脳死とは? レシピエントの「完全社会復帰」とは?

〜倉持武さんともりけんさん(「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会)との対話(2003年03月17日〜05月23日)〜

2003年8月24日に、「『脳死』・臓器移植に反対する関西市民の会」主催で、倉持武さんの講演会が開かれました。この講演会のきっかけともなった、森岡正博さんの「『脳死』・臓器移植専用掲示板」における、倉持さんと「〜関西市民の会」のもりけんさんの対話を紹介します。

2003/08/27 by てるてる

 

「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会
「脳死」・臓器移植を問う市民れんぞく講座 2003年夏〜秋

20030824
「人間の尊厳を侵す臓器移植法の改悪、先端医療に、どう立ち向かうか」
講師:倉持 武氏(松本歯科大歯学部助教授・哲学)
会場:エル大阪903号室(大阪府立労働センター・大阪市中央区北浜東3−14)
交通:地下鉄谷町線、京阪線「天満橋駅」より西へ徒歩5分
日時:8月24日(日)14時〜17時
参加費:500円

 


森岡正博さんの「『脳死』・臓器移植専用掲示板」における、倉持武さんともりけんさん(「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会)との対話(2003年03月17日〜05月23日)〜

*「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会の資料参照

(1)「臨床的」あるいは「医学的」脳死とは?
(2)レシピエントの「完全社会復帰」とは?


 

(1)「臨床的」あるいは「医学的」脳死とは?

 


脳死判定 投稿者:森岡正博  投稿日: 3月17日(月)20時13分55秒

日弁連が、脳死判定のミスを指摘しています↓。
ところで、このなかにある、センター長のことばは、これでいいんかなあ・・・。
http://www.mainichi.co.jp/news/selection/20030318k0000m040064000c.html

大庭正敏センター長 投稿者:信濃の山猿  投稿日: 3月20日(木)03時17分11秒

 森岡先生
「脳死判定手順に関する研究班」平成11年度報告書「法的脳死判定マニュアル」には「無呼吸テスト実施法 3) PaCO2レベルを確認する。おおよそ35〜45mmHgであること」とあります。また、唐沢秀治『脳死判定ハンドブック』羊土社p.219にはAmerican Academy of Neurologyの無呼吸テストを安全に行うための5条件のC「PaCO2が正常であること(例:PaCO2が40mmHg以上であること)」が記されています。ですから、センター長は間違っています。
 センター長の誤りの理由を私なりに推察してみます。問題の端緒は、無呼吸テストを何故正常値からから始めなければならないのか、いいかえれば、正常値から低く外れたPaCO2値から始まる無呼吸テストが何故危険であるのかを示す研究がないということだと思います。同書p.217には、無呼吸テストの合併症とそれが生じやすい条件が、高須・林編著『脳蘇生治療と脳死判定の再検討』近代出版P.87では、PaCO2を上げすぎた場合の問題点とその理由が示されています。しかし、正常値から外れて始められた無呼吸テストの問題点とその理由を示す研究は、少なくとも私は読んだことがありません。厚生労働省基準が「世界の大方がそうだから」という理由で全脳死説を採ったのと同様に、マニュアルも、自らその根拠を研究することなく「世界の大方がそうしている」から無呼吸テストをPoCO2正常値から始めよ、としているだけのように見えます。
 ところで、厚生労働省基準は、それが拠ってたつ理論であるC.パリスの脳幹死説と、全脳死説に基づく一つ一つの判定項目との間にずれがあります。判定医の多くはこのずれを安全性のためのマージンと考え、少々の基準違反は「医学的には大きな影響は及ぼさない」と考える傾向にあると思います。脳幹死説に基づいて行われる無呼吸テストにはこのずれは存在しないのですが、先に示した研究がないということも理由となって、センター長は、無呼吸テスト開始時のPoCO2値にも少々のマージンがあるはずだと誤解してしまっているのではないでしょうか。

なるほど 投稿者:森岡正博  投稿日: 3月20日(木)14時17分18秒

信濃の山猿さん、よくわかりました。しかし、脳死判定は、専門家のあいだでもずいぶんと判断に差が出るものだってことですね。ましてや、素人から見たら、なにがなんだか分からないというのが普通かもしれん。

低い二酸化炭素分圧の問題 投稿者:もりけん  投稿日: 3月21日(金)01時46分22秒

 大庭・古川市立病院救命救急センター長のコメントに対する「信州の山猿」さんの説明(3月20日)で「無呼吸テスト開始時のPaCO2値を、低く外れる危険性を指摘した研究がない」という指摘がありましたので、参考までに投稿いたします。
 研究ではありませんが、日本胸部疾患学会肺生理専門委員会が「脳死判定における無呼吸テストに関する提案」を、日本胸部疾患学会雑誌Vol.32 No.5 1994 に掲載しました。1997年に臓器移植専門委員会が脳死判定を検討した時も、同趣旨の提案を(改称した)日本呼吸器学会が行ないました。臓器移植専門委員会は採用しなかったのですが、提案のなかで現行の無呼吸テスト法では「充分すぎる酸素化のために、逆に末梢化学受容器の活動を抑制していることになる」と指摘しています。
 以下は私の表現になりますが、そもそも二酸化炭素分圧PaCO2の正常値は35〜40mmHgです(唐沢秀治『脳死判定ハンドブック』羊土社ほか医学図書に載っています)。この正常値が知られているからこそ、無呼吸テスト開始時のPaCO2も35〜40mmHgとされているのでしょう。
 古川市立病院で臓器を摘出された患者のPaCO2が31.7mmHgだったそうですが、これは無呼吸テストを開始する前の100%酸素の投与量が過剰だったために、正常値を下回るPaCO2になった可能性があります。従って過換気症候群の患者のように、酸素が多すぎて呼吸中枢が反応しなくなってしまった。本当は自発呼吸能力があったかも知れない患者を「自発呼吸能力なし」と判定した可能性があります。
 もっとも日弁連の勧告書は、私はまだ読んでいませんので何を指摘しているのかは知りません。大庭センター長が「人権侵害との指摘は遺憾だ」と反発する位ならば、形式的な法的脳死判定マニュアル違反という指摘しか、していないのでしょう。

ありがとうございます 投稿者:信濃の山猿  投稿日: 3月21日(金)02時07分55秒

 もりけんさん 貴重な情文献を教えていただいてありがとうございます。早速、読ませていただきます。

日弁連の調査報告書より 投稿者:もりけん  投稿日: 3月22日(土)20時23分19秒

 古川市立病院に対する日弁連勧告で「無呼吸テスト開始時のPaCO2値を低く外れた」件につき、調査報告書より病院側の主張と人権擁護委員会の判断を転記します(投稿者=もりけん)。

古川市立病院の主張(調査報告書p11)
 PaCO2(血中二酸化炭素分圧)は、第―回法的脳死判定無呼吸テスト実施前に予備測定していたが、35〜45水銀柱ミリの範囲内にあった。テスト実施時に採取した血液の分析結果が出たのは、テスト実施後5分後であり、指針違反の認識はあったが、誤差の範囲内とも考えられ、又テストのやり直しによる患者への負担を考え、テスト続行を決めた。患者に悪影響を与えたとは全く考えていない。
 8分後に70まで上昇し、無呼吸を確認した。テスト終了後、脳死判定基準を作った厚生省研究室のメンバーだった社会保険小倉記念病院の武下浩名誉院長に問い合わせたところ、二酸化炭素濃度の変化が重要であり、20〜25以上の上昇が確認されれば、テストが不適切である根拠はない、という説明を受けた。

日弁連人権擁護委員会の判断(調査報告書p15、p16)
 又、無呼吸テスト開始の要件を満たしていなかったことにつき、
i)主治医は、予備検査ではPaCO2(動脈血炭素ガス分圧)がガイドラインで定められた範囲内であったと主張するが(申立人ら提出甲7の9新聞報道、相手方からの平成15年1月28日付回答など)、仮にそうだとしても、やはり正式な法的脳死判定(第―回)無呼吸テストを実施したときは、PaCO2が指針等で定めた検査を開始するための範囲内にはなかったのであるから、無呼吸テストを実施し、かつ継続したことは許されない。
 なお、上記範囲を外れた(31.7水銀柱ミリ)所から無呼吸テストを開始することは、それだけPaCO2が60水銀柱ミリ以上に上昇するまでの時間、換言すれば人工呼吸器を外している時間が長くなることを意味し、患者(ドナー)に対する侵襲の程度がより強くなることは無視できない。
A)主治医は、正式な無呼吸テストに入って5分後に上記事実(31.7水銀柱ミリ)を知らされ、検査のやり直しによる患者の負担を考慮したと主張するが、患者にすればその後に自らの生命を失うという「究極の負担」がまっているのであり、検査のやり直しの負担とは比較にならない。よって、患若の負担云々を考え、検査のやり直しをしなかったという主治医の主張は妥当でない。

 以上、報告書より。
 無呼吸テスト開始時のPaCO2が31.7mmHgだった理由について、私が尋ねた脳外科医の意見では「血管を広げるなどの効果を求めて過換気状態にしているので、PaCO2は25mmHgくらいになっている。それを正常値に戻してから無呼吸テストを始めないといけない。無呼吸テストを開始する前の100%酸素の投与量が過剰だったために31.7mmHgになったということは無い」とのこと。また、日弁連の調査報告書では「人工呼吸器を外している時間が長くなり、患者に対する侵襲がより強くなる」と指摘されています。従いまして21日の私の投稿で「無呼吸テストを開始する前の100%酸素の投与量が過剰だったために・・・」以下は訂正(削除相当の意味)いたします。

 なお、http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto1th_case.htm に高知赤十字病院への勧告時の調査報告書を掲載しております。古川市立病院につきましても掲載予定で、その時はお知らせします。


日弁連調査報告書 投稿者:信濃の山猿  投稿日: 3月23日(日)11時25分32秒

 もりけんさん。日弁連調査報告書のレジュメをありがとうございます。おかげさまで理解が深まりました。そこで質問なのですが、確かに日弁連は、無呼吸テスト開始時にPaCO2が低く外れることの弊害を、@レスピレーターを外している時間が長くなり、患者への侵襲の程度がより強くなること、だけを挙げています。しかし、お知りあいの脳外の先生がおっしゃったことで、もりけんさんの主張と一致しないのは、テスト前に患者のPaCO2が低く外れていたことの原因が、もりけんさんの推測:「テスト前の100%酸素供給が過剰だったため」ではなく、患者の治療上の必要性のため、という点だけではありませんか。それゆえ、A「過換気症候群の患者のように、酸素が多すぎて呼吸中枢が反応しなくなってしまった。本当は自発呼吸能力があったかも知れない患者を「自発呼吸能力なし」と判断した可能性」は実際ににあるのではないですか。PaCO2が低く外れたまま開始される無呼吸テストの危険性は、@だけではなく、Aにもあるのではないでしょうか。それともやはり@だけなのでしょうか。
 ところで、このような問題が生じるとき、よく竹内一夫氏や武下浩氏が出てきますが、彼らのコメントには必ず「医学的には」とか「臨床的には」という言葉が出てきます。私はこれらの言葉を「脳幹死説に基づく不可逆性判断としての脳死判定としては」とは受け取り得るが、「死亡判定あるいは臓器摘出許可基準としての脳死判定として」と受け取ることはできない、と考えています。また、厚生労働省基準は、これに全脳死説安全性マージンを付け加えたものですが、この安全性マージンが科学的論証を経たものであるとはいえないと考えますので、厚生労働省基準も死亡判定として妥当性を持つとは受け取っておりません。この「臨床的」あるいは「医学的」という竹内氏や武下氏の言い方についての、もりけんさんのお考えもお聞かせ願えないものでしょうか。

低い 投稿者:もりけん  投稿日: 3月23日(日)19時09分28秒

信濃の山猿さんへ(投稿者=もりけん)
 古川市立病院事件で明らかになっている事実は、無呼吸テスト開始時のPaCO2が31.7mmHgだったこと。こうなった理由(当方の推定)は「人工呼吸器を過換気状態にしていたのを戻さなかったから」。この結果として生じる人権侵害(日弁連勧告)は「人工呼吸器を外している時間が長くなり、患者に対する侵襲の程度がより強くなる」ということです。
 お尋ねの「PaCO2が低く外れたまま開始される無呼吸テストの危険性は、酸素が多すぎて呼吸中枢が反応しなくなってしまう事もあるのではないか」の質問は、私も脳外科医に尋ねましたが、答えは「血中の二酸化炭素濃度と酸素濃度は別個に変動する。二酸化炭素濃度が低いからといって、代わりに酸素が多く入っているとは限らない。この場合は人工呼吸器を過換気状態にしていたからPaCO2が低くなっていた。危険性は人工呼吸器を外している時間が長くなること」という説明でした。
 PaCO2が低い危険性は以上の説明になります。が、これとは別に「無呼吸テスト開始前の酸素化のために、末梢化学受容器の活動を抑制している」との指摘を、日本胸部疾患学会が改良無呼吸テスト法の提案のなかで書いていることは、前々回の投稿で紹介したとおりです。この提案は、2回目の無呼吸テスト時は酸素投与せず人工呼吸器を止め、低酸素刺激と高炭酸ガス刺激の相乗効果を見る。薬物刺激を行なうことを提案しています。

*参考
日本胸部疾患学会肺生理専門委員報告
「脳死判定における無呼吸テストに関する提案」
日本胸部疾患学会雑誌 Vol.32 No.5(1994.5)

 このほかに、無呼吸テスト終了時の目標値60〜70mmHgを超えてから自発呼吸が出現した患者がいる など、無呼吸テストが自発呼吸能力のある患者を「自発呼吸能力なし」と判定する危険性は、多くの要因で、すべての無呼吸テスト時にあります。

*参考
A:,「臨床脳波」Vol.39 No.11(1997:11) p715−721
「脳死状態における脳温と脳循環代謝変動の臨床的意義」
日本大学板橋病院・林 成之
(同論文は脳死判定5日後に鼻腔脳波測定例も掲載)

B:「麻酔」 Vol.37 No.10S S66(1988.10)
無呼吸テストの信頼性について (増刊号のためか「10S S66」とSがついています)
京都大学 麻酔科・救急部・集中治療部 榎 泰二朗

C: 救急医学Vol.12 No.9(1988.9)S484
脳死判定後長期心停止に陥らなかった1症例
日本医科大学救急医学 木村 昭夫

 これに対して日弁連が人権侵害を認定、勧告する時の判断基準は異なります。高知赤十字病院に対する勧告書 http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto1th_case.htm#第5 当委員会の判断 に「B脳死に至っていない段階での臓器摘出については・・・具体的な事実を認定できず、医学的にも確定していない論点にも関わる以上、当委員会では人権侵害の有無を判断し得ないとの結論に達した」とあるとおり、事実と医学的論争のない争点についてのみ、法的に判断の対象とされます。

 今回の古川市立病院事件の調査報告書 http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto3th_case.htm#第4 調査方法 に検討された資料が掲載されていますが、上記の日本胸部疾患学会提案や自発呼吸出現(臨床脳波Vol.39 No.11(1997:11)などの資料は提出されておりません。提出されても「医学的論争事項」として「判断し得ない」となったでしょう。


竹内、武下氏の問題 投稿者:もりけん  投稿日: 3月23日(日)19時14分30秒

信濃の山猿さんへ(投稿者=もりけん)
 竹内一夫氏や武下浩氏の「医学的」「臨床的」という言葉について。
 これは民間人を煙に巻くだけの医学専門用語です。関連した反対語や類語を思いつけばわかりますが、「臨床的」どころか正式に「脳死」判定されても「病理」解剖したら脳幹部の細胞も生きていた患者がいます。

*参考
神経研究の進歩(医学書院) Vol.36 No.2(1992.4) p322−p344
「脳死」の神経病理学 
生田 房弘(新潟大学脳研究所実験神経病理学)
同内容の
週刊医学のあゆみ(医歯薬出版) Vol.172 No.10(1995.3) p641−p646
“脳死”例の剖検所見からみた個体の死の時刻
生田 房弘(新潟大学脳研究所実験神経病理学)

逆に細胞が融解している患者もいます。法的「脳死」判定されても、臓器摘出時に血圧が急上昇し麻酔をかけられた1例目・9例目の患者がいます。逆に3例目・15例目は筋弛緩剤だけで臓器摘出が行なわれました。
(もちろんメスの痛みで暴れないように筋弛緩剤を投与するのですが。

*参考
麻酔 Vol.50 No.6(2001.6) p694
脳死臓器提供者の麻酔経験 
福岡徳州会病院・麻酔科 三浦 泰

 つまり「脳死」は、臨床・ベッドサイドの診断では、手には負えないのです。長年にわたり論争され決着がつかない場面で、「医学的には・・・」「臨床的には・・・」と言われても価値の低い言葉です。誤診が許されませんし、例え救命困難と判断されても、臓器摘出時に痛みを感じさせる残虐・非人道的行為は許されませんから。

 それ以前に、竹内氏、武下氏には「医学的」「臨床的」という資格はありません。武下氏は1997年8月11日の第3回臓器移植専門委員会で「無呼吸テストのリスクは少ない。無呼吸テスト終了時の炭酸ガスの分圧は60でよかろう」と言いました。これはほとんどの救急医の意見とは異なるでしょう。
竹内氏はBRAIN AND NERVE 7月号 Vol.54 No.7(2002.7) p557−p563に「脳死の判定」を書いていますが、前提条件・除外例に関して「唐澤らによると脳死判定に影響を与える29種類の薬物のうち、有効血中濃度域がわかっているものは12種類しかないという」だそうです。脳内の薬物濃度を測定する技術的手段が存在しないことも知りながら「中枢神経抑制薬の影響を受けている患者を正確に除外できないから、脳死判定はできない、もうやめよう」とは書かなかった。人命を尊重しない人です。竹内氏は1997年4月8日の衆議院厚生委員会では参考人として「脳死の判定基準の最初に『前提条件』あるいは『除外例』というものが厳重に設定されております」と述べているのですが、本当は除外すべき薬物がどれだけあるかも知らなかった非臨床医です。

一つ下の投稿のタイトルは、「低い二酸化炭素分圧の問題」です。


感謝します 投稿者:信濃の山猿  投稿日: 3月24日(月)01時01分08秒

 もりけんさん
 丁寧な説明、ありがとうございました。おかげさまでいろいろ勉強できました。

 

(2)レシピエントの「完全社会復帰」とは?

 


移植後の患者 投稿者:信濃の山猿  投稿日: 5月21日(水)16時19分45秒

 移植後といってもレシピエントについてなのですが、どなたか教えていただけませんか。
 臓器移植ネットワーク最新データファイルによりますと、移植を受けた方々のうちこれまでに12名の方が亡くなっています。最近になって死亡年月日は不明ながら腎移植を受けた3名の方が亡くなっていることが分かり、12名となっているわけです。
 ところで、この中には昨年まで死亡とされていた、2001年1月に大阪大学で膵腎同時移植を受け、「術後1週目にグラフト門脈血栓症にて移植膵の摘出を余儀なくされた」患者さんは入っていません。
 首をひねっていたところ、ある方に、「ICUとCCU]2002年11月号、伊藤壽記「膵臓移植」に、このレシピエントについて記載のあることを教えていただき、さっそく調べてみましたところ。この患者さんは「移植腎は順調に機能している。なお、患者は現在、完全社会復帰し、次の膵臓単独移植を希望し再評価の結果、再度NWへ登録した」とありました。
 なお、当論文には「膵臓移植の目的は生命を脅かす糖尿病性合併症の進行を阻止して、可能ならそれを改善させることにより、QOLを向上させることにある」、また、「移植後10年では両臓器が機能しているSPK(膵腎同時移植)で生存率が80%であるのに対して、腎単独または移植膵機能が廃絶したSPK患者では20%であった」とあります。
 疑問の点は、移植膵臓を術後1週目に摘出した患者さんを「完全社会復帰させ得る」医療技術とはどのようなものなのだろうか。この方の「完全社会復帰」とはどのような状態のことなのだろうか。この状態はどれくらいの期間維持できるのだろうか。この医療技術は、そもそも膵臓移植の必要性を無くさせるのではないだろうか。ということです。  どなたか是非お教えください。

大阪大の膵腎同時移植患者患者について 投稿者:もりけん  投稿日: 5月22日(木)02時40分11秒

信濃の山猿さんへ

 正確な回答は大阪大の主治医にお願いするしかないことですが、想像されることとして書きます。
1、「完全社会復帰とはどのような状態?」について
 伊藤氏が「膵臓単独移植を希望し再評価の結果、再度NW(日本臓器移植ネットワーク)へ登録した」と書いているように、この患者はインスリンを用いたあらゆる治療手段によっても血糖値が不安定であり、代謝コントロールが極めて困難な状態が長期にわたり持続している=膵臓レシピエント選択基準に適合した容態です。
 通常の日本語では、患者の治療後の様子を簡単に書くときは「死亡」「後遺症が残る」「後遺症を残さず完全社会復帰」と3類型で書かれるようですが、伊藤氏らは普通の意味での「完全社会復帰」とは書いていないことになります。
 この患者以外にも、大阪大は2000年3月29日に心臓移植手術を受けた10歳男児が、2002年7月1日に意識は戻らず寝たきり状態で退院しましたが、松田 暉氏は同年「10月から通学中である」と「小児の心臓移植・肺移植」(日本医学館発行)のp70で書いています。

寝たきり状態で退院した患者が3ヵ月後に通学するのでしょうか?養護学校などへの通学なら有りえますが、いずれにしても移植医療では、普通の日本語は使われていません(3徴候死後の臓器摘出ではないのに「心停止後臓器摘出」と誤魔化し続けて、ドナーカード署名を増やし法的脳死判定手続を無視しているように)。

2、「移植膵臓を摘出した患者を完全社会復帰させ得る医療技術とは?この医療技術は膵臓移植の必要性を無くさせるのではないだろうか?」について
 現在は、移植前から受けていたのと同様のインスリン投与を受けられているのでしょう。インスリン投与では内因性インスリン分泌を再現することは難しく(生理的なパターンでインスリンが供給されず)、容易に高血糖や低血糖を生じやすいそうです。だから再び膵臓単独移植を希望されているのでしょう。

3、「この状態はどれくらいの期間維持できるのか?」について
 糖尿病で合併症が起こりやすく、膵臓と同時に腎臓も移植されていますから、一般的な腎臓レシピエントより短くなる傾向があるでしょう。「脳死」腎臓移植では2年もしないうちに亡くなられた方がおられます。普通にアピールされている生存率よりも、極めて早期の死亡が既に3例あります。


もりけんさん ありがとう 投稿者:信濃の山猿  投稿日: 5月23日(金)08時55分42秒

もりけんさん
 いつものことながら、丁寧な回答をありがとうございます。それにしても、何か釈然としませんね。

*参照

「脳死」・臓器移植に反対する関西市民の会
http://fps01.plala.or.jp/~brainx/

高知赤十字病院へ日弁連が勧告した時の調査報告書
http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto1th_case.htm

高知赤十字病院に対する日弁連の勧告書
http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto1th_case.htm#第5 当委員会の判断
古川市立病院事件の日弁連の調査報告書
http://fps01.plala.or.jp/~brainx/adviceto3th_case.htm#第4 調査方法

竹内一夫氏や武下浩氏の「医学的」「臨床的」という言葉について。

*参考
神経研究の進歩(医学書院) Vol.36 No.2(1992.4) p322−p344
「脳死」の神経病理学 
生田 房弘(新潟大学脳研究所実験神経病理学)
同内容の
週刊医学のあゆみ(医歯薬出版) Vol.172 No.10(1995.3) p641−p646
“脳死”例の剖検所見からみた個体の死の時刻
生田 房弘(新潟大学脳研究所実験神経病理学)

法的脳死判定1例目の高知赤十字病院は
「臓器摘出開始時に、急に血圧が上昇した。そのため麻酔を実施した」、
と記者会見において主治医が公表。関連発表は
日本臨床麻酔学会誌 Vol.20 No.8(2000.9) s146
心臓移植の麻酔
高知赤十字病院救命救急センター 西山謹吾

法的脳死判定3例目の古川市立病院は2000年4月 日本麻酔学会第47回大会(会場=東京国際フォーラム)にて発表。
演題番号:O-19.4 「脳死臓器移植における臓器摘出術のドナー管理」
http://kansai.anesth.or.jp/kako/masui47/O/10986

法的脳死判定5例目の駿河台日本大学病院は
日本手術医学会誌 Vol.22 No.2(2001) p125−p128
臓器提供に対する手術部の対応 麻酔科から見た問題点
駿河台日本大学病院麻酔科 佐伯 茂

  法的脳死判定11例目の昭和大学病院、
法的脳死判定12例目の川崎市立川崎病院、
法的脳死判定15例目の聖路加国際病院、
以上の3例は、
日本臨床麻酔学会誌 Vol.21 No.8(2001.9) s180−182
シンポジウム「臓器移植と手術室」

法的脳死判定17例目の新潟市民病院は、
新潟医学会雑誌 Vol.116 No.6(2002.6) p297
脳死患者臓器摘出術の管理を体験して
新潟市民病院麻酔科 傳田 定平

3、「この状態はどれくらいの期間維持できるのか?」について

法的「脳死」移植レシピエントの死亡年月日、レシピエントの年齢(主に移植時)←提供者(年月)、臓器(移植施設名)は以下のとおり。

2000年11月20日 47歳女性←bP0ドナー(20001105)  肝臓(京都大)
2001年 5月25日 10代女性←bP4ドナー(20010319)  肝臓(京都大)
2001年 9月11日  7歳女児←bP2ドナー(20010121)  小腸(京都大)
2001年12月11日 20代女性←bP8ドナー(20011103)  肝臓(北大)
2002年 2月 3日 43歳男性←bP1ドナー(20010108)  右肺(東北大)
2002年 3月20日 46歳女性←bP6ドナー(20010726)  右肺(大阪大)
2002年 6月10日 38歳女性←a@5ドナー(20000329)  右肺(東北大)
2002年 9月10日 20代男性←bQ1ドナー(20020830)  肝臓(京都大)
2002年12月 5日 20代女性←bQ2ドナー(20021110)  両肺(岡山大)
死亡年月日不明   50代男性←a@5ドナー(20000329)  腎臓(千葉大)
死亡年月日不明   30代男性←bP4ドナー(20010319)  腎臓(大阪医科大)
死亡年月日不明   50代男性←bP6ドナー(20010726)  腎臓(奈良県立医科大)


*倉持武氏関連資料

森岡正博による書評(信濃毎日新聞3月23日掲載)
http://www.lifestudies.org/jp/shinano01.htm
倉持武・長島隆編『臓器移植と生命倫理』太陽出版

脳死臓器・組織移植に関する倉持私案
松本歯科大学紀要第26輯 1997 p.1-13
倉持武 「脳死・移植・自己決定 -- 脳死臓器・組織移植に関する倉持私案 --」より

倉持案による、増補版チェックカード
倉持武(松本歯科大学)/ 生命倫理コロキウム 臓器移植 2000年10月6日 於 札幌医科大学

第1回 生命倫理コロキウム / 2000年10月6日 / 札幌医科大学
第1コロキウム / 臓器移植 / 報告 / 倉持 武(くらもちたけし・松本歯科大学)

倉持案へのコメント(てるてる)


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