移植に関する法律
平成9年7月16日 法律第104号

(目的)
第一条
この法律は、臓器の移植についての基本的理念を定めるとともに、臓器の機能に障害がある者に対し臓器の機能の回復又は付与を目的として行なわれる臓器の移植術(以下単に「移植術」という。)に使用されるための臓器を死体から摘出すること、臓器売買等を禁止すること等につき必要な事項を規定することにより、移植医療の適正な実施に資することを目的とする。
(臓器の摘出)
第六条
医師は、死亡した者が生存中に臓器を移植術に使用されるために提供する意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けた遺族が当該臓器の摘出を拒まないとき又は遺族がないときは、この法律に基づき、移植術に使用されるための臓器を、死体(脳死した者の身体を含む。以下同じ。)から摘出することができる。


前項に規定する「脳死した者の身体」とは、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。


臓器の摘出に係る前項の判定は、当該者が第一項に規定する意思の表示に併せて前項による判定に従う意思を書面により表示している場合であって、その旨の告知を受けたその者の家族が当該判定を拒まないとき又は家族がないときに限り、行うことができる。


臓器の摘出に係る第二項の判定は、これを的確に行うために必要な知識及び経験を有する二人以上の医師(当該判定がなされた場合に当該脳死した者の身体から臓器を摘出し、又は当該臓器を使用した移植術を行うこととなる医師を除く。)の一般に認められている医学的知見に基づき厚生省令で定めるところにより行う判断の一致によって、行なわれるものとする。


前項の規定により第二項の判定を行った医師は、厚生省令で定めるところにより、直ちに、当該判定が的確に行なわれたことを証する書面を作成しなければならない。


臓器の摘出に係る第二項の判定に基づいて脳死した者の身体から臓器を摘出しようとする医師は、あらかじめ、当該脳死した者の身体に係る前項の書面の交付を受けなければならない。

(臓器の摘出の制限)
第七条
医師は、前条の規定により死体から臓器を摘出しようとする場合において、当該死体について刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第229条第一項の検視その他の犯罪捜査に関する手続きが行なわれるときは、当該手続きが終了した後でなければ、当該死体から臓器を摘出してはならない。
(礼意の保持)
第八条
第六条の規定により死体から臓器を摘出するに当たっては、礼意を失わないよう特に注意しなければならない。
(使用されなかった部分の臓器の処理)
第九条
病院又は診療所の管理者は、第六条の規定により死体から摘出された臓器であって、移植術に使用されなかった部分の臓器を、厚生省令で定めるところにより処理しなければならない。
(記録の作成、保存及び閲覧)
第十条

医師は、第六条第二項の判定、同条の規定による臓器の摘出又は当該臓器を使用した移植術(以下この項において「判定等」という。)を行った場合には、厚生省令で定めるところにより、判定等に関する記録を作成しなければならない。


前項の記録は、病院又は診療所に勤務する医師が作成した場合にあっては当該病院又は診療所の管理者が、病院又は診療所に勤務する医師以外の医師が作成した場合にあっては当該医師が、五年間保存しなければならない。


前項の規定により第一項の記録を保存する者は、移植術に使用されるための臓器を提供した遺族その他の厚生省令で定める者から当該記録の閲覧の請求があった場合には、厚生省令で定めるところにより、閲覧を拒むことについて正当な理由がある場合を除き、当該記録のうち個人の権利利益を不当に侵害するおそれがないものとして厚生省令で定めるものを閲覧に供するものとする。


「研究対象者保護試案 生命倫理をめぐる議論の焦点を結ぶ」
(「法学セミナー」No.585, 2003/9)
光石忠敬(弁護士)、ぬで島次郎(科学技術文明研究所)、栗原千絵子(コントローラー委員会)

日本には医学・医療と関連して、あるべき法律が無く「無法地帯」であると言われる。医学研究の対象となる人の身体・人権を守ることを目的とする「被験者保護法」は、そうした欠落のなかの最たるものの一つである。

人を対象とする医学研究は、人に対して有効性や安全性の未確認な身体的侵襲を加え、研究上の目的が治療上の目的に優先される危険が常にある。個人の人格やプライバシーと関わる最もセンシティブな情報が、多数の研究者や施設の間で共有され、科学的知見を得るためのデータとして利用される。このため、研究上の目的が治療上必要とされる処置を損ねないようにし、個人の人権を保護するための一定のルールを設ける必要がある。

一方、生殖技術、クローン技術、人の受精胚を用いる再生医学、遺伝子研究といった先端的な医学研究をめぐる生命倫理の諸問題がマスメディアをにぎわし、その個々の技術の是非と法による規制について、焦点を結ぶことのない議論が続いている。しかしそのすべてにおいて、守られるべき基本的なルールは、研究対象となる人の保護を基点とすべきはずである。つまり日本における「被験者保護法」の欠落は、生命倫理上の法制の最も重要な土台の欠落であり、それが日本でのこの分野での論議を、もう一つ筋の通らないものにしているゆえんであると考える。

以上の理由から、筆者らは、日本における昨今のライフサイエンス振興政策の進展に鑑み、欧米ですでに先例が示された「被験者保護法」の立法が急務であると考え、略称「研究対象者保護法要綱試案」(以下、「試案」という)と題する日本版の被験者保護法試案を作成した。

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そもそも、人を研究や実験の対象とする行為とは、どこまで合法とされるのだろうか。医療行為が適法とされるためには、@患者の生命・健康を維持する必要のあるときに行われること(医学的適法性)、A医学上認められた方法で行われること(医学的正当性)、B本人または代行者の同意のあること、の三つの条件を満たす場合である。

人を対象とする医学研究・医学実験は、仮説を検証し、一般化することのできる新たな科学的知見を得ることを直接の目的としている。このため、対象者本人の診断・治療を直接の目的とする医療行為の限界に位置すると考えられる。

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さらに、生きている丸ごとの人だけではなく、人の細胞・組織・情報を利用する研究も適用範囲に含めている。細胞・組織の提供者は人として存在しており、死亡後もその人格権は残る。細胞レベルの研究であっても提供者の臨床的データを利用することが必要とされる。こうした研究の実情に即して、フランス法の理念に学びつつ、日本の文化的・精神的風土に合わせ「心身の一体性」と表現し、試案の基本理念に置いた。

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シンポジウム「被験者保護のための立法を考える」プログラムに提示した論点

光石忠敬の論点

論点1: 人についての科学研究を規律する法律の目的は、対象者の人権を保護し、研究のインテグリティを確保することで、人間固有の尊厳を保持することである。

論点2: 毒性データ、有害情報、標準療法の評価等は専門家を含む公的システムによる審査が不可欠である。対象者の適正な選定は、平等権によっても担保されなければならない。対象者への説明はまず何よりも、研究に参加しないとした場合の選択肢について行われた後、研究の意義・目的・デザイン等へと進んでいくことが必要である。

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栗原千絵子の論点

論点1: 人を対象とする研究の実施者は、「診療と研究の境界」「リスク・ベネフィット評価」についての基本的理解が必要である。「倫理委員会による審査とインフォームド・コンセント」は必要条件であり十分条件ではない。

論点2: ヒト胚や中絶胎児の研究利用は、リプロダクティブヘルスに関わる研究の包括的な調査・議論に基づくルールを検討するなかで、個別のルールとして検討すべきである。死者からの臓器・組織採取は、臓器移植法・死体解剖保存法・献体法の整合性のある法整備を前提とすべきである。人間の尊厳に関わり、明らかにリスクがベネフィットを上回る研究は、包括的整備がなされるまで据え置くべきである。

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ぬで島次郎の論点

論点1: 被験者保護のための公的ルールは、臨床医学研究に限らず、すべての人を対象にした研究において守られるべきである。とくに対象とすべきであるのに、日本ではいままで視野の外にある研究領域の実状と、扱いを検討すべきである。 例: 心理学、認知科学、参与観察などの行動科学研究、脳科学研究のうち、「脳を知る」「脳を育てる」研究

論点2: 研究計画を審査する体制は、各施設内の委員会(IRB)とする方式だけでなく、公的な第三者機関を置く方式も検討すべきである。個々の審査委員会の活動をはじめとする被験者保護の活動全体を統括する中央組織を設ける必要がある。審査委員会メンバーや研究者の研修プログラムを事業化することが望まれる。


「研究対象者保護法要綱試案 生命倫理法制上最も優先されるべき基礎法として」
(「臨床評価」vol30no2.3 2003, p.369-95)
光石忠敬(光石法律特許事務所)、ぬで島次郎(科学技術文明研究所)、栗原千絵子(コントローラー委員会)

1) 丸ごとの人を直接対象とする研究のみならず、人体の一部やその情報を対象とする研究、医学研究以外の科学研究をも規律対象とする。

2) 対象者の保護および研究の公正さの確保を法律の目的とする。

試案は、対象者の保護だけではなく研究の公正さの確保をも立法の目的としている。「公正さ」は、「インテグリティ」の概念の表現として用いた。インテグリティには「完全無欠性」などの訳語もあるが、ルールに沿うという意味での「適正」よりもさらに上位の概念として「公正さ」の語を用いた。

3) 研究の審査体制を個々の研究機関から独立した公的なものとして設計する。

4) 計画段階および実施中の研究評価に関し、対象者の選定など弱者保護を重視し、同意に過大な役割を課さない。

1-3 (基本的理念)

1-3-1 人は、人権の基盤である心身の一体性を担う主体である。

1-3-2 対象者の安全、福利、権利は、研究および社会の利益に優先する。

1-3-3 人についての研究は、科学性、倫理性、信頼性および透明性を備え、もって研究の公正さが確保されるものでなければならない。

1-3-4 人についての研究は、人の尊厳を侵すものであってはならず、非人道的なまたは品位を傷つける取り扱いは決してなされてはならない。

1-3-5 人についての研究は、自然、環境および他の生物種との調和を著しく損ねてはならない。

 

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2-4 (無償原則)

2-4-1 対象者に、研究に参加することに対する報酬が与えられてはならない。ただし、参加しなければ生じない負担に対する手当ては、正当な範囲内でこれを認めることができる。

2-4-2 人についての研究における人体もしくはその一部またはその情報は、これを有償取引の対象にしてはならない。ただし、人体の一部の保存、加工、輸送等については正当な範囲で経費の請求ができる。

 

2-4-1は丸ごとの対象者または人体の一部の提供者としての参加意思の自発性との関係、2-4-2は切り離された人体の一部または情報の取引について、無償原則を述べ、それぞれにつき許容できる例外の範囲を述べている。参加への誘引としてはならないという規定と、不可侵であるべき人体を金銭取引の対象としてはならないという公序規定との側面を持つ。第1項の手当てについては研究計画書に具体的に記載し、地域委員会の承認を得る。第2項と関連するバンク事業体は中央委員会の許可制とする。

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4. 対象者の選定条件

4-1 (特別な保護を要する対象者の研究計画における選定条件)

4-1-1 研究主導者等は、同意能力を欠く者、妊婦もしくは懐胎中の胎児または授乳婦(以下、「妊婦等」という)、非任意施設入所者、法律による保護下にある者、健康保険未加入者、および参加の意思につき不当な影響を受けるおそれある者を、研究計画において対象者として選定する場合には、個々の対象者およびその者と同じ属性を有する人々の福利を目的とするのでなければ、選定してはならない。

 

胎児は民法上「人」とみなされないが、「対象者」等の表現をあえて言い換えていない。出生スクリーニングなど、人工妊娠中絶に至る意思決定と関わる研究は母の益になるとしても胎児にとっては明らかな危険が伴う。これについては母体保護法の議論とも関わる検討課題である。母体外に出して行う胎児「治療」なども現段階では試案の射程に入る。

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4-2 (生殖細胞、受精卵、胚、胎児についての研究)

4-2-1 女性の生殖細胞、受精卵、胚、胎児は、研究利用を目的として発生させ、またはその生育を止めてはならない。

4-2-2 人の生殖細胞、受精卵、胚、胎児についての研究の許される範囲、特別な保護のあり方、実施条件等は、本法に基づく中央委員会の指針がこれを定める。

 

4-1に示される妊婦等と、4-2に示される生殖細胞・胚・胎児とをあわせて、リプロダクティブ・ヘルスを包括する一つまたは複数の指針が中央委員会により作成されることを前提とする。その中で、妊娠可能性のある女性を胎児に危険が及びうる研究の対象とする際に妊娠検査を義務付ける、妊娠可能な女性に対し胎児に及びうる危険についての十分な説明と避妊指導を義務付ける、などこれまでに十分吟味されていない課題も検討したい。

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4-3 (死体等についての研究)

死体もしくはその一部またはその情報を対象とする研究は、生前に本人が同意する明示の意思を表示している場合であって、遺族が当該研究の実施を拒まないときに限り行うことができる。

 

試案では、死体は丸ごとの人体を対象とする研究の対象者の延長上にあり、その尊厳は生きている人に準じて保持されなければならないものと考え、生前の明示の意思表示に加えて、遺族が拒まないことがなければ対象とならないものとした。現状では、死体解剖保存法を根拠に遺族の承認を得て広範囲な研究が行われているが、死体解剖保存法が認める研究は、原則として死因調査のための病理解剖であり、それ以外の研究については同法の17条から19条にかけて許容が示唆されてはいるが、曖昧である。試案に関する議論において、死体解剖保存法の認める研究の範囲を明確化したい。同時に、研究のための提供意思のある人は、本法に基づいて生前の意志表示をする機会が開かれるよう議論を喚起したい。

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4-4 (本人に直接益のない研究の管理と対象者の選定条件)

4-4-1 本人に直接益のない研究は、中央委員会の定める登録管理制度のもとに行い、1個人の年間の参加回数を限定し、かつ1個人が同時に複数の研究に参加することはできないものとする。

4-4-2 本人に直接益のない研究は、最小限の危険を著しく上回るものであってはならず、公益性が相当に高いものでなければならない。

4-4-3 健康な対象者については研究実施に先立ち健康診断が行われなければならない。

4-4-4 4-1-1に規定される者について本人に直接益のない研究は、4-1の諸規定に加えて、次の各号をすべて満たす場合にのみ行うことができる。

(1) その者と同じ属性を有する人々でなければ研究目的を達成できないこと。
(2) 危険が最小限であり、かつ回復可能であること。
(3) 公益性が著しく高いと予測できること。

 

4-4-4は弱者についての直接益のない研究であり、想定される典型的な例は、同意能力を欠く未成年者からの骨髄の提供、妊婦等からの臍帯血や胎盤の提供などである。非任意施設入所者についての研究を施設外の人々の益を目的として行う場合に施設入所者の人権を侵さない範囲内で行わなければならない、という意味も含まれる。

4-2に示す女性の生殖細胞、受精卵、胚、胎児についての研究や4-3の死体についての研究は、「本人の直接の益」の有無という概念で判断できるものではないが、胚などの提供者や死体についての研究を承認する遺族の心情を推察するならば、胚などの生育や死者の死因究明などそれ自体への知見を深めるための研究と、他の疾患の治療などに細胞を利用する研究とでは区別すべきであろう。胚または死者の細胞を他の疾患治療のための研究に利用する場合には、「本人に直接益のない研究」を許容する条件が適用されると思われる。

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5. 同意 5-1 (説明、理解および同意)

5-1-1 人についての研究は、対象者に対し次に掲げる事項について予め十分な説明がなされ、対象者がこれを十分に理解し、判断に必要な時間を経た上で、対象者の自発的な意思による明示的な同意がなければ対象者を参加させてはならない。

(1) 研究であること
(2) 研究に参加しない場合の選択肢
(3) 研究の意義、目的、方法、期間、根拠に基づき予測される益と危険
(4) 必然的に伴う不快な状態
(5) プライバシーおよび情報セキュリティの保護とその方法
(6) 健康被害が生じた場合の医療の提供および補償
(7) 終了後の治療法等の入手可能性
(8) 参加拒否および他者の意見を求める自由
(10)その他、利益相反を含む研究計画の要約

5-1-2 対象者への説明および対象者の同意は文書によらなければならない。

 

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5-2 (同意能力を欠く者の代行者)

同意能力を欠く者の代行者は、対象者の配偶者、親権者、後見人その他これらに準じる者で、両者の生活の実質および精神的共同関係からみて対象者の最善の利益を図りうる者でなければならない。

 

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5-3 (拒否権の尊重)

同意能力を欠く対象者の、研究に対する拒否権は、原則として尊重されなければならない。ただし、対象者の益が相当大きく研究に参加する以外に当該益がもたらされないと合理的に予測される場合は、代行者は対象者の拒否権を尊重しないことができる。

 


*参照

死体解剖保存法

第十七条

 医学に関する大学又は医療法(昭和二十三年法律第二百五号)の規定による地域医療支援病院若しくは特定機能病院の長は、医学の教育又は研究のため特に必要があるときは、遺族の承諾を得て、死体の全部又は一部を標本として保存することができる。

2 遺族の所在が不明のとき、及び第十五条但書に該当するときは、前項の承諾を得ることを要しない。

第十八条

 第二条の規定により死体の解剖をすることができる者は、医学の教育又は研究のため特に必要があるときは、解剖をした後その死体(第十二条の規定により市町村長から交付を受けた死体を除く。)の一部を標本として保存することができる。但し、その遺族から引渡の要求があつたときは、この限りでない。

第十九条

 前二条の規定により保存する場合を除き、死体の全部又は一部を保存しようとする者は、遺族の承諾を得、かつ、保存しようとする地の都道府県知事(地域保健法(昭和二十二年法律第百一号)第五条第一項の政令で定める市又は特別区にあつては、市長又は区長。)の許可を受けなければならない。

2 遺族の所在が不明のときは、前項の承諾を得ることを要しない。


『ヒト組織の移植等への利用のあり方について(案)』に対する意見
ぬで島次郎(2000年3月23日)

緊急アピール・政府提案「ヒトクローン禁止法案」への根本的疑問
ぬで島次郎(2000年11月9日)
「クローン法案」の問題点と望ましい代案
ぬで島次郎(2000年11月24日)
生殖補助医療のあり方の報告書への疑問
ぬで島次郎(2000年12月19日)

臓器提供先に係る生前意思の取扱いに関する意見
ぬで島次郎(2002年3月)

法制審議会 生殖補助医療関連親子法制部会「精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療により出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する要綱中間試案」に関する意見
ぬで島次郎、光石忠敬、斉尾千絵子(2003年8月)


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